狂って歪んで 作:むきむき
カーテンが締め切られ日の光の追い出された薄暗い部屋のソファに少女が溶けるように横になっていた。
(……何やってるんだろ、私)
少女──陽菜乃は初めて仮病を使って学校を早退した
普段ならこんなことはしようとも思わないほど真面目でルールに縛られている彼女にとって、それはまるで縁のないことだと思っていたし、彼女の周囲の人間もきっとそう思っていることだろう。
しかし、人間とはそれほど単純ではない。人の心とは空模様のように移り変わるもの。予測は出来ても完全に把握することなど不可能で晴天の空があっという間に雨模様に様変わりすることだってある。
蝶の羽ばたきが竜巻を起こすこともあるように、人もまた、些細な出来事でまるっきり変わってしまうことがあるのだ。
もっとも、彼女のそれは一過性のものであり、それが空虚感を煽る要因の一つとなっていた。
モゾモゾと芋虫のように蠢きながら陽菜乃は朝の出来事を思い出す。
勇気を出して挨拶してくれた琴乃ちゃん
クールを気取りきれずに拗ねているのがバレバレだった琴乃ちゃん
そして──
「っ!」
思い出すだけで胸がムカムカしてモヤモヤして、でも
(とっても、嬉しそうだったな)
恥ずかしそうにはにかんだ彼女は、澄んだ春の空のように、美しかった。
その笑顔の一助となれたと思うだけで心はスッと軽くなって
同時にその笑顔は私に向けられたものではないと悟って
気づいて、しまった
この気持ちは実らないことに
もう、私が入る余地なんて無いから
「うぅっ……ひぅ」
わかっていた。これは咲かない恋だということくらい。なのに現実は非情なくらいその事実を突きつけてくる。
「っ……うっ」
逃げるように、誤魔化すように、指を激しく震わせる
思い出すのは無邪気に無垢に無防備に抱きついてきた琴乃の姿
柔らかな肢体、お腹に押し付けられた慎ましい感触、嬉しさを誤魔化すように背中に強めに回された腕、信頼を表すように掛けられた僅かな体重、ぐりぐりと胸に擦り付けられた頭から感じる熱い吐息、夜を閉じ込めたかのような艶やかな黒髪から香るほのかな柑橘系の香り。
全てが私を狂わせる
ああ、彼女は気づいているのだろうか
あの時密かに鼻を彼女のつむじに押し付けていたことに
彼女は思い至ることができるのだろうか
私が制服に残った彼女の残り香で盛った猿のように情に耽っていることに
きっと気づくことも思い至ることも無いだろう
彼女は純真で
私は臆病なのだから
♢♢♢♢♢♢
(またやっちゃった)
(……何やってるんだろ、私)