呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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帆翔 - 参 -

 

 『怪鳥』のアジト(推定)の中は…あの神殿のときみたいに別空間になっていた。アンバー曰く「秘境」と呼ばれるものらしい。想像してたアジトと全然違うぞ。だいぶしっかりしてんな。あとヒルチャール湧いてるしアジトとして使うには危険なのでは……。

「ここから一本道だから、この先に『怪鳥』がいるはず…だけどこの様子じゃ、追い付くには飛ぶしかなさそうだね」

 まあ難しいことは考えてもしかたないので呼気に交えてその辺に廃棄しつつ、進むこと数分。通路が途切れてしまったけど、手すりのない先に風域があるのがわかる。どのみちここは飛ぶしかないが…

「…下がヒルチャールでいっぱいだけど」

「これ、下から攻撃されないか?」

「そうだね…先へ進むには、飛びながら敵を倒すしかないかも…そうだ!二人とも、最後のテストがまだだったよね?」

「へっ?」

「そういえば中断になってたけど…」

「じゃあ、これを最後のテストにしよっか!」

 …はい??

 

 

 

「よーっし!クリア!よく飛びきったね!二人ならできると思ってたよ!」

「さいですか…」

 …はい、やりきりました。爆撃機の気持ちを味わいましたね。特に味わいたくはないけど。

 ともかく、アンバーのお眼鏡に(かな)ったので飛行免許が貰えるのは確定したらしい。モンドを龍災から救った英雄なんだから普通のテストじゃ物足りないとかなんとか言われたときは軽く不安になったけど!…まあ、呪術師の昇級だって似たようなもんか。こんな急に特別製になることは無いけどな…

「それじゃ、あとは『怪鳥』を捕まえるだけ!行こう!」

「「おーっ!」」

「テンション高…」

 …あと、任務の途中で告げられることもないけども。集中が切れると命に関わるので。そういう意味ではテイワットのほうがマイルドではあるかもしれない…。

 ともかく、秘境の奥へとずんずん進んでいく。道中のしがらみはアンバーが燃やして、扉の操作盤が水中に没する仕掛けを切り抜けて*1、急に開けた部屋には…

 

「ぐぅっ…!くっそ弓ウザいっ…!」

 …下のヒルチャールやスライムを相手していれば、上から元素をまとった矢が飛んでくる。なかなかに隙を生じぬ二段構え。足じゃどうやっても届かなさそうな高所の3体にアンバーが対処してるけど、数で優位に立たれてる……さっさと下を蹴散らしてアンバーのサポートに入るべきなんだろうけど、術式使っても雷スライムには無効だし……ん?

「っ、うぅ…!し、しびれる…!」

「蛍ストップ!雷スライム頂戴!」

「えっ!?いいけど、効かないんじゃ…?」

 ヒルチャールから一旦離れ、蛍と合流して交代。バチバチ音を立てる紫色のスライムを…

「…えいっ!」

 腕を広げて、捕まえた。今すっごい困惑してたな雷スライム。可愛げすらある…

「日依!?どうしたの急に!?」

「電気()()()()()!あと盾!」

 抱えあげれば耳許で(しき)りに鳴るパチパチという音。常人であれば感電してダメージを受けるのだろうけど、私は違う。同じ元素同士では無効だからという話ではなく、私はこの生まれ持った術式を使って、電気を呪力に変換することもできるから。ついでに矢も代わりに受けてもらって。

「よし、氷の弓は…向こうか」

 だいぶ温まってきた。ついでにこの子への呪力マーキングも済んだ*2。あとはシンプル…うん、パッと見は遠いけど弾力も加味すれば余裕。あとは角度だけ…

「…せえぇーいっ!!」

 …『鎧袖』も乗せて雷スライムを蹴る。壁で跳ね返って……よっし決まった。氷弓のやつにぶつかるルート!

「――『迅雷』っ!!」

 

 

 …はい、なんとかなりました。いやぁ…ここまで訪れた秘境*3の中で一番苦戦した。開放された操作盤にアンバーが触れれば、部屋の隅に風域が現れた。それに乗って昇ればまたしても弓使いが2体…だけど、今度は同じ地面なので秒殺だった。避けやすいし大して動かないし。

 扉を開けば……一気に空間が広がる。あれは…試験の時に見た、加速する風域。つまり風の翼の出番ってことね。さすが『怪鳥』の……うーん。経験則が~って(かば)った手前言いづらいけど、この様相でほんとにアジトなんだろうか…。

 まあ考え事はあとあと。この世界がわけわからんのは今に始まったことじゃない。…で、風の翼を使って、向こうに見える地面に降り立ったんだけど。

 

「この先は行き止まり?あいつ、どこに隠れたんだろう…」

「あ!アンバー、あそこだ!」

 途切れた地面から顔を上げて、まっすぐ向こう。パイモンが指差した先に…いる。銀髪の…遠いな。何か言ってる。あいつが『怪鳥』らしい。お前はここまで来られないだろう、というのは…道を崩したんだろうか?だとしたら破滅的すぎるが。

小娘、今から戻って団長でも呼んできたらどうだ?そしたら降参するかもな!

