「全く……あのタヌキ、今度は何を考えているのでしょうか……」
「私にだってマコトのことはわからないわ。でも、雰囲気はいいし、楽しめそうではあるわね」
「こういうところの手腕があるからこそですよねぇ……ほんと、あのタヌキは……」
私……天雨アコは、風紀委員長……空崎ヒナ委員長と共に、風紀委員代表として、それなりに着飾りながら、パーティに参加しています。
ある日、ゲヘナの生徒会とも呼べる、『
とにかく、犬猿の仲とも言える我々らしく、またも無茶振りが飛んできているのです。これにはいつも通りに処理しようとしたヒナ委員長も閉口すると思われましたが、どうにか今日までに仕上げてきたということで、凄まじい才能というのはこうも応用が効くのかと驚いています。
っと……ヒナ委員長が、なにやら見つけたようですね? 足を止めました。
「……あれ? ……んん、見間違いかしら……?」
「どうなさったんですか、委員長?」
「……アコ、奥のテーブルにいる背の高い女に私はすごく、そうすごく見覚えがあるのだけれど」
奥のテーブルで、ワイングラス(しかし今日提供されるドリンクはすべてジュースなのですが、こうも雰囲気が出るのですね)を揺らす1人の女……。見まごうわけはありません。
「あの……委員長。帰ってもよろしいでしょうか? 私、アレと関わり合いにはなりたくないです」
「許可しないわ……私だって、ひとりは嫌。アレに会ってしまったんだもの……声をかけない訳にも行かないわ。道連れよ」
「そんな……!」
歩んでいく。その先で、彼女もこちらに気付いたのか、ワイングラスをテーブルに置き、優美に一礼して見せた。
「おやぁ……? おやおやおや? これはこれは……お久しぶりだねぇ、ヒナぁ……」
「……ほんと、久しぶりね……なにしてたのかしら? 『ミコ』……」
『
「いやぁ……まず、失礼して」
ミコさんは、なにか酷く驚いた様子を見せたあと、私の前で2礼2拍手1礼……いや、これ私に対してやってるわけではなく……!
「眼福で、ございます……いやほんとなんだいそれ? ついに横乳だけじゃ満足できなくなって谷間まで行ったのかい? いいねぇいいねぇ、もっと出してこうよ。嫌いじゃないよ、私はそういうのさぁ……」
ノータイムセクハラ。私の胸を神か何かだと思っているのでしょうか、彼女は百鬼夜行式の参拝を私の胸にやりやがりました。その後も溢れ出る言葉言葉言葉ことば。
そして、ヒナ委員長にすっと目をやると目がすぅっと細まり……
「そしてヒナも随分と着飾ったねぇ? 『雛』なんて言うには些か色気が引き立つ衣装じゃあないか! いいねいいね、この場合に限っては『ない』のが『イイ』ね……っ!」
『ない』のタイミングで私の胸をガン見してくるこの女をどうしてやろうかと思案しつつ、ヒナ委員長の言葉を待つ。
「……まあ、一応褒めてるのよね?」
「あぁ! 私の褒め言葉の辞典には普通の褒め言葉は載ってない……えっちだね、か、うおでっか、だよ」
「それを辞めないからマコトに投獄されたのではないの?」
ミコさんはそのまま流れるように、呆れたよ、と一言言ってから。
「いいじゃないか、無知ロリに正しい性知識を教えたところで何れ知らなきゃいけないんだからさぁ……」
「「
同じタイミングで思わず声を出してしまいますが、仕方ないと思います。私ですらさすがに、これは例えあの万魔殿の生徒が割を食っていると言えども可哀想……そんな気持ちになったのですから。
「にしてもさぁ、またあのマコトにしてはいいことやるよねぇ」
「……というと?」
「聞いてるよ? ヒナちゃあん……やるんだろ、ピアノ。私も出し物があるから聞いてる……ヒナちゃんの前だよ、私の出番は」
そうして、ゆったりとミコさんは、ヒナ委員長のことを見た。
「マコト、気付いてんのかなあ。この場でヒナちゃんを呼び立ててピアノやらせんのが誤解を受けることになるって」
「……どういうことかしら」
「いやあ……だってそうだろ? マコトの企画した一大パーティのメインの出し物が風紀委員長、だなんて。関係の改善のアピールかなんかだろ、どう考えても。その実が嫌がらせだとしても、上手いことやるだろうからヒナちゃんの名声ばかり伸びるんじゃねぇ?」
そうやって笑っていたミコさんは、そろそろ支度があると告げてバックステージに入っていった。
ちなみに、ミコさんが披露したのは山海経に伝わるという伝統の舞踊でした……やけに真剣な顔でしたが、普段からそう言う顔と態度で動けないものでしょうか?
