呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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長らくやりたいなと思っていたメインストーリー沿いが、遂に

▼冒険に満ちたブランニューワールドへ



序章:風と龍と自由の歌
厭離穢土


 

 

 『呪術廻戦』。夜の帳が下りたら合図でお馴染みの少年漫画。

 人間の負の感情から生まれる『呪い』と戦う『呪術師』達を描くダークファンタジー。

 

 私――癸生(けぶ)(かわ)()(より)は、その世界でまさしく『呪術師』をしていた。一般家庭からのスカウト組…だとしばらく思ってたんだけど、零細ながら父方の係累であることを後から知った。父は私たち家族に一切を伏せたまま多忙な呪術師として活動、なんて離れ業をやってのけていたらしい。私がスカウトされたときには既に、何も言わずに死んでいたけれど。交通事故だって聞いてたのに。

 

 

 ただまあ…冒頭で()()と言ったことからお察しの通り、私はこの世界を()()()()()知っていた。いわゆる転生者であり、この難読名字も、デジタル端末上の漢字変換にやや難のある名前も、たった…というには長いけれど17年あまりの付き合いなのだ。

 けれども、詳しいストーリーの流れまでは知らなかった。なにぶん浅く広く、たまに局所的に深い感じのライトなオタクだったもので。『呪術廻戦』は浅い側。どっぷりハマってるのが友人にいて、そっち経由でざっくり重たい話だなぁという印象はあったけれど、常に深い側を優先していたもので。選ぶなよ私を。この世界に。

 こういうときストーリーの知識があれば誰かを救済に走ったり、いやストーリー改編したら何が起きるかわからないと怯えて慎重になったりするんだろうけど、私はそれもできなかったわけで。

 

 …我ながら、原作に疎い割にはだいぶ頑張った方だと思う。濃い同級生*1に濃い*2編入生に、担任の旧友によるテロ。2年に進級したら強烈な*3後輩ができて、姉妹校交流会に呪詛師の強襲があり、そして………渋谷の。

 

 いやほんと、『とある』の超電磁砲みたいな…少なくともそんなふわっとした認識で動かせてしまう術式でよかった。そうでなきゃ何度死んでいたかわからない。私の術式による電撃は呪霊に覿面(てきめん)に効くから帯電しておけば触れられなかったし、機械に流して無理矢理動かしたりとか、あと砂鉄剣もやったな。磁場を作るのは本当に難しかったけど。超電磁砲まではできなかった。

 それらの果てに、渋谷。事前情報をもとに探していた特級呪霊・()(ひと)をやっとの思いで見つけ出し…善戦したと思う。一年の虎杖(いたどり)君が相手取ってるところに加勢する形だったし、何より触れられないことには自信があったから。…けれど。

 あぁー…あの後どうなったんだろう、気になる…。誰の目から見ても重傷を負って京都校生に運ばれてた野薔薇ちゃんとか、虎杖君も東堂先輩も……本当にあの場での敗死が悔やまれる。

 虎杖君と真人には深い因縁があるらしくあまりにも険悪そうで、彼には悪いけれどここはもう(いたずら)に消耗してしまう前に片付けてしまおう、と領域展開を仕掛けた………んだけれど、向こうからも領域展開で対抗された。領域の押し合いになって……結果、()()()()()()()

 領域展開で仕留められなかったのは、本当に惜しかった。それでも切り替えて追撃に出たのだけれど…少々キワモノである私の領域展開は、あまりにも負担が大きくて。こちらは術式が焼き切れて、でもどういうわけだかあちらは問題なく使えて、防御はままならなくて。

 …敗因は。決定的なそれはわかってる。一人で片を付けようとしたこと。虎杖君を(おもんぱか)るにしても、せめて東堂先輩は()()()()()べきだった。あんなに良い術式他にないんだし………自分向けの戦術を理解しているつもりで、けれど戦場の土壇場で視野が狭まっていた。そういうことだ。

 まあ、済んでしまったこと。今考えても仕方がない、けど。…果たして私はどうなったのやら。激痛とかそんな生易しいものじゃなかったのはわかる。虎杖君たちには「ごめん」としか言えなかったな…あの顔が、忘れられそうにない。

 

 

 そう、私は死んだ。即死だった。虎杖君を襲わされなかったことが救いと言えば救い。じゃあ、こんな話をしている私は今、どうなっているか?

