我が故郷オムファロスではとある劇団が街を訪れていた。
そこにローランド主教が見物にきていて、聖女たる俺もそれに同席している。
各地を旅しながらこういった催し物を開いているのだとか。
大通りには大々的にチラシ配りをしている者が声を大にしていた。
それに群がり何事かと興味深そうに集まっている群衆。
平和になった世の中で、人々は娯楽を求めていた。
「開催中は珍しい出店や食べ物も売られるそうです!」
ふんすふんすと息を荒くさせつつ隣に居るルシアンを見る。
オムファロスは世界で見ても繁栄してる方だ。
キレイな病院があり、駐在している兵士も質が高い。
食べ物も美味しいものが多くてとても満足している。
しかし、他の地域の特産物を使ったものはこちらには流れてきてないのが現状だ。
近くに湖があれど漁業が盛んな地よりも海魚はオムファロスでは高級な食材となる。
もしかしたらまだ見ぬごちそうにありつけるかもしれない。
そう思うとルシアンとの会話に勢いが入るというもの。
「よかったら、一緒に見て廻りませんか?」
とルシアンがいつもの調子で俺を誘うものだから一瞬、俺は目を見開いて驚いた。
「もちろんです……!」
二つ返事でそれを承諾。
ルシアンが自分から何かに誘ってくれた!
そう思うと嬉しくなった。
だって、数ヶ月前なら俺から動かなきゃじっとしているタイプだったから。
確実に俺との距離が昔のものへと戻ってきているのを感じた。
それからローランド主教が主催者と会話がはずんだのか場所を変えたようだった。
まあ、俺が必要な部分はもう無いし自由行動だ。
開催日は1週間後。
その日オムファロスは過去一賑わうことになる。
見ると既に物資は運び込まれているようだった。
屈強な男たちが重たい荷物を担ぎ上げている。
「アルジェ様!!」
するとルシアンが叫ぶ。
一人の男性が運んでいる数段積み上げた荷物が俺の方へと倒れてきたようだ。
それをルシアンがギリギリの所で遮る。
「おぉっとすまねぇ!」
ひげもじゃの男性がこちらの存在に気が付き謝罪する。
そもそも何段も積み重ねて運ぶのには無理があるだろう。
そして、その倒れてきた荷物を抱えて防いだのがルシアンだ。
「アルジェ様、お怪我は?」
「ルシアンのおかげでなんともありませんよ」
「あんた、中々のタフガイだなぁ! 良ければ手伝ってくれよ!」
軽快に笑うひげもじゃの男性はルシアンを気に入った様子だった。
たしかに、俺もそこはビビったところだ。
ルシアンは庭師だったのもあり体つきはしっかりしていた。
それが鍛錬のもと、
今では『細マッチョ』と言えるぐらいには成長している。
てか訓練の方も順調なようだ。この前なんか教官の一人から一本取ったらしいと聞く。
まさか自分もここまでカッコよくなるとは予想していなかった。
お前は主人公か!でもそうなってもらっては俺がヒロインとして地位が確定してしまう。
まあ、雌落ちしなければどうってことはない。
「私はあちらに移動してます。ルシアンは手伝ってあげて?」
「それじゃあ、すぐに戻りますので」
そう言うとルシアンは搬入する列へと入っていく。
俺は少し離れた、日陰の下に移動した。
今日も今日とて夏日和。
「あらぁ、オニーサン逞しいわねぇ?」
「ふぅん、あなた見かけによらず筋肉凄いのね?」
そんな声が聞こえたかと思うと、ルシアンの方へ目を向ける。
すると彼の周囲をなんだかエロい格好をした美女が纏わりついていた。
フェイスヴェールでその口元を隠し、外気に肌を晒したそのエロい格好は所謂踊り子衣装というものだろう。
てか、何気安くルシアンに触れてるんだよ!
それは俺の筋肉だ! ちがった、俺の従者だぞ!
ルシアン本人もまんざらでもなさそうな顔をしていて、見て気持ちの良いものではない。
もやもやの気持ちのまま俺は待機する。
やっぱりルシアンもああいったのが好みなのだろうか?
俺は清楚を売りにしたロールプレイなのであまり肌の露出はすべきではないと考えてきた。
……色仕掛け、考えてみるか?
「もし、そこのお方」
「あっ、はい。私ですか?」
そんな事を考えていると、ふいに声を掛けてくる人物がいた。
腰が曲がっており、杖をついている老人だった。
だがそのすぐ側の足元には2つの籠いっぱいに詰め込まれた花があった。
「お美しいお嬢さん、もしよかったらワシの馬車にこれを運んでくれないかい?」
「……」
買い物したあと、といった感じだろうか。
たしかにこの量の籠を運ぶには杖を使う老体には堪える。
少し考えてチラリとルシアンの方を見る。
変わらず、エロい格好の美女に纏わりつかれたじたじといった様子だ。
あの踊り子集団も人目のある所で自重というものを知らないのか。
元男性であるTS娘は男性が見せる視線というものに敏感でなくちゃならない。
くぅッ……鼻の下を伸ばして……!
