今回は新たにリクエストキャラも登場します。
「(…やるわね。MTのスイスポでSST仕様のエボⅩにここまで食らいついてくるなんて、思いの外凄すぎる…)」
先頭を走る藍璃は、秋名の難所である5連続ヘアピンを駆けぬけながらタケルのことを評価する。
車体の重いエボⅩをステアリングと荷重移動でコントロールし、パワードリフトでヘアピンを次々と切り抜けていき。その後ろで、タケルのスイスポがエボⅩに離されないよう食いつく。タケルは荷重移動と的確なステアリング操作でスイスポの軽さを活かし、藍璃に離されないようコーナーを攻め込んでいく。
「(エボⅩは、こういった連続した低速コーナーが続く道には向いていない…。だからパワードリフトで曲がり切っているけれど、タケル君はここを知り尽くしてるからか、つづら折りの5連続ヘアピンをスムーズに駆け抜けているわ…)」
二台が走っている5連続ヘアピンは一つのコーナーを抜けると、すぐに次のヘアピンに突入する、容赦のない連続攻撃区間だが。
藍璃はパワードリフトでコーナーを抜け、ターボを活かした力強い立ち上がりで加速させ。
その背後で、タケルが上手くブレーキングをかけてフロントに荷重を集中させ、リアを浮かせながら意図的にスライドさせ、ステアリング操作でコーナーを曲がり切ると、出口で一気に加速してエボⅩに続いていく。
「(でも、ここで抜かれるわけにいかない…。私はまだ、タケル君とのバトルを骨の髄まで楽しみ、満足してから…安らかに眠りたいんだから…)」
藍璃は、自分の寿命がもう長くないはないと静かに呟き。
一年前、龍我から告げられた残酷な事実が、脳裏に鮮やかに蘇るのである。
一年前。 群馬大学附属病院
「白血病…ですって…!?私はもう、死んでしまうと言いたいのですか…!?」
「神里さん…。受け入れ難い気持ちはよくわかります。ですが、レントゲンと血液検査を見る限り…。手の施しようがありません。もって、後2年か3年が限度…というところでしょう」
「……!!」
話は秋名でのバトルから一年前に遡り。
赤城での事故で重傷を負い、長いリハビリ生活を終えた藍瑠に残酷な事実が突きつけられた。
この日、担当医であった長町龍我は深刻な表情で血液検査の結果を告げ。
藍璃は自分が白血病という難病に侵されていることを知り、頭の中が真っ白になった。
「先生…。辛いリハビリを終えて、やっとまた走れるようになったのに…どうして、こんな目に遭わないといけないんですか…」
藍璃は声を震わせながら龍我に聞いていき。龍我は一瞬、目を伏せた後、重い口調で答える。
「それは…私の口からは何とも言えませんが…。あなたの場合、生まれつきの遺伝性によるものです。こればかりは現代の医療技術では、どうしようもありません…」
「……」
自分は何のためにここまで頑張ってきたのか。藍璃は残酷な事実を受け入れられず、静かに小粒の涙を零した。もう、車を走らせるどころか、まともに生きていくことすら難しいかもしれない…。そんな絶望が、藍璃の胸を締め付ける。
「神里さん…。もし、あなたがそれでも闘病生活をしていくというのでしたら、私としては全力でサポートしたいと思います。何か心残りがあるのでしたら、遠慮なく話してください」
藍璃に寄り添うよう龍我が優しく声を掛け、藍璃はある決意をして龍我に言う。
「先生…。私は自分が悔いのないよう、全力で走りきりたいんです。私を満足させてくれる走り屋がいるのでしたら、その人と一緒に、後悔のないバトルをしたい…そう思っています」
「……」
藍璃の静かな、しかし強い願いを聞いた龍我は言葉を失った。
群馬で一番速い走り屋と、最後のバトルしたいと藍璃はハッキリと告げる。
「お願いします、先生…。私の最後に相応しい相手がいるのでしたら、教えていただけないでしょうか?」
「…そうですね。一人、心当たりがいるのですが、今は精神的に走れる状態じゃありませんから、私には何とも言えません」
龍我自身、藍璃の願いを叶えさせてやりたいと心から思ったか。
同じ群大の後輩で、無敗記録を誇る高橋涼介に頼もうかと考えてたが、涼介はある女性を亡くしては、深く落ち込んでおり。
弟の啓介も、確実に力をつけているものの、まだ藍璃を心から満足させられる程の域に達しておらず。
