秋名山 夜
勇にスイスポを預けては暫くの間ヴィッツに乗ることになったタケルは、夜遅くに秋名の峠を駆け抜けてはいつも通りの運転をする。だが、ヴィッツはスイスポとは走りが異なるからか僅かな動作に違いが出ては走りに違和感を生じる。
「……」
グイッ
ブォォン!
タケルは乗り始めて間もないヴィッツを慣れた手付きで操作しては秋名のコーナーを上手く抜けきり。次の
「う〜ん…やっぱりヴィッツじゃ物足りないなぁ。
使い勝手は悪くないんだけど、コーナー出口からの加速とか、曲がり方がスイスポに比べるとどうしても少し遅れてる…」
体に染み付いた感覚からヴィッツでは自分の本領を発揮できないと感じたタケルは、ヴィッツに物足りなさを感じるも。スイスポのチューニングが終わるまでの間はヴィッツに乗ってはやり過ごすしかなかった。
「ま、元々がファミリーカーをスポーティ仕様にしたヤツだからスイスポと比較しても仕方ないか…。ひとまず姉ちゃんを仕事先まで送ったことだし、もう1回上まで行ってはもう一度走るか…」
「そうとも限らないよ…。一度走らせただけで決めつけるのは、早いんじゃないかな?」
タケルがもう一度ヴィッツを走らせようと車に乗ろうとしたその時。どこからか自分に話しかける人がいた方向を向くとそこには欧州から来たような雰囲気を出す人物が立っていた。
「あれ?レオさんじゃないですか…、お久しぶりです」
「やあ、久しぶりだねタケル君。君とバトルしてから数ヶ月が経つけれど。こうして会うとその時の出来事が昨日のように思えてしまうよ」
「そうですね。あのバトルは僕自身深く印象に残ってますからね」
タケルを呼び止めた人物は前に秋名でバトルしたレオ・アルベールであった。
レオはタケルとのバトルで乗っていたプジョー・205T16を壊してしまい、それ以降タケルは高橋涼介やエンペラーの篠塚浩二といった強豪とのバトルに追われてはレオに関しては頭の隅に置いたままだったが。こうして再会するやレオのことを思い出しては久々にあったレオに再会の挨拶をする。
「それよりも、レオさんはどうして決めつけるのは速いと仰ったのですか?」
「イヤね、君が普段乗ってるスイスポを引き合いに出してはそのヴィッツがダメみたいな言い方をしてたのが少し気になってね。そのヴィッツの本当の味を、君はまだ引き出せていないだけかもしれないと思って…。少し教えてあげようと声を掛けたんだよ」
「え、僕にレオさんのドラテク教えてくれるのですか!?」
タケルが目を丸くしては聞き返すと、レオは静かに頷いては話を続ける。
「Évidemment(勿論)。ここに来たのもつい最近乗り換えたプジョーを走らせに来たのもあるけど…、政志さんから君に車の走らせ方を教えるよう頼まれては来たんだからね」
「えぇっ!?おじさんから頼まれたのですか!?」
「C'est exact(そうだよ)。政志さんには君とバトルした後、205の後処理だけじゃなく、今乗ってる新しいプジョーに関しても色々とお世話になったからね。そのお礼も兼ねて、僕が持ってるテクニックを教えてあげるよ」
「そうだったんですか…。そう言ってくれるのならお願いしないわけにはいきませんからね」
「ははっ…。そうまで言われると、なんだかこっちが照れるよ…」
政志からの頼みもあってか、レオがまさかの指導をしてくれるようことにタケルは驚いた様子でそれを聞く。
「ところでレオさん、さっき新しいプジョーに乗ってると言ってましたよね。どんな車に乗ってるか教えてくれます?」
「あぁ…それなら、あそこに置いてあるのが今乗ってるプジョーだよ。駆動方式は君が乗ってるスイスポと同じFFで、205T16と比べるとパワーが落ちてはいるけど、足回りがしっかりとしては僕にとって最高の一台なんだ…」
車を停めてある方向に指差した先には街灯の薄い光に照らされて、青を基調とした丸みを帯びたシルエットが浮かび上がる。
そこには青を基調とし、丸みを帯びてはオシャレな雰囲気を醸し出す車が置いてあった。
「へぇ〜206ですか…。レオさん、いいチョイスしてますね」
「ははっ、流石にタケル君もこの車について知っていたか。この車はプジョー・206 RCっていう、最も走りに振り切ってるモデルでね。政志さんに外車を扱うショップを紹介してもらってはそこで見つけたんだ」
「そうでしたか…。レオさんがプジョー・206をチョイスするなんて流石ですね」
