直死の魔眼持ちを無職転生にブチ込むだけのお話   作:なゆさん

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遅くなりました。


グレイラット家

ブエナ村に到着してから数日が経った。

庭の木を倒して怒られてしまったあの後、ルディがロキシーを慰めたり、ロキシーと私の歓迎会があったりして、結果的にロキシーと私はこのグレイラット家に受け入れられることとなった。

 

そして、私は今―――

 

 

「よし! いつでもいいぞ!」

「……よろしく」

 

グレイラット家の主人、パウロ・グレイラットと試合をすることになった。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

グレイラット家にお世話になったこの数日間、私はルディが魔術を習う時間はロキシーの授業を聞いたり、ルディに無詠唱を教えてもらったりして過ごし、それ以外はメイドの仕事を分けてもらい、なんとか穀潰しにならないように働いていた。

 

そんな時、ふとパウロが

 

「そういえば、シキはいつも剣と短刀を身に着けてるな。一体どの程度使えるんだ? よかったら、俺が教えてやろうか?」

 

と言ってきた。

聞けば、パウロは剣神流、北神流、水神流の全ての流派を上級まで修めているそうだ。

こちらとしても、剣神流と水神流の師匠は欲しかったところだし、ちょうどいい機会だと思い、こちらからお願いした結果……

 

「……独自の短剣術に剣神流・水神流中級、北神流帝級を修めている。教えてくれるなら、剣神流と水神流の指南をお願いしたい」

「その年で北帝!? 嘘だろ!?」

「……嘘じゃない。きちんと先代北神からの認可を貰っている」

 

こんな会話の後、とりあえず互いの実力を知るため、安全に配慮し木刀で試合をしてみようということになった。

 

 

互いに準備を終えて、木刀の素振りをする。

 

「シキが作ったこの木刀、重量と重心がちょうどいいな。いつもの得物とあんま変わんねえから違和感なく使えるぜ」

「……それは良かった」

 

シャンドルに教えてもらった技術だ。褒められるのはちょっと嬉しい。

 

 

慣らしを充分にやったところで、互いに向き合って構えた。

 

「構えに隙がねぇ……へっ! おいルディ! 合図を出してくれ!」

「……流石」

 

構えから、パウロの実力の高さを察する。木刀を持っただけで威圧感を覚えるほどの、傭兵時代でも中々お目にかかることのなかった猛者の気配。下手な聖級剣士よりも強そうだ。

 

「では……よーい、始め!!」

 

ルディの合図とともに、二人同時に相手へ踏み込む。

先に仕掛けたのはパウロだ。

 

「おらっ!」

 

剣神流の型で攻め立ててくる。重く鋭いその一閃を、側面から受け流す。

 

「――ふっ!」

 

反撃。懐に踏み込んでの横薙ぎの一太刀だ。

 

「おっと!」

 

水神流の型で軽く受け止められる。咄嗟に防いだ癖に、全く崩せる気がしない程にその守りは強固だ。

 

「固い……なら!」

「!――へっ、そうこなくちゃな!」

 

互いの意図を理解した私達は、間合いを詰めたまま連撃を放つ。純粋な技量のみの近距離戦闘。両者一歩も惹かない攻防が展開される。

パウロの重く、鋭く、それでいて軽快な剣捌きを、スピード重視の私の剣でいなしていく。虚実混交の北神流らしい剣術は、流石のパウロといえど見切りきれず、攻めきれない。

剣術そのものの技量は、確実にこちらが上回っていた。

 

「ぐっ、こうなりゃ―――おりゃあ!」

 

パウロの斜方の一閃。

 

(躱せば体勢が崩れる。ここは――)

「なっ!?」

 

加速して間合いの内側に入り込み、木刀を振るった。

 

「ぐっ!」

 

流石の足捌きで木刀での防御を間に合わせるパウロ。そのまま鍔迫り合いの状態になる。

 

「ミスったな? この状態なら俺のが有利だ!」

 

そう、単純な力比べなら圧倒的にパウロが勝っている。この状態が続けば、私は負ける。

―――だが、気にせず木刀を押し込む。

 

「……シッ!」

「ぐっ!」

 

木刀に意識を向け、隙のできた胴体を蹴り込んだ。その反動でこちらも後ろに跳び、距離を空ける。

 

「……流石に簡単には勝てない、か」

「息子の前なんでね。負ける訳にゃ……いかんのよ!!」

 

息をつく暇もなく、再びパウロが距離を詰める。

 

「どりゃぁ――うおっ!」

 

剣が振るわれる前に木刀で地面の土を飛ばし、目潰しを行う。

 

「チッ、ここで目潰し――うおおっ!?」

 

大上段からの一撃。まだ目を開けないままに、パウロが勘でそれを防ぐ。

 

「ぬぬぬっ―――こんなもんか北帝!!」

 

そのまま力任せに私を宙へはじき飛ばす。

 

「――無論、こんなものじゃない」

 

無詠唱の風魔法で補助しながら空を蹴り、縮地の要領で視力が戻りかかっているパウロの横に瞬時に着地する。

 

「なっ!? チィッ!」

 

私の移動速度に驚きつつも、流石の反応速度で斬り込んでくるパウロ。

そこに―――剣を投擲する。

 

「は? ――くっ!」

 

一瞬呆けるパウロだったが、北神流も上級なだけあってしっかりと対応し、その木刀を弾く。

 

「ふっ!」

 

木刀が弾かれる軌道を予測し、既に跳躍していた私は弾かれた木刀をキャッチし、そのままパウロに向かって落下する。

 

「何でもありかよ!?」

「ハァー――!」

 

