狂って歪んで   作:むきむき

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咲いた花

 

「ん〜」

 

 ちゅんちゅんと楽しげな小鳥の囀りと春特有の柔らかな日差しが微睡みを阻害する。中途半端に意識が覚醒したわたしは、なんだかとてもいい夢を見ていたようなとぼんやり考えながら体を起こすために手をついた。

 

「おお〜」

 

 なんか手にふにふにとした感触が伝わってきたので思わず声が出る。気持ちいい。こんな触り心地のいいクッション部屋にあっただろうか? 

 

 チラリと目線を落とす。

 

 そこにはあられもない姿ですやすやと眠っている琴乃がいた。

 

「?????」

 

 わたしえっちな事知りませんとでも言いそうな寝顔をしながらおぱーいを曝け出している。えっちぃ……

 馬鹿なこと考えてる場合じゃない。これは夢か? という考えは掌に伝わるおぱーいの感触に否定された。気持ちいい。

 

 どういうことだろうか? 間違えて琴乃の部屋に入っちゃった? 

 慌てて辺りを見渡せば目に入った景色は自室でも琴乃の部屋でもなくリビング。ここはソファ。そしてテーブルの上にチョコ。

 

 チョコ? 

 

「あ、ああぁぁぁあ!!」

 

 全てを思い出した。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

「ん〜」

 

 ああぁぁぁあ!! というお姉ちゃんの叫び声と胸をくすぐる感触で目が覚めたふりをする。ほんとはもうちょっと早く起きてたけど寝起きだというシチュエーションが欲しかった。

 

 寝ぼけているというのを理由にぎゅっと抱きつく。全身でお姉ちゃんを感じて頭がふわふわするが、それは相手も同じこと。きっと昨夜のことを思い出したお姉ちゃんはすごい自己嫌悪に陥っているからサービスだ。まぁ興奮していることに対してまた自己嫌悪が止まらなくなると思うが。

 

 しばらく固まっているお姉ちゃんに抱きついて呟く。

 

「……お姉ちゃん」

 

 ビクリという振動が伝わってくる、がしかしすぐにそれも収まり諦めたかのような深い呼吸音が耳朶を打つ。わたしに嫌われることを恐れると同時に断罪の時を待っているかのようだ。純粋な好意を裏切って手を出したのだ。自分自身が一番許せないはず。ならばいっそ嫌われた方が気が楽になるのだから。

 

「わたしはお姉ちゃんがどんな人でも嫌いになったりしないよ」

 

 だから慰めてあげる。楽になんてさせてあげない。

 

 それに、まるっきり嘘ということでもない。わたしはお姉ちゃんを嫌いになんてならないし、なれない。たとえ貴女に異常者と罵られても、たとえとなりに立つのがわたしじゃなくなっても、この気持ちは色褪せることはないという確信がある。

 

「っ……、ぅ……」

 

 よしよしと、嗚咽を堪えきれないお姉ちゃんの背中を撫でる。こんなに慕ってくれている妹に手を出した事実に、嫌われなかったことに安堵してしまった自分に、感情がぐちゃぐちゃになってしまったのだろう。

 お姉ちゃんがわたしのことを、わたしのことだけを考えて一喜一憂している。その事実にとても心が湧き上がる。その葛藤の分だけ、わたしを大事に思ってくれている。そう、信じられるから。

 

 あぁ……でもやはり、わたしを受け入れてくれたあの日ほどの充足感は得られなかった。

 

 思えば、わたしがこんな趣向を持ったのは愛に飢えていたからかもしれない。自身に向けられた憐憫や罪悪感を愛情だと錯覚し、心を満たしていた。

 

 でも、もういらない。

 

 そんな紛い物ではない、本物の愛というものを知れたから。

 

 あの日紡がれた愛の言葉は、どんなものよりもわたしの心を満たしたから。

 

「それにね、嬉しかったから」

 

「……え?」

 

 だからもう一度、紡いで欲しい。

 

 その口で愛の言葉を

 

 

 だってわたしは貴女のことが……

 

「だってお姉ちゃんのこと、ずっと……」

 

 

 

 

 

 大好きだから

「大好きだから」

 

 

 

 

 

「っ……! な、なんで……」

 

「いつもわたしのこと、守ってくれてるから……かな?」

 

「……っ、そういうのじゃ、ない……っ! わ、わたしは……わたしは! 琴乃のことが好きだからっ……」

 

「不純な動機だって? たしかに、お姉ちゃんはどうしようもないくらい変態だし、どんな考えで行動しているのかなんてわたしにはわからない」

 

 

 

「でもね、わたしにとってはヒーローみたいに思えた。それで十分」

 

 

 

 

 

「わたしは変態で不器用で意気地なしで、でもいつも一生懸命な……そんな貴女が大好きです」

 

 

 

 

「これからも、側でわたしを……守っていてくれませんか?」

 

 

 

 

 ばっと両肩を掴まれ瞬きの間に唇が交わる。

 

 ほんのひと時、されど永遠かと思うほどの幸福を分かち合う。

 

 

「っはぁ……本気にしていいの?」

 

「うん……いいよ」

 

 ぐすりと、抑えきれなかったかのような泣きじゃくる声がリビングに木霊する。

 

「……っ、うっ……よかっ、た……ぜったい……っ、かな、わないって……おもっ、てたから」

 

 堰を切ったように涙が溢れ出す。

 

 

 朝日に煌めくそれは、あまりにも眩くて

 

 

 だから……わたしまで泣いてしまった。

 

 

 ふと、目が合う

 

 

 

 一瞬の沈黙

 

 

 

 恥じらうように、照れを隠すように、不自然な笑みを溢しながらまるで示し合わせたわけでもないのに互いに顔を近づけ

 

 

 

 静かに、触れ合うだけのキスをした。

 

 

 

 

 ある春の日 穏やかな春の日

 

 

 やっと見つけた、最愛の人

 

 

 すべてをゆだね、ともに歩ける人

 

 

 窓から差し込む優しい日差しは二人を包みこみ、祝福する

 

 

 

 気持ちは晴れ渡る 

 

 

 穏やかな春の空のように

 

 

 

 

 

 わたしは世界で一番の幸せ者だ

 

 

 

 

 

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