「えーっ!!高橋涼介が新しく作ろうとしているチームに、お前ら二人が誘われただとォー!?」
涼介からチームへの参加を誘われた翌日。
学校の屋上でその話を聞いたイツキは目を丸くして、大声を上げるのだった。
「なんでも…一年間限定の活動して解散する、県外遠征のスペシャルチームらしいんだ…」
「まだ詳しいことはハッキリしてないけど。涼介さんの口振りからすると…僕と拓海のどちらかを、下り専用のドライバーとして使いたいみたいだったよ」
拓海が屋上の手摺に手を置きながら淡々と話してる横で、タケルは少し曖昧な表情で説明を加えた。
「す…すげー!!物凄いビッグニュースだよォ!!早く池谷先輩に教えたいよォー」
「落ち着けよイツキ。お前が興奮するのも分かるけど、拓海はまだ、そのチームに入るって言ってないんだから」
「へっ?そうなのか拓海…」
「ああ、俺、まだ…全然迷ってるんだ…」
「えぇっ!?な…何を迷ってるんだよォ…!?」
拓海がタケルの言葉を肯定すると、イツキは驚いた顔をしては拓海に近づき、胸ぐらを掴む。
「だって…初めてバトルしたの、今年の夏だし、まだ半年も経ってない…。車に興味が出てきたのも、この頃だし。俺なんかにチームのメンバーが務まるかどうか不安なんだ…」
「ふ~ん…。要は、チームの看板を背負うことにプレッシャーを感じてると言いたいんだね…」
「何言ってんだ!!お前、中一の時から、豆腐の配達で峠を走ってたんだろ…!?大丈夫だよ!!あ~俺も雑用係でも何でもいいからチームに入れてもらいたいよー」
「無理だね、涼介さんが選ぶメンバーの殆どがレッドサンズから来るに決まってるし。池谷さん達よりもドラテクが下のイツキが選ばれるわけないじゃん。自分で気付いたらどう?」
「うぐっ…!!ごもっともであります…」
タケルからお前如きが入れるわけがないだろとバッサリ言われたイツキは、その場で肩を落としては萎縮する。
「とにかく…昨日の夜から頭が混乱してて、そのチームに入る前にやらなきゃならないことが、いくつかあるような気がするんだ…」
拓海はそう言い切ると、タケルと一緒に涼介の言う県外遠征チームに加わる前に、まずはそれを片付けない限り自分は参加しないと、静かに語るのだった。
タケル達が屋上で県外遠征チームについて話をしていたその頃、涼介は医学部の講義を終えては車を停めている駐車場へと歩いていた。
涼介が車に乗り込もうとすると、一人の長身の男が涼介に話しかける。
「涼介。今年の夏以来だな…」
「長町さん…。お久しぶりです…」
涼介に話しかけてきたのは、群馬大学医学部の卒業生で、現在は群馬大学付属病院に勤務する外科医・長町龍我だ。龍我は涼介の顔を見ると、軽く頷いては本題に入る。
「涼介。お前に押し付けるようで悪いが、頼みがある。お前の知り合いのハチロク…もしくは弾丸のどちらかを、俺に紹介してくれないか」
「え?ハチロクと弾丸の二人を…ですか?」
突然の申し出に涼介が眉を寄せると、理由について龍我は淡々と話していく。
「実はな、俺が今担当している女性が、ハチロクか弾丸のどちらかとバトルがしたいと俺に言って来てな…。実際にその二人と走ったことがあるお前にこうして頼みに来たんだ…。俺としても、彼女の希望を、できる限り叶えてやりたいと思っている。無理を言うのは承知の上だ。…どうだ涼介?」
龍我は静かに区切ると、付け加えるかのように言っては涼介に頭を下げ。
涼介は医大の先輩である龍我に向かっては口を開く。
「…頭を上げてください、長町さん。あなたには、色々とお世話になっていますから、その頼み。引き受けましょう」
「…本当か?」
「えぇ。ただ、二人にはつい先日。俺から県外遠征チームへの参加を頼んだばかりですので、俺の方からもう一度持ち掛けるのは難しいんです。長町さんから直接、交渉してもらえませんか?」