「まぁ積もる話はここまでとして…。今から僕が206に乗っては後追いで君の走りを見させてもらうよ。そうすれば、君のテクニックの甘い箇所を見つけては教えてあげられるからね」
「はい。ご指導よろしくお願いします!!」
走りを教わることになり、タケルは頭を下げてはレオにお願いするが、一体どういった指導を受けていくのであろうか…。
高崎市 某ファミレス
走り屋も溜まり場として使っているファミレスには結衣達が女子会をし。テーブルには結衣が緒美と隣り合わせになっては正面に座っている玲と話をする
「なるほど…結衣さんは昔からの幼馴染の紹介でタケル君っていうスイスポ乗りの走り屋と出会ったんだ」
「うん…。最初は明るくて優しそうな雰囲気をしてたから、いい人だと思っていたんだけど…。走り屋をしてるって聞いた瞬間、悪い人なんじゃないかなって…」
「まぁ、結衣さんがそう感じるのも無理はないよ。走り屋って、公道を好き勝手にぶっ飛ばしては周りに迷惑かけてるし、社会的に見てもアウトだからね。ま、そういうボクも走り屋と同じ事をやってるんだけど」
「そうなの?涼兄ィや啓兄ィもよく赤城に行っては注目されてるんだけど…。走り屋ってそんなに悪い人達なの?」
「そりゃあ、緒美ちゃんの自慢の従兄弟の高橋兄弟は顔もいいし腕も立つから、群馬じゃもうカリスマ扱いされてるけどさ。でも最近…兄弟揃って秋名のハチロクや弾丸に負けては、陰りが見えてきてるって噂が立ってるからね」
「むぅ…そこまで言わなくてもいいじゃん…」
緒美は従兄弟である高橋兄弟を悪く言う玲に文句を言うが、玲は緒美の顔を気にしないまま話を続ける。
「だって、高橋涼介が率いるレッドサンズがホームにしてる赤城で、自分達が持ってたコースレコードを他所者に塗り替えられたら、高橋兄弟が下に見られるのも仕方ないでしょ。ま、その他所者とバトルしたのは高橋兄弟じゃなくて、秋名の弾丸っていう群馬エリアなら誰でも知ってる、スイスポ乗りの走り屋なんだけどね」
「え…?待って玲さん、その話、もっと詳しく聞かせてくれる…?」
「いいよ、教えてあげる…。あのバトルはボクも観に行ってるからね」
タケルが負けたという話に結衣は耳を傾けては、玲から詳しく聞こうとすると。玲はニッと笑みを浮かべてはそのことについて話す。
「きっかけはレッドサンズとエンペラーの交流戦の後なんだけどね、秋名の弾丸が神奈川から来た中嶋陸っていう走り屋にふっかけられては赤城でバトルをしたんだ。でも、その陸って奴が想像以上にヤバかったらしく、赤城で弾丸を負かしては、バトル直前に高橋涼介が叩き出したコースレコードを塗り替えてしまったんだよ。おかげでレッドサンズをはじめとする群馬の走り屋たちは自分達が築き上げてきたプライドに、かなり深い傷つけられたってわけ」
「そうだったんだ…」
「まぁ、今にして思えば当然のことだよ、何せあの陸が相手じゃあ弾丸が敵うわけないからね」
「どうしてそう言い切れるの…?」
玲からタケルが負けたことを聞かされては胸がざわつく結衣であったが。玲はタケルには陸を相手にするのに無理があったと決めつけては理由を言う。
「中嶋陸は欧州のモータースポーツ界ではそれなりに名が通ってるドライバーなんだ。今はこっちに帰国してはサーキットを中心に活躍してるんだけど、幼少期の頃からカートをやってる男を相手に、車を乗り始めてはまだ数ヶ月の弾丸が敵わないのは当然のことだろ?」
「そ、それはそうかもしれないけど…」
「ま、陸が速いのは今に始まったことじゃないよ。何せ、ボクも昔はあいつと直接やり合ったことがあるんだけど…あの頃から別格だよ…」
「あの〜玲さん」
「ん?どうしたの緒美ちゃん」
「玲さんはその…陸さんって人と走ったことがあるって言ってるけど、どういう関係なの?」
緒美から陸とはどういう関係なのかと聞かれた玲は、先程とは違い苦々しく顔を歪めるや二人に話す。
「ボクが陸と出会ったのは小学5年生になってカートを習い始めた時からでね。昔、家族に連れられては鈴鹿サーキットに行ったことがあって。そこでジュニアカートをやっていた陸と出会ったんだけど、当時の陸はホンダのレーシングスクールに通ってはカートを習っていて、その時からすでに別格だったんだ」
「へぇ〜…」
「んで、ボクの父親が何を思い立ったか。ボクを無理矢理カートに乗せては陸と競わせてね。あの頃の陸は手加減ってものを知らなかったか。めちゃくちゃ負かされては泣いたことがあったんだ。今でも思い出しては腹立たしいくらいね…」
