自由にヤクキメてもいいって、幸せじゃない?   作:ふぃーあ

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伝えゆく立場、伝聞する存在

「……」

「ほう……」

 

 始まってから、油断なく、なれど動かない。イオリのその姿を見た私は静かに感嘆した。

 

 ふたりの助言、映像記録、しかし導き出した結論を用いた度量は確かにイオリちゃん本人の資質。より強くなるには、個であれば良いかといえば、その言葉には否と返すべきだというのがこの私の持論。

 

 それが出来てしまう者もいる。しかし、出来てしまったが故に、風紀委員は今のように脆くなったのだと。私は敢えて出来てしまった彼女にそう思う。

 

「んん……でもさぁ。この速度が見えた訳じゃあないなら、無意味だよねぇ……どう出る?」

 

 とっ、と。1歩で加速。

 

「……見えた!!」

「ッ!!」

 

 急転身、身を深く屈め、半身となってギリギリ弾丸をかわし、もう一度前方へ突き抜ける加速。確かに銃弾は私の身体の、左側を貫く軌道で飛んでいた。まだ、完全に『見えている』わけではない……だけど、間違いない。

 

 イオリちゃんはやはり私の勘通りいい目をしていた。まさか、たったこれだけで未来予測の入口に到達してしまうなんて! ありえない、ありえてたまるか! 

 

 私がそこに至るまで何年かけたと思ってる! 私の幾年かはイオリちゃんとアコちゃんとチナツちゃんの20分そこらに追い付かれている!! 

 

 それは、それはなんて……! 

 

「素晴らしい……ことなんだろうねぇ!!」

 

 喜びを発露、本気の加速でイオリちゃんをブチ抜くスピードを出し、背後に回り込む……やはり、こちらの位置を察知できている! 最高だ、あぁもう! あとは身体が追い付けばいい、身体を追い付かせるためには……

 

「ッ!!」

 

 身体が考える、と。私はそう呼んでいるその現象。無意識下に刻みつけた感覚と才能、その総算が体を突き動かす。理論的に、本能を振るう技。故にこそ、頭脳分のリソースが空き、そのリソースを未来を見ることに充てることができるようになる。

 

「終わりにしよう……!」

 

 まだ、その段階に至るには彼女は足りない……そう思っていた。

 

 振り向くことすらなく、その足を全力で後ろ蹴りに用いたイオリちゃんの姿が、至近距離まで接近した私の目に入るまでは。

 

「ナメるなぁーッ!!!」

 

 瞬間、私の身体が考える。認識している、身体を動かせるか、間に合わない、体軸が動かない、腕は動く、スナイパーが腕を塞いでる、落とせばいい、タイミングを合わせろ。

 

「見切った」

 

 静かに、そう言い放った時には、イオリが地に伏せていた。

 

「……カウンター、かぁ」

 

 イオリちゃんは、それでも自分が何をされたのか、認識していた。

 

 後ろに真っ直ぐ突き出された足を、左手に握っていたスナイパーライフルを手放して叩き右側に逸らし、その逸らした足を右腕で掴みあげてもう片方の支えたる足を刈り取る。

 

 体術、と分類されるものの内で、こと受け流しという部分において、私を越えるものはゲヘナにそうはいないという自負を持っているのだが、使わされるとも思っていなかった。

 

 そして、この勝負は一瞬の攻防故に気づかなかったけれども……

 

「私の……「銀鏡」……?」

「よくやった。お前の勝ちだ……確かに模擬弾は掠めとはいえ、私の腕を傷つけていた。……避けきれてはいなかったようだ」

 

 コートが裂け、腕から微かに血が出ていた。模擬弾をどれほどスレスレで避けさせられたか。それほどに余裕がなかったという話であり、そこまで至ったイオリの技あり、というものである。

 

「……いつか、ちゃんと一撃当ててやる。卒業までにな」

「期待して待っていよう……さて、ここからは教官ではなく、ミコとしての言葉だけど」

 

 思考を切り替える。いつもの私に。教官なんてやっぱやるもんじゃあない、とりあえずそれっぽさを出すためにマコトが戦車部隊の指揮やら訓練をしている時の真似事でやってみただけなのだ、私の教官仕草は! 

 

 マコトのくれた、『パーフェクト上官 -君も今日から優れた指揮官-』なる一見信用出来ない本は、どうやらマコト自身が1度読んだようで、ところどころにマコトが読んだなりに思った感想や実際に行った際の反響などが付記として記されていたので、大変参考になった。マコト、裏がすっごい真面目なんだよねぇ……それを表に出せば少しはゲヘナ生にも慕われると思うのだけれど。

 

 ではなくて。イオリちゃんに、ミコとしてかける言葉があるのだった。

 

