自由にヤクキメてもいいって、幸せじゃない?   作:ふぃーあ

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キヴォトス最速の矜恃(教示)

「んじゃあ……さぁ……始めようかぁ。イオリちゃん」

「よろしく頼む、ミコ教官」

「じゃ、ルールを伝えるよ」

 

 そうして、ミコは絶対者故の傲岸不遜にてこう言い放つ。

 

「『1発でも当てれば君の勝ち』。そして、『君は意識が持つ限り何度でも立ち上がればいい』……やって見せろ、銀鏡イオリ」

「な……!? 慣れないスナイパーを使って、そのルール!?」

 

 模擬戦闘、銀鏡イオリVS夜久野ミコ。変則ルールとして、夜久野ミコは一撃被弾した時点で敗北。銀鏡イオリはその意識を失うまで、もしくは降伏宣言をするまで敗北とされない。

 

 有り得ざるルール、しかしながら彼女はこう言って笑う。

 

「はっ、舐めるなよ銀鏡。知らぬようならその身をもって教えてやる……キヴォトス最速たる私の速さを」

「……行くぞ!!」

 

 自分の勢いを十全に乗せたバックステップをイオリは初手に選ぶ。初速は十分、二歩目を刻んでさらに後退しつつ、飛び退く勢いで撃……

 

「遅い」

「がっっっ!!!?」

 

 たれた。額を、正確に、模擬弾で。私の目前に立つミコは、私がステップした距離と、最初に離れていた10mほどの距離を、私がステップした瞬間に詰めきったのだ。

 

「立て……お前もスナイパーなら、見る目くらいはあるだろう。盗んで見せろ、戦う中で」

「……やってやるッ!!」

「それで、いい。来い」

 

 

 

 離れていた2人は、その光景を見て絶句していた。

 

「行政官……アレ、見えましたか?」

「私は見慣れていますので、微かには……しかし、あの速度はやはり凄まじい」

「見慣れている……?」

「アレは、万魔殿のタヌキが入れ込む特級戦力なのです。……ヒナ委員長と単独で渡り合える、ゲヘナ唯一の特記戦力……それがキヴォトス最速、夜久野ミコ」

 

 遠目に見ていると、イオリとミコが同時に地を蹴り、ミコがイオリのステップ先に瞬時に到達したようにしか見えなかった。それは、如何にしてなされているか。アコは、幾度もの過去のヒナとの邂逅、対戦を最も第三者目線で見てきた。故にこそ、既にそのカラクリを見破っていた。

 

「読んでいるんです。追随しているんじゃなくて、読み。ミコの集中力、視力はキヴォトスでも屈指。筋肉の動き、相手の微かな癖、ステップに入る前の足の向き……そういった要素をすべて観察し、身体中の細やかな『予備動作』を見切ることで、ミコは相手の先手を取る。強いて言うなら、先を譲って奪い取る、後手から先手を奪取する。それが、キヴォトス最速のカラクリのうちのひとつなんです」

「それは……真似、できるんですか?」

「イオリならできる、ミコはそう判断したのでしょう。……感覚的な部分において、イオリは確かに才能があるはずです」

 

 天雨アコは、イオリを信頼している。風紀委員の仲間として、次代を託す者として、そして、単に友人としても。

 

 

 

 戦闘は続く。イオリのステップ先に予測じみた挙動でステップする、というタネを、すでに4度も弾を身体にブチ込まれたイオリはその身で理解していた。

 

(なにがなんだかわからない……でも、『読まれてる』。確実に、ミコは私の行動を予測して、私と同時に動いてる。だから、先手を取っているはずなのに後手にされている……どうすればいい?)

「見えてくるものがあるだろう、銀鏡。観察し、直感し、洞察し、そして視点を変えろ。道はその先にしかない」

 

 次の瞬間、また撃ち込まれる弾丸。蹲る。立ち上がって……ミコに言葉を投げかけた。

 

「教官! 一時中断を要求する!」

 

 ミコはその顔を変えず、問い返す。

 

「何故? 辛くなったか、逃げ出すのか」

「違う! そこの映像を確認し、アコちゃんやチナツちゃんと解析する……! 視点を変えさせてもらう!」

「……ふふふっ、正解だ。良いだろう。時間をくれてやる……再開はそちらから声を掛けてくれ、コーヒーでも買ってくる」

 

 くるりと背を向けて、ミコはその場を離れ、コーヒーを2つ購入。そして、ヒナの元まで歩むと、ヒナの肩を軽く叩いた。

 

