正丸峠 頂上
「はいこれ…。缶コーヒーを飲んでは落ち着きなよ」
「ありがとう、タケル君」
「イツキ、お前も飲めよ。こうも冷えていたら凍えてしまうぞ」
「お、サンキュー。タケルが熱々のコーヒーを用意するとは意外だな」
「まあね…。今日は流石に冷え込むかもしれないと思ってはあらかじめ買っておいたんだ」
拓海達がバトルしていたその頃、タケルはあらかじめ買っておいた缶コーヒーを和美に差しだし。そこからイツキにも同じ缶コーヒーを渡していく。
「タケル君がくれたコーヒーあったかい…」
「ホントっ、こういうことに関してはえらい準備がいいんだな。いつもは適当にしてるっていうのにさ」
「あのね、二人共…」
「ん?」
「どうしたの和美ちゃん?」
タケルが缶コーヒーを口に含めた状態になっているのと、イツキが缶コーヒーを空けようとしている姿勢のまま和美のいる方に向いていくと、和美は二人にある思いを打ち明ける。
「あたし、決めたの…。もう群馬には戻らない…と思う。だから多分、今日でイツキ君やタケル君ともお別れになっちゃうと思う…」
「えぇっ!?」
「……」
イツキが手に持っていた缶コーヒーを地面に落としては衝撃を受けてる一方で、タケルは渉が昨日連れ戻しに来た時点でこうなることがわかっていたのか、落ち着いた様子で話を聞いており。和美は二人に別れを告げないといけない理由を話し始める。
「この前の外泊のことがバレちゃって…。うちの親がカンカンになってるんだって…。あ、でもそれは関係ないの…。車の中で考えてたんだけど…。やっぱり自分の進む道は自分で決めなきゃダメなんだって…。自分で決めたからこそ…。誰がなんと言おうと、自分が正しかったって言えるんだって…」
「……!!」
「和美さん…」
「前に就職した時も、タケル君と同じ旅館でバイトした時も自分で決めたわけじゃないの…。だから、今度は自分で仕事を見つける。小さな目標も見つけたしね」
「目標?」
和美はタケルから貰った缶コーヒーをその場で一飲みし、そこから自分の決めた目標を二人に言う。
「イツキ君やタケル君みたいに自分でお金を貯めて免許を取るんだ…。自分自身で歩く第一歩としてね」
「そっか…。和美さんがそう決めたのなら無理に引き止めはしないけど。やりたいことを見つけることができて良かったんじゃないかな…」
タケルは短い付き合いだったとはいえ、和美が自分と同じ場所で働くことを辞めるのを引き止めもせず、寧ろ背中を押すように優しく言っては和美に寄り添っていくと。和美は微笑みを見せては言う。
「あたし、環境が違えばどうにかなるなんて考えてたのは甘えてたけど…。助手席は卒業して運転席に座って自分でハンドルを握りたい。誰かの助けを借りなくても自分の意志で走っていけるようになりたいの…」
「か、和美ちゃん…俺…」
「だから…群馬には戻らない。住み込みじゃあ…免許なんて取れないからね」
「お、俺…」
「イツキ。お前が辛い気持ちでいるのも分かるけど、和美さんがそこまで言うからには。大人しく引き下がっては彼女の背中を押してあげようよ」
「イツキ君とタケル君のおかげよ。ほんのわずかな時間だったけどありがとう。二人とは今日でお別れになっちゃうけど、タケル君やイツキ君と過ごした日々をあたしは忘れないわ」
イツキが悔し涙を流していくも、タケルがイツキにもうそれ以上は言わないよう釘を差し。和美はここでタケル達と別れることになるのだった。
「これ程決着が長引くとは珍しいなァ…。完全な消耗戦だ…」
「強い横Gを受けながら極度の緊張状態を持続させることは肉体的にも精神的にも並大抵のことじゃない…。ましてやこのトリッキーなコースでだ」
「普通ならとっくに吐いてはダメになってるっていうのに、あの二人中々タフじゃんかよ」
「私も元自衛官だったとはいえ、そこまで行けば即座に値を上げてしまうというのに…。あの二人、どこまでやり続けるというのかしら…」
「スタミナが勝負の分かれ目になるか…」
