直死の魔眼持ちを無職転生にブチ込むだけのお話   作:なゆさん

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ここまでしてようやくこの投稿頻度である。
僕の筆の遅さと怠け癖を嘆くばかりです。


家庭教師になるために

エリスが疲れ切ってどこかに行った後、私はルディから今後どうするかを聞かされた。

なんでも、あのエリスに自発的に勉強したいと思わせるために、一芝居うつそうだ。ルディとエリスを家の者に何処かに誘拐させ、ルディが魔術と知識を駆使して家まで送り届けることで、知識と魔術の偉大さと大切さを理解させようというのだ。いわゆるマッチポンプというやつだ。騙すのは少し心苦しいが、ずっとあの態度をとられては授業どころではない。仕方がないだろう。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

そして、予定通りルディとエリスは部屋から消えた。私は待機だ。心配だが、ルディを信じるしかあるまい。

待っている間は、ギレーヌと模擬戦をすることにした。

 

「一目見たときからお前とは戦いたいと思っていた。――加減はせんぞ?」

「……構わない」

 

精神を落ち着かせ、構える。

合図もなく、ギレーヌがいきなり仕掛けてきた。パウロよりも数段上の速度で斬りかかってくる。

 

「フッ!」

「くっ……ハッ!」

 

こちらもすぐさま受け止め、斬り返す。

 

「やるな!」

「――まだまだこれから」

 

剣戟の速度が上がる。ギレーヌの攻撃はパウロよりも重く、速く、鋭く、何よりも攻撃的な圧がある。まさに剣神流、一度でも対応を誤れば負ける。

 

「ガァアアア!!」

「ぐっ…!」

 

ギレーヌのギアが更に上がる。

絶え間なく木刀の衝突音が響き、見学しているフィリップも思わず声を上げている。

そこに、

 

「ハァ!!」

「――そこ!」

 

かなり大振り気味の一撃。私はそれを見計らって使っていなかった水神流の受け流しを使う。

 

「ぬっ!」

「……逃さない」

 

そのまま、カウンター。

 

「チィッ!」

「……まだ!」

 

相手の回避に合わせて追撃。

凄腕の剣神流に対しては、受けに回ると負ける。相手に攻める隙を与えないというのが有効である。シャンドルの教えだ。

私の北神流の真骨頂である速度と型破りな剣術で、ギレーヌを攻め立てる。

 

「チッ…!」

 

ギレーヌの舌打ちが聞こえる。事実、ギレーヌを翻弄していた私であったが、野生の勘か、致命的な攻撃は必ず防がれている。その上、

 

(なんで、こんなにも嫌な予感が…!)

 

ギレーヌの間合いで少しでも隙を見せたら死ぬ。斬り合いを始めてからずっと、そんな予感がするのだ。

このままギレーヌの受けのクセを読み切れば私が勝つ。私の剣の技量ならば、私の前にギレーヌが私の剣に慣れるなんてことはないだろう。このまま行けば、勝つのは私。――なのに、焦燥が私の心の中で大きくなっていく。それに、ギレーヌの心には焦りの感情などはあるものの、そこまで多くない。ギレーヌも、この状態から逆転できると思っているのだ。必ず奥の手がある。

―――ならば、

 

「……終わらせる」

 

正面からギレーヌの間合いに踏み入った。

 

 

 

「―――【光の太刀】」

 

 

 

瞬間、ギレーヌは木刀を振り抜いていた。

それは、音を超え光すら切り裂く必殺の一刀。剣神ガル・ファリオンが使用する、剣神流の聖級以上を修めた者のみに許された最強奥義である。

 

―――その結果は

 

「……私の、負けだ」

 

私が喉元に突きつけた木刀を見て、ギレーヌは負けを認めた。

 

(使った……■■の技を)

 

一対一の戦闘で、初めて。本人に止められていたシャンドルとの戦闘はともかく、それ以外の一騎打ちやパウロとの模擬戦では使ったことなどなかったのに。

 

「……ありがとうギレーヌ。強かった」

「ああ。こちらこそ感謝する。――私もまだまだだな」

 

ギレーヌも、何か得るものがあったようだ。なんだか、いい顔をしている。

 

「ブラボー! 素晴らしかったよ二人とも!」

 

フィリップが私達に称賛を送ってきた。

 

「流石は、その歳で北帝となり、戦場で会えば直ちに死ぬと傭兵達に恐れられる【直死のシキ】だ。まさか剣王であるギレーヌに勝ってしまうとは。その看板に偽りなしだね」

「……ありがとう。ギレーヌ、強かった。もしかしたら、負けてたかも」

「ハハハ。気に入ったよ。パウロに連れてこいと言っておいて良かった」

 

