ギシ…ギシ…と歩くたびに降り積もった雪が圧縮される音がする
最早歩き慣れ、見慣れた通路だ。しばらく見る事は出来ないだろうから、少し寂しいけれど、そんな事を思いながら暗く街頭の明かりだけを頼りにそこへ辿り着く
以前彼からもらった合鍵を使う。ガチャリと小気味良い音を立てて鍵が開錠される。ドアノブに手をかけ音を立てず扉を開ける
リビングが目に入る。なんの変哲もなく、きちんと整頓されていた。彼は意外と几帳面なのだ。冷蔵庫へ目を向けると複数の付箋が貼られている
最近書いた物だろうか箇条書きで料理のレシピや手順が描かれている、もう一つのメモにも同じ料理が書かれているがコチラは違う
詳しく見れば内容が微妙に違うし、紙はくしゃくしゃで文字は乱雑、まるで何年も前に錯乱しながら書いた様なそんなメモだ
キッチンとリビングを後にして目的の部屋に向かう
音を立てぬ様に扉を開けその部屋に入る
どこにでもある様な部屋だった。多くの参考書やノート、果てには医学書まで。普通の学生ならば変に思うかもしれないがこの様な部屋は多少珍しいくらいで特段異変は見られない
ただ……古い
ほとんどの参考書や医学書は何年も前……数冊に至っては十年も前の物すらある。ここ数年に発売されたものもあるがその数は少ない
ノートの方に目をやる、中身は参考書の問題を解いたものや、自分なりの解釈と解説、思考のプロセスなどが書かれている。特に一年生と二年生の範囲の力の入れようは凄まじい、筆跡からするに最近も更新している様だ
彼の道中に必要な物なのだろうか
いやそこはいい、目的はここにあるはずなのだから。私が未だ知らぬ答えが
———彼にとっての責任の果たし方が
机の引き出しを開けて中をみる
そこには二冊の"ノート"、そして厳重に保管されたUSBメモリがあった
だが二つのうち一つのノートとUSBは近年触られた痕跡が無い、一つは最近も使われている痕跡があるが、こちらはまるで忘れ去られている様だ
ノートの内最近も使われた痕跡のある方の一冊を手にとって中を見てみる
どうやら各学園について実体験や絵を交えながら解説しているガイドブックの様だ、特にトリニティとミレニアム、それにアビドスについてはかなりの分量だ、最近も随時追加していたのだろう
ページを閉じて、さらに情報を得る為に二冊目も同じ様に手にとって見てみる
問題
ア→解決、ゲに接、カは見逃す、 重要 ヒに情報流す
パ→未解決
エ→補の学力向上………その他……未解決
カ→無視
最終→…………… 打つ手無し?
文にならない単語の羅列、おそらく書いた本人にしか分からないのだろうが知識があれば多少の予測はつく
だがこちらもかなり古い、何年も前に書いたのだろう一冊目と違いここ数年で使われた様子はない、筆跡もかなり弱々しい
だが最後の文に至っては何度も何度も錯乱しながらも書いたのだろうかかなり乱雑だ
だがこれは違う。私の求めている物では無い
さらに読み進めた後のページは先程の物と同じ様な形式で書かれた日記…または実験結果の様なものだった。アイディアノートとしての側面もあるのかもしれない
さらに読み進める…………………とあるページで手が止まる
乱雑に一見意味不明な情報が纏められたページにそのほかの情報を書き消すかの様に書かれたただ一言
『認識とは?』
そう書かれていた
ページをめくり更に注意深く読み進める、その内容を。そこからの内容はまるで魚が水を得たように綴られていた。それはもはや執念とすら呼ぶのも烏滸がましいものだった
私はこれが目的の物だと確信した
この時から明らかに洗練されていく理論と、それに追従するかのようにでる結果。彼の絵空事を現実にするための、最後のピースが完成したのだ
そしてどんな心情で、どんな思いで、これを書き出したのか分かる気がした
やたらと古い本達も、先程のノートの意味も、彼の行動も、その肉体も、精神も
なにもかも繋がった、繋がってしまった
彼は……文字通り全てを捧げてきたのだ
この世に生まれ落ちたその日から
ただ他人のために、世界の為に、未来のために
——————私達の為に
いかに困難であろうとも、どんなにか細い希望であろうとも、それに手を伸ばし続けた
手段が出来てしまったから
長年仕舞われ続けてきたメモリを使い、保存されたデータを見る
たった一つの動画だった
名前は………保険
動画を再生する、勿論音量は下げてだ
動画は短かった、2.3分ほどだろう
そうしてこれを見終わった時、これをどうするか、どうして欲しかったのか私は理解した
文字通りこれは保険だ、確かに保険と呼べるものだった
先程のノートの内容を加味すれば理解は出来る。何がどうあれ多少の誤差はあれど結果は変わらない。その様に出来ている
だが、納得は別だ
結果がどうあれ彼が、彼が1人で背負う事には変わりは無い。たとえそれが彼の責任であったとしても、彼がひと時の間見捨てていたものがあったとしても
彼が全てを壊したとしても
あぁ…でも…どうか、お願いだから、もうこの先のことは分からないけれど、私にはどうにも出来ないけれど
願わくばこれを使う事が無いことを祈ろう
私にはそれしか出来ない、彼に縋ってしまった私には救う事はできなかった
だから私も賭けよう
あの人ならば、私が信じたあの大人だったらきっと
貴方は正しい、正しかった。責任を果たす為貴方は間違いなく正しい行いをした、だとしても———
決して諦めてたまるものか、既に私が思い描く未来に彼はいるのだから——————
はい!ここで原作前のお話は終わりです!いや〜長かったですね……いや、ほんと……プロットって大事なんやなって……
次原作前までのユクエ君のプロフィールみたいなのを投稿した後原作に突入します!
感想とか評価してくれると嬉しい!飛ぶぞオイッ!