頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

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ACT.90 やり残したバトル!!

 「藍璃。今日、スタンドに寄って弾丸と話をつけてきたぞ…。週末の土曜に、弾丸の地元である秋名でバトルすることになったが、それで構わないか?」

 

 「…構いません。態々出向いて話をつけてくださって、本当にありがとうございます」

 

 「いや、君の主治医として放っておくわけにもいかなかったからな。これくらいどうってことないよ。俺としても、君には悔いのないように走りきって欲しいと思ってる」

 

 

 前橋市にある群大の付属病院の病室で龍我が話している相手は、タケルとバトルすることになった神里藍璃で。

 藍璃は病室のベッドで横になり、点滴を受けながら静かに微笑み、龍我に感謝を述べると。龍我は軽く肩をすくめ、大したことはしてないと、謙虚に振る舞っては話をする。

 

 

 「それで先生…私に残された時間は、後どれくらいしかないのですか…?」

 

 「…そうだな。君のカルテを見る限りでは…もって二年(・・)といったところかな」

 

 

 龍我の言う二年とは、具体的に何を意味するのか、その答えが明らかになるのは。もう少し先のことだった。

 

 

 

 

 

 日光 いろは坂

 

 

 渋川市を出て約ニ時間。

 タケルのスイスポに続いてハチロクで来た拓海は。いろは坂に着いてすぐに、下見も兼ねてはレッキを行う。

 初めて走るいろは坂を拓海は、細部まで見ていってはコースレイアウトを頭に叩き込み。

 タケルも以前結衣と来た時に通った記憶を蘇らせながら、コースを覚えようとしていく。

 軽く走らせては下見を終えた後、二人は麓の駐車場の自販機前で飲み物を買い、一飲みしてはいろは坂のコースについて話をする。

 

 

 「なぁタケル…。この道路は地図で見た時は道路が二つあっては変だなと思ってたけど…。今になっては理由が分かった気がするよ」

 

 「お、拓海にしてはいいところに気付いたね。いろは坂は上りと下りが別ルートになってて、一方通行で完全に切り分けられてるんだ。下りが第一いろは坂、上りが第ニいろは坂で、合わせて48個のヘアピンカーブがあってね。前に浩二さんから聞いた話によると、対向車を気にせず走ることができては、ちょっとしたサーキット場みたいになるって言ってたんだ」

 

 

 タケルがいろは坂の特徴について軽く説明した後、何となく理解したか、拓海は口を開いた。

 

 

 「タケル…。ここを走り込むのに、俺にアドバイスを教えてくれないか?俺、ここに来るのが初めてで、まだ走り慣れてない箇所もあるから、できるだけコースのことを頭に叩き込みたいんだ…」

 

 「OK。僕もいろは坂にはほんの数回しか来てないけど、知ってる限りのことは教えてあげるよ。何しろ、こんな複雑な道路を走るのは、一苦労するからね」

 

 

 拓海からアドバイスを求められたタケルは快く承諾し。

 スイスポを少し前に出しながら、コースレイアウトを覚えようとする拓海に付き合っていく。

 しかし、そんなことをしていれば。いろは坂に来ているエンペラーの目に留まるのは時間の問題だった。

 

 

 「お、おい。あれっ…」

 

 「え?…秋名のハチロクとスイスポだ」

 

 

 上下線の分岐点で、エンペラーのメンバーの一人が、スイスポとハチロクが通っていくのを目撃し。

 二台が分岐点を曲がると、第二いろは坂へと上っていくのを確認した瞬間、メンバーは頂上にいる京一に報告しようと連絡を入れる。

 

 

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 「そうか…。分かった…。京一、今、下から入った話によれば…二台がもうすぐ、こっちに上がってくるそうだ」

 

 「……」

 

 

 いろは坂の頂上の明智平パノラマレストハウス前の駐車場に待機していた京一の元に、浩二から二台が向かってると連絡が入り。京一は腕を組んだまま、二人を待ち構える。

 

 

 

 

 

 「兄貴、いるか?」

 

 「…啓介か、どうした?」

 

 

 拓海達がいろは坂に向かっていたその頃、自宅にいた涼介はPCの画面に向かい、いろは坂のコースレイアウトを調べており。そこに啓介が入ってきては報告をする。

 

 