「おめでとう、イオリちゃん……君はぁ、今確かに壁を一つ越えたぁ……普通の最高峰、から異常な強さの者たちの麓、って訳さ。私の予測、それにカウンタースタンス……あとは、ステップだね。より力を十全に伝えるステップ法は、今度じっくり教えるよぉ……イオリちゃんはぁ、前線から中衛までを自在に飛び回る切り込み隊長になれる。その資質は極めて高い……だからぁ、強く、つよぉく、なってぇ……」

 

 イオリちゃんに、笑ってみせる。その後ろにいつの間にか佇んでいた彼女に、言葉の続きを促しながら。

 

「私の跡を、十全に追えるようにして欲しいわ。……よく頑張ったわね、イオリ」

「委員長……!?」

「向こうはどうしたのぉ? ヒナちゃぁん」

「私とあなたがやり合うのだから、見せた方が得……規定分やらせたから、集合させてる。イオリ、よく見ておいて。参考にならないかもしれないけど……あなたが戦ったバケモノの本気を見せてあげられると思う」

 

 

 

 人が集い、盛り上がっている。私もヒナも当惑していた。

 

「なんでこうなってるの……?」

「キキキッ! それはなぁ空崎ヒナァ! このマコト様が集めたのだ!」

「あ、マコト……そうなんだぁ。君がこの百合系大〇交パーティくらいの人数を集められたことに驚きだよぉ……」

「しれっととんでもないものを引き合いに出すな、ミコ……とにかく、ゲヘナの誇る2大最強が模擬戦をするとなれば盛り上がるのは必定だ。この期を逃すマコト様ではない……むしろイベントにしてやろうと思ってなぁ」

 

 どうやら主犯はマコトのようだが、私は裏を感じていた。強いて言うなら、「ヒナに嫌がらせしたいならもっとやれることがあるだろうから……」の文脈なのだが。

 

「ねぇマコトぉ……人を呼んだってことはポスターか何か使ったのぉ?」

「いや? 万魔の手のものを使って各種SNSで発信をな」

「……で、私の所属どこって扱いにしてるのかなぁ?」

 

 マコトはその言葉にクククッと楽しそうに笑った。

 

「本当に聡いな、ミコ。お前の言う通りだ。お前の所属は万魔殿というふうに拡散している……その方が、万魔と風紀の対決、というので面白みもあるだろうからな」

「ほんっとさぁ……これ、私が断れないやつじゃないかぁ」

「……どうして断れないの?」

 

 ヒナの疑問におや、と言わんばかりの顔をしたマコトだが、あぁまあ、と手を打ってから説明を始める。

 

「空崎ヒナには告知していたから分からんところか。教えてやろう……そこのミコはしばらくの期間私に幽閉されていたわけだが、それを告知されていたのは風紀委員と万魔殿の幹部生徒のみだ。それは不必要な混乱を避けるためであり、ミコとトリニティの不和によるエデン条約の妨害を避けるためであったわけだが、では空崎ヒナ。コイツの出席情報、どうなってると思う?」

「……マコト、もしかしてだけれど……留年をチラつかせてミコに自分の願いを聞かせようと……?」

「キキキ……その通りだ。コイツ、他のことはなんでもやってくれるのに万魔殿に籍を置け、という願いだけは聞かなんだ。ならば、公の場で万魔殿所属としてしまい、後から事後承諾せざるを得ない事情と挟み撃ちにしてやればいい」

 

 私もそれに頷いて追随する。

 

「本当にろくでもないよねぇ……ま、今回はどうしようも無いところまで来ちゃった、って感じかなぁ。年貢の納め時、ってやつぅ? それにぃ……マコトちゃん、実は滅私の人なんだよねぇ」

 

 ヒナがその言葉に首を傾げる。無欲、という言葉が類義語に入りそうな『滅私』という言葉はマコトに不釣り合いに思えるだろうか? しかし、その実マコトは不思議なモノである。

 

「マコトちゃんはさぁ……なぁんでも、ゲヘナのためになるならやっちゃうんだよぉ。大バカかもねぇ、でも大バカでも確かにマコトちゃんは生徒会長なんだ。ゲヘナの益になることを求め、ゲヘナの不利益を排除する。そこに、自分に関する損得勘定は入ってない……不思議なことにね」

「じゃあその……なんで嫌がらせみたいな……」

「マコトぉ……まーだ言えてないのぉ? 以前から言って、って言ってたじゃぁん。私から言ってあげるよぉ」

 

 そう言い放った途端、マコトが慌てる。

 

「待て、やめろ!? 謝る、割と真面目に! 黙っててくれないか!!?」

「だけどぉ、断るっ!」

 

 バッサリと断ってから、私は高らかに宣う。

 

「マコトちゃんはねぇ、可愛いことに君が羨ましくて、怖くて。仕方なかったのさぁ……」

「……私が、羨ましくて、怖い?」

「当たり前だろう、君自覚あるようでないよねぇ……ゲヘナ屈指の人望、最強と呼ぶべき武力を併せ持ち、風紀委員会をほぼワンマンで動かしている……君の現状は概ねこうなわけだけどぉ……じゃ、これをマコト目線で見れるかなぁ?」