「あー…絶対戻ってる間に逃げる気だ…」

「西風騎士団を挑発してるつもり!?今すぐ飛び越えて捕まえてやる~!」

「落ち着いてアンバー。向こうの思う壺だよ。耳は傾けないほうがいい」

「そうだよ、それに()()()()()()()、でしょ?」

「あぁ…そうだね。…目の前にいるのに…このまま飛んでいけたら…」

 むぅ…こちらと向こうは同じ高さ。風の翼で飛んでいくには高度が足りない。上昇気流があってくれればあるいは…と思うけど、既にあちこちに風域があるせいで音では判断ができない。…しかも、今気づいたけど。

「…あいつの後ろ、よく見たらあれ扉だよね?」

「あ!あいつまだ逃げる気か!?」

「…やっぱり、飛ぶしかないみたい」

 

 落ち着いた声音に、見ればさっきとは一転してキリッとした表情のアンバー…あれ、覚悟決ま(キマ)ってる?これちょっとヤバイ?

「ア、アンバー!?でも!」

「心配しないで!私はモンドの飛行チャンピオンだよ!あの『怪鳥』にできたことが、私にできないはずないんだから!」

 う、うーん…飛行チャンピオンはよくわからないけど、要はアンバーもプロってことだろう。それもちゃんと折り紙つきの。…じゃあ、私たちは止めに入れる立場じゃないや。

「…一応パイモン付けてく?」

「オイラの『幻想の翼』だって限界はあるぞ…?それに、飛ぶ以外に答えがないって、蛍もわかってるみたいだ」

「…ねえ、私が間違えて渡した本覚えてる?」

「あの説話のやつ?」

「そう。"最初の鳥は飛べなかった。鳥たちは、()()()()()()()()()()()()()"!」

 …私に飛び方を教えてくれた本、だったか。どんな技術や工夫よりも、まず踏み出す第一歩が大事、という話。…教訓を含むものは寓話というんだっけ。

 アンバーは『怪鳥』をキッと見据える。なんでか律儀に見守ってくれてる『怪鳥』は何事か騒いで激しく動揺している様子だけど、そちらに向かってアンバーは―――飛んだ。

「っ…!」

 その姿が下に消える。思わず縁に手を掛けて覗き込めば………

 

 

「…おぉ」

「風域だ!飛んだ!アンバーが飛んだぞ!」

 風の翼を広げたアンバーが、一気に浮かび上がってくる!…そっか。そうだよね、風なんて本来見えないのが当たり前…蛍?うんそうだね、追いかけるけど引っ張らなくても私自分で飛び降りるからぁっ!?

「怖い物知らずが!風域があると気づいて飛び降りたのか!?」

「風は勇気ある人に加護を与えるんだよ!大人しく捕まりなさーい!」

「クソがっ…!」

 …ふぅ、ヒヤッとした……あぁ、『怪鳥』が背後の扉を開いて逃げてく……「変身中を攻撃すればいいのでは?」論法に近いものを感じたけど蛇足。扉の先は今度こそ行き止まりで、『怪鳥』とその仲間の計4名がいた。…さて、大捕物の時間だ。

 

 

 

「いやー終わった終わった」

 吐息をつく私が腰を下ろしているのは、気絶した『怪鳥』の背中。お仲間3名はその下に折り重なっている状態。アンバーは苦笑してるけど、これが確実でしょ?たとえ意識を取り戻したとしても、私ならすぐにまた気絶させられるし。

 それにしても……うん、息はあるな。正直これまで(呪術師としては)見敵必殺を続けてきたから、殺してしまわないよう手加減するのには少々苦労した。確実にドン引きされるから絶対言わないけど。

 それはそれとして…アンバーの言うことには、ここの手前のあの風域は、空中でないと見えない仕掛けだったらしい。そして見ての通りここは正真正銘の行き止まりなので、私たちを諦めさせようと『怪鳥』はなんやかや言ってたようだ*4

「とにかく、飛行っていうのは7%の技術と3%の勘、残りの90%がぜんぶ勇気なんだよ!」

「さっきのアンバーは99%が勇気だったけどな…」

「えへへ…なんだか初めて飛行テストを受けたときみたい。すごく緊張したけど、最後は無事免許を取れた。それからのテストは、そういった緊張感が全然足りなかったから、なんだか物足りなかったんだよね」

