狂って歪んで 作:むきむき
昨日はすごかった。どれくらいすごいかと言うともうすごくすごかった。
琴乃ちゃんに好きな人がいたってだけでも衝撃だったのにお相手がお姉さんだったときのわたしの気持ちはもうバク転しちゃいそうなくらいおったまげてた。出来ないけど。
わたしは別に百合好きでもなんでもないがあまりの絵面の美しさに思わず写真撮っちゃった。美少女ってすごい! ガチ犯罪だけど。
えっちな写真がどうこう言ってたけど、結局えっちな写真をゲットしたのはわたしだったぜ……はぁ、笑いごとじゃないね。
なんか推しを奪われた感じがしてさ、ちょっとだけ後ろをつけてただけなのにさ、気づいたら家までついて行っちゃっててさ、どうしよーって悩んでたらさ、絶景が現れてさ、犯罪者になっちゃったのさ。
……バレなきゃ犯罪じゃないか! わはは!
この写真も別に広めたりなんかするわけじゃないし! 推しコレクションに入れるだけだし!
一人でうるさく騒ぎながら(脳内だけ)教室に入る。いつも通り注目されるのが嫌なので人が少ない早めの時間に来たけれどクラスメイトが居ないわけではない為、少しいるクラスメイトの視線に怯えながら足早に自分の席に向かう。
気分は銃弾飛び交う前線を駆ける兵士。
実際は自意識過剰に視線を気にする陰キャ。
分かってるんだよっ……! 誰もわたしのこと気にしてないって……!
でもそれで直るなら誰も苦労しないんだ!
寂しさを紛らわす為、一人寸劇を脳内で展開しながら席に着く。悲しいね。
暇なのでいつも通りスマホから無駄な情報をインストールして琴乃ちゃんが来るのを待つ。今日こそわたしも連絡先を交換するんだ……! そして家族だけの侘しい友達欄を鮮やかにしてやる!
♢♢♢♢♢♢
は〜、まつ毛長いな〜。お肌なんて近くで見た方がすべすべで綺麗だし! やばいほっぺたツンツンしたい! 絶対もっちもちだよ!
それにしても春の日差しに照らされておねんねしてるなんて……妖精さんかな?
もう連絡先とかどうでもいいか、うん。起こすのも申し訳ないしね。
かわいいな〜、起きてたらこんなにガン見出来ないし、こっち向いて寝るなんて珍しいからしっかりこの目に焼き付け……え?
…………え?
お、起き、起きてててててて
「……あの、なにか」
「ああああ、ああ、ああああああ」
「…………」
や、やばいへへへ変態って思われちゃう! 誤魔化さないと!
「ち、違くて、えと、い、芋けんぴついてたから?」
「へ?」
「…………」
「…………」
「……ごめんなさい」
最悪だ! なんでもっとスムーズに誤魔化せないんだよ! やるなら最後までやりきれ! このおバカ!
「……いいよ」
優しい。優しいけど憐れみの目で見られちゃってるね。おしまいだね。きっとやばい奴で認識されてるよ。もう連絡先とか無理だ。思ったよりおっきい声出しちゃったし他のクラスメイトにも聞かれてたかもって思ったら胃が痛くなってきた。まだ高一の春なのに高校生活灰色確定演出出しちまったかもね。ワロタw……ワロタ……
♢♢♢♢♢♢
やべー奴とのコミュニケーションってこんなに難しいのか。話通じなかったぞ、頑張って話しかけたのに。こいつが隣ってマジんガ〜!??
「こ・と・のちゃん! もう! 拗ねないでよー」
メロンパンのタイプの女みたいになっていたらちょうどいいところに陽菜乃が来た。話し終わったのになんか気まずかったんだよね。できればもっと早く来て欲しかったけど。あとわたしは別に拗ねてないぞ。
「昨日は楽しかったねー……ねぇ、またどっか行かない? 今日の放課後とか!」
今日か……うーん、今日はお姉ちゃんとどこか行こうと思っていたんだけど……そうだ、いい知らせがあるんだった。これが理由なら断っても悪い思いにはならないだろう。
「今日は無理。理由、聞きたい?」
「えー、まぁ、聞きたいかな?」
「じゃあ、もっとこっち来て」
周りに聞こえないように陽菜乃を手招きして、その耳元に口を寄せる。
「!? ち、ちか」
陽菜乃はパーソナルスペースが広いのか少し顔を赤らめているが仕方ない。なるべく手短に、そっと陽菜乃だけに聞こえるように囁く。
「陽菜乃のおかげで恋人が出来たから」
「…………そっか」
「全部、陽菜乃のおかげ。陽菜乃が背中を押してくれなかったらきっと付き合えなかった」
「……いいよ、そんなに感謝しなくても。
……へへ、やっぱりいいなぁ友達って。なんかこう……楽しいし、落ち着くし、頼りになるし……。
でも……
「……ねぇ陽菜乃。もし、もしもだけど……わたしが隠し事してても、なにかおかしなところがあっても……
「……当たり前じゃん。わたしはずっとず〜っと琴乃ちゃんの
「……ありがと!」
微かにはにかんで、唯一の友達にきゅっと抱きつく。
確証のない口約束に過ぎないけれど、そう言ってくれると安心してしまう。いつまでも、いつまでも、こんな心地良い関係が続いていったらいいな。