頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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 新年一発目の投稿です。
 いよいよ2nd Stageは終盤へと入っていきますが、更新を滞らないよう続けていきますのでよろしくお願いします。
 リクエストキャラも話がまとまり次第出していきますので、どしどし投稿してください。


ACT.73 新たなる決意

 ガソリンスタンド

 

 

 「何だと!? タケルが赤城で負けたのか……!?」

 

 「ええ、店長が驚くのも無理はありませんよ。昨日、赤城でタケルが中嶋っていう神奈川から来た走り屋とバトルして、完敗しちまったんです。しかもそのバトルで中嶋は赤城のコースレコードを更新しては、赤城の走り屋やエンペラーの奴らにレベルの違いを見せつけたらしいんですよ……」

 

 

 赤城でのバトルから一夜明けた翌日。ガソリンスタンドには、制服姿の店長・立花祐一がいた。そこに池谷と健二がやってきて、昨夜のバトルの詳細を報告する。

 

 

 「マジでヤバい奴だったぜ。高橋涼介の話じゃ、あの中嶋ってのはプロのドライバーなんだとよ。そんな本物のプロを峠に連れてきちゃ、タケルが勝てないのも仕方ねえよな……」

 

 「プロのドライバーだと……? 本当かよ、それは!?」

 

 「本当です。俺が後で中嶋のこと調べてみたんですけど、あいつがプロだったって話はガチだったらしいですぜ。海外でモータースポーツ留学して、実戦経験も積んでるらしく。実際にバトルしたタケル本人もレベルが違いすぎたって言ってましたよ……」

 

 

 祐一は、二人から聞いたタケルの完敗の詳細に、ただただ呆然とするしかなかった。とんでもない男が群馬に現れたな……と、心の中でつぶやく。

 

 

 「……それで、タケルはどうなったんだ? まさか、走り屋を辞めるなんて言い出したりしてねえよな……?」

 

 「いや、タケルはあの後、拓海の親父さんから厳しい一言をもらってはかなり反省したみたいで。やることは決めたって言って、立ち直った感じですよ。親父さん、タケルの父親が自分と互角にやり合ってたって話してましたからね。店長もタケルの父親については知ってました?」

 

 

 「ああ……勿論知ってるとも。文太の言うことは本当だよ。俺も昔、あいつらと秋名でよく走ってたんだが……文太とタケルの親父の勝だけは、当時から別格だったからな」

 

 「そうですか……。じゃあ、後はタケルがどうなるかですね。拓海のことも気になりますけど、一体どうなることやら……」

 

 

 池谷は、この先タケルと拓海がどう成長していくのか、不安を感じつつも、先輩として二人の行く末を見守る気持ちを新たにするのだった。

 

 

 

 

 

 その頃、タケル達が通う高校では教室の端っこの席に座っては窓の外をぼんやりと眺めていたタケルに、いつもの明るい調子でイツキが声をかける。

 

 

 「よォ、タケル……。昨日、高橋涼介のバトル観に行ったんだろ?」

 

 

 イツキはのほほんとした笑顔でタケルの隣に腰を下ろす。だが、タケルは窓の外から目を離さず、淡々とした声で答える。

 

 

 「…ああ、そのことね。当然観てきたよ…。高橋涼介が最後の右コーナーからの大外から大きく曲がっては勝ったんだからね」

 

 「へえー、そうだったのか!!いいよなぁ、タケルは……。一番おいしいとこ、しっかり観れてさァ……。すげええええ!!俺も見たかったぜぇー!!」

 

 「……」

 

 「あれ? タケル……お前、なんか様子おかしくね? どうしたんだよ、何かあったのか?」

 

 

 イツキのテンションに反して、タケルは無言のまま。いつものクールな表情が、どこか沈んでいる様子だった。

 

 

 「別に…。昨日の一夜で自分が如何に身の程知らずだったか思い知らされただけだよ…」

 

 「えっ!? マ、マジかよ……?」

 

 

 タケルはそれだけ言うと、静かに席から立ち上がってその場を去っていく。イツキはポカンと口を開けたまま、タケルの背中を見送るしかなかった。

 

 

 「何だよそれ……タケルに何があったんだ……?」

 

 

 イツキは首を傾げながら、呆然とつぶやくのだった。

 

 

 

 

 

 「…悪いけどさ。お前とは話したくないんだ…」

 

 「え…」

 

 