「…わかった。それくらいなら引き受けるよ。で、その二人とはどこに行けば会える?」
「…弾丸の方は確実に会えるかは分かりませんが、ハチロクに関しては、渋川市にあるスタンドに行けばおそらく会えますよ。ここに、その住所と簡単な地図が書いておきましたので、どうぞ受け取ってください」
涼介はポケットから拓海がバイトするスタンドの地図が書かれているメモを取り出し、龍我に手渡すと。それを受け取った龍我は礼を言う。
「ありがとな、涼介。このお礼はいつか、精神的に返してやるよ。覚えといてくれ」
涼介に礼を言った龍我は、踵を返し。
自分の車であるマーチのエンジンをかけては、地図に書かれた拓海が働くスタンドへと車を走らせ始めた。
ガソリンスタンド 夕方
「凄え…。高橋涼介の話って、そんな用件だったのかァ…」
「ねぇ…物凄い、ビッグニュースでしょ?」
イツキから拓海とタケルが県外遠征チームへの参加をするよう誘われたと聞いた池谷は、言葉を失っては唾を吞み。すぐ傍にいた健二も、同じような表情を浮かべる。
「ああ、高橋涼介って言えば…俺達走り屋のカリスマ。連戦連勝の峠のキングだからな…」
「うんうん」
「最も、その連勝記録をストップさせたのが拓海とタケルだから…。その三人が手を組めば強力なチームになるだろうけど…俺はなんか複雑な気分だなァ…」
「「え?」」
「だって、あの二人は俺達秋名のヒーローなのにさ。それをレッドサンズに取られちゃう気にならないか?」
健二が拓海とタケルの二人を渡してしまうようになるのではないかと危惧するが。池谷は小さく笑っては思いを告げる。
「俺は…拓海とタケルがどんどん外へ出ていくことには賛成だよ…。あいつらにはもっと、大きく成長してもらいたいからな…。一年間だけ、高橋涼介の元に預けると思えばいいじゃんか」
「県外遠征か…。俺達も昔、同じようなことを考えたなァ…。行けばいいんだ…。あいつらは秋名の峠で収まる器じゃないさ」
タケル達が成長していくことに期待を寄せる池谷は、前向きに送り出そうとする横で。スタンドの花壇に水をやっていた祐一が、過去に似たようなことをしていたと独り言のように呟くのだった。
秋名湖 夕方
イツキがスタンドで池谷達と話をしていたその頃、拓海は秋名湖の畔にある駐車場に一人で来ていた。
ハチロクの横に腰を下ろし、地面に座り込む拓海は。自分がやり残した事を思い浮かべ、目の前にある公衆電話へと近づいては電話をかける。
『もしもし』
「あの…涼介さんですよね?」
『そうだけど?』
「あの…すみません。昨日とは関係ないことですけど…。全然関係ないってわけでもないかな…。俺、教えてもらいたいことがあるんです…。エンペラーのチームリーダーのことなんですけど」
『須藤京一のことか?』
ぎこちない口調で拓海は、自分が知りたいであろう京一について涼介に聞くと。知りたい理由を話していく。
「はい…。その須藤って人は、どこへ行けば会えるのか、分かりますか?」
『京一は俺の古い知り合いだ。連絡を取れればいつでも取れるけど…』
「俺…。チャンスがあったら、あの人ともう一度走りたいと思ってたんです」
『そうか。どこでやる気だ?』
「向こうの地元へ行こうと思って…」
拓海は、京一の地元でバトルをしたいと涼介に言い。涼介は納得したか、京一のホームコースを教える。
『京一のホームコースは日光のいろは坂だ。向こうでやるなら、半端なく手強い相手だ』
「わかりました…。自信はないんですけど、もう一度走れば俺、納得すると思います」
拓海はそう言って丁寧に礼を述べ、電話を切り。
受話器を戻した後、決意を固めた表情でハチロクに乗り込み、京一がいる日光・いろは坂へ目指す。
