折角のGWなのに、どこにも行くところがなく。執筆やゲーセンに行って、頭文字Dのアーケードゲームで時間を費やしてばかりですが。何卒書けたと思いますので、どうぞご覧ください。
「ちーっす。ハイオク満タンでお願いしまーす」
「おう、タケル、丁度いいところに来たな。さっき、お前が今度バトルするっていうエボⅩがここに来たぞ…」
「え…?」
この日の夕方、タケルはスイスポにガソリンを入れてもらおうとスタンドに寄り。池谷が給油機を手にしながら、タケルがバトルするというエボⅩが来たことについて話し出す。
「なんでも、秋名を流しにハイオクを入れにきたと言ってたんだが。女性の走り屋にしてはランエボに乗ってるのが珍しいと思って名前を聞いたら、神里藍璃だと言ってたんだ」
「そうでしたか…。池谷さんからして、その藍璃さんって人はどんな感じでした?」
「う〜ん…、俺が見る限りじゃ。見た目は至って普通の子だったんだが、あの瞳の奥には、走り屋特有の気迫みたいなものがあったな。あれはどっちかって言うと、お前や拓海にそっくりな感じがしたな…」
「僕や拓海と同じタイプ、ですか?」
タケルが興味深そうに池谷から話を聞いていくと。
スタンドに別の車が入ってくるや、車から健二が降り。タケルと池谷のいるところに近づく。
「おい、池谷。お前に頼まれて、あの神里って子について調べてきたぞ。そしたら、とんでもねえ情報が入ってきたんだ…」
「本当か?」
「ああ、聞いて驚くな。あの子、ランエボに乗り換える前はハチゴーに乗っていたらしくてよ。赤城でも、それなりに名の知れた走り屋だったそうだ」
「何ぃっ、ハチゴーだと!?あの鈍亀のハチゴーにあの子は乗っていたというのか…!?」
「それでな。彼女の乗ってたハチゴーは只のハチゴーじゃねえみてぇだぞ。足回りをガチガチに弄っては、エンジンも3A-Uから4AGにスワッピングした、AE85改86って奴に乗ってたって話だ」
「なっ!?ハチゴーをハチロクに改造してただとォ!?」
「珍しいですね…。パワーのないハチゴーに乗りながら、そこまでチューニングしてたなんて…。そんな骨董品をベースにすること事態、耳を疑ってしまいますよ」
「なあタケル、お前、遠回しに俺のことをバカにしてないか?」
藍璃が昔ハチゴーに乗っていたと健二から聞かされたタケルと池谷が意外そうにし。イツキが自分を侮辱してるのではないかと、涙ながらに突っ込むが。
健二は藍璃の過去について語りだす。
「まあ、ハチゴーのことは置いとくしてだ…。どうやら彼女、ハチゴーに乗って2年前に地元の赤城を走っていた時、後ろから猛スピードで飛ばしてきた大型トラックに追突されて、崖下に落っこちまったらしいんだ」
「げぇ…マジですか。それで、彼女はどうなったんですか?」
「幸い命に別条はなかったが、かなりの重傷を負って、車も大破したそうだ。その事故は県内でもかなり話題になっていたらしく。大型トラックのドライバーはその場で逮捕されたよ…」
「その話、俺も聞いたことがあるぞ…。ハチゴーの方は、真っ昼間の赤城を法定の制限速度内で走ってたにも関わらず、速度超過を起こしたトラックにぶつけられたと…。まさか、そのドライバーが彼女だったとは…」
藍璃の過去を聞かされたイツキと池谷は顔を暗くし、言葉を失うしかなく。
タケルもあまりにもの悲惨な出来事が彼女にあったと知り、その場で押し黙る。
「…ったく、運が悪すぎますよ!!ハチゴーで走っててそんな目に遭うなんて…。俺だったら、一生立ち直れないかもしれないっすよォ…!!」
「そうだね…。でも、彼女がそこから立ち直ってランエボに乗ってるってことは、…相当根性があるみたいだし。今度のバトル…一筋縄ではいかないかもしれないよ…」
藍璃が決死の覚悟で自分に挑戦してくることを思い知ったか。
タケルは決意を新ため、彼女からの挑戦を真正面から受けて立つと誓うのだった。
前橋市 群馬大学附属病院 診察室
「うん、血圧も正常値だし、心肺機能も良好だ。これなら、土曜の夜にはバトルをしても問題ないぞ」
「そうですか…」
龍我の検診を受けた藍璃は、安堵の表情を浮かべ。
袖を下ろしながら、藍璃は少し遠慮がちに切り出しては、乗っているエボⅩのセッティングについて龍我に問う。
「あの、先生…。今度のバトルに向けてエボⅩを少し、軽くしたいのですが…」
「悪いが、それはできない相談だ…。君に貸してるエボⅩは、安全性を考慮したセッティングにしてある。あれ以上軽くすると、最悪の場合、君の身体に危険が及ぶかもしれないんだ」
「ですが、先生…。スイスポとバトルをするからには、車をできるだけ軽くしないと相手にならないんじゃ…」
「藍璃。車を貸す時に俺が言った約束を覚えているか?『運転中に絶対に死なないこと』、君をランエボに乗せてあげる以上、それだけは絶対に守ってくれと言った筈だ」
