頭文字D 峠の弾丸   作:ペンギン太郎

96 / 100
 更新しました。
 前回、須藤京一とのバトルを終えたタケルが、新たな強敵と出会い。バトルをするかもしれませんが、よろしくお願いします。


ACT.92 暁の協定

 須藤京一といろは坂でバトルしてから一夜明けた朝。

 拓海はいつものようにハチロクで豆腐の配達を終え、秋名の峠を下り始めていた。いつものペースで車を流していくと、道路の端に、見覚えのある黄色いFDがヘッドライトを灯したまま停まっていた。エンジンをアイドリングさせたまま、一人の男が拓海を待ち構える。

 

 

 「啓介さん…」

 

 

 拓海はハチロクをFDの前に静かに停め、車から下りる。

 

 

 「聞いたぞ、斎藤と一緒にいろは坂でエボⅢとやったんだってな」

 

 「そんなこと…もう知ってるのですか?」

 

 「そういう話は伝わるのが早いのさ」

 

 

 昨夜のバトルを啓介が知っていたことに驚く拓海だが、啓介はそれを軽く笑う。

 すると、麓の方からもう一台のヘッドライトが近付き。拓海と啓介が路肩で立ち話をしているのに気付くと、その車はハチロクの近くに停まり、中からタケルが降りては二人に話しかける。

 

 

 「拓海。こんなところで何してるんだ?それに啓介さんまで…」

 

 「そういうお前こそ、こんな早朝にスイスポを飛ばして何してんだよ?」

 

 「僕は夜勤明けの姉さんを迎えに行く途中だっただけですけど…。そういう啓介さんはどうしてここに?」

 

 「俺は藤原に用があって、待ってただけだ…。丁度いい。お前にも関係ある話だ。少し付き合え…」

 

 

 啓介は二人をその場に留めると、簡潔に本題に切り出した。

 

 

 「もうすぐ冬が来る…。俺達の県外遠征が本格的に始動するのは路面凍結のシーズンが終わる来年の春からだ…。来るんだろ?俺達の新チームに…」

 

 「ええ、涼介さんの元で走れるなら、絶対に勉強になります。走りに磨きがかかりますし、乗らない理由がないですよ…」

 

 「……」

 

 「兄貴のタイムリミットが後一年ならば…、その一年間は全力を尽くしては兄貴の夢の為に俺は走りたい…」

 

 

 啓介は声を少し低くして、念押しするように尋ねては、2人にチームに加わるのか聞いていくと。タケルが乗り気でいる一方で、拓海は、言葉に息詰っては押し黙ってしまう。

 だが、啓介は胸中に秘めた思いを拓海とタケルに打ち明かす。

 

 

 「兄貴が情熱を傾けている壮大なゲームのエンディングにどんなカタルシスがあるのか俺は知りたい…。兄貴のコーチを受けて一年経てば、お前ら二人はシャレにならないぐらい強くなるだろう。だけど俺はそれを上回るレベルに完成してみせる」

 

 「(…凄いこと言うな啓介さんは。そこまで言うくらいだから、県外遠征に物凄い力を入れてるんだね…)」

 

 「……」

 

 「その時まで、勝負は預けておく…。一年後、俺はお前らに勝ってプロを目指す。メジャーな世界でビッグになる!!」

 

 

 啓介は拓海とタケルの目を真正面に捉え、兄である涼介への強い想いと、自分自身の野望に燃えては、二人に言う。

 

 

 「来いよな…。一緒にやろう(・・・)ぜ」

 

 

 そう言い残すと、啓介はFDに乗り込み。エンジンを唸り上げ、鮮やかな180°サイドターンで車を反転させ。朝の陽光を浴びながら、秋名の道路を一気に駆け抜けていくのだった。

 

 

 「タケル…。啓介さんもすげぇけど…。他の人達もなんてすげー人達なんだろうな…」

 

 「ああ、関東制覇という大きな目標を本気で掲げるんだ。相当なメンタルが強くないと務まらないんだし…。僕と拓海が加わったら、チームがどうなるか、少し楽しみになってきた気がするよ…」

 

 

 自分達が加わろうとしているチームのスケールの大きさに、拓海とタケルは圧倒されるしかなく。

 二人はただ立ち尽くし、遠ざかるテールランプを見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 県立S高