「……なる、ほど」

 

 そう、マコト目線からヒナのことを考えるならば、こうなのだ。

 

 自分を超えるほどのカリスマ性と、ゲヘナでは正義として罷り通る純粋な暴力をかねそなえ、治安維持組織を取り仕切る自分の座を脅かし続ける女傑。

 

 それが、マコトから見た空崎ヒナであった。蹴落とさねば、いつ自分が食われるかも定かでは無い、自身が統治するゲヘナにとって最悪の敵になりかねない存在。それが空崎ヒナ。

 

「……それで、嫌がらせなんかしていたの……?」

「空崎ヒナ……お前は、自分にもう少し自覚を持つべきだ。このマコト様を存在するだけで脅かし続けているのは、事実。お前が動くだけで、万魔殿は簡単に制圧される……あぁそうだ、お前が暴力に走るだけで我々の統治は覆されるのだ。だから、お前にその位置に居て欲しくなかった。それだけのことだ。……笑うといい。このマコト様を、小心者と嘲り笑うがいい」

 

 マコトはそう自嘲気味に笑ったが、ヒナはそれを真っ直ぐ見据えていた。

 

「笑わない。私だって、折れそうになったことが多くある。理由を聞いたら、ある程度は納得した。……許せないことも多かったけど……それは今から、発散すればいい。私だってゲヘナ生……暴れたい時だってあるから。用意してくれた場は遠慮なく使う、この後はまた話し合う。それでいいわ」

 

 

 ふと、ふとだ。私のことをすっかり忘れやがったマコトもいることだし、いい雰囲気になった二人の間をぶち壊してやろう、と私はふとそう思い立った。体に迸るぞわつきをそのまま口に出して……

 

 

「あはぁ……熱烈な『私のモノ』宣言、たまんないなぁ。性欲発散の道具にしてくれてもいいんだよヒナちゃん、君専用のマゾサド両対応全自動百合ロボットミコミコミーコなーんてねっ!」

「最悪だ、ミコ。大して決まってないあたりが終わってると思うぞ」

「別にあなたを貰っても少なくともそっちには使わないわ……」

「あは、貰いはするんだ」

「便利な戦力よね」

「ひどいなぁ、さっすが風紀委員長」

 

 総ツッコミを受けながらも、二人がなんとなくキレのあるツッコミを入れてくるのを楽しげに受け止めて、思う。

 

「なんというか、やっぱり二人は組んだ方が似合うねぇ。凸凹コンビじゃないけどぉ……私がマコトちゃんと組むより映える。……よかったよ、ほんと」

 

 茶化しながら、本心を表側にして私は2人に微笑んだ。

 

 

 

 それはそれとして、模擬戦は行われる。本気のヒナに、本気の私が挑む……勝てるかどうかはさておき、勝つ。

 

 ヒナちゃんに『本気で暴れたいから使わせろ』なんて熱烈なラブコールを貰ってしまった以上はそれはもうやるしかない。

 

「ひぃなぁ、ちゃぁぁぁぁぁんっ!!」

「……待って、初手麻薬使用済み!?」

「あ、バレた? そうだよぉ、今日は禁断の麻薬ブーストも解禁してぇ……ヒナちゃんに本気の中の本気出して暴れ狂ってもらおうかなぁー! ってさぁ! 心遣いだよ心遣い……くひひっ!」

 

 終幕:デストロイヤーと名付けられたヒナの愛銃がマガジンから装弾を開始する。私の《R-18G》も同様に、装弾済みで手中に収まっている。

 

『実況は万魔殿一般委員の私! 解説には万魔殿議長羽沼マコト様と風紀委員会行政官天雨アコさんをお呼びして行って参ります!』

「実況までつくんだぁ?」

「本格的にイベントね。こうなるとは思わなかったわ」

「うーん……ま、風紀委員会の子たちも見やすい位置に座れたようだしいいんじゃなぁい? ……始めよっか」

 

 二人の間に瞬間的に戦意が満ちる。

 

「……来なよ」

「そちらから来ればいいわ」

 

 静かな沈黙から、同時に地を蹴る。

 

「まずは、小手先」

「当たらないわ」

 

 前蹴りを、ヒナは踵回し蹴りで相殺。お互いにズレた体軸、立て直したヒナの銃から溢れた弾は、同じくして立て直した私の愛銃の放つ弾と空中でこれまた相殺。

 

「そうこなくちゃあ……くはぁっ……ふひっ」

 

 噛み締めた『メメントラル』から染みるリキッドが身体に回って行く感覚。『キマ』る、その悦びに頬を吊り上げて。きっと悪魔みたいに、私は嗤った。

 

 

 

 















予想以上に真面目に書いてる自分がいる。違うんだ。書くべきはこういうものじゃなくてそろそろガンギマリが書きたくてぇ……

赤ゲージをいただきました。ありがとうございます。あと何話かでまた真面目じゃなくなるんですがいいのかなぁ?
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