狂って歪んで 作:むきむき
しばらく抱き合った後、最低限の明かりをつけ、家族会議が始まった。
内容はもちろんわたしの家出。別に家出ではないのだが……まぁ似たようなものだろう。
「今までどこに行っていたの」
先ほどまでの優しい顔はなくそこに居たのは一匹の鬼だった。
「こ、公園にいて、ちょっとしたら家に帰ったんだけど、えと、途中で寝ちゃって、その」
バンッッ!!
机を叩く鬼。間違えた、お母さん。
「私が一体どれだけ心配したと思っているの!? 琴乃も一人にしておいて!」
お母さんはすごく美人さんだし、いつも優しく微笑んでいるから、怒るとこんなに怖いのは知らなかった。角が見える。
「聞いているの!?」
ビクリと体が震える。枯れたと思っていた涙がまた出てきた。
「ま、まぁそんなに怒らなくても……詩織も反省していることだし……」
「あなたは黙ってて! お外は危ないのよ!? 車も走っているし、川にでも落ちたらどうするの! 怖い人だっていっぱいいるの! 暗くなったら特に!
賢い詩織ならそんなことくらいわかっているでしょう!?」
「で、でも」
「でもじゃない! 琴乃だって危なかったのよ! ドアを開けっぱなしにして! 攫われていたのかもしれないの!」
琴乃が攫われる未来を幻視して心臓が強く跳ねる。わたしは……
「……ごめんなさい」
今は謝ることができる。だけどそうなっていたらわたしは謝ることすらできない。
なにもできない。
琴乃を傷つけることしか……できない。
「……もうあんなことはしちゃだめよ。詩織も琴乃も私たちの大切な家族なんだから。傷ついてほしくないの」
ズキリと心にひびが入る。
わたしは琴乃の信頼を裏切って傷つけた。きっとこの後も傷つけてしまう。
こんなに優しい両親のことも、裏切っている。
二人はわたしの真意を知ったときも大切な家族だと言ってくれるのだろうか?
「そういえば、どうしてそんなに急いで公園に行ったんだい?」
わたしを信じきった声が……
「……ごめんなさいね。詩織の言い分も聞かずに怒ってしまって。何かやむを得ない事でもあったの?」
瞳が……
わたしを刺し貫く。
ひびが広がっていく。
「わ、わた、し、は……」
呼吸が浅くなる。
言葉を発する事が出来ずに、まるで喋り方を忘れてしまったかのように口を開いては閉じることしかできない。
心臓がばくばくと跳ねる。
胸が破裂するほど痛い。
両親を信じることが出来なかった。
本当のわたしを知っても、この声も瞳も変わらないとは思えなかった。
大好きなのに……
優しくて、頭を撫でてくれて、怒ると怖いお母さんも……
物知りで、いろんなことを教えてくれて、ちょっと頼りないお父さんも!
無邪気で! わたしのことが大好きで!! にんじんが嫌いな妹も!!!
みんな大好きで! 好きで好きでたまらない! わたしの大切で綺麗な家族で!
わたしの……たからものなのに……!
わたしは裏切って! 傷つけている!
わたしだけが……!!
どうしてこんなにも醜いのだろう。
♢♢♢♢♢♢
夜空をうす汚い雲が覆う。
心は乾ききった土のようにひび割れ、
その形を保てずにぽろぽろと崩れていく。
「詩織?」
優しくしないで
「具合でも悪いの?」
わたしはわるい子だから
許されないことをしたから……
お母さんの手が伸びてくる
触られるとわたしの醜さがバレてしまうような気がして
逃げてしまう
その手から
親の愛から
……とってもわるい子だ。
全てを話してあなたはわるくないと、大切な家族だと、
そう言ってほしい。
だけど……それはきっと叶わない。
だってこんなにも醜いわたしを愛してくれる人など…………
どこにも…………
「おねーちゃんはわるくないもん!!」
鈴のように澄んだ声がわたしの中に入ってくる。
「おねーちゃんをいじめないで!!」
琴乃はなにもわかっていない。
そうわかっているのに……
それはあまりにも甘美な誘惑で、わたしは逆らえない。
声が乾いた心に水のように染み渡っていく。
ひびが埋まっていく。
わたしの心の大半が琴乃で埋め尽くされる。
この子は醜いわたしも愛してくれると錯覚してしまう。
雲が晴れていく。満月が顔を出す。
月明かりに照らされて、いたずらっぽく笑う彼女は……
とても鮮烈で…………
呆けてしまうほど綺麗で…………
トクンと心臓が跳ねる。
胸が破裂するほど痛い。
でも……心地いい。
もっと見つめてほしい。
もっと声をかけてほしい。
もっともっとわたしを…………愛してほしい。
呼吸が浅くなる。
顔が熱に浮かされたかのように熱い。
自覚してはいけない
叶わないと知っているから。
後悔することになるから。
だけど胸の高鳴りを止められない。
わたしは──────
琴乃に恋をしている。
あとで少し編集する可能性大