……ちなみに投稿頻度が比較的高い理由はアニメを見返して書きたくなったからです。アニメ熱が冷めないうちにどんどん書かなくては…!
パウロの不貞事件から約1年。
グレイラット家には、赤子の泣き声がよく聞こえるようになった。無事ゼニスとリーリャの子供が誕生したのである。名は、ノルンとアイシャ。どちらも母親に似た可愛い女の子だ。
パウロは赤子達が可愛くて仕方がないのか、毎日2人の前に居座って構っている。そして、赤子達が泣いて母2人にパシリにされるまでがいつもの流れだ。
そして、相変わらずルディとシルフィはいつもいっしょに遊んでいる。私もシルフィエットと少しは親しくなったため、鍛錬や家事がないときは、付き合うことが多い。
そんなある日、
「おい、シキ」
夜、私が借りている部屋にパウロが現れた。
「……何?」
欲情してはいない。私は、ロキシーの勧めで、普段から動きやすいようにサラシを巻いているのだが、パウロはときどき私のサラシを取った胸を見て欲情していた。だから、一瞬襲われるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「お前に手紙だ、ほれ。―――ルディの分もあるからもう行くぞ。また明日な」
パウロが持ってきたのは、ロキシーからの手紙だった。
『―――シキへ
いかがお過ごしでしょうか。早いもので、あなたたちと別れてから2年が経ちました。ルディへの手紙にも同じことを書きましたが、私は現在、シーローン王国に滞在しています。第七王子の家庭教師として雇われました。王子はあなたたちほどではありませんが魔術ののみこみは早く、頭もいいです。でも、ルディのように私の着替えを覗いてきたり、挙げ句パンツも盗んできます。"英雄色を好む"というやつでしょうか……。
そうそう、ようやく私にも水王級の魔術が使えるようになりました。これ以上は無理だと思っていたのですが、やればできるものですね。まあ、約束通り成長した貴方達よりももっと凄い大魔術師になるためには、これくらいは必要でしょうしね。これからも頑張ります。あなたは魔術の才能も末恐ろしいものがありますが、やはり剣術の方を伸ばしているのでしょうか。あなたでしたらもしかしたら、どちらも凄い勢いで成長しているのかも。次に会った時はどんな化け物になっていることやら……アハハ、もしかしたら、七大列強ぐらい強くなっているかもしれませんね。
余計な心配だとは思いますが、もし魔術のことで行き詰まることがあれば、ラノア魔術大学の門をたたいてください。
それでは、また手紙を出します。
―――ロキシーより』
たった2年で水王級魔術を習得とは、やはりロキシーはすごい。
「……魔術、か」
正直、練度で言えば成長はしている。鍛錬によって、最近ようやく
剣術はまだパウロという対戦相手がいるだけマシだが、そっちも私の身体能力の成長によって実力の差が大きくなってきている。北神流を使えばまず負けることはないし、それを使わずとも剣神流、水神流の2流派だけで勝率は9割を超える。最近は重りをつけることで私の機動力を落として手合わせしているくらいだ。
正直、このままブエナ村に留まっても大きな成長は望めないだろう。大学に行くことや強者を求めて再び旅に出ることも視野に入れるべきかもしれない。ロキシーとの別れる前の私ならこの家の皆と別れる選択は取れなかっただろうが、私は精神面も成長したのだ。成長できなくなってしまうくらいなら、その選択を取ろう。
◆◇◆◇◆
翌日の朝
いつものように皆で朝食を食べていると、ルディが突然パウロに向けて声を発した。
「父様、一つわがままを言ってもいいですか?」
「だめだ」
『ゴン』
ルディの頼みをパウロが即答で断り、リーリャとゼニスから制裁を受ける。地味に痛そうな攻撃だ。パウロも苦痛に顔を歪め俯いている。
「ルディ、なんでも言いなさい。お父さんが何とかしてくれるわ」
「ここは旦那様の威厳と甲斐性が試される時です」
母2人はパウロに対して容赦なくルディに頼みを述べるように促す。パウロは堪らず反論した。
「ルディが前置きまでするんだ。とても俺の手に負えないようなことに違い――」
『ゴン』