 

 

 豆腐の配達と姉の迎えを済ませた二人は制服に着替えては学校に登校し。玄関の靴箱で上履きに履き替える。

 タケルが朝からシャキッとしているのに対し、拓海は相変わらず寝ぼけた顔のまま、ぼんやりとするのだった。

 

 

 「よぉー!!相変わらず絶好調に寝ぼけてんな拓海ーっ」

 

 

 イツキが後ろから拓海の背中を叩いては声を掛け、拓海は頭に手をやってはイツキに苦言する。

 

 

 「勘弁してくれよ…。俺、マジで昨日あんまり寝てねえんだから…」

 

 「そうか?僕は昨日の夜、家に帰ってすぐに寝たけど。案外ぐっすりと眠れたよ」

 

 「それはそうと拓海。俺、昨日の夜電話したんだぞ。どこへ行ってたんだよ?」

 

 「それは秘密だ」

 

 「なんにーっ!?てめえ、親友の俺に隠し事とはいい度胸だー」

 

 「いててっ、バカ、やめろ。別に隠しちゃいねーよ…」

 

 「はいはい落ち着きなって。そのことについては、後で教えてあげるから解いてやりなよ」

 

 

 昨日の夜、拓海がタケルと一緒にいろは坂に向かったことをイツキは知らない為、どこへ行ってたのかと尋ねるが。拓海はバトルしたことを言わないと言ってはぐらかそうとする。

 しかしイツキは、拓海の首に腕を回し、ヘッドロックを掛けながら聞き出そうとする。拓海は顔をしかめながらも、抵抗する気力すらなさそうだった。

 

 

 

 

 

 昼休み

 

 

 「そう言えばもうすぐ文化祭だったな」

 

 「そうだね…。普段の学校生活はつまらないけど、こういうイベント事になれば何故か面白くなるんだよね…」

 

 

 タケルが廊下を歩きながら壁に貼られた文化祭のポスターに目を止めると、拓海とイツキも足を止めた。

 

 

 「どうせ今年も出席だけ取ったら即効でサボり決めるけど、今まで参加したこと記憶ないなー文化祭なんて…」

 

 

 イツキが面倒くさそうに言っては、三人はそのまま歩き出すと。後ろから女子生徒に声を掛けられる。

 

 

 「藤原君、これお願いしまーす」

 

 「何それ?」

 

 「うちの文化祭の出し物で…、『S高のスーパー男子高校生』という企画をやるんだけど…。それでね、3年の全部のクラスの女子にそれぞれ投票してもらって…。クラスで一番カッコいいと思う男子生徒を選んでもらったんだけど…」

 

 「(あれ…この声、どっかで聞いたような…)」

 

 

 拓海は女子生徒の声に聞き覚えがあったのか、ぼんやりと思い出そうとしたが。まともに話したことがなかった為結局思い出せないでいた。

 

 

 「おい拓海、白石さんがお前に話してるんだから、話を聞いてやりなよ」

 

 「あ…悪い、何だっけ?」

 

 

 タケルに促されて、拓海はようやく意識を戻した。白石と呼ばれた女子生徒は、少し困ったような顔で続ける。

 

 

 「だからね…。藤原君は3年7組の女子の人気投票で第2位に選べばれてるの…」

 

 

 「「「はぁ?」」」

 

 

 まさかの拓海が人気投票でランクインしてることに、タケルとイツキを含め、三人が同時に声を上げ。

 イツキはアンケートの内容について、再度話を聞く。

 

 

 「噓だー。こんな天然ボケのどこがかっこいいんだよー」

 

 「まあ、拓海は性格を差し引いても顔立ちはいいから。女子からモテるのも強ちおかしくはないけど…」

 

 「じゃあ俺は?俺も7組だよ、武内樹っていうんだけど…。俺は何位!?」

 

 「ええと…武内君は…、得票ゼロで選外ですけど…」

 

 「だああ!!」

 

 

 イツキはその場で激しくズッコケ、ショックを受けた様子で床にへたり込んだ。タケルは苦笑いを浮かべ、拓海は相変わらずぼんやりとした顔で話を聞き続けるのだった。

 