「(見かけによらず、負けん気が強いな…。いい傾向だ。
拓海と電話を終えた涼介は、不利な状況が揃いながらも、京一に挑もうとする拓海を評価していくのだった。
秋名湖で拓海が京一へのリベンジを決意したその頃、タケルもまた、いつものスタンドに立ち寄っては池谷と話をしていた。
「いらっしゃい、タケル。お前、高橋涼介の誘いに乗るのか?」
「えぇ。その様子だと、イツキから聞いたんですね?」
「お前と拓海がしばらく地元を離れるのは少し寂しいが…、大きく成長して戻ってくるのを、俺達は期待して待ってるからな。チームに迷惑かけないようにするんだぞ」
「ちょ、そんな子供扱いしないでくださいよ池谷さん。僕だって一応、チームの看板を背負う自覚ぐらいはありすから…」
タケルが池谷と軽く会話をしている途中、スタンドの入り口から一台の古びた車が入ってきては。反対車線からゆっくりと給油機の前に停まる。
「イツキ、悪いけど応対してくれ」
「はーい」
イツキが新たに来た車に対応しようと向かうと。運転席から窓が開き、男が顔を出しては指示を出す。
「レギュラー満タン。頼めるかな」
「はい。レギュラー満タン、入ります!」
イツキが赤いノズルを取り出し給油を始め、ついでにフロントガラスを吹いていくと。ドライバーである男性は静かに尋ねる。
「ちょっといいかな?ここに来れば、秋名のハチロクと会えると聞いたんだが、今日は来てるか?」
「へ?お客さん…。もしかして、バトルを挑戦しにうちに来たのですか?」
「(…拓海に用があるってことは、もしかして挑戦をしに来たのか?)」
拓海と会えないか質問をされたイツキはキョトンとすると。男性は続けては話を聞く。
「まあそんなところだ…。もし、いるのなら呼んできてもらえるか?」
「申し訳ありません。今ハチロクは当店には来ておりませんので…何か言伝でもお伝えしましょうか?」
「いや、急に押しかけてきたこっちが悪いから。また今度来るよ…。ハチロクがダメなら、弾丸とも会って話をしたかったんだが…」
「あの…。少しよろしいですか」
「ん?」
「あなたの言う、弾丸というのは僕のことなんですけど…。もし良かったら、ここでお話を聞かせてもらえますか?」
「…君が、あの秋名で有名な走り屋の弾丸なのか?」
「はい…。僕が秋名で活動している、秋名の弾丸こと斎藤丈瑠です」
タケルがそう名乗ると、男性は少し意外そうな顔をしてタケルを見た。
龍我は意外そうにタケルを見ては呟く。
「そうだな…。もう彼女には残された時間がないから、君にお願いするとしようか…」
「へ?」
「いや、何でもない。こっちの話だ…。俺は長町龍我って言う。群馬大学付属病院で医者をしていてな。涼介から、ここに来れば君かハチロクに会えると聞いて駆けつけたんだ」
「涼介って…。高橋涼介さんのことですか?」
「ああ。涼介とは同じ医学部の先輩後輩でな。時折、大学に出向いて講師もやっている…。あいつは大学内でもトップクラスの成績を叩き出していると有名なんだ」
「そうでしたか…。涼介さんについては結衣さんから粗方聞いてましたが、医者を目指すだけあるんですね」
「池谷先輩、今の話聞きました…。高橋涼介って、走りの腕だけじゃなく、頭も滅茶苦茶いいみたいですね…。くぅ〜、羨ましいすよォ…」
「そうだな。同じ走り屋とはいえ、俺らとは住む世界が違うからな…。俺も一度は高橋涼介みたいな男になってみたいもんだ」
「(いや…、お前には無理だろ。顔も頭も金も…)」
龍我から涼介の話を聞くタケルの傍で。池谷とイツキも龍我の話に耳を傾け。
池谷が叶わぬ願望を口にすると、すぐ隣にいた健二が内心、辛辣な突っ込む始末を入れる。
「で、話は変わるが。タケル君と言ったな。君に、ある一人の走り屋とバトルを頼みたいんだが、引き受けてくれるか?」