いずれ近い将来、藍璃が生涯を賭けて挑めるに相応しい、走り屋が現れることを。龍我は密かに願うのだった。
秋名山 屋上
「(藍璃。今日に至るまで、腕を上げてきた君を、俺はずっと見てきた…。でも、君の身体は…病に大きく蝕ばまれ、もう車を動かせるのがやっとの状態なんだ…)」
スタート地点で藍璃とタケルのバトルを静かに見守る龍我は、藍璃のことを深く案じていたが。
藍璃が走行中に車内で吐血し、瀕死に近い状態にありながらも。無理を押してエボⅩを走らせ続けてることを、龍我は知らないでいた。
「(君の望みがこれで果たせたかは分からないが…、相手はあの涼介を破った走り屋だ…。おそらく、このバトルで勝負を仕掛けるとするなら、涼介とのバトルで一気に追いついた…5連続ヘアピンで何かしてくるに違いない…。あそこは直線とコーナーの距離が短く、エボⅩのSSTが本領を発揮しにくいポイントだから…。彼はそこで一気に畳みかけてくる筈だ…)」
龍我はタケルが5連続ヘアピンで仕掛けると予想し。コースとの相性が悪いエボⅩで走り続ける藍璃に、抜かれないよう心の中で強く願うのだった。
勝負は5連続ヘアピンへと突入した二台のバトル。
藍璃のエボⅩが先行を取って走るやイン側を完璧に封じ込めるも、タケルはスイスポをアウトに寄せるやサイドに持っていきながら、1つ目のヘアピンカーブを抜け。2つ目に突入するも、そこは上手くブレーキングとシフトを上手く噛み合わせながら繋いでいき。
3つ目のヘアピンへと突入したその時、タケルは作戦を実行に移す。
「(…ここだ。この先、インとアウトが入れ替わるポイントで、勝負を仕掛ける!!)」
アウト側から大胆に攻め込み、エボⅩのラインを抑え込んだタケルは、ここで一気に勝負を仕掛ける。
「(どういうつもり…!?イン側を抑えられてるというのに、タケル君はアウトから攻め込んで何をする気なの!?)」
藍璃はタケルの意図が掴めず、困惑したまま車を走らせていたが、3つ目のヘアピンを曲がり切って立ち上がろうとしたその時、タケルはアウト側から一気に攻め寄せ、エボⅩのラインを抑え込み。
藍璃がインを固めている隙を突き、3つ目のヘアピンを抜ける直前で、インとアウトが入れ替わる瞬間を正確に予測したタケルは、鋭くステアリングを切り、スイスポをアウトから滑り込ませてはエボⅩをオーバーテイクする。
「なっ…!?インとアウトが入れ替わるポイントを予測して、そこを突いて抜き返したというの!?」
藍璃はタケルが仕掛けた作戦に目を見開いた。
僅かにインとアウトが入れ替わる瞬間を狙い、タケルがスイスポをアウトから仕掛け。一瞬の隙を突かれ、エボⅩの前にスイスポが躍り出てしまい。ポジションが、完全に逆転してしまったのだ。
「兄貴…!!スイスポがエボⅩを抜き返した、あれはもしかして…!!」
「ああ、エンペラーの須藤京一の得意技であるカウンターアタックだ。斎藤はこの5連続ヘアピンで、インとアウトが入れ替わるポイントを上手く突いてエボⅩを抜き去り。イン側を抑えつけて、一気に勝負を決めにいったな…」
「あいつ、この間いろは坂で須藤とバトルした時に、カウンターアタックを間近で見てたに違いねえだろうが。あそこまで完璧に模倣するなんざ、どんなセンスしてやがるんだよ…」
「あれはおそらく、見よう見まねでやっただけに過ぎないだろうが…。京一のカウンターアタックをトレースして、5連続ヘアピンで実行するあの物怖じの恐れ無さは、相当なものだ」
5連続ヘアピンの路肩からバトルを観戦していた高橋兄弟は、タケルが京一の得意技を模倣して見事に逆転した瞬間を目の当たりにし。それをすぐに実行して物にするタケルのセンスの高さを涼介は評価し。バトルでどちらが勝つのか、走りさる二台を見送っていく。
「お、スキール音がここまで聞こえてるってことは、もうそろそろこっちに来るに違いないだろうな…」
秋名のゴール直前にある複合コーナーには、一人の男が自分の車を路肩に停め。今まさに走り合っている二台のバトルを静かに観ていく。
「前に勇が乗っていたっていう31スイスポを引き継いだっていうタケルが、どれ程のものか…じっくりと見てやるとするか…」
古関勇の名を下で呼ぶこの男は、名を南雲優作といい。
普段は自身が営む喫茶店を切り盛りしている傍ら、古関モータースの常連としても顔を出す人物で。