 

 「それで各クラスの上位3人で8クラス合計24人全員のデータブックを作るので…。このアンケート用紙の設問に答えを記入して欲しいんだけど…」

 

 「俺いいよ、面倒くさいの嫌いだから…」

 

 「そんな…、簡単なアンケートだから…お願いします!!」

 

 「(あれ…。この真剣(マジ)な感じの声…前にどっかで…)」

 

 

 白石が真剣に頼み込んでるのを聞き、拓海は再びその声を聞き覚えを覚えた。

 

 

 「ほら拓海、こうしてお願いしてるんだから受け取ってやりなって。白石さん、拓海にはアンケートを書かせては後で持っていってあげるから安心して」

 

 「あ、ありがとう…斎藤君。じゃあ、放課後回収に行くから…よろしくお願いします」

 

 

 タケルが白石からアンケート用紙を受け取り、拓海に突き付けるように渡していくと、拓海はそれを渋々受け取っては、面倒くさそうな顔で溜息をつく。

 そして、白石がその場を離れてすぐさま、拓海は白石と親しそうに話していたタケルにある質問を投げかける。

 

 

 「あのさタケル、今の眼鏡かけた女の子、知ってるか?」

 

 「ん?白石さんを知ってるかって…。勿論知ってるさ、彼女、僕や茂木さんと同じクラスで、茂木さんとは仲がいいからね」

 

 「(茂木…!!思い出したあの声…!!まさか!?」

 

 

 タケルから白石がなつきと親友だと聞いた瞬間、拓海の表情がぴくりと変わった。頭の中で何かが繋がり、思いつめたような顔をしては固まるのだった。

 

 

 

 

 

 放課後

 

 

 「白石さん。拓海を連れてきたよ」

 

 

 タケルが拓海の腕を軽く引きながら、白石の前に連れてくると。拓海は無言で書いたアンケート用紙を差し出す。

 

 

 「拓海君…ちゃんと書いてくれた?」

 

 「書いたけど…俺さ、聞きたいことがあるんだ。ちょっといいか?」

 

 「?」

 

 「……」

 

 

 拓海は、真剣な目をしては白石を見つめ、質問を投げかける。

 

 

 「お前さ…俺ん家に変な電話よこしたことあるだろ?」

 

 「へ?どういうことだ拓海?お前と白石さんに、何があったの?」

 

 

 拓海が白石に質問を投げかけると、白井は顔が強張り。慌てた様子で口を閉ざすのだった。

 

 

 「名前、言わなかったけど。あれ、絶対お前だろ…!!」

 

 「……」

 

 「ちょっと拓海、白石さんが困ってるじゃないか。お前と白石さんの間に何があったか、僕にはさっぱり…」

 

 

 タケルが拓海の前に割り込むようにして、白石を追い詰めないよう注意するが。拓海は鋭い視線を白石から外さず。

 白石は耐えきれなくなったか、くるりと背を向け、その場から逃げ出そうとする。

 

 

 「待てよ。逃げんなよ」

 

 「……」

 

 「俺、別にお前のこと…責めてるわけじゃないからさ…。ちょっと聞きたいだけなんだ」

 

 「…まさか拓海、白石さんから聞こうとしているのは、茂木さんについてだよね…?」

 

 「そうだけど、お前には関係のないだろ…」

 

 「関係ないわけないだろ。僕だって、拓海と茂木さんに何があって仲が悪くなったのか、知る必要があるんだ。茂木さんから、拓海と仲良くなれるように頼まれたからには…このことを黙って見過ごすわけにはいかないよ」

 

 

 タケルが心配しながら言い返すが、白石が二人の間に割って入る。

 

 

 「待って…!!そのことについては、私から話すから争わないで…!!元はといえば、私が悪いんだから…」

 

 「……」

 

 「わかったよ…。ここで立ち話もあれだし、どこか人目のつかないとこにいこうか…」

 

 

 白石の言葉で落ち着きを取り戻したタケルは、誰にも聞かれないよう、三人で屋上に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 屋上

 

 

 「そうか…。茂木さんが拓海の知らないところで、そんなことをしていたのか…。通りで拓海が茂木さんを避けるわけだよ…」

 