 タケルが歩いていた先で、拓海はなつきに関わりたくないとでも言うような冷たい態度で引き離しては立ち去っていき。それを見たタケルはなつきに近づいては声を掛ける。

 

 

 「茂木さん……どうしたの?」

 

 

 なつきはびっくりしたように振り返る。目が少し赤く、泣きそうに腫れぼったい表情でいた。

 

 

 「タケル君……」

 

 「拓海とは……何かあったのか?」

 

 

 なつきは唇を噛んで、視線を落とす。さっき拓海が冷たく引き離して立ち去っていった姿が、まだ頭に残っているようだった。

 

 

 「ううん……なつきも、どうして拓海君があんなに冷たくするのか、全然わからないの。さっき声かけたら、まるで関わりたくないって感じで……すぐに行っちゃった……」

 

 

 なつきの声が震え、涙がこぼれそうになる。同じクラスのタケルは、少し困った顔をしつつも、優しく続ける。

 

 

 「僕もさっき、拓海がなんか変だなって思ってたんだ。…もしよかったら、ボクの方から拓海に直接聞いてみようか?」

 

 「えっ…本当に? お願いしてもいいかな…?」

 

 「いいよ。ちょうどあいつと腹割って話さないといけないと思ってたところだったし。茂木さんを避けてる理由を聞いてきてあげるよ」

 

 「…ありがとう、タケル君」

 

 

 なつきは小さく頭を下げ、涙を拭う。タケルは軽く笑って手を振ると、教室の方へ歩き出す。

 なつきの頼みを引き受けたタケルは、拓海がなぜなつきと距離を取ろうとしているのか――その理由を知るのに、そう時間はかからないだろうと思っていた

 

 

 

 

 

 数日後。地元のファミリーレストラン。

 

 

 「はぁー!? うちのハチロクが夜中に秋名で走ってたって!? 何かの間違いじゃないですか!?……きっと違うと思うけど」

 

 「チームの奴が、夜中に秋名で走ってるとこ見たって言うんだよ……」

 

 「3ドアで白黒のパンダトレノだったってさ」

 

 「そうかもしれないね。似たようなハチロクなんて探せばいくらでもあるし、きっと拓海のハチロクを真似して走ってるだけの奴かもしれないよ」

 

 「……」

 

 「なんか……気まずくねえか、お前ら。何があったのか知らねえけど、ここはひとまず落ち着きなって……。大体、お前ん家の車は今どこにあるんだよ?」

 

 

 池谷が気まずい雰囲気を晒す拓海とタケルを宥めつつ、話題を戻しては拓海のハチロクについて聞く。

 

 

 「さぁ……俺も知らないっすよ。赤城でトラックに乗せて、そのまま親父がどっか持って行ったままですよ」

 

 「朝の配達はどうしてんだ?」

 

 「親父が持ってきたボロい軽トラ使ってる……」

 

 「軽トラ!? なんだそれ!?」

 

 「ああ、それなら僕がドラテクの練習で使ってたのと同じキャリィを、拓海ん家に渡してるっておじさんが言ってたよ。見かけはボロいけど、整備をちゃんとすればまだ現役で使い続けられるって」

 

 「まさか……伝説のハチロクが今頃どこかの解体屋でスクラップになってるんじゃないだろうな……泣くぞ俺は……」

 

 「それはないと思いますけど……エンジン載せ替えるって親父言ってましたよ……」

 

 「本当かよ!?で、どんなエンジン載せるんだ!?」

 

 

 池谷はハチロクが解体屋へ行ってはバラされてるのではないかと半泣きになるが、拓海はエンジンを載せ替えるだけだと言っては安心させ。池谷が次はどんなエンジンを載せるのかを拓海に尋ねる。

 

 

 「今更ノーマルの4A-Gなんて載せねえよな!!いよいよターボか!?」

 

 「イツキ。ハチロクにターボを載せるなんて単純な手を、あの親父さんがすると思う?多分ボクらが考えてるよりももっと上の方法でやってると思うよ」

 

 「え?…そうだよな。言われてみればタケルの言う通りかもな」

 

 

 タケルは静かに首を振り、穏やかに訂正するや。イツキは少し肩を落としながらも、すぐに納得した様子で頷いた。

 だが拓海は窓の外を眺めたまま、どこか他人事のような、投げやりな表情でぽつりとつぶやく。

 

 

 「俺……あまり興味ないですよ……」

 

 「え、どうして……?」

 

 「俺、思うんですけど……エンジンって車全体でいったら一番重要な物じゃないですか」

 