この日の夜、優作はCA72V型アルトワークスに駆り、タケルと藍璃のバトルを一目見ようと秋名へ駆けつけてきたのだ。
ギャアアア
ニ台の甲高いスキール音が夜の秋名に響き渡ると、先頭を走るスイスポが、後ろから激しく追いかけてくるエボⅩに食いつかれてき。スイスポはエボⅩを背にしながらも、秋名の最後の難所である、複合コーナーへと猛烈な勢いで突入していく。
「(これが最後のチャンス…!!ここで一気に畳み掛けては、あなたに勝利してみせる…!!)」
「(ここで数え切れない程、勝負を決めてきたけど。慣れてるからといって油断してしまえば、負けに繋がるここで、手を抜くわけにはいかない!!)」
複合コーナーへと突入へと突入するや否や、藍璃は龍我が得意とする走りで最後のコーナーに挑む。
限界までブレーキングを我慢して減速し、一気に姿勢の向きを変えると、アクセルを全開にして立ち上がり。
タケルは、フルブレーキングでフロントに全体重を預け、スイスポを素早く旋回させ、リアをコントロールしながらコーナーを抜けると、即座に加速に移行する。
「(どっちともブレーキングからの立ち上がり加速がしっかりしてるな…。この勝負の行方は、コーナー出口の加速でここをどう抜けて行くかだ…)」
優作がニ台の走りを注視する中、イン側を先に取るのはどちらなのか、その瞬間が迫る。
エボⅩは4WDのトラクションで活かしてインを狙い、スイスポはスーチャーの低速トルクを武器にイン側を抑え込もうと前に出る。
「(行って…お願い。このバトルだけは、何としてでも勝ちに行かないと…!!)」
「(頼む…行ってくれ!!僕のスイスポ!!)」
二人は我先にと加速を求めるが。勝負の明暗はここでハッキリと分かれた。
藍璃のエボⅩはパワードリフトで攻め込んできたが。その重い車体が仇となり、タイヤが悲鳴をながらグリップを失った。
「(そんな…ここに来て、もう終わってしまうの…!?)」
エボⅩが限界を迎えたことに、藍璃を深い悲しみを浮べたが。先を突き進むスイスポを見たその時、
「行っけぇぇっ!!」
バシュッ
スイスポが加速に乗って藍璃の前に踊り出たその瞬間、藍璃はスイスポの後ろ姿から純白の羽根を見た。
「…あれは、ハチロクがあの時に見せたのと同じ…白い羽根…。タケル君は、私の最後に相応しい相手だったのね…」
藍璃はスイスポから立ち上る白い羽に、見惚れ。アクセルを緩め、スイスポと大きく距離を離して自ら勝利をタケルに譲り渡し。
藍璃の、最後のバトルはタケルの勝利で幕を閉じるのだった。
「なるほどな…。確かにあれは、勇が一押しするのも頷けるわけだ。今度、勇の奴にどんなドライバーが乗ってるのか、ちゃんと聞いておかないとな」
スイスポがエボⅩを引き離して勝利を掴み取った姿を目撃した優作は、タケルの実力が本物であると確信した。
近い内にタケルと会うことになるかもしれないと思いながら、夜の秋名を走り去るスイスポのテールランプを見送るのだった。
秋名山 麓
「…タケル君、あなたは本当に凄い走り屋だったのね。5連続ヘアピンのインとアウトが入れ替わる僅かなポイントで、エボⅩを抜いてイン側を抑えつけるなんて…流石だったわ)」
秋名の麓にある駐車場で、藍璃はタケルと向かい合っては話をしていた。
バトルに負けた藍璃の表情には、悔しさよりも走りきった満足感が浮かんでおり。柔らかな微笑みが、その顔に広がるのだった。
「いえ、僕が5連続ヘアピンの最後で決められたのは偶然ですよ。カウンターアタック自体、試したのはこれが初めてですし…あそこで決まらなかったら、このバトルに勝てはしませんでしたからね」
タケルは5連続ヘアピンで逆転できたのは運が良かっただけだと遠慮がちに言ったが、藍璃は静かに首を振った。
「そんなことないわ…。パワーと駆動方式で大きくリードしているエボⅩを、パワーの劣るスイスポでここまでついてこれたのも、ひとえにあなたの腕が良かったからよ…」
「そ、そうですかね…」
タケルは藍璃に褒められ、照れ臭そうにする。すると藍璃は、穏やか微笑みを浮かべて続ける。
「タケル君…。あなたは将来、世界で活躍するドライバーになるかもしれないわ…。あそこまで綺麗な羽根を羽ばたかせたんだもの、きっとあなたの走りは誰もが認めてくれると私は思う」
「え?羽根っていうのは何のことですか?」
「それは…」
ゴフッ