フィリップは本心で私を褒め称えているようだ。悪い気はしないが、この男は間違いなくやり手だ。直接害されることはないだろうが、知らないところで利用されたりするかもしれない。それで、こちらが被害を被るようなことは避けたい。警戒するに越したことはないだろう。

 

「……少し、休憩してくる。ギレーヌ、フィリップ、様。また後で」

「ああ。ゆっくり休んでくれ」

 

そうして私はその場を離れた。

 

 

 

 

 

「……やはり警戒されている、か。ギレーヌを上回る戦力に、これ程の頭脳も持ち合わせているとは。やはり気に入ったよ。フフフ……」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

その夜、私はギレーヌとともに、高台からロアの町を監視していた。

 

「……ルディ達、遅い」

「ああ。何かあったのかもしれない」

 

流石にロア全域の気配を探ることはできないが、ルディには無詠唱魔術がある。問題があれば容赦なく使用するだろう。

そうなれば、必ず目立つ。今はそれを待つしか―――

 

――瞬間

 

 

     『ドォン』

 

 

空に大きな花火が上がった。

 

「……ルディだ」

 

瞬間、全速力で駆け出した。

 

「おい! シキ!」

 

後ろからギレーヌもついてくるが、私の方が速い。

ならこのまま私が先行して迅速に終わらせ、もしもの時の取り逃しはギレーヌに任せるか。

 

(【直死の魔眼】、【浄眼】開眼)

 

左目を開く。再び、視界を死が埋め尽くす。

 

(ルディは――いた)

 

花火が上がってまだ1秒程度しか経っていない。花火で気を引いて、捕まっているお嬢様を救い出す算段だったようで、賊に向かって駆け出していた。だが、相手は剣士だ。ルディが行くより、私が行ったほうが良い。

 

「……ルディ、下がって」

「――え?」

 

 

「【閃鞘・七夜】」

 

 

剣を持った賊二人の()をなぞり斬り、肉塊に変えた。

そして、落ちそうになっていたエリスを抱き止め、返り血のつかないように下ろす。敵の気配がないことを確認し、再び左目を閉じて魔眼を解除した。

 

「――シキ! どうなった!」

 

ギレーヌが見覚えのある男を引きずって現れた。確か、初めて屋敷に行ったときもいた使用人だったはずだ。

 

「……二人とも無事。賊は始末したこの2人だけだと思う」

「そうか。よかった」

 

ギレーヌが安堵の息を吐く。

 

「ギレーヌ!」

 

エリスはギレーヌを見て安心したのか、ギレーヌへ走っていった。

 

「……ルディ、大丈夫?」

 

俯いたままのルディに声をかける。

 

「……ルディ?」

 

返事がない。

 

「ルディ」

 

肩を揺さぶる。

 

「――し、シキ」

 

顔を上げたルディは酷い顔色だった。

 

「……話は帰り道で聞く。帰ろう」

 

早く休ませた方がいいだろう。

そうして、私達は帰路についた。

 

 

 

「――エリス!」

 

屋敷に着くと、フィリップがすぐさま駆け寄ってきた。

 

「随分遅かったじゃないか――何があった?」

 

フィリップはすぐさま状況を理解し、私達に問う。ギレーヌは、捕まえた使用人の男をフィリップにつき出した。

 

「フィリップ様!! これは、違うんです!! 誤解なんです!!」

「そういうことか――連れて行け!」

「フィリップ様! お許しを! フィリップ様! フィリップ様ぁ!!」

 

使用人が衛兵に連れて行かれた。後に処刑されるだろう。

 

「――家に帰るまでって約束だったんだから、もう喋ってもいいわよね」

「ああ、はい。もういいですよ」

 

ルディは暗い顔をして、来た道を引き返していく。

 

「……ルディ、どこへ――」

「待ちなさい!」

 

私の声を遮ってエリスが声をあげる。

 

「特別に、エリスって呼ぶことを許してあげるわ! 特別なんだからね!」

「――ってことは、つまりオッケーってことですか? ここで働いてもいいってことですか?」

「フン!」

「ありがとうございます。エリス様」

「様はいらないわ。エリスでいい。そこのアンタも、助けてくれたし、特別にエリスでいいわよ」

「……わかった、エリス」

 

私も正式にエリスに認められたらしい。

ルディは微笑んで、エリスの後についていく。私も、その後を追った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「昨日はお手柄だったね。ルーデウス、シキ」

 

翌日。私とルディはフィリップと話をしていた。私はギレーヌとともに傍に控え、ルディとフィリップはボードゲームをしながらであるが。

 

「いえ、すみません。僕のせいであんな事件に。――しかし分からないのですが、エリス様はまだしも、なぜ僕まで攫われたのでしょう?」

「グレイラット家の血筋ともなると、いろんな使い方があるんだよ。政治的にも、肉体的にもね」

「はあ……」

「ところで、分かっているね? くれぐれも……」

「ええ。分かっています。"ギレーヌとシキがやった"ですよね?」

「ハハハ、よろしい」

 

