TS聖女は理想の『聖女』を演じたかった   作:ほうき星

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死んだ思った所にこっそり更新して去っていく、それが私だ(?)


17. 聖女プレイ終了のお知らせ

 ニヤけた表情を崩さないこそ泥は、この状況が自分の土俵であることを理解しているのだろう。

 俺から盗んだ物を見せびらかすように懐から取り出してみせた。

 

「あんた、聖女だろ?」

 

「……」

 

「そこのガキが大声で叫んでたのを聞いたんだよ。んで、後をつけてみれば本物だったからビビっちまったぜ」

 

 メーシュとリランと合流した時か。

 せっかく変装してまで外出したというのに出鼻をくじかれたあの時。

 こいつはたまたまあの場に居合わせたようだ。

 ストーカーですか? え、キモーイ。

 

「だとしたら、聖女から盗みを働いたとしてあなたは神の裁きが訪れますよ」

 

「ん? まぁ、そうかもなぁ。でもよぉ? あんたは膝ついてるし? そっちのガキは役立たず。あの怖そうなねーちゃんが離れてくれて助かったぜ。あんた、魔王を倒したって本当かぁ? 随分と油断してんじゃん」

 

 奴はケラケラと下品な声で笑った。

 メーシュは、そのこそ泥の様子に怯えて俺の体へと必死にしがみついていた。

 

「ここは大人しく見逃してくれねーか?」

 

「あはっ! ご冗談は顔だけにしてくださいね〜?」

 

「……あ?」

 

 安い挑発に、奴は眉間を寄せた。

 ああゆう輩はまあ単純である。

 だから行動を読みやすいのだが、さてどうするか。

 魔物相手となれば遠慮なくやってしまえるが、犯罪者といえど相手は人だ。

 魔法でぶっ飛ばす──となれば相手も無事じゃ済まない。

 レベルカンストが最初の村周辺のスライムを殴るような行為だ。

 美少女が殺生するのはいかんよ。魔物は例外だけど。

 てことは、うん。とりあえず物理で殴れ? 

 もちろん手加減はするが。

 

「今度はそっちのお嬢ちゃんにもすこーし痛い目を見せてやんよ」

 

「ひっ……!」

 

 短刀を構えなおし、こちらへと向かってくる。

 だから俺はカウンターを決めるべく行動に移す──。

 

「げほっ……! ごほっ……、っ……!」

 

 口から鉄の味がしたかと思えば吐血する。

 刺された傷口は致命傷ではない。

 考えられるのは魔法を使ってしまった反動……? 

 

「……コレ、使うまでもねーなァ?」

 

 すると男は短刀をしまうと、平然と俺の横を通り過ぎる。

 わざとらしく大げさに動きながらこちらを揶揄うような動作で煽ってくる。

 こいつは遊んでいるのだ。

 

「ほらほら、俺逃げちまうぜ? 捕まえてみろよ」

 

「ま、待ちなさ……ッ!」

 

 メーシュが引っ付いているせいもあり、思うように動けない。

 街から出られたら、それこそ探知できなくなる。

 ああ、くそ! この身体、美少女だってのに肝心な時に!

 

 

 

 

 

 

「ちぇすとぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 そんな声とともに、何かが落ちてきた。

 それは男の頭上へと綺麗な道筋を描いて降りかかる。

 

 ズドン、と重い音がしたかと思えばまるでギャグ漫画かのように奴はその上半身を地面へと埋めていた。

 

 その光景に俺は衝撃を隠せない表情で。

 メーシュも目を見開いて。

 その元凶を見ていたのだ。

 

 土煙の中からは赤いおさげの幼女が現れる。

 その背後に追いついてきたであろうリランがやってきた。

 それに続くように兵士がゾロゾロと遅れて姿を見せる。

 

「メーシュ! 大丈夫!?」

 

「リラン……! 違う、私じゃないの! 聖女さまが……! 私を庇って……! 血が!」

 

「メーシュ、私は平気です。落ち着いて」

 

 優しく錯乱するメーシュの頭を撫でてやる。

 涙でかわいい顔が台無しじゃないか。

 たかがかすり傷程度大げさだなぁ。

 

 撫でてやれば少し効果があったようで、落ち着いたように表情が柔らかくなる。

 それでも涙を隠すように顔を埋めてくる。

 ああっ! 血が付くからやめなさい! 

 まあ、こんな血だらけな俺が言うのもあれだけどな! 