しかし、パウロの情けない反論も文字通り一蹴される。浮気事件の時は自業自得だが、今回は流石に哀れである。
「実は最近行き詰まっていまして、そのためにラノアの魔術大学に入学したいのですが、シルフィにそんな話を匂わせたら、離れたくないと泣かれました」
そんなことがあったのか。確かにシルフィはルディに依存しているところがあるから、イメージはできる。
「この色男め。誰に似たんだ? ええ?」
パウロが茶化す。自分でそのセリフを言っては台無しである。
「せっかくなのでシキも合わせ、3人で一緒に通いたいのですが、シキはともかく、彼女の家は我が家ほど裕福ではありません。つきましては、2人分の学費を払っていただければと。お願いします」
「……え?」
「シキも、魔術は行き詰まってるでしょう?」
「……まあ、うん」
まさか私も一緒とは。ちょうどよいタイミングではあるものの、流石に驚いた。
とはいえ、確かにわがままだ。ラノア魔術大学の学費は安くはない。ラノアに行くまでの旅費もかかるだろう。ルディとシルフィだけでは危険だから、護衛を雇う、もしくはパウロがついていく必要がある。護衛依頼は高いし、パウロは1家の大黒柱。出ていくことはできないため、高い報酬を用意し護衛を頼むしかない。その金を用意するのは、今のグレイラット家の財政を見るにギリギリだろう。それに、赤子も2人いるのだ。余裕を持っておきたいこの時期に、それはかなり厳しいと言っていい。
「ほう、3人でラノアに……駄目だ」
やはりか。
「理由はいくつかある。まず剣術が途中だ。お前の師匠として、ここで放り出すわけにはいかない。次に、お前は賢いがまだ幼い。親としての責任を放棄するわけにはいかない。それに、シキとまだ相談していないんだろ? その状態では許可はできない。当事者に話を通してないのに許可は出せん。あとはカネの問題だ。お前だけならともかく、シルフィも一緒となると無理だ。うちも、湯水のようにカネがあるわけじゃない」
すべて正論である。問題がこれだけあれば、流石に許可は出せないだろう。―――なら、
「……なら、私が出す」
「え?」
「……私が3人分の学費と旅費を払って、2人を連れてラノアに行く。私なら剣術も教えられるし、ルディの安全も保証できる」
「でもお前、そんな金は」
「……問題ない。傭兵時代に貯めたお金が残っている。この家に泊めてもらうために払っているお金は、ほんの一部だから」
繰り返すが、私も行き詰まっていたところだ。成長できるのなら、行かない手はない。そのためならお金も出そう。傭兵をすればいくらでも貯めれるし。
「――いや、ダメだ。これはルディの問題だ。シキにおんぶに抱っこで解決していい問題じゃねえ。ルディの成長のためにも、お前に頼らせるわけにはいかない」
「……そう」
残念だ。だが、親であるパウロがそう言うのなら、部外者の私がどうこう言うべきじゃない。
「なるほど、分かりました。では、1ついいでしょうか?」
「おう」
「仕事を斡旋してください。なるべく高いものがいいです」
「仕事? 何故だ?」
「父様に認められて家を出るまでに、シルフィの分の学費を僕が稼ぎます」
「それはシルフィのためにはならないぞ」
「はい。でも、僕のためにはなるかと」
「……フン、分かった。そういうことなら、心当たりを当たってみよう」
「ありがとうございます」
……すごい。リーリャの時と同じだ。巧みに会話を誘導し、落としどころに持っていく。さすがはルディだ。
ただ、同時にリーリャやゼニスには心配の色も見えた。
懸念は分かる。ルディはシルフィと共依存しかかっているように感じるのだ。シルフィは言わずもがな、ルディもシルフィの頼みと言いつつ、無意識に離れるのを最初から選択肢から外しているようだ。
私も、そこが心配だった。
◇◆◇◆◇
「シキ」
数日後、朝の自主鍛錬の最中パウロに呼ばれた。
「……どうした?」
「ルディの仕事の件だ。実はな――」
語られたのは、ルディとシルフィを一時的に離す必要があるとパウロが考えていること。そしてそのためにパウロの実家のコネを使ってフィットア領主の孫娘の家庭教師として、ルディをしばらくの間働かせるということ。そして、その迎えが今日か明日くらいにやって来るということだった。