「…ん?待った、アンバーって飛行免許持ってるんだろ?それ以外に何のテスト受けるんだ?」

 

 …あれ、言われてみれば。脳内に忍たま*5を去来させてる場合じゃなかった。それって私たちも受けるべき?流れ変わったな…と思ったけれど、アンバーはなんだか照れくさそうな顔をする。

「それは…モンド場内って飛べないエリアとか、着陸禁止エリアとかが多くてね。せっかく手に入れた免許もすぐ取り上げられちゃってたから、全部で15回くらい受けたかな?でも毎回一発合格だったよ!やっぱり、私の本は最高の指南書だね!」

「………」

「…蛍、日依…時間があったら、ジンにちゃんとした飛行指南してもらおうな…」

 苦虫を噛み潰したような顔で囁くパイモンに、同じような表情で頷くしかなかった。…ジンさんも忙しいのに、申し訳ない……

 

 

 

 さて。秘境から出ると、アンバーは『怪鳥』を西風騎士団に突き出すためにあっという間に立ち去っていった。飛行免許は大聖堂…つまり教会で発行されるらしい。教会は……あ、これ?一番奥なんだ。

 あまり時間をかけてしまっては無効になるかもしれないので、早速ワープポイントを使って*6寄り道せずに向かう。入り口横で騎士団のアートさんと再会したりしつつ、中へ…

「うわぁ…」

 そ…荘厳。厳粛。森厳………飛行免許って、ホントにこんな場所で交付されるの…?

 

「おめでとう!これが飛行免許だよ!」

 ほんとだったわ。しかも真ん中の通路をまっすぐいった先でアンバー!?アンバー早くない!?いやまあ、受け取りますけども…

「そうだ!次の飛行大会には二人もエントリーとしておくから!私のスピードについてこれる人がいなくて退屈だったの!」

「そうなんだ?いいよ、勝たせてもらうね!」

「へぇ?言ってくれるね~」

「蛍…私はちょっと遠慮したいかな…」

「日依は一回落っこちてるもんな…」

「今の日依ならもう大丈夫なはずだよ!まあ、勝つのは私だけどね!」

 フフーンと得意気なアンバーと、目の奥に闘志を光らせる蛍…えっこれ強制参加?トラウマとかじゃないけど、まだ自信は芽生えてないからけっこう本気で遠慮したいんだけど…。

「それじゃあ私に負けるまで、合法的に、自由に、楽しく飛んでね!飛行規則は守るんだよ?免許停止なんてダメだからね!」

「アンバーに言われても説得力ないような…」

 パイモンのツッコミに、私も苦笑するほかなかった。…今回も波瀾万丈が過ぎたけど、とりあえずこれで飛行免許は獲得できたわけで…いやほんと、一回ゆっくり休みたいな……。

 

 

 

 

 

*1
感電反応で封じてるみたいだから私が潜っていこうかと思ったけど、水が抜ける仕掛けがあった

*2
あまり表情ないから分かりにくいけど、苦しんでる様子はない。これは私も便利アイテム扱いしちゃうな…

*3
まだ4ヶ所目だけど

*4
こいつ全く聞いてない

*5
100%勇気

*6
この感覚にもだいぶ慣れてきたな…





・日依
そこら辺の木箱から野菜が出てくるのにはもう慣れた
呪力⇒電気だけでなく電気⇒呪力も可能。つまるところ術式反転なわけだが、彼女の術式反転は他とは少々異なるようで…
そしてスライムの弾力を借りて遠距離攻撃を成功させる図。わりと賭けだった
『迅雷』でもそれなりに太い木の幹を折るくらいの威力(物理)は出ます。『災輝』なら縦に二分割できるけど

・蛍
日依はすっかり慣れたのであまり描写されてませんが魔物をバッタバッタ倒(ry
風の翼を使いこなすのが本当にお早い

・パイモン
案内役はお休み
背中に星座みたいな模様が出たり消えたりするあれ『幻想の翼』って言うのね
某台詞にそこはかとない「ク○ラが立った!」感を覚えるなど

・アンバー
勇気ある偵察騎士(飛行のプロ)
弓同士一対多に苦戦していたものの切り抜けた
えっあれ届くの!?あぁでも確かに、スライムって弾力あるもんね…私も炎スライムなら蹴っ飛ばせるかな?(※よい子は真似しないでね)
なお、技術はプロだが再試験の常連だった件

・『怪鳥』
小悪党でしたね(にっこり)


以上、伝説任務『小兎の章・第一幕「風、勇気と翼」』でした
次回より魔神任務(メインストーリー)に帰還します


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