狂って歪んで   作:むきむき

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清らかな祈り

 

 今日は琴乃のランドセルを買いに行く日だ。

 

「おねーちゃんといっしょ♪ おねーちゃんといっしょ♪」

 

 ……かわいすぎる。

 

 わたしとお揃いのランドセルにすると言ってくれたときは嬉しすぎてきもちわるい笑みを浮かべてしまった。琴乃の前では頼もしいお姉ちゃんを貫いているので琴乃に変に思われていないかとても心配だ。

 

 自分で言うのはなんだが、琴乃はめちゃくちゃわたしのことが好きだと思う。髪もわたしとお揃いの腰まで伸ばした長髪だし、よく抱っこをせがんでくる。今だって後部座席に並んで座っているわけではなくわたしの膝の上に座っている。お尻やらかい。そしてわたしの腕を掴んでベルトみたいにしている。お腹ぷにぷに。さらに頭がわたしの目の前にある状態でたまに振り返って意味もなく笑いかけてくる。いい匂いおめめくりくり鼻ちっちゃいくちびる舐めたい息あったかい全部吸う。

 しょーじき本能に身を任せたいが、琴乃を傷つけてしまいたくない。自分の気持ちを自覚してからはそれは顕著になった。あと、頼りになるお姉ちゃんムーブをしてたら琴乃がわたしに惚れてくれるんじゃないかと無駄な期待をしているのもある。むしろそっちの方が割合高めだ。そのために琴乃と話すときにどもらないように頑張っている。きもいとか思われたら立ち直れないし。

 

「おねーちゃん! がっこうってどんなとこ?」

 

「お勉強するところだよ」

 

 ぷくーっとほっぺを膨らませる琴乃。ごちそうさまです。

 

「それくらいしってるもん! もっとちがうこと!」

 

「うーん、いーっぱい人がいるから、いっーぱい友達ができるよ」

 

「ほんとに! やったー!」

 

 ぽひゅっと息を吐いてはしゃぎ始める。息が霧散する前に取り込まないと! 

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 ランドセルやら学習机やらを無事に買い終わった。で、ランドセルに付けるキーホルダーを選びに来たのだが……

 

「これなんてどうかな?」

 

「「「…………」」」

 

 さっきからお父さんのチョイスが女子小学生に薦めるものじゃない。リアルな感じの富士山とかエッフェル塔とか付けてる女子小学生見たことないけど。琴乃がこんなに冷えた目をしてるの初めて見た。ちょっと興奮する。

 仕方ない。このままでは終わりそうにないのでちょっと選んでこよう。

 

「これは? かわいいよ」

 

 手に取ったのは安っぽいデフォルメされたクマさんだ。なんの捻りもないチョイスだが今はこれでいいだろう。こういうのは旅行先とかで買ってくるやつを付けるので、最初に買ったやつはちょっとしか使わない。じゃらじゃらすることを気にせず全部付けるなら別だが。

 

 琴乃はわたしが手に取ったクマさんを一瞥すると不満げな顔を見せた。 おかしいな……わたしのセンスはお父さんほど壊滅的ではないはずだが……。自覚してないだけで同じ穴の狢だったのだろうか。だとしたらお父さんを笑えない。

 琴乃はわたしの服の端を掴みながら、何かを探すようにきょろきょろとあたりを見回している。

 

「なにを探してるの?」

 

「……おねーちゃんとおそろいの」

 

 ……おっふ。また、きもちわるい笑みを浮かべてしまいそうになってしまった。今すぐ琴乃のお望みの品を献上したいが、わたしのは友達が旅行先で買ってきてくれたカワウソのキーホルダーなのでここにはない。ごめんよ。琴乃がカワウソ好きなの知ってたら琴乃の分も頼んでおいたのに。

 

「お姉ちゃんのは遠いところ行かないと買えないから、他のにしようね。このクマさんとかとってもかわいいよ? 」

 

「やだ」

 

 うーん、困ったな。頑張って似たやつ探して納得してもらおう。

 

「じゃあ、似たようなやついっしょに探しに行こ?」

 

「いい」

 

 かぶりを振る琴乃。いい匂いがします。じゃなかった、どうしよう。

 

「もしかしたらお姉ちゃんのよりかわいいカワウソがあるかもしれないよ?」

 

「いらない」

 

「……え? カワウソ好きなんじゃないの?」

 

「うん」

 

「じゃあなんで……」

 

「おねーちゃんとおそろいがいいもん」

 

 いじけたように呟く琴乃。痙攣したように震えるわたし。

 やばーい! このままでは頼りになるお姉ちゃんフェイスが崩れてしまう! は、早くしないと! 

 

「じ、じじじじゃあ、お、おおおお姉ちゃんもこれちゅけるね! これでお、お揃いだよ!」

 

「うん! えへへ」

 

 クマさんを大切に握りしめてぱぁっと笑顔になる琴乃。眩しいっ! 直視できないよぉ! 

 まぁギリ頼りになるお姉ちゃんの体裁は保てた。一安心だ。

 

 

 ♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 今日から琴乃は小学生になる。

 見た目がほぼ同じなのでややこしいランドセルを背負ってまた一歩成長していく。

 

「おねーちゃん」

 

「どうしたの?」

 

 振り返ってわたしに笑いかける。

 

「がっこうたのしみだね!」

 

 その笑顔はわたしを救ってくたときと同じくらい眩しくて……

 

「そうだね!」

 

 

 この笑顔が陰らせられることがないよう、

 

 健やかに過ごせるよう、

 

 ただ祈っていた。

 

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