タケルが出した白い羽について語ろうとした藍璃は、突然身体の限界に迎えた、口から大量の鮮血を吐き出し。その場で膝をついては苦しげにうずくまる。
「あ、藍璃さん!?どうしたんですか!?」
タケルは慌てて彼女の元に駆け寄り。倒れかけた身体を必死にささえる。藍璃は口の端から血を零しながらも、弱々しく言葉を続けようとする。
「だ、大丈夫…。少し…、苦しくなっただけ…だから…」
「全然大丈夫じゃありませんよ!!今すぐ救急車を呼びますから、しっかりしてください!!」
タケルは藍璃の身体を支えなが叫び、すぐ近くにいた拓海達に目配せをした。
「健二、すまないが、急いで救急車を呼んでくれ…!!」
「お、おう…!!」
健二は慌てた様子で携帯を取り出し、119番に通報をした。拓海とイツキもすぐにタケルの元に駆け寄る。
「タケル…!!彼女をどっか安静にできる場所に移さないとマズいんじゃないか…?」
「それくらい、言われなくてもわかってるよ…。でも、こんな時、どうすれば…」
血を吐き出して苦しむ藍璃に、どう対処すればいいのか分からず、タケル達は途方に暮れていたが。
上の方から一台の車がロータリーサウンドを響かせながら駐車場に急接近し、車が停まると同時に、ドアが開き、一人の男性が下りてきてタケル達の元へ駆け足で向かってきた。
「斎藤…彼女の容体はどうなんだ?」
「涼介さん…。それが…急に血を吐き出して苦しみだしたんですよ…。どうしたらいいのか、僕にはさっぱり…」
「そうか…。今、啓介が長町さんを迎えに山頂まで行ってる。長町さんが来るまでの間、俺の指示通りに動いてくれるか?」
「は、はい…!!」
そこからの行動は素早かった。
涼介は慣れた手つきで藍璃に的確な応急処置を施していく。すると彼女の容体は徐々に落ち着きを取り戻し。ほどなくして、啓介のFDに相乗りしてきた龍我が急いで駆けつけては藍璃に呼びかける。
「藍璃!!大丈夫か!?」
「せ、先生…。すみません…私、先生から車を借りたのに…負けてしまいました…」
「今はそんなこと、どうでもいい!!救急車が来るまでだけ、辛抱してくれ…!!」
龍我は必死に声を掛け、藍璃に呼びかけていく。藍璃は弱々しく息をしながらも、掠れた声で返事するのだった。
「あの…藍璃さんは、どうして血を吐き出して苦しそうにしてるんですか…?彼女の身に何が…」
「神里藍璃は白血病を患っていてな…。それも、かなり進行していて手の施しようがないところまでに達しているんだ…」
「!!」
涼介が藍璃の症状を打ち明けると、それを聞いたタケルは言葉を失った。
彼女が想像を絶する痛みを抱えながら、それでもバトルに挑んでいた事実に、胸が締め付けられる思いだった。
「なんだよそれ…。あんたらは、そんな危険な状態だと知っていながら、彼女を見殺しにしたってのかよ!!」
「お、おい拓海…。落ち着けって…!!」
拓海は涼介や龍我が症状を知りながらも藍璃を走らせたことに、強く反発した。イツキ達が慌てて拓海を抑えこむが、拓海は必死に二人を睨み続けた。
「長町さん…!!どうしてそれをわかっていながら、藍璃さんを走らせたんですか!?下手したら、彼女は走っている途中で事故を起こしていたかもしれないんですよ…!!」
「それは…」
「斎藤…。長町さんは彼女の意思を尊重して、お前とバトルさせたんだ。彼女に残された時間がないのを理解していながらも、無理を押して走ろうとしていた彼女を、長町さんはここまで連れてきただけだ…」
「でも…」
「タケル君。君が憤るのも無理はない…。元はといえば、藍璃の症状を知っていながら、彼女を走らせた俺に責任がある…。だから、涼介をあまり責めないでやってくれないか」
龍我は、全ての責任は自分にあると告げ。それを聞いたタケルは強く拳を握りしめながらも、龍我を睨むことしかできなかった。
数分後、救急車がサイレンを鳴らしては到着し。藍璃は担架に乗せられ、龍我が付き添う形で救急車に相乗りする。
激しいサイレンを響かせながら、救急車は秋名山を走り去るのだった。
今回、ブンブク様からのリクエストキャラの南雲優作を登場させました。
ギャラリーでの登場でありますが、できるだけ絡ませていきますのでよろしくお願いします。
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