「それでな。実は相手にお前の話をしたら、連れてこいと頼まれちまってな。あっちには剣王がいるから剣術も上達できるし、給料もしっかり出るから、お前もルディといっしょに家庭教師として、ロアに行ってくれないか?」
「……分かった」
剣王から学べるとは願ってもないことである。こちらから行かせてくれと頼みたいくらいだ。
「あと、ルディは嫌がるだろうから気絶させて馬車に乗せる。お前は最初馬車に乗らず、後から来るシルフィをなだめてから、馬車に追いついて乗ってほしい。俺じゃ多分泣いてるシルフィをなだめられん」
「……うん」
その程度ならお安い御用である。剣王に会わせてくれる分、きっちりとこなしてみせよう。
その日の剣術の鍛錬中、グレイラット家へ馬車がやって来た。馬車は門の前で止まり、中から褐色の獣人が降りてきた。
「よう。久しぶりだな、ギレーヌ」
「ああ」
気配で分かる。このギレーヌという獣人、相当な実力者だ。彼女がパウロの言っていた剣王で間違いないだろう。
「ギレーヌ!」
ゼニスもノルンを抱いたまま庭に出てきて、ギレーヌに駆け寄る。
「久しぶりね! 元気だった?」
「ああ。――お前の子供か?」
「ええ、ノルンよ」
「パウロに似なくてよかったな」
気安い会話だ。どうやら、3人は随分親しい関係らしい。
「ケッ! ――お前が来たってことは、あの話はオッケーってことでいいんだな?」
「ああ」
「うちのルーデウスをよろしくね」
「ああ」
「……私、シキ。私もいっしょに行ける?」
「ああ。お前も連れてこいと言われている」
よかった。無事、連れて行ってもらえるらしい。
「ルーデウス坊ちゃま。寂しくなります」
「元気でね。帰ってくるのを楽しみに待ってるわ」
ゼニスやリーリャがルディに別れを告げている。もう会えないわけではないが、長期間帰ってこないのだ。言いたいこともあるだろう。
「待ってください、一体何の……」
「なあ、ルディよ」
「はい、何でしょう」
「お前さ、シルフィと距離を置けって言われたらどう思う?」
「は? いやに決まってるじゃないですか」
「だよなぁ」
「何なんですか?」
ルディが困惑している。本当に何一つとして伝えられていないらしい。仕方ないとはいえ、気の毒だ。
「いや、なんでもない。話をしたって、どうせ言いくるめられるだけだしな―――フン!」
――その瞬間、パウロがルディを投げ飛ばした。
そして、叩きつけられ、咄嗟に起き上がるルディに容赦なく追撃を入れる。
しかし、そこは天才ルディ。すぐさま魔術で爆発を起こし、煙幕を張ると同時に反動で距離を取った。
だが、パウロは爆発を凌ぎ、煙幕を突っ切って距離を詰める。ルディは風魔術を使い反動で移動して距離をキープ。地面に手を置き、液状化させる。
まず機動力を奪う。剣士相手には効果的な作戦だ。その歳で咄嗟にこれほどのことができるのは、流石としか言いようがない。並の剣士なら、これで足を取られ、次の魔術で仕留められるだろう。
だが、相手はパウロだ。さらに最近は私との模擬戦で実力をあげている。こんな魔術で止まるような男ではない。
ぬかるんだ地面ごと強引に踏み込み、急加速。一瞬で距離を詰める。
咄嗟に木刀を振るうルディであったが、水神流上級に破れかぶれのルディの一刀が通じるはずもない。受け流され、追撃で意識を飛ばされた。
気絶したルディを抱きかかえ、馬車に乗せるパウロ。出発する馬車を見送りながら、実の息子の実力の高さに、冷や汗を流していた。
「あれでシキみたいに剣術もできてたら、俺もヤバかったかもな」
そんなことを言っていた。
―――さてと、そろそろ仕事かな。
「え?」
先程家に来たらしいシルフィが、唖然としている。
「ルディは、しばらく遠くの都市に仕事に行くことになった。シルフィには悪いが……」
「う………うわぁあああーー!!!」
案の定絶叫しながら、パウロに襲いかかってきた。
「……パウロ、下がって」
「え、けどよ――」
「……大丈夫、任せて」
迫るシルフィに意識を集中させる。実戦で使うのは久しぶりだし、今回は相手を気絶させるだけだ。殺さないように手加減しないといけない。
「ふぅ……ハッ!」
■■の技を使い、シルフィを一撃で気絶させる。倒れそうになるシルフィを抱き止め、ゆっくりと地面におろした。