事件はすべて、私とギレーヌで解決したことになった。ルディが報われないのは納得いかないが、グレイラット家に北帝と剣王が招かれているのを知らしめ、家の強さを誇示するとともに、ルディを他のグレイラットの者から隠すのだそうだ。確かに、今のグレイラットの情勢からして、ルディをフィリップが囲っていると思われれば、ルディが権力争いに巻き込まれる。それは望ましくないだろう。

 

そんなことを考えている隙に、フィリップの嫁ヒルダが来たが、ルディに舌打ちだけして帰っていった。いったい何だったのだろう。

――そして、

 

「パウロの息子はここか?!」

 

大きな声とともに現れた勇ましい男。恐らくフィリップの父だろう。

 

「はじめまして。ルーデウス・グレイラットです」

「うん? ――フン。パウロの息子にしては礼儀正しい。この館への滞在を許す」

 

尊大な態度を崩すことなく、男はそのまま椅子に腰を下ろした。

 

「ルーデウス様、そちらは現フィットア領主のサウロス・ボレアス・グレイラット様にございます」

「私の父上だ」

 

執事のアルフォンスから紹介があったサウロスは、やはりフィリップの父だった。見たところ、どちらかというとエリスに似た性格のようだ。

 

「エリスを助けてくれたらしいな」

「あ、いえ、僕ではなくシキとギレーヌが……」

 

先程の約束通り、私とギレーヌの手柄にしようとルディが口を開くが、

 

「貴様、このわしにウソをつく気か?」

 

サウロスの逆鱗に触れたようだ。威圧感たっぷりの瞳でルディのことを睨みつけている。

 

「い…いえ、フィリップ様がそう言えと――」

「む? ――フィリップ!」

「はい、父上」

 

ルディが正直に話すとサウロスはフィリップを呼び出し、

 

『バギィ』

 

「貴様ァ! 娘を救ってくれた恩人になんという扱いだ!」

 

思いっきりぶん殴った上に、殴り飛ばされたフィリップに怒鳴りつけた。しかし、フィリップは冷静に起き上がり、

 

「父上。ルーデウスはグレイラット家の血を引く者。うわべだけの礼などよりも家族として温かみのあるものを与えたいと考えております」

「フン。考えがあるのならよい」

「ありがとうございます」

 

そんな会話が続いた。

なんだろう。少し奴隷時代を思い出すような会話だったせいか、胸がモヤモヤする。……後でギレーヌと一試合するか。

 

私がモヤモヤしていると、ルディがサウロスに呼ばれ、何かを話していた。どうやら、エリスが魔術を習いたいと言っていたそうだ。

 

「――それは、エリス様本人が僕に言うべきかと」

「何だと!」

「た、頼み事はしたいけど頭を下げるのは嫌。そんな大人に育てるおつもりですか!」

「――ほう。言うではないか。……その通りだ」

 

物怖じしながらも、きちんと自身の意見を述べたルディに、サウロスは少し感心したような顔をして、

 

「すぅ〜……エリィス!!!」

 

とんでもない大声を出した。下手したら戦場で見た獣人の使っていた【声の魔術】レベルだ。どんな肺活量をしているのだろうか。

 

「おじいさま! お話していただけましたか?」

 

エリスが部屋にやって来た。

 

「エリス! 頼み事をしたいのなら、自分の頭を下げろ!」

「そんな…! 頼んでくださると言ってくれたのに」

「エリィス!」 

 

なかなかあんまりな内容の会話だった。サウロスは普段からこの態度らしい。

 

「お、お願いしま――」

「それが人にものを頼む態度か!」

「くっ……」

 

エリスが腕を組んだままルディに頼もうとしたが、サウロスに一喝される。なるほど、乱暴だが筋は通す人間なのか。

――そして、

 

「え…エリスに魔術を教えてくださいニャン!」

「……え?」

「――は?」

 

思わず私も声が漏れてしまう。ルディがシルフィを男だと思っていたと知った時と同じだ。脳が情報を処理できない。

 

 

「おお~、おお~。それじゃそれじゃ。もちろんオッケーじゃよぉ。なあ? ルーデウスや」

「もっと腰を突き出さないとダメじゃないか」

 

何故サウロスとフィリップはアレがさも当然のように振る舞っている? 少なくとも私が覚えた礼儀作法の中にあのようなモノはなかったハズ……

 

「旦那様方は大の獣族好きでして。あれは垂れた耳を模しているのでございます」

「――読み書き算術は要らないニャン。魔術だけでいいニャン」

 

……もう、色々とカオスである。

 

「――それが、人にものを頼む態度かー!!」

 

ルディの叫びに、心の底から同意した。

 

 

――こうして、無事私達は家庭教師として認められることとなった。

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