 「情報が入った…。秋名のハチロクと弾丸が、いろは坂に向かっているそうだ…」

 

 「そうか。斎藤も一緒とは意外だな…」

 

 「なんだ、知ってたのか?」

 

 「まあな」

 

 

 啓介は小さくため息をつき、舌打ちをしては話をする。

 

 

 「それにしても、藤原の奴。兄貴が態々チームの誘いに出かけてったのに…。須藤京一のことを聞いてくるなんてよ。なんか無視(シカト)された気分だよ…。あいつ、俺達より須藤のことを上だとでも思ってんのかな」

 

 「そう単純に考えるなよ。別に無視されたわけじゃないんだ。斎藤と同じ様に藤原は遠征チームの話には、かなり強い関心を示していたからな…」

 

 

 先日会った時に見た様子から、拓海がチームの誘いに興味を示していたと涼介が言うと、そこから話を続けては啓介に言う。

 

 

 「今のところは自信を持てなくて迷ってるだけさ…。京一に対しても単に一度負けたからとか、そういう単純な勝ち負けに拘ってるつもりじゃないだろ。あいつは多分…何かを試したくて、いろは坂に行った筈だ…」

 

 

 拓海は京一へのリベンジだけではなく、他にすることがあっては京一のいる、いろは坂に向かったのではと涼介は推測し。その結果がどうなるか、ただ待つのみであった。

 

 

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 「来た!!」

 

 

 神妙な顔をした拓海は、タケルのスイスポに続いて第二いろは坂を上り続けていた。

 エンジン音が刻一刻と大きくなり、京一達が待ち構える明智平パノラマレストハウス前のスペースへと近づいていく。

 

 

 「(なんだ、前のハチロクとは…音が違う…。スイスポも…エンジンを替えたか、以前よりかは重厚な音が出ている)」

 

 

 京一は耳を澄ませ、エンジン音が聞いては目を細めるが、二台が到着すると、ほぼ同時にエンジンが切られ。

 車から拓海とタケルが下りては京一と視線を合わせ、静かに対峙するのだった。

 

 

 

 

 

 高橋家の邸宅にて、涼介はいろは坂のコースレイアウトについて、啓介に教える。

 

 

 「いろは坂の下りはダイナミックだけど、戦略的にはシンプルだ。つづら折れのヘアピンカーブの連続で…。これが始めから終わりまで、これでもかって言うほど続くんだ。タイトに回り込む低速コーナーと低いギアでの…急加速の繰り返しは…。まるでジムカーナだからな。京一は得意なんだああいうタイプのコースは、おまけに藤原の得意な中高速コーナーが殆どない…。どう考えても圧倒的に京一が有利だろ」

 

 「そこまで聞くと、なんか気が重たくなってきたな…」

 

 「ただな…俺にも予想できない要素が一つだけあるんだ。新しいエンジンに載せ替えられたあのハチロク…。あれ(・・)がどんな車に生まれ変わっているのかが大問題なのさ…」

 

 

 涼介の言葉に耳を傾けた啓介は、いろは坂のコースについて聞いていくや、その複雑なレイアウトに辟易するも。

 涼介はそこから更に話を続けては拓海のハチロクに載せ替えられたエンジンについて語り出す。

 

 

 「ちょっと前の話になるけど…、夏の終わり頃かな…。渋川市のちっぽけな修理工場に、妙なエンジンが非公式なルートで流れてきたっという情報をキャッチした…」

 

 「妙なエンジンって…、どんなエンジンなんだ?」

 

 「今は無くなってるけど、昔、グループAというツーリングレースが盛んだったのは覚えてるだろ?」

 

 「え!?まさか…グループAのエンジンなのか!?」

 

 「十中八九間違いない筈だ…。グループAのAE101に搭載されていたTRDのエンジンなら、NAのテンロクながら一万一千オーバーの回転域で240馬力を絞り出す超高性能ユニットだ。おそらくそいつがストリート用にデチューンされて…、秋名のハチロクのボンネットに収まっているんだ」

 

 「しかし…、いくらレース用のエンジンでも…。NAの1.6リッターから絞り出せるパワーには限度がある…」

 

 「そうだ…。だがな、啓介。俺が注目してるのは馬力じゃない…曲がり(・・・)だ」

 

 「え?」

 

