TS聖女は理想の『聖女』を演じたかった   作:ほうき星

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16. 大人として

 到着したのは俺の馴染みの店だ。

 ちなみに店員にはただの一般客として接するように言っておいた。

 せっかくこうして『お忍びで街に出掛ける聖女』としての土台が整っているのだから、少しの間くらいそれを演じようではないか。

 

「そういえば、聖女さまって食べられないものはあるんですか?」

 

 もぐもぐ、とパスタを美味しそうに頬張るメーシュがふいにそう聞いてきた。

 

「んー、そうですねぇ」

 

 正直な所、この世界の料理の味というのはすべて薄味ぎみだ。

 だからそれを誤魔化す為に刺激の強い香辛料を追加している場合が多い。

 

「旅の道中は贅沢も出来ませんでしたし、大半のものは食べられると思います」

 

「あら、それでは酸味の強いものも食べられるようになったのですか?」

 

「え゛!? それは……あはは」

 

 酸っぱいものと辛いものは結構苦手だったりする。

 あと、俺は猫舌だから熱々の料理はふーふーしなきゃならない。

 子供舌だと言われれば否定はしないがちょっと恥ずかしい部分でもあるしあまり後輩のイメージを損なうような事は言わないで! 

 

「それは小さい頃から変わってないんですね……」

 

「あの、もしかしてシスター・マデリーンは聖女様の幼少時代を知っているんですか……?」

 

 その問にマデリーンは少し誇らしげに肯定してみせた。

 マデリーンはかつて俺が聖女として成長するまで教育係を勉めていた。

 昔はよくルシアンとやんちゃしていて大人たちを困らせたものだ。

 だって、子供は好奇心旺盛だから。

 ルシアンは元から寡黙な性格ではあったけど、活発な俺がルシアンの手を引いて行動する。

 それがかつての構図だった。

 

「アルジェ様は今は落ち着いていますが、ふっ……昔は手を焼いていましたね?」

 

「ちょ、ちょっとマデリーン!」

 

 うぉい! 俺の過去を掘り返すのはご法度だぞ! 

 あれは、ほら。ギャップというやつだよ。

 実際に俺の小さい頃は粗暴な態度や口調で過ごしていた。

 

 

 俺の産まれた村でも男児が多かったし当然そうなるだろうと思って。

 とまあ、男児に混じって遊んでいる中で時々女の子な部分を見せては男児たちの性癖を捻じ曲げてたのはTS娘としてのあるあるだよね。

 TS娘特有のバグった距離感で男児を揶揄うのはとても楽しい。

 

 ただ、ちゃんと成長する過程で『理想的な聖女』としての所作には矯正したからヨシ! 

 

「昔は、もっと粗暴でしたね……ふふ」

 

「これ以上人の黒歴史を喋らない!」

 

 昔を思い出していたのか、マデリーンは少し頬を緩めた。

 そんな柔らかい一面を、二人の小さいシスターはキョトンとした表情で見ていたのだった。

 

「聖女様っていつ聖女って呼ばれ出したんですか?」

 

「えーっと、確か聖魔法に目覚めた時にちらほら呼ばれ出して……。主教さまから使命を受けたのは16歳の頃ですね」

 

 簡単に俺の身の上話をする。

 俺の村が魔物に襲われた事、そして両親が目の前で殺され聖魔法に目覚めたこと。

 彼女たちの年齢的にまだ産まれてもないだろう。

 そんな地獄のような生活は小さな村ほど顕著に表れる。

 

「私は、娘を」

 

 マデリーンがその話に乗るように、自分も娘を亡くしたのだという。

 これは……、俺は初耳だった。

 普段の態度からは想像できないくらいに表情は憂いていた。

 

「だから、私は少しお転婆なアルジェ様を娘と重ねていたのでしょうね」

 

「なっ──」

 

 本心が垣間見えないマデリーン。

 ポーカーフェイスの下にはきっと俺が歩んできた人生よりも困難が沢山あったのだろう。

 親を殺され、聖女として担ぎ上げられる幼い俺。

 そんな俺を彼女は娘のように思ってくれていたのだと語る。

 

 しんみりとする空気にしてしまった、と思ったのかマデリーンは食べかけのリゾットを口に運ぶ。

 大丈夫、魔王は俺達が倒した。

 きっと俺達のような悲劇はもう起こらないはずだ。

 

 さて、それから他愛のない会話をはさみ食事は終わる。

 

 

 うちの見習いたちは遠方から来ている子も多い。

 そういう人たちは敷地内の寮で生活しているのだが、この子たちはこの街出身だった。

 毎日あの坂道を通っているのか、と驚いた。

 若いっていいね。

 

「聖女様はまだ街を回るんですか?」

 

 もちろん。

 まあ、マデリーン付きだけどね。

 

「その事なんですが、あなた達アルジェ様をエスコートする気はありませんか?」

 

 と、マデリーンが提案してくる。

 すると二人は顔を見合わせて驚いたようだ。

 

「実は、他にやることがあったのですが、アルジェ様が一人で抜け出したせいもあり中途半端したまま出てきたんです」

 

 くっ。元々は俺一人でも良かったんだよ! 