「……ここは…?」

 頬を撫でる風。草木の葉擦れの音。(あお)向けの視界には際限のない、腹が立つほどに青い空。…地下鉄駅の対概念と呼んで差し(つか)えない大自然の真っただ中に、私は五体満足で転がっていた。……ずいぶん前置きが長引いてしまった。悪い癖だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 さて、見渡す限り緑と青。厳密に言えば木の幹とか花とか岩肌とかもあるけど、どうでもいいくらいに緑と青だけの景色だ。夢なのかあの世なのか、領域……はないか。呪いの気配がないし、真人に殺られたあとのはずなのに領域も何もないだろう。真人の領域は無数の手に取り囲まれる暗闇だから見間違えるはずがない。夢にしては……陽光が暖かい。視線を下ろせば無為転変は残っていないけれど、目に入った他の生傷が思い出したようにじくじく痛んだ。夢じゃないらしい。だったら―――

「…呪術師が、天国に行けるわけないだろ………っ…う」

 ()(だる)い身体をなんとか起こす。傷はほとんど壁や天井が壊れたときの欠片でできたものだから問題ない。術式を引っ張り出せば、開いた掌で小さな光がバチバチと音を立てた。術式は正常…うん。体内の呪力の巡りも、知覚できる。ならいいか。

「いや、良くはないな…」

 …私、大自然にひとりぼっち。呪術廻戦をご存じなら言うまでもなく、私はライフラインの行き渡った場所でぬくぬくと暮らす現代っ子だ。いくら高専が山奥とはいえ。職業柄こういう人里離れた場所を歩き駆け回ることは慣れているけれど、まともに野宿をした経験なんてない。ポケットから取り出した文明の利器(スマートフォン)は…圏外。言わずもがな。

 …仕方ない。右も左もわからない探索のお時間だ。人間が生きていくために必要なものは……水の音がする。とりあえずそっちに行こう。

 

 

 

 

 

ya!

guaa!!

 …で、行ったらお面を被った真っ黒な肌の奴らが襲いかかってきた話する?

 するけど…ホントなんなのかわからないけど言葉通じないし、なんか投げてくるし棍棒振りかぶって襲いかかってくるし敵か…敵か。害意しか感じないな敵だな。そうと決まれば、呪力を全身に―――

「――はぁっ!!」

 腕を振るえばバシィンッ!という音とともに、仮面の奴らが吹き飛んだ。

 先に述べた通り、私の術式は電撃…なんだけど実は、正直なところ詳細なメカニズムまでは把握してなかったりする。あいにく私は感覚派なので。とりあえず呪力を電気に変換して帯電・放電その他ができる代物で、さっきのは『迫撃(はくげき)』…まあちょっと派手めの放電といったところ。

 しぶとく起き上がってくるところへもう一度『迫撃』を決めれば…なんか崩れて消えていった。消えてしまうということは、呪霊と同様に扱っていいんだろうか?消え方が違うけど…いや考えてる場合じゃないわ。追加の気配に振り向けば、素手の一体が腕を振り上げて、すぐ近くまで

「――てぇりゃぁっ!!」

 

 …がら空きの胴にめり込んだ脚から閃光が散り、仮面の奴が消える。…おあいにく様、私は近接戦だって得意なのだ。高専でも野薔薇ちゃんを何度転がしたやら。術式の面で見ても全身への帯電は基本の()だし、局地的に出力を上げる『(がい)(しゅう)』を使えばさっきみたいな強烈な一撃を決めることだってできる。

 それにしても…なんだか、以前にもまして呪力操作がスムーズにできてるように思える。確かに近接戦の際の十八番(おはこ)になってた『鎧袖』だけど、さっきに関してはギリギリ間に合わないかもとは思ったのだ。

 ……たまに聞く話であったけど、私の呪力も死地を越えて洗練されたということだろうか。越えたといっても三途の川の方向なんだけど。

 あと、最初に確かめたときは小さいからか気づかなかったけど…電光が、はっきりと紫色を帯びている気がする。これもそうなんだろうか?おおよそ関係があるようには思えないけれど…。

 ともかく水場で喉を潤して、また行くあてもない探索を再開することにした。

 

 

 

 

 

*1
天与呪縛・語彙制限付き・パンダ

*2
ものが憑いた

*3
呪物を取り込んだ





ばっ-しょう【跋渉】…セフ
[詩経(鄘風載馳)]山をふみ越え、水を渡ること。転じて、諸国を遍歴すること。     (出典:『広辞苑』)

・日依
いろいろあって没にした呪術二次の主人公を渋谷事変で死なせてテイワットに放り込んだ次第だよ
悩んでたけどやっぱ名前変えたよ(2/17)
で、関連して直さなきゃいけないとこ見落としてたから直したよ(2/22)
そして実は色々変更を入れております…(8/14, 8/22)

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