 「そのエンジンを載せることによって、運動性能が飛躍的に向上する…。元々曲がりの強いあいつのコーナーワークに…、更に磨きがかかる。京一のミスファイヤリングシステムと、互角の戦いができるかもしれない」

 

 

 ハチロクがコーナーで京一のミスファイヤリングシステムを載せたエボⅢとやり合うことができると涼介が断言し。啓介は苛立った様子で腕を組んだまま、タケルのスイスポについて涼介に聞く。

 

 

 「だったらよ。藤原のハチロクがコーナーに強いのだとしたら、斎藤のスイスポはどうなんだ?以前赤城でバトルした、あいつのスイスポもエンジンを載せ替えてはパワーが上がってただろ?それについて、兄貴はわかるのか?」

 

 「斎藤のスイスポは、ノーマルのM16AをモンスタースポーツのM19Aコンプリートエンジンに載せ替えている。ボアアップで排気量を1,884まで拡大し、そこに遠点式のROTREXスーパーチャージャーを組み合わせては200馬力にした仕様だ。高回転まで回すタイプではなく、低~中回転域のトルクを太くして、軽量な車体を素早く加速させる方向に振ってある…。ハチロクのTRDエンジンが『高回転域でパワーを出す』タイプなら、斎藤のスイスポは『低中速で素早く立ち上がるタイプ』と言えるだろう。いろは坂のような急勾配と低速コーナーが連続する下りでは細かいアクセルワークを要される。奴のスイスポはそういう場面でこそ発揮する。まさにあいつの異名通り、弾丸のような加速を見せる筈だ」

 

 

 拓海のハチロクと同じように、タケルのスイスポなら、いろは坂を難なく走らせることができ。立ち上がりでその性能をフルに発揮すると涼介は語っていくのだった。

 

 

 

 

 

 いろは坂 頂上

 

 

 「ハチロクを修理したのか…」

 

 「はい…」

 

 「俺が赤城で言ったことを覚えているか?俺と競り合えるだけのいい車に乗り換えるまで勝負を預けておく…、そう言った筈だけどな?」

 

 

 京一はハチロクでいろは坂に来た拓海に苦言を呈すと、タケルが二人の間に軽く割って入る。

 

 

 「そうとは限らないですよ、京一さん…。今、拓海が乗っているこのハチロクは…以前バトルした時よりも遥かにパワーアップして、ここまで甦って来たんですから、そう厳しく言わなくてもいいのでは?」

 

 「タケルの言う通りかもしれねえぞ。そのハチロクから出てた音、明らかにノーマルの4AGとは全然違ってたからな。藤原のトレノ、かなり戦闘力が上がっているに違いないと俺は睨んでるぜ」

 

 

 タケルが京一と話す傍らで、浩二がフォローを入れつつ、拓海に目線を送り。拓海は少し間を置いてから、このハチロクで来たことについて京一に言う。

 

 

 「この車は前とは違います…。俺にとって、こいつはいい車なんです…。ダメですか?これじゃあ…」

 

 「……」

 

 

 京一は拓海の話を聞き、沈黙を貫くが、拓海の覚悟を決めた瞳を見つめえは口を開く。

 

 

 「いいだろう、俺にとってもやり残したバトル(・・・)だ。ここでケリをつけてやる」

 

 

 京一がそう言ってバトルを了承すると、拓海の隣に立つタケルに視線を移す。

 

 

 「斎藤、お前もバトルに出ろ」

 

 「へ?僕も…ですか?」

 

 「お前とは、涼介とのバトルを終えた後にケリをつける予定だったんだが。中嶋の横槍が入ってうやむやになってしまったからな…。同じモータースポーツをやってきた俺からしても、あいつの舐めた口には、腸が煮えくり返っている。そんな矢先にこのタイミングでお前が来たからには、ここで決着をつける他ないからな」

 

 「…わかりました。そう言うのであれば、二人のバトルに混ざらせてもらいます。中嶋に負けて以降、徹底的に仕上げてきたスイスポで、あなたをブチ負かしてやりますから…覚悟してくださいね」

 

 

 「(ほぉ~タケルも加わるとは意外だな。にしても京一の奴、赤城でやった時はバトルではなくセミナーだと言ってたのに、今になってバトルを抜かすとは…どういう心境だ?ま、その答えについては、バトルが終わった後で京一に聞いておかねえとな…)」