 「まあな」

 

 「人間でいったら脳みそみたいなモンなんですよ……」

 

 「拓海……それを言うなら脳みそじゃなくて心臓じゃないのか?」

 

 「……別にどっちだっていいだろ。心臓なら心臓でいいけど。とにかくエンジン載せ替えるってのは嫌なんですよ……全然違う車になった気がして……」

 

 「なるほどな……やっぱ愛着ある車だしな」

 

 「そういう気持ちわかんなくもないけどさー。それでも俺らは次に載っかるエンジンが気になって仕方ねーけどなー!」

 

 

 「(多分、ここにいる皆が次に載せるエンジンが何なのか知ったら驚くんじゃないかな……何せ、普通じゃ手に入らない特別なヤツだからね……)」

 

 

 タケルはエンジンの詳細について知ってはいるものの、文太から口止めされていることを思い出しながら、静かに話題を変える。

 

 

 「拓海。話は変わるけど……茂木さんとの間に何かあったか?」

 

 「……」

 

 「なんだ拓海? ひょっとして彼女と喧嘩でもしたのか……?」

 

 「…いえ、別に何も…。どうしてタケルがそのこと聞くんだよ…」

 

 「いや、僕はただ…拓海と茂木さんの間に何かあったのか気になって聞いてるだけだよ。もし話したくないなら別に構わないけど…せめて理由の一つくらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」

 

 

 拓海はタケルからの質問に対し少し間を置いて、そっぽを向く。しかし、聞かれてしまったからには答えないわけにはいかないと感じたか、拓海は口を開く。

 

 

 「別に理由なんてないよ…ただ…」

 

 「ただ?」

 

 「…茂木には、裏切られただけだ…。そう言えば納得してくれるか」

 

 「…いいよ。それ以上話したくないなら無理に聞かない。二人の間に何があったかはわからないけど、そこから先は二人が決めていくことだからね」

 

 

 タケルは拓海の答えに納得しては静かに立ち上がり、飲み代をテーブルに置く。

 

 

 「お、おいタケル!!お前、一体どこ行くんだよ!?」

 

 「僕かい?今からスイスポを勇さんのところに持っていって、かなり弄ってもらいに行くだけだよ」

 

 「い、弄るって…どこをどうチューニングするんだよ…?」

 

 

 池谷が目を丸くして聞き返すと健二もイツキも、突然の言葉に身を乗り出した。

 タケルはにやりと笑うと、口元に人差し指を一本立てて、皆を見回す。

 

 

 「秘密ですよ。何せ、今からボクのスイスポは…とてつもない車に変わるんだからね」

 

 「と、とてつもない車だと…!?」

 

 「マジかよ…お前、何企んでんだタケル…」

 

 

 タケルはそれ以上何も言わず、軽く肩をすくめて店を出ていく。ドアのベルがチリンと鳴る音が、静かなテーブルに残った。

 残された四人は、互いの顔を見合わせるしかなかった。

 

 

 「…あいつ、本気だな」

 

 「…俺達もタケルに置いてかれないようにしないとな…」

 

 

 

 

 

 古関モータース

 

 

 ブォォォン

 

 

 「ちーっす」

 

 「おう、来たか。…要件は言わなくても分かってるぜ。スイスポを弄ってもらいにきたんだろ…」

 

 

 ファミレスを出ては一直線に勇がいるであろう古関モータースへ向かったタケルは、車を工場の駐車場に止め、中でツナギを着ては作業をしている勇に挨拶をし。勇はタケルが自分のところへ来た理由を察する。

 

 

 「流石は勇さん。まあ、赤城の一件に関しては勇さんが絡んでるってことは、久保さんの話からもなんとなく分かってましたけどね」

 

 「そうかい。その件に関してはすまなかったな。お前には『上の世界』ってやつをちゃんと知ってもらうために、久保さんに頼んではお前を負かしてもらったのは俺なんだ。まさか赤城の連中やエンペラーにまで恥をかかせることになるとは、予想外だったけどよ」

 

 「いえ、あのバトルを経験したおかげで、ようやく気づけましたよ。世界にはあんなレベルの走り屋がいるってことを、身をもって知ることができましたからね」

 

 「そう言ってくれると助かるよ。こっちとしても、久保さんに頭下げて頼んだ甲斐があったってわけだ」

 

 「へへっ…。」

 

 