「……」
龍我は真剣な目で藍璃を見つめながら、エボⅩのセッティングを変えるわけにはいかないと言い。
藍璃は不服そうな顔をしながらも、暫く黙り込む。
「君が車を軽くして速く走りたい気持ちはわかる。だが、軽さとスピードを優先するあまり命を落とす危険性がある以上、医者として君がやろうとしていることを見過ごすわけにはいかない」
「…でも」
「二年前。君が涼介の地元である赤城を走った時のことを忘れたのか?あの事故に巻き込まれた君が、どれだけ危ない目に遭ったかを。あの時の藍璃は、九死に一生を得るか瀬戸際だったんだぞ」
龍我は静かに、二年前に藍璃が遭った事故について話し始めた。
あれは藍璃にとって、決して忘れられない出来事だった。自分の身体だけでなく、当時愛車だったハチゴーまで失い、心身共に深刻なダメージを負い。今でも彼女に重くのしかかっている程だ。
「そうと分かれば、俺の言うことには大人しく従うことだ。幸い、今度のバトルは涼介も立ち会ってくれることになったから。君にとっては不服かもしれないが、俺や涼介が観てる以上、勝手なことはするんじゃない。わかったな?」
「…わかりました」
藍璃は不満を抑えきれずにいたが、龍我の言葉を素直に従い。
涼介とはどういう関係なのか、龍我に聞こうとする。
「それよりも先生…。どうして赤城の白い彗星と呼ばれた高橋涼介と仲がいいんですか?先生のマーチと高橋涼介のFCでは、性能差が段違いの筈なのに…」
「中々痛いところをついてくれるな…。まあ、涼介と仲がいいのも、同じ群大の医学部ってのもあるが…。一番のきっかけは、
「あいつって?」
「それについて、詳細は省くが…。うちの病院にあいつが配属されて間もない頃に、俺が指導医をしたことがあってな。俺と同じ走り好きだったからか、あいつと意気投合して一時期、サーキットを一緒に走ったこともあるんだ…」
「…そうなんですね。じゃあ、その人と高橋涼介はどういう関係で?」
「あいつと涼介は同じ医学部の先輩後輩の間柄で。涼介は大学内でもトップクラスの成績を叩き出す秀才だったが、ある女性と出会ったのをきっかけに、医学以外の道にも興味を持ち始めてな、そっから涼介はあいつを通じて走りに目覚めたらしいんだ…」
「ある女性?誰なんですか、その人は…?」
「おっと、それについては秘密にさせてくれ…。あの出来事は、あの二人にとっては、一生忘れられない事でもあるからな…」
涼介とその先輩である男との関係性について、言葉を濁し。
藍璃は龍我の気持ちを汲み、それ以上は聞かないことしては診察室を後にする。
「そうですか、じゃあ私はここで失礼させてもらいますね…。先生…。今日はありがとうございました…」
「ああ、当日は俺が迎えに行っては、秋名まで連れて行ってやるから。それまでに体調を整えておけよ」
藍璃が診察室を出た後、龍我は一人で椅子に腰を下ろし、深い疲労を浮かべると。デスクの上に飾られている写真立てを視線を写した。
そこに写っていたのは、若い頃の龍我自身と、高橋涼介、そして涼介より一つ二つ年上の男が写っては、三人で楽しそうに笑う姿だった。
「凛…。お前は一体、どこで何をしてるんだ…」
涼介の先輩にあたるその男の名前を口にし、龍我は静かに目を伏せた。
彼がどこにいて、無事でいるのか。行方を案じる気持ちが、胸に重くのしかかっていた。
タケル 自宅
「……」
スタンドから自宅に戻ったタケルは、自室のベッドで仰向けに寝転がり。藍璃とのバトルは勿論、彼女の不遇な過去を聞かされたことで、どんな気持ちで臨めばいいのか、複な思いが胸に渦巻く。
『タケル〜。ご飯よ…下りてきなさい』
考え事に浸っていた耽っていたタケルの部屋に、姉の遥香が顔を覗かせては声をかけ。
タケルはゆっくりと起き上がるや、1階のリビングへ下り。夕食が並べんだテーブルの席に腰を下ろし、手を合わせては箸を取るが。
しかし、いつものように積極的に手を伸ばす様子はなく、遥香はすぐに弟の異変に気付いた。
「どうしたの、タケル?なんか、考え事をしてるみたいだけど」
「そう?僕は別に、そんな大したこと考えてないけど…」
「あんた、そう言ってる割には箸が止まってるわよ。いつもなら、自分の好きなおかずを見つけたらすぐに手を伸ばすのに」
「ははっ、流石姉ちゃん…。そういう細かいところはちゃんと見てるね」
遥香に指摘され、タケルは無理に微笑んで笑って誤魔化そうとしたが。姉の遥香には弟の考えてることが、何もかもお見通しであった。
「タケル…。もし何か悩みがあるなら、あたしに言ってみなさいよ」
「…いいの?走り屋の悩みごとなんて、姉ちゃんには言っても分からないと思うけど…」
「失礼ね。これでも職場じゃよく人生相談されてるのよ。それなりに答えてあげてるわ」
