呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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必要性を感じたのでさらに某伝説任務に突入しますが、今回はガッツリ主人公(日依)回なので99%オリジナルです



呪具

 

 …当初。この長柄を手に入れた際、私はなるべく早いうちにちゃんとした専用武器を(あつら)えてもらうべきだろうか、と考えていた。

 それから色々あってすっかり忘れてたけど。あと、あのワーグナーという鍛冶屋…ああいう職人気質(カタギ)にどう接すればいいかが今一つわからなくて足が遠退いていたのもある。アンバーにも驚かれるってことは、マイナーな武器なんだろうしなぁ…。

 

 …では、どうして私は唐突にこんな話を始めたか。それは……タイムリミットが来てしまったかもしれないからだ。

「…適応したのか…こいつも、この世界に……」

 呆然と見つめる手の中にあるのは…東京からずっとポケットに入っていた、長方形の薄い板。あちらの文明の利器ことスマートフォン。見慣れたスマートフォンなのだけれど……今、気まぐれに電源を入れてロックを解除してみれば、知らない場所の地図が表示されて宇宙を背負う羽目になった。

 

 

 

 呪力には、個人個人で異なる特性がある。

 分かりやすいところで言えば(はかり)先輩だろう。一度手合わせをお願いしたことがあるけど、あの先輩の攻撃は(やすり)のようにざらついた呪力で皮膚が削られるような感覚を受けるので、涙が出るほど痛かったのを覚えている。…そういった特性が、私の呪力にも備わっているのだ。

 

 六眼で見た五条先生曰く、攻撃の意思をもって振るわれた私の呪力は()()するらしい。攻撃に纏わせた呪力は相手に響き、通常の攻撃よりも余韻を残す。そして身の内に響いた私の呪力は除去するのがなかなかに大変らしく、極め付けはこれが『迅雷』の標的の役割をも果たすことだ。

 とまあ、戦闘に関してはだいたいこんな感じだけど、この呪力特性の何よりも厄介なところは……戦闘の際に持っている武器などを、すぐに呪具化してしまうことだ。これがあるとわかったから、私はなるだけ早く戦闘スタイルを確立する必要に迫られていた。

 

 まあ念のため言っておくと、別に私自身は大した呪術師ではないので、うっかり扱いを間違えれば生命が脅かされるようなトンデモ(特級)呪具を作ってしまうことはない*1けど…何も武器だけではなく、戦闘中に()()()()()()()()()()()すぐ呪具になってしまうのが厄介なのだ。

 だからこの制服はもはやどんなに高圧で帯電しようと劣化しないし、ショルダーバッグもいっそ気味が悪いくらい頑丈だし、包帯も武器になる*2。何度か横着して術式で充電していたスマホに至ってはもう、私の術式なら数秒で満充電という仕様に変わっている。確かに充電が早いのは嬉しいけどそこまでいくと怖い。他にも幾つか変化が起きてるけど、一旦置いておこう。

 なお余談ながら、どこに行っても圏外なのにスマホを手放せない最大の理由もこれだ。万が一にも手放したこいつを核にしてテイワット初になるであろう呪霊が生まれる展開があっては困る。…もちろん、メモリに詰まった思い出が手放せないのもあるけど。

 

 

 話を現在に戻そう…ええと、なんだっけ。着地点を忘れてしまった………。まあ要するに、私の呪力は持ち物に少なからず影響を及ぼす。そして、術式の「電気」を「雷元素」に置換する形でこの世界に適応した結果として、私のスマホにも新たな影響が及ぼされたらしい。もしやと思った場所を拡大してわかった。…間違いなくこれは、テイワットの地図だ。

「日依、何見てるんだ?」

「うわっ!?…あ、パイモン…」

 ぐぬぬ…と長方形の画面に向き合っていたら、急に背後から話しかけられて…思わず飛び退いてしまった。すっかり見慣れてしまった白髪の(暫定)妖精は、興味深そうに私の手の中を見てる。…あ、蛍戻ってきた。どこからとは聞かないでやって。

「なんだか見たことないアイテムだな…?」

「…スマートフォン。前の世界から、そのまんま持ってきちゃってるんだよ。本来は遠距離でもこれを介して会話ができたり、情報をやり取りできたりする道具なんだけど」

「情報をやり取りって、手紙みたいにか?すげーな!」

「まあこうして違う世界まで来ちゃうと、さすがにどこにも繋がらなくなって役に立たない道具…のはずなんだけどね。いつの間にかこれが出るようになってて…」

「これ…ここの地図だよ。私が見られるのと一緒!文字はほとんど書いてないけど……この点は?」

「点?」

 

 …まあこの二人は悪いようにはしないだろうと思って手渡したけど、気になって覗き込んだら推定モンド城内にさっきまではなかった紫の点。ちょっとごめんと返してもらって、指で…ピンチとか言うんだっけ…して拡大したら、紫の点ひとつと青い点ふたつに分かれた。