 タケルは勇が関わっていた事を言葉にするも対して気にしておらず、寧ろ勇のお陰で今に辿り着くことができたと礼を述べる。勇も申し訳なさそうな顔をしながらも結果としてタケルの言葉に救われるのだった。

 

 

 「んじゃ、本題に入るとしてだ。お前のスイスポを弄る件に関しては……拓海の親父さんからちゃんと了承もらってるから、早速取りかかるぞ。スイスポが仕上がるまでの間、タケルには別の車に乗ってもらうことになるんだが…あっちに置いてあるヤツで構わねえよな?」

 

 

 勇が顎で示したのは、工場の奥にシートをかぶせずに鎮座している一台のホットハッチだった。コンパクトなボディに低めの車高、シンプルながらも鋭い存在感を放つシルバーの車体。

 タケルはそれを見て、目を細めて満足げに頷く。

 

 

 「へぇ〜…ヴィッツですか。スイスポができるまでの間は、こいつに乗っとけばいいんですね」

 

 「そういうことだ。ヴィッツもスイスポと同じくモータースポーツの競技車両としても使われてるし。普段乗ってるスイスポの軽快な感じとはちょっと質が違うかもしれねえけど…お前ならすぐに乗り慣れては使いこなせるだろ」

 

 「もちろん。それじゃ、このヴィッツをしばらくお借りします。スイスポができあがったら、また連絡くださいね」

 

 「おう。お前の期待に添えるよう、完璧に仕上げてやるから楽しみにしとけよ」

 

 

 タケルはスイスポのキーを勇に渡し、代わりに差し出されたヴィッツのキーを受け取ってはすぐにヴィッツに乗り込み、キーを回した。

 

 

 ブォン……ブォォン!

 

 

 1NZ-FEエンジンが軽快に唸る。タケルはアクセルを軽くあおり、音を確かめるように耳を澄ます。

 

 

 「…いい音してる。軽くて、素直そう」

 

 「シート位置とかミラーは後で調整しろよ。とりあえず試運転がてら帰ってみな。感触が違っても焦るんじゃねえぞ」

 

 「了解です。じゃあ、勇さん、よろしくお願いします!!」

 

 

 ヴィッツを発進させるや、タケルは古関モータースを走り去っていき。スイスポが勇によって仕上がるまでの間、ヴィッツで基礎から学び直そうと決意を露わにしては渋川市を駆け抜けてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 ある日の夕方。高崎市の女子校の校門前。

 

 

 制服姿の結衣と緒美が、並んで下校していた。夕陽がオレンジ色に道を染め、穏やかな時間が流れている。

 

 

 「結衣。一つ聞きたいことがあるんだけど、タケル君とは……深いお付き合いしてるの?」

 

 「ええ、そうよ……。でも、最近のタケル君、なんか調子悪いみたいで……。私からの誘いも断ってくるの。いつもならすぐに乗ってくれるのに……」

 

 「そうなんだ……」

 

 

 結衣は少し寂しそうに視線を落とす。赤城での一件を知らない彼女は、タケルの変化にただ戸惑っているだけだった。

 二人がそんな話をしながら歩いていると、校門近くの路肩に一台の車が停まっているのが目に入る。緒美が小さく指を差す。

 

 「見て。あそこに、タケル君が乗ってるのと同じ車が停まってるわよ」

 

 「え?…本当だ。でも、タケル君のとは色が違うし、見かけもなんか……普通っぽいよね。多分、別の人の車じゃない?」

 

 

 結衣と緒美は学校の近くに停めてあったスイスポを見ては興味を示すも、そのスイスポはタケルが乗ってるスイスポとは異なり、ボディカラーは白色で車体も然程弄っておらずノーマルのままであった為別の人が乗っている車ではないかと結衣は呟く。

 

 

 「でも変ね。どうしてここに停めてあるのかしら?」

 

 「そうね……。見た目はシンプルだけど、中はちょっと違うかも。ほら、ハンドルなんか……タケル君や走り屋さんがよく使ってるヤツになってるみたいよ」

 

 

 二人がスイスポの中を見ては好き放題に言い、結衣がスイスポの内装を見てはタケルと同じ走り屋が乗ってるのではないかと推測していくと。どこからか帽子を被った一人の人物が結衣達の元に近づいては言う。

 

 

 「ねぇ、そこの君達。ボクの車に何か用かな?」

 

 

 二人が振り向くと、帽子を深く被り、ジャンバーにジーンズというラフな格好の少年らしき人物が目の前に立っていた。

 

 