 

 

 突然の指名にタケルはキョトンとするも、京一が群馬で果たせなかった決着を付けたいと言い。

 タケルはそれを了承し、急遽決まったこととはいえ、拓海と京一のバトルに参加することを表明するのだった。

 

 

 

 

 

 いろは坂 下り スタート地点

 

 

 「この先の道路はジェットコースターみたいに急降下しては、下りが相当キツイぞ。下手に操作を誤れば車を御釈迦にするから、絶対に事故るなよ。何せ、これ程ダイナミックな急坂下りは他にねえからな…」

 

 「そうですね。僕も関東の峠をいくつか走って来ましたけど、いろは坂程難易度の高いコースは見たことがありませんから、気を付けていきます」

 

 「いい根性してるな、タケルは。ここを地元にしてる俺から言わせりゃ、関東エリアでトップクラスのダウンヒルステージだ。生半可な車じゃ、ここを走りきるなんて到底できねえからな」

 

 「……」

 

 

 いろは坂の頂上にあるガソリンスタンドの手前の道路にて、浩二がタケル達に忠告していきながらハチロクとスイスポをスタートラインに並ばせ。その後ろに京一のエボⅢが立っては準備が整う。

 

 

 「勝負は下り一本。麓まで下りたところで、道路は三回橋を渡る。最後の橋を渡り切った地点がゴールだ…。お前と斎藤が行った後で俺がお前達を追う…」

 

 「え?」

 

 「…つまり、このバトルはハンディキャップ方式でスタートするってことですね…」

 

「そうだ。ゴール地点まで俺に抜かせずに逃げきれれば…。お前達の勝ち、抜けば俺の勝ち。それでいいな」

 

 「けど、それだと…」

 

 

 ハンディキャップ方式でスタートを行い。その上で自分に抜かれることなく、最後まで走り切ればいいと京一が言い。更に続けてはそのルールでやる理由を話す。

 

 

 「不公平な条件だと言いたいなら、それは俺に対する侮辱だ。このいろは坂が俺の地元だってことを忘れるな…。そのくらいのハンデをやらないとお前達とは勝負にならないってことだ」

 

 「……」

 

 「拓海。納得いかないのは分かるけど、向こうもそれなりに融通を利かせてはハンデをくれたんだ。こっちからリベンジを申し込んだからには、向こうのやり方に大人しく従うしかないよ」

 

 

 強気な目線を向ける拓海に、タケルが宥めていくと。話が済んだか、京一は自分の車に乗り込む直前で二人に言う。

 

 

 「言いたいことがあるなら終わってから聞いてやる。始めるぞ」

 

 

 その言葉を合図に、拓海とタケルもそれぞれハチロクとスイスポに戻り。

 バケットシートに腰を下ろし。シートベルトをしっかりと締めてエンジンをかけていき。バトルが今、始まろうとするのだった。

 

 

 「いよいよだな…。お前はこのバトル、タケル達と京一のどちらが勝つと思ってるんだ?」

 

 「んなもん。京一が負ける筈ねえだろ。いろは坂の下りはジムカーナのコースに急勾配をつけるようなものだからな…。どんな奴が来ても、ここでは京一には敵わない。ジムカーナで鍛えたテクニックを持つ京一は低速コーナーの鉄人なんだ…」

 

 「それもそうだな。あいつの手にかかれば、曲がりにくい4WDが独楽ねずみのようにクルクルと曲がっていくからな。派手さはないが、年季の入った職人のような仕事をする京一に、あいつらがどう渡り合えるのか、しっかりと見ておかないとな…」

 

 

 浩二と清次がそんな話をしてる傍らで、京一が前方のハチロクとスイスポに向かって、ハザードランプで先行しろと合図を送る。

 拓海とタケルは同時にアクセルを軽く吹かし、1速に入れてサイドブレーキを解除した。エンジン音が高く響き、メーターが跳ね上がる中、二人はステアリングをしっかりと握り締め。

 ハチロクとスイスポがほぼ同時にスタートを切り、夜のいろは坂を下り始めた後で、京一もエボⅢを発進させ、その後ろに付く。

 

 そして今、第一いろは坂の下りコースにて、ハチロク・スイスポ・エボⅢによる三つ巴のバトルが開始されるのであった。




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