赤城山
「(くそっ…!!どんなラインを取っても、ブレーキングを遅らせても…中嶋の出したタイムに届かねえ…!!兄貴ですら、須藤という強敵がいた上で車を走らせては記録を塗り替えたというのに、俺はまだ、あいつの影にも追い付けねえのか…!!)」
タケルがイツキと秋名を走っていた同時刻。レッドサンズのNo.2である啓介が舎弟のケンタと一緒に赤城の下りを攻めては、赤城の下りを繰り返し走り込んでいた。
走行ラインを変えたり、ブレーキングをずらしては走りを変えてはいるも、陸の出したタイムとの差が縮まらず。ガスとタイヤを無駄に消耗するだけであった。
赤城 下り ゴール地点 麓
赤城の下りのゴール地点にある駐車場にて、啓介はミネラルウォーターを飲んでは休憩するが。
陸の出したコースレコードに及ばない自分に苛立ちを募らせていくのである。
「啓介さん…。最近、めちゃくちゃ焦ってますよね…。大丈夫っすか?」
「ああ…。中嶋の出したコースレコードを、俺の手で変えてやろうと思ってるんだが、それなのに…全然手に届きそうにもない自分にイラついてたところだったんだよ」
「そうですよね…。俺としても、中嶋の出したコースレコードを認めたくはないですからね…」
ケンタの言葉に、啓介は苦く笑った。
兄貴である高橋涼介に継ぐ走り屋として、赤城の頂点に立つ筈だった自分が…、陸の残した壁にぶち当たってるだけであることを。
「とりあえず…。兄貴にどこを直せばいいか相談しねえとな、きっちりいかねえと…次の相手に苦戦するかもしれねえからな…」
「大丈夫ですよ。赤城で啓介さんに敵う奴なんざ涼介さん以外いないじゃありませんか…。そんな奴、他に出てくるわけ…」
「そうとも限らないわよ。今のあなたじゃあ、他所の峠で渡り合えるわけがないからね」
突然の横槍に二人が振り向くと。啓介達の目の前にはクリスがS2000の横に腰を下ろし、冷ややかな目を向けては厳しめのひと言を発するのだった。
「あぁ…?誰だお前は?見たことねえ顔だな…」
「そりゃあ、あなたが知らなくて当然よ。あたしは陸ちゃんと同じ、箱根の走り屋だからね」
「…なんだと?」
クリスが中嶋陸と同じ箱根の走り屋であると啓介達に打ち明かすと、啓介は警戒心を露わにしてはクリスを睨みつけ。ケンタも立ちはだかるようにクリスの前に出て来る。
「てめえ…。中嶋とどういう関係か知らねえけど、啓介さんに向かって生意気な口を叩くなんざ何様のつもりだ…!!」
「あら、あたしはあなた達二人の走りを見ては感じたことを言っただけよ。いくら地元じゃあ速いとはいえ、ブレーキングのタイミングやコーナー出口のアクセルワークがなってないんじゃあ、話にならないからね」
「んだとォ…!!」
クリスにバカにされては頭に血が上ったか。ケンタは睨みを利かせるが。クリスはそれを小馬鹿にするようにフンと鼻息を無らしては二人に言う。
「まぁいいわ…。あなた達に口で説明しても分からないんじゃ、直接ここを走っては教えてあげるわ。あなた達二人があたしの走りについていけたらの話だけどね…」
一瞬の静寂が流れると、啓介はゆっくり立ち上がり、クリスを真正面から見据える。
「ふっ。俺達の実力がどれ程のものか、試してやるってか…。いいぜ、お前がどこまでやれるか知らねえが、俺達レッドサンズ相手にデカい口をかまかすと言うのなら徹底的に相手してやる!!」
クリスが啓介達の実力を測ると上から目線で言っては癪に障ったか。啓介はクリスからの挑戦を受けて立つと豪語し、地元のメンツにかけてクリスをぶちまかそうと闘志を燃やしていくのであった。
鈴木自動車工場
「で、話ってのは何だ?今になってスイスポを手放すなんて言うんじゃねえだろうな」
「そんなことじゃないよ。スイスポのハイパワーをコントロールするにはどうすればいいのか、それを聞きに来ただけだよ」
「なるほどな…。ま、FFは駆動軸のトラクションの関係でハイパワーを出せても扱いきるのに苦労することは常識だからな。今のお前じゃあハイパワーを得たスイスポを扱いきれないのも無理はねえ話だ」
