「こっ心が……心が痛い……」
数多の銃弾飛び交うアビドスにてそう呟くのは便利屋68を率いる社長、陸八魔アル
彼女はカイザーからの依頼を受けアビドス校舎を襲撃、カイザーからの協力者(不良生徒達)と共に終始有利に事を進めていた
陸八魔アルは三人の従業員を従える社長である。アウトローに憧れを持ちながら依頼を受け日銭を稼ぐ日々を送っていた。しかし悪事をする事において人一倍鈍感だった
梔子ユメはお母さんである。心優しく柴関ラーメンで遭遇した便利屋ともその聞き上手な性格と互いの日々の苦労から意気投合し良い関係を築いていた
便利屋が傭兵と見た事のあるヘルメット団を引き連れてアビドスに来た時もまずは会話からと初めに動いたのも彼女である
ヘルメット団員は雇われである。失敗に次ぐ失敗、切り捨てられるかと思っていた自分達にとって幸か不幸かチャンスは訪れた
便利屋とやらとその雇われの傭兵と共にアビドス校門前を包囲し、ノコノコと現れたゆるふわ系お姉さんに弾丸をぶっ放した
その瞬間、どこかでlet's go!!と変な空耳が聞こえた気がするし、誰かが白目をむいていた気がするが気のせいだろう
なにはともあれ、それを皮切りにアビドスとの戦闘は始まったのだった
「仕方ないでしょ社長。こっちも仕事なんだし、それに今のうちにやらないと後々面倒な事になる」
「そーだよアルちゃん!本当ならもーっと大変なはずだったんだし……さっ!!」
「うわぁぁぁぁ!!!死んで下さい死んで下さい!!!」
「ひん!?ひん!?ひゃん!?」
一発、二発、三発と盾によるガードを持ってしても、至近距離からのショットガンによる衝撃により間抜けした声がユメから漏れ出る
なんとか攻撃が止んだ一瞬で盾を横薙ぎに振りかぶるも、それを回避され更なる追撃を直に受ける事となる
「ホシノ!ユメのカバーに!シロコは抜けたホシノの代わり!アヤネはみんなに隙を見て弾薬を補給!ドローンを打ち落とされないように気をつけて!」
先生は攻めあぐねていた。そもそもの人数不利に加え相手が固まりすぎている。前までの様に戦力の分散がなく、その分攻撃に出るタイミングが少ない
本来ショットガンのみを装備し攻撃に専念していたホシノも今回はユメと同様の盾を持ち出しタンクとして戦闘している
ホシノやユメに集中した一瞬をついてなんとか数人を倒しての繰り返し。しかしその過程でも何度か被弾している生徒が多い、ジリ貧である
「痛っ……っ!お返し行きますよ〜ッ!」
「ノノミッ!待っ!」
多少の怒りを込めて横薙ぎに発射される弾丸は固まっている敵に有効に作用する。しかしそれも最初だけ
軽量化すらされていないミニガンの反動をものともせず連射出来るノノミのパワーでも、連射を始めてしまっては反動ですぐさま回避行動はできない
「ぐッ!?」
その隙を見逃してしまう程陸八魔アルは修羅場を潜ってはいない。ほぼ反射で放ってしまった弾丸がノノミの頭部へ直撃し連射と動きが止まる。恩人のドタマにヒットさせ思わずあっという様な顔を晒してしまうアル
「今だ!やれ!!」
そこを見逃す者がいるはずがなく多くの銃弾がノノミへと着弾していく
「ノノミちゃん!」
咄嗟に反応したホシノがノノミの前に立ち塞がり、盾で受けつつ手榴弾を投げ込み時間を稼ぐ
状態は銃弾を受けたのは数秒でも数が数である。倒れ込んでしまったノノミちゃんの状態を確認しながらも弾丸を装填して……
………やる事が……やる事が多い……っ!!敵の数が多すぎて常に弾幕を張らないと前線が崩壊する!私とユメ先輩が防御に回ればなんとかなるけど……一時的にも誰か脱落したら……
「ああッ!!もうッ!!長いって!!」
絶えず続く攻撃に苛立ちが募り、取り出したハンドガンで頭と手を中心に射撃しながらノノミちゃんを立ち直らせる
ほんの少しだけ攻撃が止んだ隙に遮蔽物に移動させた後、私の代わりに注意を引きつけていたシロコちゃんと交代する
「シロコちゃん!交代!怪我は!?」
「はーッはーッ……まだ…まだ、大丈夫……」
「大丈夫じゃない!ちょっと休んでて!」
肩で息をしながら何処か痛むのか腕で体を押さえているシロコちゃんを隠れさせ前線に戻る
なんとかノノミちゃんも復帰したが、普段射撃する時には微動だにしないはずだが、今は撃つ時の反動を制御しきれていない