「そうだったの…容赦なさ過ぎだね…」
「何よりもムカついたのはその後だよ。陸の奴、負かした僕に向かって『お前みたいな女の子が俺に敵わないのは当然だろ』なんて言ってきては、めちゃくちゃ悔しかったんだ…。それ以降ボクはあいつに負けないようカートに本気で取り組んでは走りを鍛えてきたんだ」
「うわぁ…手加減どころか気遣いすらできないなんて…人として最低だね…。結衣もそう思わない…」
玲が負かされた過去を聞いた緒美は陸の事が余っ程嫌いになったのか、怒り気味になっては玲に同情し。隣に座っている結衣にも聞く。
「え、えぇ…そうだね…。なんか…あんま関わりたくないかも…」
結衣は緒美からの質問にぎこちない返事をしては言葉を返すが、その表情はなんとも言い切れないような顔をしていた。
「結衣?なんか…元気ないみたいだけど…どうしたの?」
「え?ううん…なんでもない…。ただ、タケル君が負けたって聞いて、ちょっと落ち込んでただけで…」
「…?もしかして、今ボクが話してた秋名の弾丸って結衣さんの彼氏?」
玲が深刻な顔で聞くと、結衣はこくりと頷き。それを聞いた玲は申し訳なさそうな顔をする。
「あちゃあ〜そうだったのか…。知らなかったとはいえ、結衣さんには悪いことをしちゃったね…。まさか、群馬エリア最速の知り合いがこんな近くにいたなんて…」
「ううん。玲さんが気にする必要はないわ。私が勝手に落ち込んでただけだから気にしないで…」
玲が謝ろうとすると結衣が慌てて止め。無理に謝らなくてもいいと返し。笑みを浮かべては二人に話す。
「私、今度タケル君がいつも寄っているスタンドに行って、話を聞いてみるよ。そこにはタケル君と仲の良い走り屋の拓海君達もいるから、何か聞けるかもしれないしね」
「ふぅ〜ん…。秋名の弾丸にもそれなりに仲間がいたんだ。陸の場合だとすぐに噛みついては敵を作るタイプだけど…友達は大切にしないといけないからね」
「そうよね…。やっぱり車を走らせるなら、一人で走るより皆で一緒にやった方が楽しいって、緒美も思うわ」
結衣が拓海達がバイトしてるスタンドに寄っては拓海達からタケルについて話を聞こうと決意すると、玲と緒美はそれを肯定しては呟く。
「タケル君、いい仲間がいるんだね…。陸もタケル君のそういったところを見習えばいいのに…」
「ねぇ…話を変えるんだけど…。玲さんが言う陸さんっていつも一人で車を走らせる人なの?」
「ん〜そうだなぁ…。向こうじゃ東洋人ってだけで苦労してたのは聞いてるから、多分仲間はいないんじゃないかなぁ…。神奈川の走り屋であいつと対等に話せて…まともにやりあえそうな奴っていったら…
「クリス?もしかして外国の人?」
「いや、クリスってのは芸名で本名は来栖真琴っていってね。乗っている車はS2000なんだけど。まるで流麗な走りをしてはギャラリーを魅了させてしまう程滑らかな走りをすると噂には聞いてるんだ」
「流麗な走り…。その来栖っていう人の特徴は分かる?」
「う〜ん…どう説明したらいいのか分からないけど。陸とは違って人当たりはいいけど濃い人だってことは確かだね」
「濃い人?どういうことそれ?」
「君達に分かりやすく言うとするならば…オネエ系の走り屋っていったら分かるかな?」
「「オネエの…走り屋?」」
玲から来栖という人物がオネエだと聞いた二人は言っていることが分からなかったか、ますます疑問を抱くのだった。
秋名山 麓
結衣が玲や緒美と女子会をしていたその頃、タケルはレオとのマンツーマンで指導を受けながら、ヴィッツを秋名の下りで走らせていた。時折レオから鋭い指摘をされる度に、タケルはすぐさま修正し。最初はぎこちなかった走りも、今ではヴィッツを完璧にコントロールしては、スムーズに走らせていくのだった。
「うん。上出来だよ…。ヴィッツをしっかりコントロールできているし、荷重移動も完璧。コーナリングの入りから立ち上がりもかなり良くなってる…。これなら、スイスポに乗り換えても問題なく走れると思うよ」
「そうですか?僕としてはまだ、ブレーキングを極めていきたいんですけど…」
「pourquoi(何故)?」
「実をいうと、先日ここでエンペラーっていうランエボ乗りだけの走り屋チームとバトルした時に、浩二さんが教えてくれたんですよ。『レースでは当たり前になってるABSを敢えてキャンセルしては自らの感性でブレーキングをし、そこで初めてABSのありがたみを知ることができる』ってね」
