再び友野と別れて、次は廊下を注意深く見回すと、仗助は自販機に目を留めた。
(自販機って、な〜んか隠せそうだよなァ…)
お気に入りの制服と髪が床につかないよう気をつけながら自販機の下を覗き込むと、闇が広がっていた。
(見える範囲にはなさそうだけどよォ…)
念の為、彼はデジカメのフラッシュをたいて自販機の下を撮影した。その後、後ろから友野の驚愕の声がした。
「あぁ!! こ、これは…もしかして…まさか…!!
東方くん! こっちに来て! これを撮ってくれませんか?」
ただならぬ友野の声に仗助が顔をあげると、彼は目を見開き手を口元に当て、険しい顔をしていた。その視線の先には、自販機からそう離れていない場所に設置された消火器があり、友野は何か真偽を確かめるかのようにその消火器をじっと見つめていた。
仗助が数歩の距離で彼に近づくと、友野は視線を外すことなく静かに消火器を指差した。
彼の小さな指の先にはなんの変哲もない消火器。だが友野が伝えたいのはそれではなかった。
「黒い…玉…?」
消火器が設置されている台。その台、消火器の隣にちょこんと直径1cmほどの黒い玉が乗っかっていた。それは壁と消火器との間に挟まって鈍く光って仗助たちに弱々しく存在を主張していた。廊下側から見ると回り込んで覗かなければ発見できず、よく観察しなければ見逃してしまう位置だった。
噛み締めるように友野は口を開いた。
「これ、ボクが梔子くんに作ったブレスレットの一部によく、似て、ます…でも、少し、色が…」
「な?!」
「あ、東方くん待って! まずこの状態で写真をお願いします! 指紋の問題もありますしその後ハンカチでつまみましょう」
「おぉ…わりぃ…」
黒い玉に手を伸ばした仗助だったが、友野の言葉ではっとすると大切な証拠になりうるものに触れる前に動きを止めた。消火器台に乗っている状態で黒い玉を撮影する。
撮影ができたことを確認すると友野がポケットから水色のハンカチを取り出し慎重に黒い玉をつまんだ。しばらく黒い玉を見つめると友野はハンカチでこすった。
「! …やっぱり……やっぱりボクは間違ってない…!」
ハンカチの中のものを確認して目を見開くと、友野は顔をあげた。
まっすぐに仗助を見つめる。
「東方くん。これはやはりボクが黒いパワーストーンで作ったブレスレットの一部で、梔子くんが身につけていたものです。そして、」
そこで言葉を区切ると、友野はハンカチの中身を仗助に見せた。
「梔子くんは、自殺じゃあない」
水色のハンカチには乾いた赤黒い血が付いていた。
少年の手の中で、黒い希望が鋭く光っていた。
仗助は息を呑んだ。そして彼の言い分を理解した。しかし仗助は友野より幾分か冷静だった。
「…ほんとにそれ、梔子がつけてたやつなのか?」
「……はい、と言いたいですが、100%そうだと断言できる自信はないです…ボクが作ったものだと思いたいのかもしれない。作ったのは春で、それ以降は彼がいつも付けてくれたのを見てきただけ。でも、…でも、この5階に家庭科室はありません。従って近くの教室の備品ではないと考えられます。それに本来の輝きが鈍るほど大量の血液がべったりついた球体の石が消火器の台に乗っているのは何かあったしか考えられません」
話している間に友野も冷静になったようだ。己の直感や縋りたいことでなく、客観的事実で話せるようになっていた。
「ああ。お前の言いたいことは分かるぜ。自分から飛び降りて自殺したなら、そいつが身につけてたもんに血が付くのは落下地点だ。さらにはブレスレットの状態じゃあなくて、ここには壊れた一部しか落ちてない。5階で血がついてるってことは、ここで何か、血が出るような事件があったんだ。その時にブレスレットが壊れた。犯人が回収したが、取りこぼしたのがここに隠れてたってとこか…
なるほどなァ…だからいくら警察が屋上を調べても何も見つからないわけだ」
「信じてくれるんですか…?梔子くんのブレスレットだったって…」
「お前は自信ねぇみてーだけどよ、大事なダチなんだろ? お前が頑張ってるのを見て今日初めて話した俺でも、すげー大事なダチだって分かる。大事なやつのことなら、きっとまちがってねーと思うんだ」
「東方くん…!」
少年は友の形見を強く握りしめた。