文章の取捨選択ができてる作者様の素晴らしい力量が垣間見える…!
ルシアンは帰りの馬車に揺られ帰還の路へとついていた。
同乗する聖女アルジェは、緊張の糸が切れたのかルシアンの膝を枕にして規則正しい寝息を立てている。
そして、それを見ていた団長──イシドロはにやけ顔を向けていた。
「全く、このお転婆聖女様は騎士団の気も知らずに……よほどその席が安心すると見える」
「疲れていたんでしょうね」
「ルシアン、お前は信頼されておるのだろう。さすがは『聖女の寵愛を受ける従者』と言ったところか!」
イシドロのからかいにルシアンは視線を端へと向ける。
彼とアルジェを認知している者が噂する、肩書のように吹聴されるそれはルシアンには恐れ多いものに聞こえる。
だが、誰がどう見てもアルジェはルシアンを贔屓にしていた。
「団長、やめてください。アルジェ様とは……アルジェ様はそのように思っているわけではないんです」
「これだから若造は……先程の先行も、見過ごせる行動ではない」
騎士団が誘拐犯の潜伏先を特定し、突入する手前ルシアンは居ても立っても居られない感情により一人無謀にも先行して奥へと進んでいってしまった。
こうして騎士団としてどこかに派遣されるというのは彼にとって初であるが、私情を捨てきれない結果の行動だ。
敵が素人であり根っからの犯罪者ではなかったのが功を奏してか、ルシアンは一足先にアルジェへと到達した。
「すみません……、独善的すぎました」
ルシアンは深く反省する。
彼が所属するのは組織であって、規律が存在する。
その独りよがりの行動によって全員の足を引っ張ってはならないことなのだ。
幸い、首謀者は魔物であって部下はそのものに脅されていたとアルジェが顛末を語るに至った。
総数にして20名。その中にはまだ幼い子供や老人すら含まれる。
ルシアンはアルジェがモールゲンを見逃した事を見なかったことにした。
「あの人達は……どうなるんでしょうか」
「少なくとも犯罪に加担したんだ。無罪……とはいかないだろうな」
「……」
「それでも魔物が操っていたとなると、情状酌量の観点から罪は軽くなる」
聖女アルジェは彼らに手を差し伸べたいと語っていた。
時勢柄、弱者は淘汰されやすい。
現に彼らは庇護を望めずに魔物との共生を選ばざるを得なかったのだ。
すぅすぅと寝息を立てるアルジェを見る。
美しく、整っている顔立ち。それが少しやつれている。
これが、アルジェ自身の
それを見ていたイシドロはこう言葉を紡ぐ。
「実際、お前は
「団長、何を──!」
「何、まだ馬車は走る。退屈しのぎの雑談だ。それに聖女は寝ているだろう?」
そう言われて彼女を見れば、イシドロが言うように深く寝ているようだ。
「俺と彼女は幼馴染なんです」
「ああ、アルジェ様が旅を始める前に親交があったと言っていたな」
「あの頃は今よりもっとお転婆でしたが……」
そう昔の記憶を思い出すと仄かな笑みが溢れる。
幼少期、内気だったルシアン。
周りは大人ばかりで、子供と接する数少ない機会は街へ降りていくときだけだった。
そんな環境で育ったのもあって友達は少ない。
そんな時、とある女の子と出会った。
薄桃色の頭髪に少女の段階で完璧に整っていた容姿。
『なあ、お前いつも一人だよな』
『え……? ボク、の事?』
『お前以外に誰か居るか?』
屋敷の窓から退屈そうに覗いていたアルジェがルシアンに声を掛けたのがきっかけだ。
聖女として持て囃される前、所謂候補として見出されたアルジェは叔母に付き添われここへやってきた。
まだ幼い、しかし人材としては無視できない存在に教会は保護と称して彼女を住まわせた。
まだ10になったばかりの子供であるアルジェは唯一の同年代であるルシアンを見逃さない。
『俺はアルジェ。今はまだ、ただのアルジェだ』
『えっ、あ……ボクはルシアン。お父さんがここの庭師で──』
『おお! この立派な庭、お父さんが管理してるのか──』
そこから自然と彼女と親交を深める事になる。
最初、見た目に反し勝ち気で粗暴な言葉遣いに驚いたが根はいい子だと幼心に思った。
行動もどちらかと言えば男子寄り。
探検と銘打って教会の立入禁止の部屋に入っては大人を困らせる。
言ってしまえば年相応にやんちゃな一面が多くあった。
アルジェの活発な性格は、内気なルシアンを先導しては二人で父親に叱らるというのが通例だった。
見た目が釣り合わない無防備な距離感に、幼いルシアンはたじたじになったこともある。
見た目は美少女であるが、行動や距離感は年頃の男児そのもの。
ある日、その言葉遣いをマデリーンに咎められていた時に聞いたことがある。