「ふむっ…まぁその人の言うことは一理あるね。ブレーキングを極めてこそ下りを制する。コーナリングではどうしてもFRには敵わないから、そこでどれだけ差をつけられるかが勝負の鍵だよ」
タケルが前に浩二から教わったブレーキングについてレオに話すと、レオは静かに頷いてはタケルの言う事に納得を示し。タケルにある提案を持ちかける。
「だったら…僕のプジョーに乗ってみるってのはどうだい?ドライブポジションを右から左に変えるのも悪くない経験になると僕は思うよ」
「え?どうして僕が左ハンドルの車に乗る必要があるんですか?」
「ここを何度も走り込んで、コースの隅から隅まで分かってる以上、次にやるべきことは視点を変えては走るしかないからね。日本は左側通行だから、左ハンドルだとコーナーを曲がるのに死角が増えては曲がりにくくなる。その曲がりにくいコースをどう攻め込んでいくか考えるのもそうだし、感覚を掴むには最適なトレーニングになるからだよ。ブレーキングの極みだけじゃなく、視界の違いで荷重移動やライン取りも変わってくる。まさに、峠の『次のステージ』だ」
「なるほど…レオさんの言う事も最もですし、やってみる価値はありますね」
レオの提案に乗ったタケルはそれを試そうとプジョー・206を借りることにし。早速走らせてみようとするのだった。
神奈川県 箱根ターンパイク
箱根のターンパイクの大観山スカイラウンジの展望台。
夜に包まれた空を眺めながら一人の男が思いを巡らせしていた。その男は、いつになれば自分を本気で満足させる強者が現れるのか…。
そんな高望みを胸に秘めては星空を眺める。
「……」
そう。この男…中嶋陸は、先日赤城でタケルを完膚なきまでに叩きのめしては赤城のコースレコードを更新し、群馬エリアの走り屋に格の違いを見せつけ、その名を轟かせたのは記憶に新しい。
なのに、陸はタケルとのバトルにしこりが残っていたか、握り拳を固めては呆然と立ち尽くすしかなかった。
「あら、陸ちゃんじゃない…。どうしたのよ、一人で思い沈んちゃって…」
「…なんだ、来栖か」
後ろから声をかけられた陸が後ろを向き。そこにいたのは、黒のトップスを着てはスキニージーンズを履き。ファッションモデルさながらの格好をしては洗練されたスタイルが特徴の女?で、その人物は陸に近づくや背中を叩く。
「やぁ〜ね…。そこはクリスって呼んでくれると嬉しいなぁ。あなたにとって唯一まともに話せる友人の一人としてね…」
「ちっ、何が友人だよ。向こうにいた時、偶々同じ寮だっただけだろうが」
「別にいいじゃない。あなたがイギリスでバチバチにやり合って、チームメイトと揉めた時…誰が助けてあげたと思ってるのよ…」
「…あれは向こうが勝手に言いがかりをつけてきては文句を言ってきただけだ。お前には関係ねえだろ…」
「ちょっとぉ〜それはいくらなんでも酷くない?レディにはもう少し優しくあげるべきだと、アタシは思うんだけどね…」
「何がレディだよ。お前の場合はオカマの間違いだろうが…」
「やぁ〜ね…そこはせめてオ・ネ・エ、とでも言って欲しいわぁ〜」
クリスは大げさに胸に手を当て、わざとらしくため息をつく。
陸は苛立ったように視線を逸らすが、どこかそのやり取りに慣れた様子で、二人は夜の展望台に佇んでは静寂を貫く。
「そうそうこの間久保さんから聞いたわよ。あなた、群馬に行ってはバトルしたんですって」
「…あぁ。バトルはしたんだが、思いの外大した奴じゃなかったよ。あの程度の走りで最速を名乗るようじゃ、先が思いやられるからな」
「そう…。でも、久保さんから聞いた話だと、あなた…最初に群馬の走り屋達に結構期待してたそうじゃない。自分と対等に張り合える存在がいるかもしれないってね…」
「まあな。でも…結局のところはただの空振りだったからな。この先、現れる可能性はないとみていいかもしれねえよ」
「そうかしら?アタシにはまだ探せばいくらでもいると思うんだけどなぁ…」
「…そうか。だったら、今度はお前が群馬にでも行ってはそのレベルの低さを感じることだな」
「いいわよ。偶には箱根の温泉以外にも新しいところを試してみたいし、観光がてら群馬の走り屋達にご挨拶でもしてこようかしらね…」
陸の言葉に乗っかり、クリスは自分から群馬に狙いを定め、群馬エリアの走り屋達は更なる脅威が迫ることをまだ知らなかったのであった。
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