動揺し、水神流の構えが乱れたパウロの防御の隙間を突き、相手の木刀をはじき飛ばし、そのままガラ空きの胴に蹴りを入れた。

 

「しまった――っ!!」

「……私の勝ち」

 

丸腰で尻もちをついたパウロに木刀の切っ先を突きつけ、勝利を宣言する。

 

「そ、そこまで!」

 

ルディが終わりの合図を告げ、この手合わせは幕を閉じた。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「くっそ~! 北帝は伊達じゃねぇってことか」

「……いや、まだまだ未熟」

 

全力で何度も踏み込んだせいで少し汚れたグレイラット家の庭を土魔術で片付けながら、パウロの言葉に答える。

この試合、そこまで余裕があるわけではなかった。パウロに10回やって10回勝てるかと聞かれれば、自信を持って肯定することはできない。

 

(シャンドルならもっと余裕のある戦いができるだろう。――まだまだ精進しないと)

 

もっと強くなりたい。もう、誰にも負けないように。もう、何も失わぬように。

 

「お疲れ様です」

 

ちょうど片付けが終わった時、ルディが私の方に来てねぎらいの言葉をかけた。

 

「シキって、こんなに強かったんですね。まさか父様に勝つなんて」

 

ルディは誰に対しても敬語だ。私とは歳が近いし、別にタメ口でいいとは伝えてみたのだが、「それでも歳上であることは変わらないですし、もう口癖みたいなものですからタメ口の方が違和感があります」と断られてしまった。

 

「……まだまだ未熟。師匠には到底及ばない」

「へぇ~、シキの師匠は、そんなに凄い人なんですか?」

「……強い。北神流での手加減なしの真剣勝負なら、絶対に負ける」

「そ、そんなに強い人がいるんですね……」

 

ルディが少し引いている。

実際、シャンドルは引くほど強い。この世界でもかなりの上澄みであることは間違いないレベルだ。私も、もし初対面でいきなり強さを見せつけられたら、きっと引いてしまう。

■■の技を使っての勝負なら結果はわからないが、殺しなしの勝負なら100%勝てないだろう。

 

「僕は剣術に関しては中々上達しないので、羨ましいです」

「……大丈夫。ルディは賢いし、強くなれる」

 

そうやってルディを褒めると、ルディは照れたように頭を掻いて笑う。

 

「でも、やっぱり僕には魔術の方があっている気がしますね。剣術もそうですけど、魔術ももっと上達したいです。師匠も才能があると言ってくれていますしね」

「……魔術も、ルディなら大丈夫。無詠唱もできるし」

「そうだと嬉しいですね!――あ、噂をすれば、そろそろ魔術の授業の時間ですね。それじゃあ師匠を呼びに行きましょうか!」

 

ロキシーの授業の時間であることに気づき、意気揚々とロキシーを呼びに行くルディに、私は微笑ましい気持ちになりながらついて行った。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

―――その日の夜

 

「……眠れない」

 

今日はパウロとの試合とロキシーとの授業の後、いつもよりも激しい鍛錬を行い、水浴びも念入りにしてから布団に入った。寝る前の状態としては最も熟睡できる状態のはずだ。そんな状態なのに何故眠れないのかというと、

 

『―――、――、――!』

「……うるさい」

 

パウロとゼニスの寝室から聞こえてくる水音やベットの軋む音、喘ぎ声などの騒音が響いているからである。この家に住まわせてもらっている分際で色々文句を言いたくはないのだが、毎夜毎夜騒音を聞かされるこっちの身にもなってほしい。皆が音が気にならないほど熟睡していると思っているのだろうか?

私は奴隷時代にそういう知識、なんなら実際にシタ事はないがそういう奉仕の技術を叩き込まれた。だからこの歳でもナニをしているか分かっている。しかし、ルディはそうではないのだ。ルディが起きたらどうするつもりなのだろう。

 

「……む?」

 

この足音は……ロキシー?

どうやらロキシーも眠れていないようだ、が、

 

(何故騒音の元の寝室の方へ?……まさか騒音に我慢できなくて注意を!?)

「……マズいかも」

 

夫婦の営みに乱入して『静かにしてください!』なんて言った日には流石のパウロとゼニスとはいってもこの家から私達を追放しかねない。

 

「……よし」

(止めに行こう。できるだけ静かに。)

 

音をたてず、気配を消して、パウロとゼニスの寝室に向かう。

そして、扉の前にいるロキシーを見つけた。

 

「……ロキシー、流石にこの騒音はしか…た……」

 

仕方ない、と言おうとして私は行動を止める。

 

「……………」

 

視線の先には、座り込み、私と目があったまま唖然としているロキシー。顔は赤く、座っている床は濡れ、股に手を入れたまま固まっている。

 

「……ロキシーも女の子。大丈夫。した事はないけど自慰行為には理解がある。誰にも言わないから」

 

なんとか宥めようと試みるが、ロキシーは体勢はそのままにプルプルと震えだした。

 

「………慰めなくて結構です。そっちの方が恥ずかしいですから」

 

消え入りそうな声で何とか言葉を紡ぐロキシー。

 

「……濡れた床は掃除するから、早く寝よう」

「………そうですね。ありがとうございます」

 

うつむいた状態で立ち上がり、静かに寝室に戻っていくロキシー。

 

(私も早く寝―――視線!)

『バッ』

 

咄嗟に後ろを振り返るが、誰もいない。

 

「……気のせいか」

 

睡魔のせいで変に敏感になっているのかもしれない。早く寝よう。

 

その日はその後すぐに何とか眠りについたものの、次の日のロキシーは1日中覇気がなかった。

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