七夜家。
魔、その中でも特に混血を滅する事を生業とする一族。私はそこの直系の娘だった。幼い頃から七夜の技を仕込まれ、暗殺者として生きることを定められた。暗殺者として成熟してからは、様々な任務を遂行。私が暗殺者として優秀であり、【浄眼】の精度も高かった事から一度も失敗したこと等なかった。『最高傑作』七夜黄理が居なければ、私が次期当主であったと自負していた。私と七夜黄理さえいれば七夜は安泰だと、信じていた。
しかし、七夜は一晩にして滅んだ。あの人の理から外れた化け物によって、七夜の里は終わりを迎えたのだ。
◆◇◆◇◆
私は目を覚ます。頭が上手く働かないままに、起き上がろうとするが上手くいかない。
「あーう?」
声を出そうとすれば、自分の声ではない何かが発せられた。
段々と意識が明確になっていき、自分の状況を思い出す。
(私はあの化け物に殺された筈……ここは何処?)
周りに見えるのはたくさんの木々。自分が入っていると思われる木製の籠に布団。そして自分の物と思しき小さな掌。
(私が……赤児?)
状況を見るに自分は今赤ん坊の姿で森の中にいるようだ。死を前にした走馬灯にしては意味不明すぎる。何故このような事になっているのか、私には見当もつかなかった。
(本当にコレが現実だとすれば、何か神秘の影響に因るもの?けど、聞くところによれば死者蘇生や時間逆行程の技となればそれは魔法の域。そう簡単に起こり得ない。だとすれば……分からない。駄目だ。思考がまとまらない。)
答えの出ない疑問に、すぐさま思考は堂々巡りに陥った。
(とりあえず、私は今赤ん坊で、恐らくは捨て子。森に放置されているとなると、この森がどういう所かは分からないけど、人通りも少なそうだし……不味いかも?)
現状、打開策なし。できることも泣くことだけ。このままではすぐに飢え死ぬか、獣に喰われてしまうだろう。
「オギャー!!あ"ー!!」
大きな声で泣き喚く。無駄な体力の消費かもしれないが、どちらにしろ生き延びられても後少しなのだ。人が来ることにかける方が合理的だろう。
◆◇◆◇◆
泣き始めてしばらく経ったと思われる。泣き声を聞きつけてか、幾人もの人の足音が聞こえる。使われている言語は聞き覚えがない。ますますここが何処か分からなくなるが、そんなことより助かることが第一だ。
「オギャー!!」
懸命に泣く。羞恥を捨て、赤児になりきる。
すると――
「✳✳✳?✳✳✳✳✳✳、✳✳✳✳✳✳!」
「✳✳✳?✳✳✳✳✳✳✳。✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳!」
「✳✳✳✳、✳✳✳✳✳✳✳?」
「✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳!✳✳✳✳✳✳✳?✳✳✳✳!」
出てきたのはガラの悪い男達だ。服は汚れ、無精髭をはやし、腰には剣をさげている。
(ホントにいつの時代なの?普通に剣を装備して人が歩いてるなんて。いかにも手入れしてなさそうな奴だし。)
どうやら私はそこまで幸運という訳でもなかったようだ。私は、この不潔でガラの悪い連中に拾われた。
◆◇◆◇◆
三人称
『シキ』と名付けられたその赤児を見つけたのは、とある盗賊団だった。その盗賊達は、奴隷商の傘下で、村を潰して奴隷を売り、甘い蜜を吸う外道であったが、シキを見つけると、見殺しにすることはなく、そのまま連れ帰った。
「おお?こいつぁ珍しい、エルフの捨て子だ!」
「エルフ?そりゃあいい、上手く育てりゃ高値で売れるぞ!」
「でもよぉ、誰が育てるんだ?」
「そりゃあ奴隷共に決まってんだろ!確か、少し前に自分の赤ん坊が死んだのがいただろ?そいつにさせるんだよ!」
盗賊達は奴隷商に売るため、捕まえてきた奴隷にシキを育てさせたのだ。
1年後
育ちが早く、あまり泣くこともない赤児であった事もあり、盗賊達がムカついてシキを殺すようなこともなく、シキは成長していった。シキは既に走れるようになり言葉を覚えたが、普通の子供のように周りに迷惑をかける事もなく、母親役の奴隷にただくっついていた。
3年後
シキはすくすくと成長した。礼儀や主への態度、教養、学問、家事、格闘術、魔術など、まるで拷問のような調教を受け、それを完全に自分のものとする。大人の奴隷でも過労死するような生活を送りながらも、平然としているのだ。表情一つ変えることもなく。盗賊達は呑気に手間がかからないと喜んでいたが、一部の奴隷達は、その幼子を恐れ、そして憐れんだ。母親役の奴隷は死んだ自らの赤児を重ね、愛情を注いだ。だが、シキが変わることはなかった。
5年後