 

 白石から事情を聞いたタケルは、複雑な表情で息を吐いた。

 なつきが拓海に内緒で中年男性と援助交際をし、小遣い稼ぎをしていたこと。その場面を拓海に目撃され、なつきは、拓海から距離を置かれてしまったとのこと。

 全てを聞いたタケルは、納得したものの重い気持ちを隠せなかった。

 

 

 「怒ってないの?」

 

 「別に怒ってねえよ…。お前の言ったこと嘘じゃねえからな…」

 

 「拓海…。お前が茂木さんを避ける理由はわかったけど、少しくらいは話を聞いてやったらどうだ?あの様子じゃ、自分がどれだけ悪いことをしたか反省してるみたいだったしさ…」

 

 「例えそうだとしても…、俺の中ではあいつのことは未だに許せねえんだよ…。茂木に裏切られた俺の気持ちがお前にわかるのか?」

 

 「そ、それは…なんとも言い切れないけど…」

 

 

 タケルは返す言葉が見つけられず、ただ押し黙るしかなく。

 そこから拓海は、白石に向き直っては核心をついた。

 

 

 「なんでさ…。俺に教えようと思ったんだ?」

 

 「……」

 

 

 白石は屋上の手摺に背を預け、視線を少し落としてから口を開いた。

 

 

 「嫌だったから…!!なつきと藤原君がどんどん仲良くなっていくのが嫌だったの…。なつきは藤原君に相応しくないと思うし…。絶対似合わないっていうか…。なつきとは、付き合っちゃダメだよって…。とにかく、そう言いたかったの…」

 

 「(そうか、白石さんは拓海のことを気にするあまり、茂木さんのことをバラしたんだ…)」

 

 

 タケルは白石の言葉からその理由を察し。白石の話を続ける。

 

 

 「あたし、別になつきのことが嫌いなわけじゃないんだよ…。あの子、可愛いし綺麗だから…。でもね、どうしても藤原君とだけ(・・)はどうしても、嫌だったの」

 

 「……」

 

 

 白石の声は少し震えており、嫉妬と後悔が混ざっては複雑な響きをするのであった。

 

 

 「お前さ…。なんで知ってたんだ?茂木があの親父と付き合ってることを…」

 

 「そう言えばそうだよね。そんなこと、日頃から茂木さんをマークしていないとわからないよ…」

 

 「……」

 

 

 白石は暫く沈黙した後、ようやく口を開いた。

 

 

 「多分誰も知らないことだよ。この学校の中で知ってたのは、あたしと藤原君だけじゃない?」

 

 「じゃ、なんで?」 

 

 

 白石は拓海に顔を向け、真っすぐ見つめては言った。

 

 

 「あたしはね…、偶然なの…。本当に偶然偶々気付いたの…。あのベンツに乗ってる人があたしの身近にいる人だから…」

 

 「え?」

 

 「ま、まさか…」

 

 

 「うん…。なつきは多分知らないだろうけど、あのベンツはうち(・・)の車なの…」

 

 

 「「……」」

 

 「意味わかる…?」

 

 「(そういうことだったか…。寄りによって、茂木さんが裏で会っていた相手が、白石さんの身内だったとは…)」

 

 

 拓海とタケルは言葉を失った。

 屋上を包む静けさが、ますます重く感じられ。三人共、口を出せずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 ガソリンスタンド 夕方

 

 

 「「ええっ、本当かよそれ!?」」

 

 「本当っすよーマジでエンペラーの須藤といろは坂の下りで一本バトルになったらしいんすよ…」

 

 

 スタンドで、イツキが興奮気味に昨日のバトルについて話を振り、池谷と健二は目を丸くしては聞き入り。

 拓海とタケルが京一を相手に、しかも相手の地元でバトルをしてきたという話に耳を傾けては驚きの表情を見せるのだった。

 

 

 「それで、結果は?」

 

 「タケルが言うには…引き分けだそうです」

 

 「引き分け?」

 

 「ええ、タケルは須藤にダメ出しされて、不満だったらしいすけど、拓海の奴は満足そうでしたよ」

 

 「そりゃあそうだろ。須藤の速さは折り紙つきだし、なんといっても敵のホームコースだからな…」

 