「…じゃあ、率直に聞くけどさ。姉ちゃんだったら、車で事故を起こした後でも…もう一度運転しようって気になる?」
「…いきなり、ハードルの高い質問をぶつけてくるわね」
タケルが藍璃のことを伏せたまま、事故った後の運転について尋ねると。遥香は少し驚いた顔をするが。遥香はう〜んと低く唸りながら考え込み。やがて答える。
「私には走り屋のことはよく分からないけど…
。前に池谷君が秋名で起こしたような命に関わる事故だったら…正直、怖くて運転したくはないかもしれないわ。でも、本当に車が好きで、どうしても走りたい気持ちがあるなら…少し時間を置いて、ゆっくり気持ちを整理してから、もう一度挑戦するのも悪くないんじゃない?」
「……」
遥香の考えを聞き、タケルは目を見開いては悩みに対する答えが見つかったか、姉に礼を言う。
「そうだね…。姉ちゃんの言う通りな気がするよ。例え事故ったとしても、そこから立ち上がって、とことん満足するまで走り続けるのが、走り屋だよね。変に迷うより、シンプルで分かりやすいし。ありがとう、姉ちゃん。おかげで答えが見つかった気がするよ…」
そう言った瞬間、タケルの表情が明るくなり。止まっていた箸が再び動き出し、食欲が一気に戻ったようだった。
大好きなおかずを次々と摘み、いつものようにガツガツと食べ始めていくのであった。
バトル当日
タケルはスイスポの調整を政志の工場で済ませ、バトルへの準備を整えるや秋名山へと向かおうとする。
「じゃあ、僕は今から秋名に行ってくるから。何かあったら、おじさんに電話してね」
「わかったわ。走ってくるのはいいけど、くれぐれも事故だけは起こさないようにしてよね」
「へへっ、心配いらないよ。ちゃんと無事に帰って来るから安心してって。それじゃあ、いってきまーす」
姉に声をかけ終えると、タケルはスイスポに乗り込み、秋名山へと車を飛ばしていった。遥香は弟の背中を見送った後、玄関先で深いため息をついた。
「…もう。本当に大丈夫かしらね。まあ、今更言うのもあれだけど…。無事に帰ってきてくれれば、それで充分よ」
タケルなら、何気なく帰ってくるのではと遥香はそう呟きながらも、口元に柔らかい笑みを浮かべていた。
弟を信頼していることが、誰の目にもはっきりとわかる表情だった。
秋名山 夜
静まり返った秋名の峠の山頂に、タケルが到着すると、山頂の隣にある駐車場で、龍我が一人の女性と一緒に待ち構えては、タケルの前に立ちはだかるのだった。
「やっと来てくれたか…。ここへ来たからには、バトルを受けると見ていいんだね」
「勿論そのつもりです。そうじゃなきゃ、ここまで来る意味がありませんからね…。…そちらにいる方が、前に長町さんが話していた藍璃さんで合ってますよね?」
「ああ。改めて紹介しよう…。彼女の名は神里藍璃。今夜、君がバトルをする相手だ」
龍我が手をやった方向にいた女性にタケルは目を向け、そこには物静かな雰囲気を醸し出しては忽然と立つ女性がいた。
「…はじめまして、タケル君。今夜はいいバトルになるようになりそうね」
「そうですね。あなたがどんな走りをするかは未知数ですが、互いに全力を尽くしては、いいバトルにしましょう」
「…ええ、よろしくお願いするわ…」
「(…この人は、明らかに普通の走り屋とは何かが違う…。身体から染み渡る気迫もそうだけど、それ以上に何か覚悟を背負ってはここに来たって感じがピリピリと伝わってくる…)」
藍璃は物静かな微笑みを浮かべながらも、瞳の奥に静かな闘志を宿していた。
タケルは彼女から放たれる強いオーラを感じ取り、いつもの陽気さを抑え、真剣な眼差しで藍璃を見つめ返した。
「よしっ。二人が揃ったことだし。車をスタートラインに並べて、バトルを始めようか…」
龍我の言葉に、二人は自分の車に乗り込んだ。
タケルはスイスポを道路の左側に配置し、その隣に藍璃のエボⅩが静かに並ぶのである。
「それじゃあ、カウント始めるぞ。カウント10秒前!!」
龍我がスタートラインの中央に立ちカウントを開始する。タケルはシフトを1速に入れ、アクセルを軽く煽ってはマフラーを唸らせ。
藍璃もステアリングをしっかりと握り、いつでも飛び出せるよう体勢を整える。
「5…4…3…2…1…GO!!」
龍我が手を振り下ろすと同時に、二台は猛烈な加速でスタートダッシュを決め、龍我の横を颯爽と通り抜け、秋名の下りへと飛び込んで行くのだった。
「(藍璃…。涼介を負かした走り屋とバトルをするからには、くれぐれも無茶だけはするなよ…)」
藍璃を心配する龍我は、二台のテールランプを見送りながら、密かに見守り。バトルの行く末を案ずるのであった。
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