 

「聖女ともあろう者が、あんな小悪党なんぞに遅れを取るとは……。平和ボケするにはちと早い気がするが? のう、アルジェ」

 

「……あんなの、デコピンで一発でしたが? わざと逃げられるって希望を持たせてあげただけなんですが??」

 

 乱入してきた人物の小言に俺は、子供のように意地を張ってみせた。

 いやでも、ほら。ハンデだよハンデ。

 

「あの、聖女さま。こちらの方は……?」

 

 兵士と共に追いついてきたリランが乱入者の事を聞いてくる。

 赤毛の髪をおさげにしてフリフリのおとぎ話の童話に出てきそうな服装。

 背丈は俺の半分もないくらいちっこいが、やけに古風な話し方をする。

 良く見知った、のじゃロリ。

 

「彼女は、ナージャ。一応、勇者パーティの【賢者】をやっていた方です」

 

「えっ……?」

 

 俺とナージャを交互に見て目を見開いて驚いてる一同を横目に、ナージャは腰に手を当ててふんぞり返る。

 

「バカタレ! 師匠と呼べ!」

 

「一応、私の魔法技術の先生でもあります」

 

 一応とはなんじゃ! と憤慨する幼女を尻目に俺は地面に埋まってピクピクと痙攣してコントのオチにされた泥棒を引き抜いてやった。

 そこから銀のカードを取り返せば一件落着。

 うーむ。このところ災難に遭いすぎじゃないか、俺。

 

「うっ、イテテ……」

 

 致命傷ではないにしろ少し刃先が入った傷口が痛みだす。

 こういうとき、自分で治療魔法を施せないのがもどかしい。

 それでも治癒力は半端ないからすぐに治るが。

 レベルカンスト舐めんな! 

 

「……アルジェ。お主の屋敷へ向かうぞ」

 

「はぁ。この状況では仕方ないですね」

 

 メーシュにはリランが抱きしめている。

 兵士たちも事後処理は任せてくださいとのことで、俺は帰宅することにした。

 怪我してるしな、俺。はあ、俺の身体脆すぎ。

 あとで美味しいものでも持っていってあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ナージャ・ナージャ。俺の旅に同行していた【賢者】としての名を持つ幼女。

 

 見た目は10歳とかその程度だが、ここはファンタジー世界。

 彼女は俺の3倍以上も長く生きている。なぜかと言われれば彼女がドワーフだからだ。

 酒飲みで毛むくじゃら。おまけに腕っぷしも強く技工に秀でている。

 そんなイメージだが彼女は酒は飲まないし毛むくじゃらでもない。むしろツルツルである。

 技工に秀でている点は合ってる。数々の魔道具は彼女の発明だし、今後平和になった世界は魔道具によって繁栄するだろう。

 

 そして魔法についてもかなり詳しい。

 俺に数々の魔法を伝授したのはナージャだし、俺と彼女だけが転移の魔法を使うことができる。

 あとは様々な魔法的な物事に詳しいのも、彼女が賢者と呼ばれるところだろう。

 

「それで、ナージャはどうしてこちらに?」

 

「師匠と呼べと言っておろうが!」

 

 俺のふかふかのベッドへとドスンと小さい身体を跳ねさせて座りながらヤジが飛ぶ。

 

 そんな彼女の転移門で俺は我が屋敷へと帰還した。

 全身ずぶ濡れだったのもあり俺は着替えることにした。

 はー、またマデリーンに怒られそう。

 そうと決まったら今夜ルシアンに泣きつこう。

 

「うぅ……、痛っ」

 

 回復のポーションを傷口へと振りかけ、残りを飲み干した。

 あとはテープでも貼っときゃ治るだろ。

 

「聞いておるぞ。お転婆聖女が、この間拉致されたそうではないか」

 

 うぐ……。ナージャの耳にも入っていたか……。

 せっかく落ち着いたと思ったのに掘り返さないでほしい。

 

「お前さんとこのじじいからの要請でな。あるものを持ってきのじゃ」

 

「ローランド主教様に?」

 

 するとナージャは空間へと人差し指を置いた。

 そこからスッと撫でるように滑らせれば、黒い亀裂が花開く。

 裂いた亀裂の入口へと無造作に手を突っ込むと、何かを取り出した。

 

「……鏡、ですか?」

 

「ただの鏡ではないぞ。ほれ、こいつを持て」

 

 ちょうど手鏡ほどのものを渡されたあと、もう1つを空間から取り出した。

 これは彼女の特異な素質(ユニークスキル)であるアイテムボックスだ。

 収納できる質量は本人曰く、大陸1つ突っ込もうとすれば可能、とのこと。

 俺もああゆうチート能力ほしかった。

 絶対稼げるでしょあれ。

 