「……これでよし」
「な、何やってんだ!?」
「? ……気絶させた」
何故そんなに驚いているのか。
「お、俺はなだめろって言ったんだぞ!! そ、それを気絶させるなんて――」
「……ごめん。なんか間違えたみたいで」
どうやら失敗してしまったようだ。こうするものと思っていたのだが、
「あ、いや、別に責めてるわけじゃねえよ。その、えっと………ほ、ほら! 早く行かねえと! 馬車に追いつけねえぞ! 別に怒ってねぇから。な?」
「……分かった。ありがとう」
パウロの寛大さに感謝しつつ、私は全速力で馬車を追った。
◇◆◇◆◇
半日かけて馬車に追いついた私は、そのまま馬車に乗って領主の屋敷へ向かった。
屋敷に着いた私達はメイド達に案内され、椅子に座って待つことになった。
しばらくして、
「やあ」
糸目の男が執事であろう男を連れてやって来た。
「はじめまして。ルーデウス・グレイラットです」
「……シキ、です」
ルディを真似て私もお辞儀をする。
「貴族のあいさつは左足を下げて、右手を回し、少しだけ頭を下げるんだ」
「――こうですか?」
男はルディに貴族のあいさつを教え、ルディはそれを真似る。私は貴族ではないのでやる必要はないだろう。
「そうそう、悪くない。2人共かけて」
促されるまま、椅子に座る。男も、向かいの椅子に座った。
「私は、フィリップ・ボレアス・グレイラット。この町の町長だ。パウロとはいとこに当たるのかな」
「僕の親戚に当たるわけですか」
「そうなるね」
フィリップ。その名は聞いたことがある。グレイラットの貴族の中で、跡継ぎ争いに負けた腑抜けだと。噂とは違い、随分とやり手の雰囲気を漂わせているが……
「それで? 話はどこまで聞いている?」
「5年間ここでシキといっしょにお嬢様に勉強を教えれば、魔法大学への入学金を援助してもらえると」
「……それだけ?」
「ええ」
「ハァ……まったくあいつは相変わらずだ。――まあいいとにかくまずは娘に会わせよう。話はそれからだ」
「はあ……」
なんだろう。すごく嫌な予感がする。
◇◆◇◆◇
長い廊下を抜ける途中、これから教師として教える娘は、少しわがままで、懐きにくいことを話された。
なんだろう。嫌な予感が強まった。
そんなことを話している内に、お嬢様がいるという扉の前に着いた。
『コンコン』
「エリス。新しい先生を連れてきたよ」
フィリップが扉を開ける。
そこにいたのは、赤い髪に赤い瞳の女の子だった。吊り目で、荒々しい雰囲気を身に纏っている。
「はじめまして。ルーデウス・グレイラットです」
「……シキ」
「何よ! そっちは年下じゃないの!」
「年は関係ないと思いますけど」
「何? 私に文句あるわけ?」
「でもお嬢様は僕ができることができないわけです――」
ルディが言い返そうとすると、彼女はルディに近づき、
『パンッ』
ルディの頬を叩いた。
「――え?」
「生意気よ! 私を誰だと思ってるの?」
「なんで殴るんですか?」
「年下の癖に生意気だからよ!」
随分と乱暴な少女だ。"少しだけわがまま"どころではなかったようである。
『ペシッ』
ルディが少女の頬にやり返した。
「これで人に殴られる痛みが分かりました……」
「――危ない」
ルディに迫っていた拳を片手で受け止める。
「フー、フー、邪魔してんじゃないわよ!!」
「……ルディ、隠れて」
「逃さないわよ!! ――ッ! 離しなさいよ!!」
「……私はシキ。12歳。これからルディと貴方の家庭教師になる。私は護衛と剣術指南も兼任だけど」
「知らないわよ!! 離しなさい!!」
暴れる彼女を受け流しつつ、どうすればいいかを考えるが、中々思いつかない。
「ほぅ、流石は紛争地帯で傭兵として名を上げた【直死のシキ】だね。手の動きが見えなかったよ。どうだいギレーヌ。彼女の力は?」
「強いな。私が戦っても勝てるかどうか」
「それほどか。……まったく、こんなビッグネームを使用人代わりになんて、パウロの奴には驚かされたよ」
後ろではフィリップとギレーヌが話している。そんなこと話している暇があるならこっちを何とかしてほしいのだが……
結局、彼女が落ち着くまでの間、私は永遠に彼女の攻撃をいなし続けることになったのだった。