政志はこうなることがわかりきっていたのか、然程驚いておらず。タケルの話を聞いては相談に乗る。
「じゃあ…どうすればスイスポをコントロールしきれるというの?」
「そんなもん…質問しなくたってわかりきってるだろ…。今のスイスポに搭載されているパワーを下げてはバランスよく調整するのが無難だ。そうなればお前さんでも扱いきれるだろうよ」
「やっぱ、そうする他ないよね。でも…それでパワーを落としたとして…。ハイパワーの車を相手に勝てるか…」
「タケル…。まさかお前、パワーに拘り過ぎては躍起になっているんじゃねえか?そんなんじゃお前は、バトルに勝つのはおろか、スイスポを使いこなすなんざ夢のまた夢になっちまうかもしんねえぞ」
「え…?」
スイスポの馬力を落としていくしか方法はないと聞かされるタケルはそれでいいのかと悩んでいると、政志はタケルに対し、核心を付くかのような言葉をかける。
「いいかタケル…。スイスポに乗り続けてるお前なら知ってはいるだろうが、そいつの最大の特徴は軽量コンパクト故の車重の軽さとハンドリングの良さだ。それ故にパワーが低いのはネックだが、それを補うだけの走りをお前は今までしてきたんだろ?なのに今さらパワーを求めようと言うのなら、スイスポから他の車に乗り替えるしかないからな」
「そ、それはそうだけど…。僕としてはスイスポが好きだからどう走ればいいか分からないからこうして聞いてるのに…」
「ま、それをどうするかは俺に聞くんじゃなしに自分で考えては見つけることだ。お前の親父ならスイスポがどれ程馬力が出ていようが使いこなせるし。例えローパワーといえどお前相手に軽くぶっちぎるだろうしな」
政志は自分で答えを探し出すようタケルを諭していき。それを聞いてはどうすればいいのか、タケルはますます頭を悩ますしかないのだった。
赤城山
「(くっ…何なんだこいつは!?下りで、しかも俺のホームの赤城でここまで追い詰められるなんて…!!
兄貴ですら下りで須藤以外に苦戦した相手はほとんどいなかったのに…!!)」
赤城では啓介とクリスによる下りでのバトルが行われ。
啓介のFDが先頭をキープしながら、ロータリーのハイパワーを活かしては直線で加速しては、S2000を引き離していく。
だが、クリスのS2000は直線で引き離されようが、コーナーに入る度に高回転をキープしたままインを抉り、ブレーキングポイントを極限まで遅らせてはFDに食らいつく。
「(そんな…!!赤城で啓介さんの走りに完全に食いついていやがる…!!俺と同じノンターボでいながらターボ車を相手に追いつくなんざ、どうやってFDのターボを相殺してんだ…!!)」
後方から追うケンタのS14は、後ろからついていくのがやっとで。
クリスは後ろからFDのテールを追っては分析し、口元に笑みを浮かべる。
「(ガッカリね…。FDのロータリーのハイパワーとコーナリングを使いこなせてるとはいえ、それを極限まで使い熟せてないようじゃ…陸ちゃんはおろか、あたし達の地元じゃあ太刀打ちできなくてよ…)」
「(くそっ…!!兄貴以外の奴にプレッシャーをかけられるなんざ、俺の走りに穴があるというのか…!!)」
クリスは余裕綽々な笑みを浮かべながらも、啓介のFDを煽っては追い詰め。啓介は後ろから来るプレッシャーをジリジリと感じながらも、神経を張り詰めてはFDのステアリングを握り続ける。しかし、
「(悪いけど…、あなたの実力がどれ程のものか分かりきったからにはここで引き上げさせてもらうわ…。実力は申し分ないとはいえ、今のあなたじゃ…北関東辺りが関の山だからね)」
クリスは次の高速S字で勝負を決めた。
啓介のFDがいつものラインでインを締めて進入。
しかし、下りの勾配でリアが少し軽くなり、わずかにアンダーが出たその一瞬の隙をクリスは見逃さず。
S2000の軽量ボディと完璧な重量配分を活かしては、トレイルブレーキングでノーズをインに深く食い込ませる。