「それでは──ほれ、どうじゃ? ワシが写っとるじゃろ?」

 

「これは……!」

 

 俺の持つ手鏡には、ナージャの姿が写っている。

 もちろん反射させているのではなくて。

 ナージャが持つ手鏡に写る姿を、俺のほうへと転写させているのだ。

 

「お主が昔に言うておったじゃろ? それから着想を得て開発した最新型の遠隔魔道具じゃ!」

 

 驚いた。これは革命的なものじゃないか。

 前世で言えば、ビデオ通話的なものなのだ。

 この世界では遠方に対して文書のやりとりでしか状況を伝えられない。

 だが、これが全世界へと普及すればかなり便利になる。

 

「すごい、凄いですよナージャ!」

 

「じじいからの意向で世界を回ってはこれを配っておる段階じゃな」

 

 アイテムボックスの亀裂をぐるりと回してみれば、ドサドサと大小様々な鏡が溢れ出てくる。

 

「これでお主が拉致されても大丈夫そうじゃな~?」

 

「うっ、もうあんなヘマはしませんよ……!」

 

 大事な物を盗られたのは掘り返さないでね! 

 

「この鏡もそれにできたりします?」

 

「無論じゃな」

 

 そう言いながら俺は自分の化粧鏡に自分を映し出す。

 ずぶ濡れだった衣服を脱ぎ、下着姿の美少女。

 傷はすっかり血も止まって痛みも収まっている。

 

 はぁ~、この美貌を保つには相当な努力が必要で、本当に面倒くさいんだよなぁ。

 老化というものは誰にも付きまとってくるし。

 ナージャみたいな長寿種族だと良かったんだが、生憎生粋の人間族なのだ。

 

「……」

 

「ナージャ? どうかしました?」

 

 さっきから静かだと思えば俺のほうをじっと見ているではないか。

 

「ふっ」

 

 すると徐ろにアイテムボックスから採寸用の図り器を取り出した。

 俺は完璧な動きでナージャのその素早い動きを華麗に避ける。

 

「な、なななな!? いきなり何を!?」

 

「旅の時以来じゃな」

 

「なにが……」

 

「ええい! 弟子の身体測定も師匠の役目じゃ! 大人しくしておれ!」

 

 旅の最中に何度もナージャは俺の身体の秘密を解き明かそうとしていた。

 そしてその都度、こうして2人の攻防が繰り広げられているのだ。

 

「とりゃ!」

 

「なんのッ!」

 

 あの身のこなしはレスタリカにも匹敵するほどだ。

 てかこのレズロリババア、こういうときに限って動きがよくなるんだよ! 

 気がつけば俺の上の下着はナージャの手へと収まっているではないか。

 それをひらひらと誇って見せつけている。

 いつのまに……!? 

 

「なんでッ! 貴女は! こういうときにレスタリカじみた動きをするんですかッ!」

 

「ワッハッハ! 観念せい! ワシに成長した弟子を見せるんじゃ! さあ!」

 

 ギリギリとお互いの両手を組み合ってはせめぎ合う。

 やがて俺は押されはじめ、追い詰められていく。

 あの小さい身体で俺が押し負ける……だと!? 

 

 ドン、と部屋の入口のドアにまで追い詰められた俺は万事休すだ。

 このまますっぽんぽんにされて辱めを受けるんだぁ……もうやだぁ。

 

 

「あの、アルジェ様。お帰りになられていますか?」

 

 コンコン、とその後ろのドアをノックする音が。

 聞こえてきた声はルシアンのものである。

 助かった! 

 

 ──違う、そうじゃない! 

 今ドアを開けられては困るだろ!! 

 

「ルシ、アン……今、開けては……駄目!」

 

 なんとか俺はナージャを押し返そうとするが向こうも勢いが引くどころか、更に押し込んでくる。

 ぐ、ぐぐぐぐぐ! この、ロリババアめぇ! 

 

「アルジェ様!? どうかしましたか!?」

 

 すまない、ルシアン……今手が塞がって……。

 

 

「……敵襲ですか!? 今、開けます!」

 

 

 ……え? 

 

 そのルシアンの一言のあと、俺の身体は投げ出される。

 ナージャは俺に覆いかぶさるように腰のあたりで呻いていた。

 仰向けの体制で天を仰げばルシアンの目と目が合う。

 

 

 「アルジェ様……?」

 

 あっ、終わった。

 理想の聖女ロールプレイ終了のお知らせ。

 

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