呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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吟遊詩人

 

「なぁ、ところで蛍…さっき、騎士団本部で話してないことあったよな?」

 ふだん声量に躊躇(ためら)いのないタイプであるパイモンが、声をひそめて蛍に話しかけた。蛍もそれに小さく頷いて…私だけがついていけない。突然のメタ発言をするなら前回赤い結晶を見せてもらった場所からまったく移動していない。帳も、解除しようと思ったけど継続することにした。保持力テストも兼ねて。

 …騎士団本部で"話してないこと"と言うと、さっきの赤い結晶関連で間違いないだろうけど……あの赤い結晶を見つけたのは囁きの森で、風魔龍が森から飛び去ったあとだと言っていた。私が合流するよりも前のことだから、何もわからないんだけど…。

「あの時オイラたちが見たのは、風魔龍と赤い結晶だけじゃなくて…」

「…うん。それは自分で調べようと思ったんだ」

「やっぱり覚えてたんだな!あの()()()()!」

「緑の野郎??」

 

 パイモン「野郎」とか言うんだも気になるけど、何事かと蛍に問えば、「風魔龍に話しかけてる人がいたんだよ。私は悪い人には思えなかったけど…」とのこと。

「そんな色で覚えるような格好だったの?私みたいに?」

「そうだぞ!ちょうど今下にいるあの人と同じくらい…」

 …下にいる人?パイモンの視線を追えば、緑のマントを(なび)かせて走っていく人影……

「…あっ、あれ本人じゃない!?」

「なに~!?追っかけるぞ!」

 …えっここに来て御本人登場なの!?"噂をすれば影"が過ぎない!?

 

 

 

 …さて、元素視覚も使いながら追いかけて*1、たどり着いたのは…第二次飛行試験で周遊したのも記憶に新しい巨像のお膝元。先ほどの"緑の野郎"は…すでに十数人ほどの聴衆が集まる中で、見慣れない弦楽器を抱きかかえて爪弾きながら、

―――ボクが話すは古の始まり、神々がまだ大地を歩く時代の物語

 …落ち着いた声音で、そう語り始めるところだった。

 

 

 天から降り立った龍と、地上の歌い手。

 やがて訪れた暗黒の時代、襲い来る悪龍。

 地上の声に応じ再び天から舞い降りた龍は、悪龍の毒に冒され眠りにつき。

 目覚めたときには、自らを知る者は居なくなっていた……

 

「…おや?君たちは」

 ふと目を開けば、集っていた聴衆はまばらに散っていくところで、蛍とパイモンがさっそく話し掛けにいくところだった。すっかり聞き入ってたな…これは、文字通りの()()()()ってやつか。

「あぁ、そっちの二人はあのときトワリンを驚かした人たちだ!」

「トワリン?」

「パイモン…リサさんが言ってたよ」

「んん…あ、思い出したぞ!でも、普通の人は『風魔龍』って呼ばないか?仲いいのか?」

「ふふ、さあね?」

「コイツなんか怪しいぞ…」

「そういうことは思ってても言わないの…」

「私は冒険者の蛍。こっちは相棒のパイモンと、同じく冒険者の日依だよ。あなたは?」

「ボクは吟遊詩人、ウェンティさ。もっと正確に言えば、『モンド城で一番愛される吟遊詩人』に三期連続で選出されたウェンティだよ。ボクに何かご用かな?」

 

 全体に緑色の装束に身を包む少年は、そう茶目っ気たっぷりに自己紹介した。…吟遊詩人。知らない肩書きだけど、さっきみたいな弾き語りを生業(なりわい)とするのだろうか?…それと……

「オイラたちのことがわかるなら、もう説明する必要もないよな?もちろん、風魔龍の件だ!」

「うん…?」

 ……まあ、一旦置いておこう。今はその話題じゃないし。パイモンは手短に本題に入りたいらしいけど、ウェンティさんは"はて…?"という感じに首をかしげる。

「おい!記憶喪失のフリはやめろ!…蛍、あれを見せるか?」

「あれ…あの結晶?」

「…大丈夫、もう誰もいないよ」

 

 "あれ"が何なのかピンと来て、ふと私の顔を見てくる蛍。それくらいの慎重さを常に発揮してほしいね…そう、私もさっきの物語を聞いていて…「怒りと悲しみ、命と毒が涙となって」の部分で、あの負の感情がこもった雫型の結晶を聯想(れんそう)した。そんなおとぎ話みたいなこと…と思わなくもないけど、なにぶんここはとってもファンタジーな世界なので…。

 それで、また帳を下ろすべきかだけど……まあ大丈夫だと思う。前は騎士団本部がまだ近かったし人通りがあったから念のためだったけど、今は周囲にひと気がない。不躾な視線も感じないし、ウェンティさんの背後は巨像に遮られてるし………それに正直、この人の前で呪術をあまり使いたくない気がしてる。さっき話しかけにいく蛍たちを追って近寄ったとき、目が合った際に一瞬見えた表情が気になる。

 いいの?という顔をしながら、蛍はやはりどこにあるのかわからないの収納からあの赤い…結晶……あれ??