シキは、盗賊達や奴隷達が教えられるものをほぼ全て習得した。たった5歳の子供とは思えない偉業。まさに天才。いや、化け物だった。盗賊達もさすがにその異質さに気づき、気味悪がった。泣かず、殆ど話さず、教えれば短期間で習得してしまう。魔物の方がまだ得体が知れている。盗賊達は最早共に生活するのが苦痛に感じ、母親役共々奴隷商に売り飛ばすことにした。
◆◇◆◇◆
どうやら私は、そこそこ運が良かったようだ。ガラの悪い連中に連れて行かれた時はどうなることかと思ったが、奴らは私を売るために私にここについての知識や、戦闘技術、魔術を教えてくれた。周りの奴隷達には妙な視線を向けられたが、七夜の里での鍛錬となんら変わりはない。心を殺し、暗殺者としての技能のみを求め続けたあの頃と。誰かに道具として使われようが、誰かに裏切られようが、誰かから恨まれようが、暗殺者としての責務をまっとうする。それこそが私の全てだ。
今は夜。皆、夕食の準備をしていた。
「おいノル!!シキ!!」
盗賊団の長の怒声が聞こえる。
「母上、呼ばれてる。」
「分かったわ。行きましょうか。」
私の母親役、名前はノル。私は彼女が苦手だ。決して何か酷い事をされた訳ではない。むしろ良くしてもらっている。前世でも今世でも母親のいなかった私にとって、彼女は唯一の母親と言っていい。だからだろうか。彼女に世話を焼かれたり、褒められたりすると、今まで感じたことのない気持ちになって落ち着かなくなるのだ。これでは暗殺者としての私の心に支障が出るかもしれない。だから、私は彼女が苦手なのだ。
「ようやく来たか、遅えぞ!!」
デカいハンマーを持った大男が機嫌が悪そうに声を荒げる。
「「申し訳ございません。」」
二人で謝る。ここでは、礼儀を弁えない奴隷に待っているのは死だ。
「フン。お前等を来週、奴隷商へ売る。いいか、決して失礼を働いたり、商品価値を下げるような真似をしたりすんじゃねぇぞ?」
どうやらついに私も奴隷商へ売られてしまうようだ。
(道具として使われるのは構わないのだが、暗殺者として使って頂けるのだろうか?七夜として、今世でも暗殺者として生きたいものだが。まぁ、母上といっしょなのは良かった。何故かは分からないけど、母上と離れるのは、少し嫌だ。)
私が不思議な感情を抱いていると、
「…………発言を、お許しください。」
「あ?」
母上が口を開いた。
「どうかこの子だけは、売らないでいただけないでしょうか!?私がこの子の分まで高値で売られます!この子には、まだ未来がある!どうか、どうかお願いいたします!お願いいたします!」
母上が必死に頼み込んでいる。
(何故?何故彼女はこんなことを?何故私はこれを見て胸が熱くなるの?)
「おい…!」
男が立ち上がる。
「俺は最初に教えたはずだぞ…?てめえら奴隷に許されるのは、主への肯定だけだってよぉ!!」
「キャア!」
男が振るったハンマーが彼女を撃ち抜き、彼女が吹き飛ばされる。
「………………………………は?」
「くだらねえ情なんか持ちやがって……俺を苛つかせんじゃねえよ!!」
目の前の光景に身体が動かなくなる。頭が働かない。母上の口から……血が
「母上!!」
堪らず飛び出す。何かが頬を伝う。ソレに気づかないまま、彼女の元へ走る。
「シ……キ……。」
彼女の呼びかけに、私は無言で手を彼女の手を握る。
「あぁ………よ…かった………貴方………泣けた……のね…?」
目の前が霞んで彼女が見えない。コレが、涙?
「ご……めん…ね…。貴方を………逃がせ……ない……ゴホッゴホッ!………………駄目な……母親で…。」
「はは、うえ」
「貴方の………笑顔が……見れ……ないの…は………残念……だけど…………良かった…!貴方の………感情が……枯れ…て…ないって……知れて…ゴホッ!!」
「母上!!」
「何も……できなくて………ごめん…ね………。どう…か…………い……き……て………。」
そうして、母上は動かなくなった。
「あぁ……あ、あ、」
(そうか。私が今まで感じていた温かさは……)
「嗚呼あああああ―――!!」
(『愛』だったんだ)
涙が溢れて止まらない。私は今、母親を、失ったのだ。
「―――チッ!!こんなとこまでぶっ飛ばされてやがったか!」
男の声が聞こえる。
「てめえも勝手に動きやがって!!奴隷の分際で俺に無駄な体力使わせんな!!」
男の、声が聞こえる。
「無視すんじゃねぇ!!!」
男のハンマーが、私の頭部に命中。私は吹き飛ばされ、近くにあった巨木に激突した。
「あ?何故闘気でガードしねぇ!!商品が勝手に死のうとしてんじゃねぇぞ!!」
男の、声が、聞こえる。
「まだ生きてんだろうなあ!?さっさと自分を治癒させろ!!」
母上の声は、聞こえない。視界には、大量の
「死ネ」
私は今世で初めて、七夜の技を使った。
「は?」
大男だった肉塊は、簡単に両断され崩れ落ちた。
「ミンナ、死ネ」
その日、一つの盗賊団が全滅し、一人の
続くかもしれないし続かないかもしれない。