 「え? あ、ごめんなさい! 勝手に見てしまって……」

 

 「いいよ別に。そこに勝手に停めたボクも悪いし、人のことは言えないからね」

 

 

 後ろから声を掛けられた結衣と緒美が後ろを振り向くと、帽子を被ってはジャンバーを羽織ってはジーンズを履いた少年らしき人が突っ立っては二人の前に現れた。

 

 

 「この車……もしかして、あなたの?」

 

 「そうだよ。こう見えてボクは18歳だから、君たちと年齢はそんなに変わらないけどね。まあ、ボクのスイスポに興味があるなら、乗せてあげてもいいけど?」

 

 「いいの? じゃあお言葉に甘えちゃおうかしら。結衣も乗りたいでしょ?」

 

 「ええ…。それよりもあなたのお名前は?」

 

 「ボクかい?ボクは藤咲玲。よろしくね」

 

 「よろしく、玲君。私は小林結衣、でこっちが友達の緒美よ」

 

 「おっと、君付けはやめてくれ。こう見えてボクは君たちと同じ性別だからね」

 

 「同じ性別って…あなた、私達と同じ女の子なの!?」

 

 「そうだよ。初対面の人に男の子に見られるのも慣れっこだから、気にしないで」

 

 

 玲がまさかの女性だったという事に結衣達は驚いてしまうも、玲はズボンのポケットから財布を取り出し、中からパスポートを出して二人に見せる。性別欄にははっきりと「F」と書かれていた。

 

 

 「ほ、ホントだ…。ちゃんと女の子だって書いてある…。見かけは完全に男の子っぽいのに…」

 

 「まあね。普段からこんな格好してるし、勘違いされるのも仕方ないよ。ところで、君達さっきボクの車に興味津々だったけど…もしかして車好きなのかい?」

 

 「いえ、私達はただ……知り合いが同じスイスポに乗ってるから、どんな人が乗ってるのか気になってただけで」

 

 「へぇ〜そうだったのか。まあスイフトは老若男女問わず乗ってる車だから、珍しくはないけどね」

 

 「そうなんですか?私はてっきりスイスポは走り好きの人が乗ってるイメージが強かったんですけど」

 

 「そうかな? ボクはどっちかっていうと、赤城で見たFDとかランエボみたいな車に乗りたかったんだけどパパに『お前がそれに乗るにはまだ早い』って言われては、仕方なくスイスポに乗ってるだけなんだ」

 

 「そうだったの。ところで、玲君じゃなかった…玲さんはどうして、うちの学校の前に車を停めていたの?」

 

 「ああ、それはね。ボク、来週からここに通うことになってて、今日は編入手続きで学校に来てたんだよ」

 

 「ええっ!?私達と同じ学校に!?」

 

 「そうさ。ついこの間イギリスから帰ってきた帰国子女ってやつでね。今日は手続きだけ済ませてきたところなんだ」

 

 

 玲がまさかの帰国子女で、自分達と同じ学校に通うことを知った結衣達は驚きつつも話を聞き続ける。

 

 

 「いいなぁ…緒美も一度は外国に行ってみたいなぁ…」

 

 「ははっ。憧れるのはいいけど、あんまりおすすめしないよ。文化が全然違うから、慣れるまで結構大変だったしね」

 

 「玲さんも色々苦労してきたんだね……。ねぇ玲さん、よかったら私達とお友達になってくれない?」

 

 「えっ、いいの?ラッキー…!!丁度今この学校にこと教えてもらいたかったんだ。こちらこそお願いしたいくらいだよ」

 

 「うん、じゃあよろしくね玲さん…」

 

 「ああ、よろしく。そうそう…さっき、知り合いがボクと同じスイスポに乗ってるって言ってたよね…。その人について聞かせてくれてもいいかな?」

 

 「え…いいけど…」

 

 「実はね、そのスイスポ乗りの人って結衣の彼氏なんだよ。しかも群馬じゃめちゃくちゃ速い走り屋で、緒美の従兄弟も負かしたことあるくらい凄いの」

 

 「ちょ…緒美!!」

 

 「へぇ〜スイスポ乗りの彼氏か…。その人がどんな奴なのかボクも気になるなァ…」

 

 

 結衣が慌てて緒美の袖を引っ張る中、玲の目は少しだけ鋭く光り。

 夕陽が三人の影を長く伸ばし、新しい出会いが静かに始まろうとしていたのだった。

 

 

【挿絵表示】

 




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