「なにかしら」

「イオリちゃん、ついに気付いたよ。頼れるってのは、偉大なことだ。……次代は明るいかもよ」

「……そうだと、いいわね」

「ヒナちゃんも不器用だからここら辺の話は耳が痛いって感じかなぁ?」

「……まあ、そうか……な? うん。たぶん、そう」

「あしらいが雑だよ、ヒナちゃん」

 

 そう言って、ポケットの缶コーヒーを押し付ける。

 

「どっちがいい? アイスかホット」

「アイス」

「はいはい」

 

 お互いに、かしゅっと缶を開け、グイッと一口。

 

「あっつ」

「しみいるような冷たさ……」

「ヒナちゃん子供体温でぽかぽかって訳?」

「子供じゃ、無い……ッ!!」

 

 地雷を踏み抜いたミコに、ヒナが蹴りを繰り出し、ミコが飛ぶ。ブンッッという音にミコの肝が冷える。とんでもないスピードのローキックだった。

 

「あ待ってその蹴りはシャレにならない」

「避けないで……次は当てるから」

「弾も当たらないのに?」

「……あとで、風紀委員に模擬戦を見せてあげようかしら。相手頼める?」

「……そうなるよねぇ……いいよ。半年ぶりだから、なまってないといいけど」

 

 遠回しに後の喧嘩を約束して、ミコはこれまたくるりと背を向けて歩いていった。

 

「あー……舌やけどしたかな?」

 

 ぼやくミコの口元は、楽しげに緩んで。

 

 一方、イオリたちは映像を精査しながら、アコの解説を聞いていた。

 

「やっぱりか……なら、対策はある」

 

 解説を聞いた上で、イオリは次の引き出しをミコに開けさせるための準備が出来た、と言い切った。

 

「たぶん、ミコ教官? 先輩? まあとにかく、ミコ教官は、今日見せた技の中に全部を隠してる」

「……と、いうと?」

煙幕手榴弾(スモークグレネード)だよ、チナツちゃん

 

 ミコの『未来予測』とも言える技の対処。それは単純に見えなくしてしまうことだった。

 

「後手から先手を取る、というのは、あくまで先手の『二手目』が見えている前提なんだ。だから、先手がスモークグレネードをチョイスした時点で、二手目の予測は観察ができなくなって『勘』に依存する」

「なるほど。しかし、イオリ。あなたも煙幕内での戦闘は難しいのでは?」

「うん。でも、映像を見てて気付いた……たぶんミコ教官は、私に新しいスタイルを教えるつもりだ」

 

 イオリは、見抜いた。最速の狙いを。そして自分の誤認識を。

 

「スナイパーによる、ステップ突撃。私の基本スタンス……けれど、私の得意レンジは中距離(MIDDLE)だ。だから、細かいステップでミドルレンジに残り続ける戦闘スタイルを選んでる。だけど……ミコ教官のスタイルは前線(FRONT)。スナイパーで前を張る、特化スタイル。私の上位互換のように見せておいて、本質が全然違う……だから、そのレンジに引っ張られて、負けるんだ」

「イオリはどうするつもりで?」

「簡単なことだよ、アコちゃん……チナツのやってたことをやる」

 

 チナツが、その言葉に首を傾げた。心当たりがなかったから。

 

「あの人の絡みは『呆れて笑って、放置する』。ようは、あのスタンスはカウンタースタイル。見せられてたんだ、ずっと。アレを手本にして、ミコ教官を『迎撃する側』に立つ。それが私のやるべきことだった」

 

 そう、イオリが地に転がされ続けたのはすべて、イオリが先手を取ったからである。イオリが先手を選んだが故に、イオリの先手を後手から捲り返して取り返しのつかない有利をつける、というスタイルに噛み合ってしまっていたのだ。

 

 自分は挑戦者である、という焦りがあったことは否定しない。自分のスタイルを貫く、というこだわりがあった事はなお否定できない。

 

 視点を変える。挑戦者でありながら、待つ。自分のスタイルが相性が悪いから、相手のスタイルを真似る。柔軟な思考こそが、勝利への鍵だと、イオリは確信していた。

 

「さあ、教官! 次からは、もう少しマシにやってみせるぞ!」

「ふふふふふっ……おやおやおやおや……随分、いい面構えになったじゃあないか。これは、目覚めたかな? んふふ……では、試してやる」

 

 訓練は、終わらない。

 

 

 

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