 変装してるし、今日はまだ一度も貢ぎ物を貰ってないから一般市民にはバレてないと確定してる。

 うぅ。ルシアンが側に居てくれたらわがままできるのに……早く来てくれ幼馴染ぃ……。

 かわいいかわいいアルジェちゃんがお前を恋しがってるよ! 

 

「シスター・マデリーン直々のお仕事なら仕方ない!」

 

「こら、リラン調子に乗らない。……私たちでよろしいんですか?」

 

「あなた達はアルジェ様と仲がよろしいと見ていますし……。勝手な行動をしないように監視するように」

 

 耳打ちしてるみたいだけど聞こえてるんですが? 

 二人は、その仕事を引き受けた。

 あれ、普通逆じゃね? 俺、年長者ぞ? 

 

「さあ行きましょう聖女様!」

 

 ガシッと両方の手を二人に握られる俺。

 マデリーンは静かにそれを見送っていた。

 あれぇ……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 夕暮れになり、季節感もあり少し肌寒さを感じる時間となった。

 その間にはちゃめちゃにテンションの上がっているリランはとても煩くて、楽しかった。

 リランのそのやんちゃ具合にメーシュはたじたじだったが、それもそれで和んだ。

 俺も将来子供が出来たらこんな素直な子がいいな! 

 あ、俺もうすぐ死ぬんだった。わははは! 

 

 

「すみません、服まで買ってもらって」

 

「いいんですよ。今日のお礼です」

 

 俺は最後にこの子たちのお礼として服を買ってあげた。

 もう夏服じゃ寒いと思うだろうし。

 

「でも、よかったんですか? 結構お高い店だったように見えました」

 

 おいおい、子供が余計な心配はしなくていいんだ。

 俺は大人、お金は多少持っている。

 

「心配いりませんよ、この魔法のカードなら──!」

 

 ゲームだと所持金はインベントリやシステムで処理してくれるからどこに入っているのかとか疑問に思った時がある。

 持ち物欄にもないし、だからといってショップで買い物すると自動的に決算される。

 その結論は夢もない、魔法のカードで管理をしていたりする。

 世界の国は数あるが、ある程度世界共通の通貨システムとして普及してきた文化でもある。

 

「それは! 大人が持つ……あの銀色のカードッ!?」

 

「ふっふっふ、そう……()()()()()! カードです!」

 

 ──そんな高らかに宣言している俺に衝撃が襲ってくる。

 ドンッと何かに突き飛ばされるように俺の身体はよろけてしまう。

 不意打ちにより無駄に聖女バリアーが発動し無傷、だが勢いは消せないまま俺は地面へと倒れることになる。

 

「痛ッ──!!」

 

「聖女様!!」

 

 急いで駆け寄ってくるメーシュに助け起こされる。

 原因を探る為に周囲を見渡すと、視界の端から消える人影を見た。

 

「ああああ! 聖女さま! 手! 手! カード!」

 

 焦りを感じた声色でリランの指摘に手を見てみると先程まで持っていた俺の全財産が姿を消していた。

 

「さっき男の人が盗みました!」

 

 こっちです! とメーシュは先導を始める。

 ああもー、俺のバカ! あんな無防備に見せてるからだよもー! 

 リランと共に駆け出した。

 

 

「はぁ、はぁ。人通りの多い場所に出ましたね」

 

「見つけた! あそこです!」

 

 メーシュが指差す向こう側に人混みをかき分けて逃走する男がちらりと見えた。

 そのメーシュの一言に気がついたのか、全力で走り出す。

 

「ごめんなさい……、ずっと聖女様って呼んでたばかりに……」

 

「いえ、元々私が無防備過ぎましたし」

 

 いつからマークされていたのだろう。

 もしかしたら昼に注目を浴びたときからか。

 三人で追いかける俺達。

 

 魔法を使えば簡単に捕まえられるだろう。

 だが、こんな一般人が多い場所で使おうものなら巻き込みかねない。

 

「三人別々の道を!」

 

「わ、私は左から!」

 

「右からいきますー!」

 

 それぞれが別の道へと別れた頃、俺の目の前にはスリの犯人が徐々に見えてきた。

 しかし、向こうも慣れているのか人をうまい具合に使ってこちらの脚を邪魔してくる。

 そんな小細工も、終わりだ。

 周囲には人が少なく、そして距離は目前になるまで追い詰めた。

 

 ここ、だ!! 