「おや?これは…」

「あれ?結晶が浄化されてる!いつの間に!?」

 蛍が取り出した雫型の結晶は…あれほど禍々しい暗赤色だったのが嘘のように、晴れ渡る空のような青を(たた)えて穏やかに輝いていた。…いつの間に?あのあとすぐウェンティさんの追跡を始めていたから、取り出して何かする暇なんてなかったのは私も知ってる。念のため蛍に何かしたのか聞いてみたけど、全く心当たりはないとのこと。

 

「これは、トワリンが…風魔龍が、苦しんで流した涙だ」

「涙…?」

 …やっぱりか。そうじゃないかとは思った。…禍々しい赤が消え去ったこの青い結晶にも、負の感情は薄れつつも残っているのが肌感覚でわかる。つまり、これができた時点で負の感情が関わっているわけで…雫型であることからしても、涙と考えるのは無理からぬ話だろう。

 まあ、そんな推察は()いておくことにしよう。…悲しげな顔をしたウェンティさんが、禍々しい赤色のままの別の結晶を取り出したから。

「優しい子だったのに、今はこんな風に悲しみ、怒りに満ち溢れている…ボクも、涙の結晶を持っているんだ。浄化をお願いできるかな?」

「浄化…私が?」

「…まあ、そうだろうね。蛍が持ってるだけでそうなったんだから」

 

 単純に考えて…いやまあ難解に考えたってきっと必然的にそうなると思う。…そうか、浄化もできるのか……特異体質てんこ盛りだなこの子……。

 蛍は困惑しつつも、ウェンティさんから渡った赤い結晶を掌の上に浮かべて…深呼吸をひとつ。すると、みるみるうちに結晶から赤い色が抜けて…代わるように、空色に染まっていく。

「おぉ…」

「君、本当に不思議な力を持っているんだね。君のような人が、吟遊詩人の詩に登場させられるのはある種の運命だと思ってね?」

「詩にされるみたいだよ蛍」

 …うん。薄々思ってたけど、ここまで不思議な力を持ってるとやっぱり蛍って()()()っぽいよね。比較対象としてはあれだけど、特級呪物(宿儺の指)に耐え得る虎杖(いたどり)君みたいなことだ。冷やかすように言ってみたけど、当の蛍は少し照れくさそうにするだけだった。つよい。

「…あっそうだ、今は君のために新しい詩を書いてる暇ないんだった。…たとえトワリンは討伐されずとも、その生命力はすごい勢いで消耗していっている…彼は今怒りの中で、自分を燃やし尽くそうとしているんだ」

「それは…」

「何か、私たちに手伝えることないかな?」

「涙の結晶を浄化してくれただけでも助かったよ。本当にありがとう!…でも今、新しい作戦を思い付いたんだ」

「作戦?」

「龍の涙を見ていたら、ある故人のことを思い出してね。それじゃあお先に失礼するよ!」

「えっ?おい、どこ行くんだよ!?」

「モンドの『英雄の象徴』だよ!またね!」

 

 …何か思い付いたらしいウェンティさんは、慌ただしく走り去っていった。思い付いたと言いつつ伝える気無さそうだったな……それとも、

「着いてきて、ってことかな?」

「…わざわざ場所言ってたし、そうかもね」

 蛍、それからパイモンと顔を見合わせて、追いかけてみることにした。…しかし、『英雄の象徴』ってなんだろう?

 

 

 

 

 

*1
(そんな綺麗に足跡で残ることあるの?と思ったけど、戦闘中の私が実際にそうらしい。マジか…





・日依
引き続き負の感情を知覚する呪術師。結晶に関する経緯は何も知らなかった
帳の保持力テストはお預け。さすがに移動まではできないので

・蛍
つよい旅人。さすが数多の世界を渡り歩いてきただけある
浄化の力は無自覚なものとして書いたけど実際はちょっとわからん ゲームでは無表情なんで…

・パイモン
そろそろ案内役から相棒に呼び替えたほうがいい気がしてきた
呼び名に容赦とかない子

・ウェンティ
噂をすれば影の流れで登場した緑の野郎
飄々とした吟遊詩人。諸々を知ってるムーブが見え隠れ
どうやら日依の何かに反応した模様


追記:フォントが違うな…と思ったりの諸々で修正入りました


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