腕の中で、愛する人が身動ぎした。
「ぁ、キラ?」
「ラクス、目が覚めた?」
キラ・ヤマトの声が耳朶を打つと、朧気だったラクス・クラインの瞳が急速に焦点を取り戻す。
髪飾り以外は一糸纏わぬ己の体を見下ろし、背後のキラも同じく何も着ていないのを視覚と触覚で確認し終えると、後ろから抱き締められる体勢だったラクスの体がキラの腕の中で反転し、彼女からも抱き締め合う格好を取った。柔らかい肢体がより強く細身の青年の素肌へ押し付けられる塩梅となる。
初めて出会ったあの日、回収した救難ポッドから出てきた当時は少し力加減を怠っただけで手折れてしまいそうな程に華奢だったラクスの身体つきは、今や細くあるべき部分は当時のままに女性らしさを象徴する部分は信じられない位豊かな曲線を描くようになっていた。
ずっと身近に居てくれた彼女が実はこうも男好みの肢体の持ち主になっていた事を遅ればせながら認識したキラは、あんなに一緒だったのにやっぱり僕はちゃんとラクスを見ていなかったんだなぁと改めて反省。
「夢、ではないのですね」
「夢じゃないよ。僕は今、ここに居るよ」
「うふふっ。不思議な感覚ですわ。体は重たいのですけれど、同時にこのまま空へと舞い上がってしまいそうな位気分はふわふわしていますの」
「ゴメン。僕も久しぶりだったから、初めてのラクスにはかなり無理させちゃったよね」
「キラが謝らなくても良いのです。むしろ愛する殿方からああも情熱的に求められて、わたくしにはとても幸せな体験でしたわ」
そう言いながらラクスは笑みを浮かべた。数年間の間にすっかり張り付けるのが上手くなってしまった凛々しさが目立つ為政者としての顔ではない、ふにゃりとした素のままの少女としての笑顔。
同時にそこには無垢な少女のそれだけでなく、女の悦びを知った者にしか出せない色気も帯びていて、キラは顔を赤くして見惚れてしまいそうになるだけではなく、彼もまたふわふわと浮足立った気分にもなってしまうのだ。
この笑顔をこうして見る事が出来ただけで、身も心も砕け散る寸前だった自分を(物理的な意味も含めて)殴り飛ばした上で背中を押してくれた親友や仲間達には感謝しきれない。
それはそれとしてアスランはもうちょっと手加減してくれても良かったんだよ?
あとシンは勢いで殴っちゃって本当ゴメン。
「キラ」
「ぁ……」
目と鼻の先にあったラクスとの顔の距離がより縮まり零となる。
宇宙からの激戦を経て何度も汗にまみれても砂金のようにサラサラとした桃色の髪がキラの頬をくすぐった。
どちらからともなく舌を絡め合い始める。出会ってから数年、結ばれてから以降も触れ合う程度の口付けしかしてこなかったプラトニックさが嘘のような激しい男女の交わりがしばし続いた。
「キラ」
「ラクス……」
唇と唇が離れ、代わりに今度はラクスの細い指先がキラの頬に添えられる。
「キラ」
水色の瞳がまっすぐと見据えてくる。頬を摘まむ力が次第に力を増しているような。
「ラクス……?」
何となく、違和感を覚えた――――あれ、もしかして怒ってる? 僕何かした?
よく見たらラクス種割れしてるよねコレ!?