本当にギリギリだ。先生の指揮がなければとっくのとうに崩壊している。理想を言うならこんな襲撃は早く終わらせたいと言うのに
上手くいかない。今自分達を取り巻く全てが鬱陶しい。邪魔だ、何度も何度も襲いかかってきて、うんざりする。先輩も後輩達を傷つけて、誰が裏にいるのか知らないが考えるだけでイライラする
「いっくよ、みんなーっ!離れて!せーのっ!」
爆弾を投げつけてくる子が無邪気の様な声で、笑う様な声で、鞄を放り投げる。ユメ先輩も防御で疲弊している、おそらく爆弾が入っているのだろうソレはゆっくりと放物線を描く様に先輩へと迫る
今日何度も同じ様な場面を目にした。何度も同じような事があったはずなのに、嘲笑うかの様にゆっくりと落ちてくる様に見えるそれがなぜだかとても……
——————不快だ
全力で投げた盾が飛んでくる鞄へ目掛けて激突し、予定した場所へ到達できずに鞄は空中で爆発した
両陣営とも先程とは打って変わり、額に青筋を立てながら暴力的とも言える様なホシノの風貌の変化に一年生の時のホシノを知らぬアビドスの面々は混乱を
そんなホシノの敵意を真正面から受ける便利屋の面々は、なにか禁断の箱を開けてしまったかの様な焦燥に意図せず汗が頬を伝う
「ほ、ホシノちゃん……?」
「………もう、いいや。下がっててください。今、冷静じゃないので」
目に映る敵その全てが鬱陶しい。動作一つ一つが神経を逆撫でる。迎撃しようと銃を構える動作をしっかりと目で捉えても頭の中で回避と防御の考えは浮かばなかった
本当に、もう、いいから、どけ
「えっ」
「お前邪魔」
ジャンプで距離を詰めて相手の肩に片足を着地させ、ショットガンを見下ろす様に垂直に構えて数発、顔目掛けて発射した。偶然近場にいただけの敵は糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちる
「次」
「ちょっ!?これまずッ!?」
「後衛撃って!!社長は他のアビドス!」
崩れ落ちる様に倒れる敵を足場にそのまま突き進むホシノに面くらうアルとホシノに集中砲火で対抗する様に指示を出すカヨコ
放たれた多くの弾丸が命中した。数十発を優に超える弾丸が命中しようともホシノは止まらない。ホシノにとってその程度で止まる段階など、とうに過ぎている
「お前もッお前もッ邪魔をするなッ!!」
「ちょっと!?コイツ止まんなグッ!?」「効いてないの!?あり得ないっ!?」
ただ単純に速く、巧く、それが更なる速度を生む。流れる様に本来ある筈のリロードの隙すら発生せず、攻撃が縦横無尽に戦場を駆け巡りながら繰り出されるたびにバタバタと敵は倒れていく
「捕らえたっ!私ごとやっ「チッ!」ガッ!?」
一人が拘束しようとしても至近距離からの肘打ちと急所打ちによって引き剥がされ肉盾として銃弾をその身に受ける
肉盾を片腕で押さえ、もう片方の手でリロードを完了させ再び標的へと向かって行く
何もかもを射抜くような獰猛な瞳は敵の統率を担う者へと向けられた。そうしてカヨコの目にホシノが一歩踏み出した様に見えた時には、ホシノは眼前へと迫り距離を詰めていた
「ッッ!!対ショックッッッ!!!」
瞬時に、ほぼ反射でそう叫び、合図を聞いた便利屋と協力者達は急いで耳を塞いだ。次の瞬間、まるで耳元で爆弾が爆発した様な爆音があたりに響いた
音の速度は弾丸の種類によって変わるがおおよそ同じ速さで空気中に伝わる
加えて弾丸と違い攻撃範囲は広く、屋外でもあるため遮蔽物に隠れていても一定の効果があり、広範囲の敵にダメージを与えられるだろう。対策が出来ていなければ尚更だ、しかし——————
「ッ………捕まえた」
「はぁっ!?」
世の中には例外が存在する。ただの精神力と耐久力で攻撃を耐え切った。そのまま相手の服を掴み同時に足を踏みつけ動きを抑制する
そして、この距離なら確実に攻撃が当たる
妨害が入る限界まで相手の喉に目掛けてハンドガンを放つ。カヨコの口から呼吸が詰まった様な声が引き金を引くたびに耳に入る
「ッッッ!!!あ゛あ゛っ!!」
カヨコが痛みに悶えながらもホシノを引き剥がし距離を取らせる。まだなんとかなる、そう思いながら
一人で敵陣に突っ込んできたのだ、他アビドスの面々からの妨害があろうとも集中砲火して時間稼ぎが出来るだけの人数はいる
なら時間を稼いだ後にハルカをこちらに戻して他アビドスから引き剥がす、そして他のアビドスを制圧すればまだ……!!