「僕は別に構いませんが、その人がどんな走り屋か教えてもらえますか?」
「いいとも。君に相手をしてもらうのは、神里藍璃って言って俺が主治医を務めている子だ。君の地元である秋名でバトルをして、彼女を喜ばせてやりたいと思っている。彼女が乗る車は…君も知ってはいるとは思うが…ランサーエボリューションの最終モデル、エボⅩだ」
「エボⅩ…ですか」
タケルが少し意外そうな顔をすると、龍我は淡々と続けては藍璃が乗る車について話す。
「彼女のエボⅩは、俺が普段仕事で足に使ってる車でな。足回りは藍璃の意見を尊重しつつ、俺好みにセッティングした仕上がりにしてあるが…。そんな相手に、君は立ち向かうことができるか?」
藍璃の相手が務まるか尋ねられるが、タケルはいつもの明るい笑みを浮かべて、迷いなく返す。
「全然構いませんよ。相手がランエボだろうと何だろうと、僕としては逃げる気はありませんから…その勝負、受けて立ちますよ」
「そうか。ではバトルは今週の土曜に秋名でどうだ?」
「いいですよ。あなたの言う藍璃さんにも、絶対に負けないと伝えておいてくださいね」
タケルが強気な姿勢で返すと。龍我は小さく頷いては満足したか。笑みを浮かべては言う。
「君が今言った言葉は、しっかりと伝えておくよ。彼女も君と戦えることを嬉しく思う筈だ」
そう言っては給油を済ませたマーチに乗り込み。エンジンをかけて、発進させながらスタンドを出ていくと。
来た道を戻るように、スタンドを後にするのであった。
「タケル…。お前、バトルをするって言っていたけど、本当にやるのか?」
「勿論。涼介さんを通じて、あそこまで頼まれたんだから、断るわけにはいかないよ」
「そうかもしれないけど…。相手はランエボだろ?いくら地元でエンペラーのランエボに勝ったとはいえ、かなり苦戦するんじゃないか…?」
「心配いらないよ。例え相手どんな車で来ようと、挑まれた挑戦は受けて立つ、…それが走り屋だからね」
イツキが心配しながら聞くも、タケルはいつものように微笑みを見せてはバトルを受けると言い。週末の土曜に、藍璃とのバトルを待ち構えていくのだった。
「さてと、自宅に帰る前に姉ちゃんから厚揚げを買ってくるよう頼まれたし、拓海ん家で買って帰るとしよう…」
スタンドを後にしたタケルは、姉からおつかいを頼まれたのを思い出し。自宅に帰る前に拓海の実家である藤原とうふ店に寄ろうとする。
すると、店の横に置いてあるハチロクが店を出ようとしているのを見つけては、ハザードランプで軽く合図を送り。
拓海がタケルの存在に気付いてはハチロクから下りてくる。
「よぉ、拓海。こんな時間にどこへ行こうって言うの?」
「どこって…ちょっと、用があっては出かけるとこなんだよ。ほら、俺…赤城で須藤京一って人に負けたの、お前も知ってるだろ」
「なるほどね。それで須藤にリベンジを果たしに、出かけるとこだったんだ…。で、どこでやるか教えてくれる?」
「…須藤って人の地元って言えば分かるか?」
「OK。大体理解したよ…。日光いろは坂に行ってはバトルをすると言うんだね」
拓海が今から日光に向かうと知ったタケルは、何を思ったか。ニヤリと笑っては拓海に言う。
「だったら、厚揚げを買って帰った後に僕も行くよ…。日光・いろは坂には一度行ったことがあるから、道を教えてあげられるしね」
「…いいのか?」
「別にいいよ。僕も偶には他所の峠を走りたかったところだし、拓海がリベンジを果たせるかどうか、見届けて上げるよ」
タケルはそう言い切り、拓海と一緒に行くと決めては、京一がホームコースにしている日光・いろは坂へと向かうのであった。
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