FDが慌ててカウンターを入れるが、S2000はラインを崩さず、出口で高回転のレスポンスを一気に乗せて並びかけ、そして鮮やかに抜き去っては先頭に付く。
「(!! ば、バカな…。赤城の下りで…こんなにあっさり…抜かれることが…)」
「(ま、こんなところかしらね…。この程度で動揺するようじゃ、あなたはこの先勝ち続けることはできないわよ…)」
啓介は得意でもある地元で、涼介以外の相手に抜かれたことに衝撃を受け。クリスとの実力の違いを強く見せつけられるのだった。
クリスは啓介のFDを鮮やかにコーナーで抜かしては赤城の下りを駆け降り。啓介達が着いた時には既にゴール地点に辿り着いていたのであった。
タケル 自宅
「ただいま…」
「おかえりなさい」
「姉ちゃん…。僕はもう疲れたからこのまま寝るよ。明日になったら起こして頂戴」
「あ、ちょっと待ちなさい…。もう…相変わらず自分勝手なんだから…」
政志の工場から自宅に帰ってきたタケルは遥香に出迎えられ、すぐさま部屋へ戻ってはベッドで横になる。
ここにきて、今までの疲れが出てきたのか。タケルは眠りに着いてはその場でスヤスヤと寝息を立てていく。
「あれ?僕は今…ベッドで寝ていた筈だよね。なのに、どうして…ステアリングを握っては車を走らせてるんだ…?」
自宅に帰ってはベッドで横になった自分が、どういうわけか車を運転しては峠を攻めてるのに疑問を抱く。
しかし、何故そうなったのかすぐに気付いては呟く。
「そっか…。さっきまでずっとスイスポを速く走らせるにはどうしたらいいか考えてたから、夢の中でも車を走らせてるのか…」
夢の中でも車を走らせていることに気付き、苦笑いをするタケル。
すると、自分が走らせている後ろからヘッドライトを灯しては急接近してくる車に気付き、バックミラー越しに見ていくと。その車はタケルの後ろに張り付く。
「なんだ、あの車は?見た目からしてスイスポみたいだけど…フロントのヘッドライトが31よりか目付きが鋭くなっているし…。まるで僕が乗っているヤツよりスポーツカーって感じがするよ…」
タケルがバックミラー越しにそのスイスポを観察していると、スイスポはヘッドライトをチカチカと炊いては合図を送り、バトルを挑むよう挑発すると。自分に対する挑戦だと気付いたタケルはステアリングを握る手に力が入る。
「へぇ〜…。どんな奴が乗ってるかは分からないけど。挑まれたからには全力でぶっちぎってやるよ!!」
相手からの挑発にまんまと乗ったタケルはアクセルをベタ踏みし、SC19の230馬力が一気に炸裂。後ろから追うをスイスポを引き離そうと更に加速していくと、コーナーにてフルブレーキングしてはグリップに荷重を掛け。テールスライドを起こしては抜けきり。立ち上がりで急激に加速しては次の直線へと突き進み。
後ろから追うスイスポはタケルのテールスライドに負けじとコーナー手間でフルブレーキング。荷重をフロントに乗せ、ノーズをインに食い込ませては、出口でアクセルをタケルよりも早めに開け始め。
低速トルクから湧き上がる低回転を使い、フロントに掛かったグリップを活用してはタケルが走ったラインをトレースし、すぐさまタケルのスイスポの後ろにつく。
「上手い…!!スイスポの特徴である車重の軽さとハンドリングを活かしてはコーナーを抜けている。それに立ち上がり時のあの加速…。もしかしたら、あのスイスポはターボを搭載してるに違いない…」
タケルは相手のスイスポが自分が乗ってるスイスポよりも、車の性能をフルに使い熟しては自分に追いついて来るのに驚きを見せ。
スーチャー仕様のスイスポでコーナー出口からの加速で差をつけようとするが、相手のスイスポはターボであるにも関わらず、スーチャー仕様のスイスポと同じかもしくはそれよりも早く立ち上がりで加速していく。
「(くそっ…! なんであんなにコーナー立ち上がりで食いついてくるんだ…!? 僕のスイスポの方がパワーがあるはずなのに…!!)」
パワーの劣る車に追いつかれては焦りが生じたか、直線に入ってはアクセルをベタ踏みし。230馬力ものパワーを発揮してはストレートで引き離そうとする。