私はミコ。誇り高きゲヘナ3年生、山海経所属では無いミコだ。元は山海経だったけど、とある件で折り合いがつかず、申谷カイ、と言う私の大親友と共に出奔。カイは在野に潜み、私はゲヘナに通い出した過去を持つ。
私がマコトにある日突然拘束され(ゲヘナのためだ、分かってくれよミコって言われた。何が何だかわからんけど大事になってるのは分かったよマコト)、何ヶ月かも分からない抑留を受け、外界とシャットアウトされている間、色々なことがあった、らしい。
マコトが言うには、エデン条約なる条約を結ぼうとして結果的によく分からないことになっただとか、異世界からの侵略者が世界を窮地に陥れただとか。
いや後者は私も戦力としてカウントしろよ。こんなんでも『キヴォトス最速』なんだぞ私は! と言ってやったが、マコトはなにやら後ろめたそうな顔をしていた。
「キキキ……すまん。マジですまん。色々ごたつきすぎてお前の存在をゲヘナの誰も思い出さなかった」
「ウッソでしょっ!!?」
「終わってから『先生』が言ったんだよ……そういえば、ゲヘナには『最速』の名を持ってる最強がいるって聞いたって。で、そのタイミングで全員思い出した。我々はもっと楽にサンクトゥムを討てたということがハッキリした瞬間だったぞ、あの瞬間は」
なにせ、とマコトは申し訳なさそうに、だが面白そうにというふたつの相反する感情でもって語る。
「なにせ、あの空崎ヒナですら脱力したほどだからな……なんで気づかなかったのかしら、なんて言ってたぞ」
「…………拘留位置の問題、じゃねぇかなぁ。マコトちゃん?」
「……いや、さすがにヒノムの麓に閉じ込める専用の地下つきの家作ったのは不味ったと思ったさ。だが、仕方ないだろう!? お前が脱獄しようものなら諸方面に大変なことになるんだから!!」
マコトと軽口を叩きながら歩むが、私は別に万魔殿所属って訳じゃあない……じゃあどこ所属って? どこにも所属してないが??
「いつまで貴様ひとりで活動を続けるつもりだ?」
「いやぁ……私の趣味は人様付き合わせられないよ。毒も薬も悪いものは全部弾いちゃう私の身体、これありきでやってるんだから」
「ふん……気が向けば万魔殿に加入することも許す。好きに来い」
「ま、ないだろうけどねぇ」
体質……『体に悪影響を与える物質を体内に取り込んだ際、その悪影響を無力化する』特異体質。おかげさまで、私は今も趣味を楽しめてる。これのおかげで、依存性も副作用もなにもなく、私はキモチイイ部分だけを楽しめるんだからね。
「んふふ……あ、マコト。一発いい?」
「……は? あぁ、『アレ』か。やめておけ、イブキの教育に悪い」
『メメントラル』。最近ブラックマーケットで流通するようになった麻薬の1種(我が親友カイの作品)に私自らさらに手を加えたマッドコピーの逸品のリキッドを紙に染み込ませ、噛み締めて服用するタイプにした超劇薬だ。通常の人間がキメれば脳内のリミッターを外し、強い依存性と身体中を破壊し尽くして回る副作用で全身を粉々にされるだろうが私がキメる分には話が別だ。
ただむちゃくちゃキモチイイだけ。素敵だろう? それに値段もそんなにしない……そもそもメメントラルの生成者は私だし、カイ生産の薬品は全部連絡さえつけば貰えるからね。
「で、これどこに向かってるわけ?」
「今日はなぁ……ヤク中のお前と先生を引き合わせようと思ってなぁ。連れてきたぞ、先生」
『ありがとう、マコト』
扉を開くと、白コートに身を包んだ大人の女性がこちらに手を伸ばしていた。
「君がミコだね。……私はシャーレの先生、『未空凛』。これからよろしくね」
「んん……エッチな身体つきだ」
「……ん?」
開幕、口からまろびでた言葉をどうか責めないでいただきたい。
何度も言うようだが、私の辞典の褒め言葉は「えっちだね」か「うおでっか」しかないので。
ダメ? あぁそう……だめなんだぁ。へぇ……辛っ。