「分かっていることは…。先に集中力が切れた方が負けるということだ…」
思っていた以上に勝負が長引いては、連戦を繰り広げていく二台のハチロクに。啓介達はいつ勝負が決まるのかと各々が口にしていくと、高橋兄弟がスタミナの消耗が勝負の鍵を握ると結論づけるのだった。
正丸峠の頂上では、タケル達が勝負の行方を見守っていく中。イツキはタケルと二人っきりになっては和美から離れ、タケルにどうしたらいいのか相談する。
「タケル、和美ちゃんがこのまま埼玉に帰っちまったら…。もう二度と会えないかもしれないということだよな…」
「そう決めつけるのはまだ早いんじゃないかな?一度別れたからといってまた会えないとは限らないよ…」
「俺、こういう時に、どう和美ちゃんに話しかけたらいいんだ…。それでどうとでもなるわけじゃないのは分かってるけど…」
「落ち着きなよイツキ。お前がまだ和美さんに振られたと決まったわけじゃないんだし。もう少し気持ちを落ち着かせてからにしようよ。幸いにも、二人のバトルはまだ終わってないみたいだしね」
タケルはイツキを落ち着かせるよう宥めていき、和美がコース上を観て行ってる中でどう思いを打ち明けたらいいのか二人で話し合ってはタイミングを見計らっていくしかないのであった。
「三本目が来たぞォ!!」
啓介達が三本目のバトルを開始しては走り続けていく二台のハチロクを観ていき。先行を行く渉のレビンに拓海のトレノが擦れ擦れに近い車幅でケツに付いては駆け抜けていき。そのままコース上の奥に消え去っていく。
「二人共気合い入ってやがんなァ…。見てるとこっちまでウズウズするぜ…」
「レビンも一本目で先行していた時とは違う…」
「それだけ必死になっては拓海君のトレノを引きちぎろうとしてるのよ。あそこまで攻め込んでいく渉もそうだけど、それに食いついては離れないでいる拓海君もやるだけのことはあるわね…」
「(なんだよこれ…。さっきの走りとは全然違う…。途轍もなく速い…。余裕なんか全くない!!)」
三本目を走る拓海は、一本目とは明らかに違う攻め方をしている渉の走りに見せつけられ、その実力の高さを実感していたのだ。
「(一本目は手を抜いていたわけじゃないぜ!!道路の状況が分からない最初の一本は100パーセントで行かないのが峠のセオリーだからな…。だが、今度は全開で引きちぎってやる!!)」
渉は峠の状態を把握するのに、最初の一本はセーブしながら走らせていたと呟くと。道路状況を完璧に把握した今、持てる力を発揮してはトレノを引き離そうと全開で突き進むや。拓海はそれに離されないようケツに食いついては後から続き。渉に負けるわけにはいかないと、シフトを3速から4速に上げては車を更に加速させ。ステアリングを左右に回し続けては渉の走りに食いついていく。
「(ハチロクがやっと俺の言うことを聞いてくれたんだ…。勝ちたい!!こんなに強く勝ちたいと思ったことはない。同じハチロクが相手だからか…?とにかく、この車で絶対に勝ちたいんだ!!)」
拓海は強い気持ちを保ち続け、ヒールアンドトウからの4→3→2のシフトダウンでスピードを調整し、そこからタイヤを滑らせてコーナーを抜けていくが。車体を滑らせた先でスリップしてはバランスを崩してしまい。ガードレールすれすれに当たろうとするが、それを間一髪で避けきっては再び渉の後を追っていくのだった。
「(危機一髪。ちょっとでも気を抜いたらマジでヤバい。ただ負けるだけじゃすまないからな。それにしても…俺…疲れてきてるのかな…?さっきから、なんか…ラインがブレる…。まさか、タイヤなのか…こんな時に!?)」
ここに来て、拓海のトレノはリアタイヤのグリップが限界に近づき。制動力に欠けてしまっては踏ん張りが効かなくなってきたのだ。
「(後輪の踏ん張りが甘い…。やっぱりリアタイヤのグリップが落ちてきてるんだ…。マズいことになった…!!タイヤだけはどうにもできない…。ここまで必死にやってきたけど…。もうダメかもしれない!!このまま負けるのか…!!)」