軽い車体にハイパワーを発揮するエンジンを載せている限り、タケルが負ける要素はない筈だったが。コーナー手前で、インにつこうとブレーキングすると、前輪がロックしてはフロントが空転してしまい。アンダーステアを出してしまっては外側に大きく膨らんでしまう。
「しまった…!!ここに来てドアンダーが出てしまった…!!」
タケルはすぐにカウンターを当て、修正を試みるも。トラクションが戻らずに加速が鈍ってしまい。
その際に相手のスイスポがイン側から並びかけ。トルクをフルに活用しては安定した立ち上がりを見せ。コーナーを抜けると同時にフル加速してはタケルの横を一気に抜き去り。
タケルはそのスイスポに誰が乗ってるか相手側のドライブシートを見ていくと、そこに乗っていた人物を見ては信じられないようなものを見たような顔をしては呟く。
「と…父さん…!?」
そう。タケルが相手してるであろうスイスポには亡くなった筈の父親である勝が乗っており。
父親が乗るスイスポは、先頭に立った後も安定したラインでコーナーへと繋ぎ。ヘッドライトのシャープな輝きが、バックミラー越しにタケルを嘲笑うように映り。
まるで「パワーを活かすには、まずトラクションを掴め」と言っているかのように走り去っていくとそのまま次のコーナーへと突入しては鮮やかに抜けきる。
「(くっ…!!ダメだ…前輪が上手く回らないこいつじゃあ、父さんには追いつけない…!!)」
タケルは必死に追いつこうと父親のスイスポを追いかけるが、コーナー出口を抜ける度に前輪が悲鳴を上げては加速が途切れ。
直線で差を詰めても、コーナーで引き離されては大きく開いてしまう。
そう繰り返していく中でタケルはあることにようやく気付く。
「(そうか…。父さんが乗るスイスポは僕が乗ってる奴よりも扱いやすいんだ…!!闇雲にパワーを上げてもそれを扱いきれないんじゃ、意味がないことを教える為に、父さんは僕にバトルを仕掛けたんだね…!!)」
ここに来てタケルは父親が同じスイスポに乗ってバトルを挑んできたのが、自分にスイスポに乗る上で大切なことを教える為であると理解し。
父親は息子がようやく答えに辿り着いたのを嬉しく思ったか、そのまま次のコーナーで加速してはタケルよりも遥か彼方へと走り去っていくのだった。
「…タケル、起きなさい!!早くしないと学校遅刻するわよ!!」
意識が移り変わるや、場所は走り続けていた秋名と打って変わるや、自分の部屋のベッドの上になっては頭上に姉の遥香が自分に呼びかけていた。
「あ、おはよう姉ちゃん…」
「もう…何呑気に挨拶してるのよアンタは…。そろそろいかないと学校に遅れるわよ」
「え?…ああっ!!もうこんな時間になっていたの!?やっべー早く着替えないと遅刻するー!!」
目覚まし時計の時刻が午前8時を過ぎては朝礼寸前になっており。タケルは慌ただしく起き上がっては着ていた寝間着をそこらに放り投げては制服へと着替え。
朝食用のパンを口に咥えては急いで学校へと向かう。
「いってきまーす」
「こらタケル!!パンを咥えたまま走るなんてお行儀悪いわよ!!」
姉から叱られつつも、タケルは駆け足気味で学校へと向かい。その日の朝は最悪な寝覚めではあったが、どこか晴れ晴れとしていた。
「それにしても…夢の中で父さんが乗っていたあのスイスポは何だったんだろうなぁ…。それが現実になるかは分からないけど、父さんが乗っていたあのスイスポに乗れる日が来るといいなぁ…」
夢の中でバトルした父親が乗っていたスイスポ。それが何なのかはタケルは知らないでいたが。
後にそれが、ZC33Sという型式が付けられ、新たなスイスポとして登場することをタケルは夢にも思わなかった。
今回はタケルが父親が乗るZC33Sとバトルする展開を書かせていただきました。
父親である勝を登場させて同じスイスポに乗るなら、ZC31Sよりかは33Sの方が面白味があるのと。頭文字DとトヨタのコラボCMで拓海が文太の乗るGR86とバトルするのをスイスポでやってみたいと思ったからです。