「えっと…わ、私なんか変なことしちゃったかな…」

「…いや、大丈夫だよ」

 心配そうな蛍をなだめて…とりあえず、引かれそうだけどさすがに説明はしとこう。

 これはまあ、要するにGPSだ。本物のGPSみたいに衛星通信はしないけど…仲間の位置を表示する。前の呪術世界でもこの端末の○ー○ルマップ限定で起きてた呪物化だから慣れてはいる。…確か、あまり地図を縮小しすぎると電池切れが早まるから注意、だったな。

 …蛍やパイモンには思ったほどドン引きされなかった。むしろ大興奮だった。やっぱり文明の利器って魅力的なんだなぁ。この文明(呪力)はヒトの負の感情なんだけどな…

 

 

「そうだ蛍、変なことお願いしていい?」

「変なこと?何?」

「…これでさ、私のことぶん殴ってくれない?本気で

なにごと!?

 そうだ、前置きが長引きすぎて危うく忘れるところだった…このかつては槍だったが(きっさき)を失い、無惨な断面を晒す長柄*3も、とうとう呪具になってしまったかもしれないという話だ。どうしても気になるしこの際はっきりさせよう、と蛍に手渡したらものすごく困惑してる。

「あそっか、普段は片手剣か…でもそんな難しく考えなくても、こう構えて力一杯振り抜いて」

「えっいやそうじゃなくて待って、まずなんで!?」

「お…お前そういう趣味あったのか!?」

「ないよ?大丈夫大丈夫ちゃんと受け止めるから!理由は公平性を期すために黙秘するけど!」

「話が見えねーよ…」

「えぇ………いいの?」

「うん」

「…ほんとに本気でいくよ?」

「そう来なくっちゃ」

 困り顔と呆れ顔の中間の表情をしていた蛍が、一気に真剣な顔になる。やっぱり持つべきものは理解の早い友だね。…ただ、たぶん今からその友が――

 

「い゛っっ!?」

 …さっきやって見せた通り野球のバットみたいに長柄を構えた蛍が、ぎくっと硬直した。その手から長柄が滑り落ちて…蛍も膝をつく。

「蛍!?大丈夫か!?」

「平気、だけど…なんか、ビリビリ来た…」

「やっぱりか…」

「"やっぱりか"!?オマエ知ってたのかよ!?」

 蛍が落とした長柄を回収しといて…うわちょ、パイモン耳元なのに容赦ない声量…そりゃそういう反応になるよね。

「私、自分の持ち物をおかしくしちゃうことがあって。このスマートフォンもそうだったし、服もカバンも、この腕に巻いてる包帯ももう普通じゃなくなってるの。だからこれもそろそろかなって」

「それわざわざ私で試さなくても…」

「それはゴメン。なんか、蛍すごく強いし大丈夫かなって…言うほど危険なアイテムが生まれることはないし…」

 …言い訳がましいなぁ。口下手な自覚はある。ぷくーっと頬を膨らませる蛍…これがあざと可愛いってやつだろうか…などと雑念を抱きつつ、手の中の武器に向き直る。

 

「とにかく、こいつももう普通の長柄じゃなくなった。前例から考えると、少なくとも私…あとたぶん蛍もパイモンも、この武器で攻撃することはできないね。私以外は」

「オマエは使えるのかよ!?」

「だってこれ私の雷だもん。心配しなくても、余程のことがなければそんなことは起きないよ」

「釘を刺された気がする…」

 気がするというか刺したよ?一応。まあ食い意地のパイモンはともかく、驚異の適応力を魅せてくる蛍に限って変なことはしないと思うけどね…。ともあれ、形が違うとか断面が()き出しだとか不満がなくはないけど、ご用達の長杖が戻ったということにしておくか。

 

 さて、気を取り直して次は何をしにどこへ行こうかという話をしていると、駆け寄ってくる足音に気がついた。

「見つけた、蛍!日依!探したんだよ!」

 そちらに目を向けると、頭上でひときわ目立つ赤いリボンを揺らしながら、一人の少女…アンバーがやって来ていた。

 

 

 

 

 

*1
せいぜい三級が関の山だし、元々術式が組み込まれた呪具を上書きすることも基本ない

*2
?????

*3
※他人事みたいに言っていますが折ったのは彼女です





・日依
破槍以来のイカれひよりんが登場。マッドサイエンティストの素質がある。捨て置けそんなもん
呪力の侵蝕、当初は武器だけだったけど面白そうなので周囲にも影響する形に変更。包帯は帯電してやっぱり『迅雷』の標的の役割を果たす(日依「何の役にも立たない…」)し、携帯も本体強度・充電性能・地図に影響出てるし放電もする模様
ちなみに身内認定されている方は呪力の侵蝕を受けません。彼女はそういうイカれ方をしています

・蛍
イカれひよりんの実験台にされた(語弊)。感電反応ってあんな感じかな…(まだ受けてない)
仲間の居場所がわかるのってすごく便利じゃない?

・パイモン
日依のいた世界、オイラたちには想像もつかない感じなんだろうな…

・アンバー
最後に登場。詳しくは次回。

主人公の腕の包帯が取れてないのを素で忘れる作者の図(ポーズはてへぺろ)


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