その時は『徐々に変えていくのがいいんだよ』と語っていた。
だが、理解できずに気にしなかった。
しかしその言葉通り、アルジェの粗暴な態度や言葉遣いは年齢を重ねる毎に軟化していく。
『ルシアン、何してるの?』
『アルジェ様!?』
『様はいらないって。ルシアンにはまだただのアルジェだもんー』
二人は成長し、アルジェが15歳ルシアンが14歳を迎えたある日。
部屋で何かを見ていたルシアンに、頭へ身体を預けるように絡んできたアルジェ。
15ともなればアルジェの美貌はそのままに──というよりも一層の磨きがかかり、出るところは出ていて体つきもより女性へと近づいている。
だから耐性のないルシアンに女性らしい柔らかな感触を感じさせつつ絡む彼女に困っていたものだ。
それなのにアルジェの距離は変わらないものだからルシアンは接し方を悩んでいた。
思春期であるルシアンはそういうアルジェと距離を置きたかったのだが、逆効果でアルジェの絡みをより一層助長させる結果になる。
『アルジェ、あまり引っ付かないでよ……』
『いいじゃない、ルシアンと付き合い長いし?』
(それが問題なんだけど……)
『それに、私がこうしてルシアンと話せるのだって……もうどのくらいあるか……』
そう呟くアルジェの曇った表情を見てしまえば、引き離すのが忍びなくなってしまう。
空気を変えようとルシアンは見ていたものを話題に切り替えた。
『これ、見てたんだ』
『これって……イスイの街ですか?』
見ていたのは壮観な街並みを映し出した一枚の絵だった。
魔法で彩りよく再現されたその絵は、非常に精巧な街を反映している。
所謂『写真』にあたるものが魔法的な技術により発展したものだ。
イスイの街はアルジェの村が属している国ラッシャードの首都でもある。
魔法が発展しており、名のある魔法使いはこの国出身者が多くいる。
その魔法の叡智により街を湖へと浮かべ水の都とも呼ばれるほど透き通った景観が絶賛されている。
『アルジェの故郷だったよね?』
『うーん、国の範囲で見るならそう。だけど、イスイには行ったことがなかったり』
あはは、と苦笑いしてみせた。
そもそも生まれ故郷の寒村だけがアルジェの全てだった。
魔物に襲われたあとすぐにオムファロスにやってきたのもあり、観光なんてものは経験したことがない。
『ならボクと同じだ』
『ルシアンは、外国に行ってみたい?』
『そりゃね。こんな時代だし無理だとは思うけど』
国交はあれど魔王の脅威に晒されている現状、自分たちの国のことで手いっぱいな情勢だ。
だから庶民が他国へ行くのは行商を生業とする者、そして傭兵などで生活する者たちが大半だった。
『じゃあ──約束。私が、世の中を平和にしたら……一緒に世界を見て回ろう?』
表情は伺えない。
それでもアルジェのその言葉はルシアンの心へと刻み込まれた。
『アルジェ様──ぐぇ』
頭にのしかかったままアルジェはより体重を掛けてくる。
その都度、ルシアンの後頭部にはアルジェの一際柔らかな部分が当たってしまうが……敢えてそれを忘れる。
『様は禁止ー。
『わかったよ、もう……』
子供の頃にしたなんてことのない口約束。
だが子供ながらに、その約束が世界が平和になる希望として。
そして、互いに再会すると約束するのと同義になる事を期待して。
数年後……世間は『勇者』と呼ばれる存在に沸き立ち、聖女としての役目を果たすべくアルジェはそれに加わり旅立った。
「アルジェ様は距離感でいえばいつもああでしたので……」
そう語るルシアン。
それにイシドロは苦虫を噛み潰したような顔をする。
事実、近しいものがアルジェの行動を見れば誰もが寵愛を注いでいると見て取れるだろう。
「はぁ。どうであれ、後悔するような事は起こってからじゃ遅い。これは人生の先輩である俺からの助言だぞ」
やがて馬車は停泊地を見つける。
オムファロスへは残り半分。
この調子なら順調に旅路が続くだろう。
次は勇者パーティーの一人出したいなぁ…
曇らせの程度って
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ほんのりカジュアル
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聖女が盛大に曇るやつ
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周囲だけ曇っていくやつ
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もう全方位曇らせで