 跳躍しその男へと飛びかかった──!! 

 

「はっ!?」

 

 それを待っていましたとばかりに男はにやりと笑った気がした。

 それを認識したのもつかぬ間、くるりと身体を拗らせ俺のダイブを華麗に躱す。

 

「ちょ、待っ──」

 

 目の前は、水路があった。

 空中で姿勢が取れない俺はそのままドボン、と盛大な水柱を巻き上げながら入水。

 人々はそれを驚いた目で注目していた。

 ポニーテールの髪型も崩れ、地味な眼鏡もどこかへいってしまった。

 

「──あんの野郎、ぜってー捕まえてやるからなァ!」

 

 水路から這い上がるように上がると、俺の咆哮が空へと木霊した。

 幸いに浅い水路だったのですぐに逃走犯を追うことが出来る。

 

 見失ったか……? 否、まだ遠くへは行ってないだろう。

 精神を集中させ、魔力を編み込む。

 

探知魔法(サーチ)

 

 目標となる物を追跡する魔法。

 あらかじめ設定していたマーキングが施されたものなら街1つ分の範囲内なら位置が理解る。

 便利そうだがあらかじめマーキングしておかないといけないからそこまで使う魔法ではないのだが……。

 

 

「見つけた」

 

 そう呟くと、風魔法を極小範囲で足へと集中。建物の屋根を飛び移って行く。

 どんどん犯人の男は入り組んだ路地裏へと進んでいるようだった。

 そうすること数分。どうやら行き止まりに当たったようだ。

 

 

 そこへ行くと男はどうやらメーシュによって追い詰められていたみたいだ。

 ほっ。どうやら上手くやってくれたらしい。

 はー、もう下着までビショビショだよ。

 

 何かを話しているのが口の動きでわかる。それでもここからじゃ聞き取れない。

 そんな中、ふと追い詰められた男が懐から何かを取り出したようだった。

 キラリと薄暗い路地の中で反射させるのは短刀の刃だ。

 それを構えメーシュへと向かって……! 

 あいつ、メーシュを刺す気か!? 

 

 まずい、まずいまずい──! 

 メーシュは子供だ。それも、戦う能力もない一般人だ。

 そんな彼女に凶刃が迫っていた……。

 

 

 

「逃げろ! メーシュ!」

 

 俺は叫ぶと同時に身体が動いていた。

 ふわりと風魔法で着地する。

 

 同時に、俺の腹に激しい痛みが襲ってくる。

 メーシュと男の間に割り込むように着地した俺は彼女を庇うような形となる。

 

「ッ!!」

 

「うおっ!? な、なんだ……ッ!?」

 

 生憎俺は死地をくぐり抜けた身。

 深く刺さりきる前に刃を受け止める。

 刃の部分強く握ったせいで手からも血が滴り落ちてくる。

 

「聖女、さま……?」

 

 その刺さった部分からじんわりと温かいものが湧き出てくる。

 メーシュは、怯えた様子でそれを見ていた。

 

「血……、聖女……様……血が……」

 

「──ッ! メーシュ! ごほっ……逃げ、なさい!」

 

「あ……ああっ……」

 

 ぶるぶると小刻みに震え、動かない。

 初めて、目の前で人が傷ついた事によるショックなのだろう。

 しかし、男が狼狽している今がチャンスなのだ。

 

 突然の状況に男もスキだからけだ。

 だが、それは俺も同じこと。

 全力で走って浪費した体力に水濡れ状態。そして魔法の行使による負荷。

 それにより俺が想定していた以上に消耗したようだ。

 

「へっ……。なんだよ……聖女なんて大層な名前だから反撃されるかと思ったけど……」

 

 その猶予時間で男の戸惑いが消えた。

 しっかりと俺を見据えた。

 ずるり、と腹に刺さった短刀を引き抜いてみせる。

 瞬間、俺は片膝を付いてその男を睨みつける。

 

「あ……、ああっ……アルジェさま……ッ嫌ぁ!」

 

 メーシュはまだ正気ではないようだ。

 逃げろと言っても、耳には入らないだろう。

 しんどいけど、ここは大人()がなんとかしなければならない。

 俺はどうなってもいいが、彼女だけは傷つけさせるわけにはいかないのだから。

 




一般人「あれって聖女様だよな……?なんでびしょ濡れなんだ?」
一般人「あ、本当だ。でもさっき野郎とか叫んでなかったか?」
一般人「それに凄い形相してたぞ?」

曇らせの程度って

  • ほんのりカジュアル
  • 聖女が盛大に曇るやつ
  • 周囲だけ曇っていくやつ
  • もう全方位曇らせで
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