「いいですよ。その馬車はどちらに?」
「ホッホッ、親切なお方、感謝しますぞい」
籠を持ち上げ、老人の後をついていく。
大通りを突っ切り、門へと出てくる。
今日は客人が多いのか、兵士が応対するのに忙しそうにしていた。
「おじいさん、いっぱい買ったんですね」
「何、ワシは薬屋をやっておってな。この花は『イチオーキク』と言いますじゃ」
忙しそうな門番に軽く会釈し、顔パスで通過する。
大量に詰め込まれたイチオーキクと呼ばれる花を抱えて運ぶが、俺にはたいして負担にはならない。
ゆっくりと老人は外へ向かいつつも雑談に興じる。
やがて街の外れに案内され、人の姿は見られなくなっていた。
「その花を煎じれば痛み止めの薬になるんじゃよ」
「そうなんですね」
「花の香りも香ばしく病みつきになるから人気が高いんじゃ」
なるほど、どうりで独特の香りがするはずだ。
馬車へとたどり着き、老人は荷台に被せてあった布を捲り上げる。
「そして、大量にその香を嗅ぐと──いい気分になると言う」
「な……ッ!」
にたりと表情が歪んだ。
そこには『イチオーキク』がぎっしりと詰め込まれていた。
捲り上げられた布の抑えから解放された花は強烈な臭いを漂わせる。
鼻腔へとなだれ込み、俺は思わず吐き気を催した。
すぐに意識がぐらつき、立っていられなくなる。
籠を落とし、荷台に詰め込まれたイチオーキクの花畑に倒れ込んだ。
そのせいもあり、俺の意識は暗転していった。
最後に記憶しているのは、あのおじいさんの表情だった。
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連れてこられたのは洞窟のような場所。
ご丁寧に手錠をかけられ、俺は拉致されたようだった。
あれから何日経ったのかわからない。
「魔封じの手錠……」
淡い青みがかった手錠、それに蛍光色の緑のラインが一本入っていた。
普通の手錠の形だが、それには魔法を封じる
頼みの綱である魔法を封じられた
流石に無抵抗の時にこれを付けられては逃げ出す術がない。
うーん、困ったな。まさか聖女を拉致しよう考えるやつが居たなんて。
周りを見れば煌々とランタンの光が部屋全体を照らしていた。
人一人を拘束しておくにはだだっ広い空間。
簡素な椅子とテーブル。おまけに木造で間がスカスカだが寝られるベッドまである。
「おら、食事だぞ」
ぶっきらぼうに扉からやってきた大男が、俺に食べ物まで持ってきた。
飯は屋敷にいたときよりもパサパサで量も少なく、お世辞にもいいものとは言えない。
だが別に奴隷のように牢屋に放り込まれたり、下品な目で品定めされたりもしない。
あれ、今って囚われの聖女って感じめっちゃよくね?
と頭をよぎる。
別に部屋に閉じ込められてるだけなら実害がないし。
おもむろに俺はスカートの裾をビリビリに破る。
ついでに履いていた靴も脱ぎ捨て裸足の状態へ。
これだけじゃまだ少しパンチがない。
ならば、と砂利の床へと身体を擦り付ける。
すると綺麗だったシルク製の服にいい感じに泥がついて汚れていた。
自慢の薄桃色の頭髪を強引にかき乱すと、まるで手荒く扱われた風になる。
それこそ、
「おら、飯だぞ──ってうぉ!? 何があった!?」
「くっ、蛮族め……! いったい何が目的ですか!」
いつものように食事を運びにきた大男が俺の姿を見て目を見開いた。
それもそうだろう、昨日まではいたって綺麗だった聖女が今日は酷く薄汚れた姿になってるんだから。
「待て待て、何がどうなってるんだ? 誰にやられた?」
「触れないでください! ……すぐに
明らかに動揺の色が見えた表情をしながら俺の側にやってくる。
キッと睨みつけ俺はその男に啖呵を切るように言い放つ。
昨日今日で様変わりした俺はどこからどう見ても薄汚い格好に見えるだろう。
いや、見えて欲しい。頼むから。
「おい、どうした──ってなにがあった!?」
その騒ぎを聞きつけてか、もう一人の男が入ってきた。
俺の姿を見るや否や、食事係の男と交互に俺を見比べていた。
「てめぇ、ボスに手ェを出すなって言われてただろうが!」
「違ッ、こいつが勝手にやったことだ! 俺は何もしてねぇって!」
必死に自分の無実を証明しようと口論になる二人の男。
何か勘違いされたっぽい。
まあいいか。あ、でも涙ぐむ演技も追加しておこう。
曇らせの程度って
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ほんのりカジュアル
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聖女が盛大に曇るやつ
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周囲だけ曇っていくやつ
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もう全方位曇らせで