 

 池谷は腕を組み、納得したように頷き。二人が京一の地元で善戦したという事実に、驚くだけでなく、二人の度胸の凄さに感心する。

 

 

 「それにしても…、新しいハチロクのエンジンに、走りに磨きがかかったスイスポか…。ひょっとしたら、その二台はとんでもない代物かもしれねえぞ」

 

 「え!?」

 

 「勿論、二人のテクニックが凄いってこともあるけど…。ランエボと互角以上に渡り合える戦闘力だとしたら…、それこそが重大な事件だと言うな!!」

 

 「重大な事件?」

 

 

 イツキが首を傾けて聞き返すと。池谷は声を低くしながら続けて言う。

 

 

 「そう…、拓海とタケルが初めて自分の全てをぶつけられるマシンを手に入れたってことだ」

 

 「はぁ…」

 

 「秋名のハチロクとスイスポの本当の不敗神話は、これから始まるのかもしれないぞ…」

 

 

 池谷は遠くを見つめるように言っては、拓海とタケルに期待を込め。

 夕方の柔らかな光の中、ガソリンスタンドの前で語られる言葉は、二人の伝説が新たに幕が上がるかのように響き渡るのだった

 

 

 

 

 

 ブオオオン

 

 

 池谷達が話している途中、低く重いエンジン音が響き、一台の赤い車がスタンドに入ってきた。

 

 

 「いらっしゃいませ」

 

 

 池谷とイツキがほぼ同時に声を上げ、対応に向かう。

 

 

 「…ハイオク、満タンでお願いします」

 

 「毎度、ハイオク満タン入りまーす!」

 

 

 イツキが元気よく給油を始め、池谷が慣れた手付きでフロントガラスを拭きながら、車体に目を留める。

 

 

 「(これって、エボⅩだよな…。タケルが今度の土曜にバトルするのも。これの筈…)」

 

 

 池谷は店に来た車が、ランエボの最終モデルであるランサーエボリューションⅩ(通称エボⅩ)に気付いては動きを止め。給油を終えたイツキがキャップを閉めていると、女性ドライバーが池谷の顔を見て小さく首を傾げた。

 

 

 「…あの、私の車。どこかおかしいですか?」

 

 「あ、いえ…。失礼しました。ただ、女性の方がランエボに乗ってるなんて珍しいと思って…」

 

 

 池谷が慌てて取り繕うに微笑むも、女性は静かに答える。

 

 

 「この車は…知り合いが乗っている車なの、今日はこれに乗って、秋名の方に流しに行こうと思って」

 

 「(!? 秋名を…流しに!?)」

 

 

 池谷の背筋に緊張が走り。秋名へ走りに行くと聞いては。この女性がそうなのではと勘づくと。イツキが割って入っては言う。

 

 

 「池谷先輩、給油終わりましたよ」

 

 「あ…ああ、ありがとうイツキ」

 

 

 池谷は少し間を置いてから、できるだけ自然な笑顔を作り、女性にあることを聞こうとする。

 

 

 「お客さん、もしよろしければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 「…神里藍璃ですけど」

 

 「神里さん、ですか。了解しました。また給油の際、是非うちに寄ってください」

 

 「ええ、そうするわ。じゃあ、これで」

 

 

 藍璃は静かにそう言うと、エンジンをかけ直し。赤いエボⅩは低く唸りながらスタンドを後にしては、秋名方面へと走り去って行く。

 

 

 「「ありがとうございました」」

 

 

 池谷とイツキが揃って頭を下げ、見送った後、池谷はイツキと健二に話す。

 

 

 「お前ら…今のは多分、タケルがバトルするっていうエボⅩの走り屋かもしれないぞ」

 

 「「え!?」」

 

 

 先程応対したエボⅩが、タケルの相手であると聞いたイツキと健二が同時に声を上げ。

 池谷は腕を組み、さっきのエボⅩのドライバーである神里藍璃の顔を思い浮かべながら続けて言う。

 

 

 「(一見すると、普通の女の子にしか見えなかったけど…瞳の奥から感じる何かが、拓海やタケルにそっくりだった…。今度の土曜、何かとんでもないことが起きるかもしれないな)」




 評価・感想をお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。