「ところで先程の『
「えっ、あっ」
そ……ッッそうきたかァ~~~~~ッッ
「そうですか。フレイさん……あの時の方とそのような」
「申し訳ございません、触れられたくなかったであろう事を無理矢理吐き出させるような真似をしてしまって」
「ううん、ラクスが気にする事はないよ。気になっちゃった気持ちは僕にも分かるから」
「ですが――」
「もしかして、嫉妬してくれた?」
態度や気配にフレイを巡ってぶつかった時の
デリカシーが無いかもしれないが、今のラクスには変に遠回しにではなくストレートな言葉で訊ねた方が良い気がする、そう思ったからこそキラは問うた。
ラクスが顔を下に向けたまま、厚いとはお世辞にも言えない胸板に額を押し付けてきた事が答えだった。
「そう、ですわね。亡くなられてしまわれた方にこのような感情を向けるのは決して良くない事であると分かっていても、フレイ様に妬いてしまう気持ちを、わたくしは抑える事が出来ません」
独白を聞いてキラが抱いたのは――――
「そっか、
今度はラクスを抱き締めるキラの両腕に力が増す番だった。
「変な気分だけど、うん、この気持ち、きっと僕は嬉しく感じてるんだ」
「嬉しい、ですか? ですがわたくしは――」
「これまでの僕達はさ、お互いに相手が大事過ぎて、傷つけたくなくて、一方的に相手を思いやり過ぎて言いたい事も言えなくて、だからこそ本当に伝えなきゃいけない事をずっと伝えられていなかった、そう思うんだ」
しこたまアスランに殴られて、皆の前で無様に泣き喚いて、傲慢な本音を曝け出した果てに最後に残った幼子じみた願いを吐き出してしまったから今のキラだからこそ、愛する人に包み隠さず告白する。
「宮殿でラクスがオルフェに言い寄られていたのを見かけたあの時の僕は、ラクスに顔向けが出来ない自分自身が嫌で逃げ出してしまったけれど……本当はすぐに君の下に駆けつけて、君の手を取って一緒に彼の下から走り去ってしまいたかった。うん、
「キラ……」
「今なら言えるよ――もう2度と君を手放したくない。愛する君を他の誰にも渡したくないと、もっと早くハッキリと表に出せば良かったって、だから――」
「あっ、んんっ」
ラクスが反応するよりも早くキラの口が彼女の首筋を強く吸った。獲物に食らいつく肉食の獣のように、ラクスの味を堪能しながら少しずつ下へ移動しながら何度も繰り返した。
キラが満足して顔を離した頃には、熱く息を荒げるラクスの首筋から鎖骨に胸元に至るまで、短時間では消えそうにない赤いうっ血の跡が白い肌に何個も刻まれていた。
所有権を示すマーキング以外の何物でもないそれを刻まれる度、背筋に甘い電撃が走る感覚に襲われたラクスは熱に浮かれたような顔つきで自分の体を見下ろした。
己にくっきりと刻まれたキスマークをそっと指先で触れる。
それだけでまた背筋が震え、勝手に口元が緩んだ。彼がずっと見せてくれなかった独占欲に溺れてしまいそうな感覚だった。
「これがキラのものにされてしまった証……」
「その、嫌、だったかな?」
一転して弱気な声を発するキラ。
「いいえ、いいえ。キラが望むのであれば幾らでも刻んで頂いて構いませんわ。どうせですのでわたくしも――」
「わっ、ラクス!?」
その落差に蕩けた笑みをより緩いものに崩しながらラクスは心底嬉しそうに肯定し、今度は彼女の方からキラの胸元へ吸い付いたのだった……
――――それからしばらく後。
愛おしげに刻まれたキスマークを指先でなぞっていたラクスは、不意に何かを思い出した様子で独り言を漏らした。
「――ああ成程。あの時のカガリさんの反応はそういう事でしたのね」
「カガリがどうかしたの?」
「以前コンパス総裁の公務の一環でカガリさんと直接話し合いに出向いた時に、服の間から
そうしたら急にカガリさんが顔を真っ赤にされて『
「何やってるのさアスランもカガリも……」
思わぬ形で親友と姉の性的事情を知らされたキラは頭を抱えたのだった。
最後のオチを書きたかっただけです(土下座
種自由後のキラはラクスに男の影が出来たら激重感情で嫉妬しそうだしラクスはラクスでそれを心地良く感じてそうな個人的解釈。