リアタイヤが刻一刻と限界に近づいていってる中で、グリップの落ちたタイヤで車をコントロールする拓海は、半ば諦めかけてしまうも、タイヤを滑らせ渉のレビンに食いついては走行していってる中で、拓海はある重要な箇所に気付く。
「(何故だ…?俺…かなりペースが落ち込んでる筈なんだ…。なのに、何で前の車が離れていかないんだ?まさか…。いや…そうとしか考えられない)」
先頭を突っ走る渉のレビンも拓海のトレノと同じように、グリップが限界に近づいてたか。最初の頃よりかは走りが鈍くなっているのに拓海は気付き。再び注視していくとある重要な箇所を発見する。
「(俺と同じようなことが向こうにも起こってる…。向こうの車も、タイヤがズルってるんだ!!)」
渉のレビンも自分と同様にタイヤが限界に近づいてると知り、拓海はほんのわずかではあるが。このバトルに対し勝機を見出しては渉の走りに合わせては頂上まで駆け続けていくのだった。
正丸峠 頂上
「どうやら二台共、無事に駆け上がってきたみたいだよ」
頂上にたどり着いた二台のハチロクは頂上に入ってはサイドターンで切り返しては拓海のトレノが先行を走ると、渉のレビンがその後ろに付き。二台はすぐさま四本目に突入していくのだった。
「これで四本目か…。二人共ボロボロになってんじゃねえのか」
「途轍もない消耗戦になっているね。もう限界に達してはぶっ倒れてもおかしくないのに…。まだ走り続けるなんて普通じゃ考えられないよ…」
「兄貴…」
タケル達三人が四本目を開始しては再び駆け出していく二台のハチロクを見送り、このバトルが予想以上に白熱した展開になっているのを頑なに見続けていくのである。
「(そっちもリアタイヤがかなりきてる筈だ…。パワーを上げれば、その負担はダイレクトにタイヤにくる…。互いにパワーアップした車が同じペースでここまで走り続けてきたんだ。似たようなタイミングでタイヤが逝かれたって不思議じゃない!!)」
四本目に突入しては、拓海のトレノを後ろから追う渉はレビンのステアリングを忙しそうに回しながら追っていき。ケツに付いては走りを見ていっては拓海の走りの上手さに圧巻される。
「(上手いぜ!!後ろから見てるとよく分かる…。条件が悪くなればなるほど…。あいつの走りは逆に冴えていくような気がする。だが向こうだって生身の人間、先にキレた方が負けだ!!ここは我慢比べだぜ!!)」
水を得た魚のようにドリフトでラインを抜ける拓海は、二本目を走っていく中で見つけたハンドリングのコツをマスターしては手早くシフトを操作し。ステアリングを機敏に回しては車を滑らせながら走り抜け。
皮肉にもタイヤのグリップが落ちては滑りやすくなったことが、限界領域において車の挙動を知るのに役立ったのである。
「……」
「!!」
「…信じられねえ。あの二人、限界を通り越しては頭が完全にいかれちまってんじゃねえのか…」
「…そうね。スタミナが消耗しきってるにも関わらずあんなにもハチロクを器用に走らせるなんて、私でさえ到達することができないというのに。最早二人は極限の領域に達しているとしか言いようがないわ…」
極限状態に達しては未知の領域にまで達したような走りをする二台のハチロクに、高橋兄弟と真希を含め、同じハチロクに乗る七菜は二人の走りに見惚れてしまい、自分にはたどり着けない地点に達しているとつくづく実感する。
そして、二台のハチロクは麓に降り立ち。再びポジションを入れ替えては五本目に突入するのだった。
「(基本的にはアクセルで曲げる…。その点は前の車と同じ…。だけど前と違うところは…思いっきり滑らせてみたらわかる。この車の乗り方…わかったぜ親父!!)」
拓海は遂にハチロクの走らせ方を完璧に覚えたのか、いつものようにヒールアンドトウで回転数を合わせ、シフトを落としてはドリフトで車を滑らせ。渉のレビンを執拗に追い回しては激しいドッグファイトを繰り広げていく。