そうした思考の間にホシノは周りに目を向け、先ほど投げつけた自身の盾に目をつけた
次の瞬間、ホシノは盾に足から着地する様に飛びついた。盾はホシノの着地によって地面から火花を散らして滑る様にホシノを運ぶ。その間、持ち替えたショットガンを流れる様に放った
「………次」
「嘘っ……」
盾の入手と本来の持ち場への移動。もはや先程まで考えていた策は意味をなさない
データはあった。依頼者からの協力者とアビドスの戦闘の録画、特筆すべき二人に目処をつけ対策した
幸運なことに不定期でアビドスに協力する例の奴はいなかった。だからジリジリと削って数ですり潰す方針で計画を進めた。実際、順調に事は進んでいたのだから
策を弄して数ですり潰し、戦力が少ない時を狙う。
しかしどうだ?それら全てがたった一人によって瓦解する。策を弄しても真正面からねじ伏せられる
これではまるであの風紀委員長ではないか。あのレベルの実力だとしたら勝ち目はほぼない
「社長、ごめん。撤退を視野に入れて」
「大丈夫、分かっているわ」
冷や汗を流して、息を飲み銃を構える社長を横目に思案する
勝てるのか?この怪物に?他のアビドスを同時に相手しながら?
周囲を見ても先程の戦いぶりを見て士気はダダ下がりだ。こっちの戦力も削られた、このままやっても逆にジリ貧になるのは私達の方……
敗色濃厚、しかしこれだけの状況を作れる機会はそうそうない。このチャンスをどうにかモノにしなければ——————
瞬時、辺りに何かを踏み砕く様な轟音が響き渡る
「……どうやらギリギリ間に合った、というところでしょうか」
合成音声による機械音から発せられる女性じみた声の出所は交戦中の背後の建物から生じていた
踏み砕いた建物の外壁に足を埋めて重力が九十度回転したかの様に直立し、辺りを見下ろしているその人物からは一切の情報が読み取れない
顔と髪は機械の仮面で覆われて、上着とズボン、加えて手袋によって肌の露出が最小限に抑えられたその特長的な出立ちを目撃して思わず思考が止まる
「まぁ、そこは置いておいて……さっさと失せてください」
こちらの事情など知った事ではないと、いつのまにか両手に持っていた手榴弾を振りかぶる所で思考が戻る
「全員撤退!!」
「流石に無理」「に〜げるんだよ〜!!」「私、ここから逃げたら不貞寝するんだ」「ちくわ大明神」「ちょっと今の誰よ!?あっヤバ」「アル様ァァァァァ!!??」「アルちゃ〜ん!?へばってないで逃げないと不味いよ〜!!」
「潔いなコイツら」
ただでさえ風紀委員長もどきみたいなのがいるのに追加戦力は流石に無理。やってられないから。あ〜あ依頼失敗か、これからどうしよう
「痛い!!体中が痛いよ〜!!動いてないのに痛いよ〜!!」
「ノーガード戦法なんてやるからだぞ、最近はそれやってなかったけどガダがくるからやめようって昔話したよなぁ?」
全速力でアビドスに急行した結果、最後の最後に参戦できたがホシノは昔の様な無理をしたらしくそれはもう今の戦い方では考えられない様なダメージを負っていた
簡単な診断の様なことをしながら背中部分の所へ湿布を貼る。そこそこガチでやっておいてこの傷、先生有りとはいえ敵の戦力増強はキツかったか
「それは状況的に仕方ないじゃん!!」
「嘘つけ。絶対私怨マックスだったぞ。動きが雑すぎてめちゃくちゃ被弾してたしさ……もうちょい射線切れなかったんですかね……」
「ぐぬぬ……っ!!」
怒り心頭で理というより暴の側面が多く動きが中々雑になり銃弾を受けまくっていた所はある、他の皆があの状態だから気持ちは分かるけどな
「まぁあの状況的に助かったのは事実。ヨ〜シヨシヨシ、よく頑張ったなホシノ〜」
湿布を貼り終わり、そのままうつ伏せになったホシノを撫でるとそのまま体を委ねてゆらゆらと頭を揺らされている
そんなホシノを抱きしめながら抱き枕として甘やかしていると……
「ユクエ先輩、ホシノ先輩?ちょっといいですか?前回、今回と続いたヘルメット団の襲撃の際に使われた装備について進展があったので……」
教室にそう言って入ってきたアヤネにそれとなく返事をして、保健室にいる皆の様子を追加で聞きながら他愛のない会話を続ける
そうか、ならば俺も準備を進めなければ
ごめん、ヒフミ。ヒフミのその先に苦難が待ち受けていようとも、それでも俺は————
——————奇跡じゃない、必然が欲しいんだ
ユクエ君の口調が普段と違うのは身バレ対策です。追加で変声機で女性の声とかにしています