「(えっと…今何本目だったかな…?流石に頭の中が白っぽくなってきやがった…。かなり疲れがきている。だが…それは奴も同じ…。それに、この展開になってくると前を走るより後ろから追っかけてる時の方が精神的にキツい…。ちょっとぐらいスピードに差ができてもこのコースなら追い抜きは有り得ない…。負ける時は後ろを走っていてちぎられて負ける。つまり、前を走ってる時の負けはない!!)」
先行を走っている今なら後ろから追う拓海に負ける可能性はないと渉は結論付け。コース上を走り続けていってはある地点に近づく。
「(次は土砂崩れのあるコーナーだ。どんなに頑張ったって、横から入り込む隙間はねえ…。これでしのげたぜ!!見てろ…お前がキレてミスするまで、何本でも持ちこたえてやるぜ!!)」
渉は土砂崩れで道幅が狭くなっては追い越しなぞできないと油断してはペースを落としたその時、なんと拓海のトレノは土砂崩れになっては塞がれているスペースに突っ込み。そのまま乗り上げていっては渉のレビンを抜きに行く。
「何っ…!?土砂がさっきより削られてる!!」
そう。さっきまで道幅が狭めていた土砂の上が、拓海が一本目を走っていく途中で乗り上げた時に削られては車一台が通れるスペースができており。拓海は渉が空けたイン側を押さえつけては勝負を決めに行く。
「ば、バカやってんじゃねえっ!!ここは追い抜きとかそういうのはなしなんだよ!!」
渉がそう言っている間もなく、拓海のトレノは土砂の上を駆け上がっては渉のレビンの横をくぐり抜け。土砂から降り立つように前に出ては勝負を決めるのだった。
「な、なんて奴だ…」
「勝った…」
「(くそっ…。あの土砂崩れが車一台分並びで通れるよう削られていたのに気付かなかった…。それにしても、僅かにできたあの隙間に正確に突っ込んで来れる
拓海も自分が勝ったことで気が落ち着いたか余裕を取り戻し。渉はそれを悔しそうに見ていっては自分が負けてしまった敗因を振り返り。バトルに負けはしたが、満足な様子で拓海を称えるのであった。
正丸峠 頂上
「兄貴達がこっちに帰ってきたよ…」
「スピードを落としてる音からして…。勝負は終わったみたいだね…」
「ど、どっちが勝ったんだ…。トレノかレビンか…」
「……」
タケル達が見守っていく中で車のエンジン音が静まり返ってはバトルが終わったと察し、コース上を見ていくと。拓海のトレノが先頭を走ってはタケルが言う。
「トレノが前を行ってるってことは…。拓海が、バトルに勝ったんだ…」
「そうか…拓海が…勝ったんだな…」
「……」
拓海が勝ったことにタケルが嬉しそうに微笑み、イツキは拓海が勝ったことに喜ぶ一方で和美と別れるのに複雑な気持ちになっていくが。和美は兄である渉の元に行き。渉は車を和美の前に停め、窓を開けては和美に呼びかける。
「待たせたな。どうやら無事に戻ってこれたけど。流石にバテたぜ…。乗れよ和美、帰るぞ」
「……」
和美は渉に言われるがまま、レビンの助手席に乗り込もうとすると。後ろにいたイツキを見つめ、悲しそうな表情をしては最後の言葉を言う。
「じゃあ…。さよなら…イツキ君」
「あ…あぁ…」
イツキが去り際に散っていこうとする和美に手を伸ばそうとするが、タケルがイツキの肩に手を置いては和美を追わないよう首を横に振り。
和美を乗せた渉のレビンは正丸峠をゆっくりと降りていってはタケル達の元を離れていくのであった。
「タケル、俺…さよならって言えなかった…」
「わかってる。これ以上は何も言わないけど、和美さんが幸せになることを願ってあげよう…」
そうイツキに言葉をかけたタケルは自分が乗ってきた車に乗り込んで行くと、イツキも拓海の車に乗っては正丸峠を降りていき。
こうして、ハチロク同士によるバトルは拓海の勝利で幕を閉じ。ハチロクとスイスポは埼玉を後にしては群馬に戻っていくのであった。
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