呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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至宝

 

 …さて、ワープポイントを使ってやって参りました大聖堂。ウェンティの言う『天空』はモンドの至宝であり、かつて風神バルバトスが使っていたライアーだという。…うん。私には知識がなかったけど、"ライアー"は嘘つき(Liar)ではなく弦楽器(Lyre)であるらしい。

「天空のライアーがあれば、ボクはトワリンを悪夢から目覚めさせられるよ」

「ホントに、それで風魔龍の暴走を止められるのか…?」

「もちろん、ボクはこの世界で一番の詩人だからね!」

「絶対的な自信だ…」

「ボクの目を見て。ボクのこと頼もしいと思わない?」

「絶対的な自信だ……」

「それで、どうやって天空のライアーを手に入れるんだ?」

「大聖堂の安全な場所に保管されてるって聞いた。まずは下調べだね」

 興味があるなら一緒に来てくれても構わないよ!と言って、ウェンティさんは意気揚々と大聖堂に入っていった。

 

 

 …けれど。

「うーん…ダメかぁ……」

 私たちは今、がっくりと肩を落とすウェンティを前にしている。シスターとの交渉…じみたもの*1は不発に終わった。

 話を聞いていた感じ、風魔龍は討伐すべきものという認識はこの大聖堂の中にも広がっているらしい。それも単純に過去を知らないわけではなく、"風神を裏切った悪"という認識のもとだ。問題は思いのほか根深い模様。

「…でも、うん。予定してた目的はクリアできたよ」

「目的、って?」

「少なくとも、彼女はこの大聖堂に天空のライアーがあることを否定しなかった。というわけで、二人もやってみるかい?」

「……蛍、行ってらっしゃい。私はパス」

「えっ?」

「だって怪しいでしょ?大聖堂でこんな黒ずくめ。蛍のほうがよっぽど見込みあるよ」

「そ…そっか」

 

 シスターさんに話を聞きにいく蛍を見送って……まあ、結果は推して知るべし。呪術師の必須スキルである聞き耳*2を立てたところ、なんでも天空のライアーは祭事にしか持ち出されず、その持ち出す際にも多くの認可と書類が必要であるらしい。「パイモンが書類食べちゃった」はどうかと思うけど……モンドの()()、とか言ってる時点で察するべきだったな。

「はぁ…やっぱり君でもダメだったかぁ」

「お前わかってたのかよ…?」

「まあ、騎士団のスーパールーキーの実力を見たかっただけだからさ。それにほら、"勇者が村に伝わる宝剣を手にする"…そんな展開、詩にするにはぴったりだと思わないかい?」

「あ、そこに着地するんだ…」

「さすがに失礼だぞ吟遊詩人…」

 確かにあの弾き語りは思わず聞き入ってしまう素晴らしいものだったとはいえ、魂の底まで詩人なんだなこの方は…とジト目になってしまうけれど。ウェンティさんは困ったように眉をハの字にする。

 

「誤解しないで?モンドに対して失望してるんだよ。勇者相手に宝剣をケチるなんてね。…さて、ちゃんとした方法で借りるのは無理みたいだし、別の手を使うしかなさそうだね」

「別の手…」

「ここは自由意思を尊重して君たちの意見を聞こう。どう()ればいいと思う?」

 うーん。現状だと風魔龍の正体について理解を求めるのが先決な気も…いやしかし、アンバーも「ショックだった」って言ってたし受け()れ難いのか。聖職者なんて意思も強そうだし尚更……ん?

「…ウェンティさん?その"()()"って」

「うん、正攻法じゃダメそうだし、盗「一旦外に出ません!?

 

 

 

「あははっ、君たち最初からそれはないよ!」

 さすがにあの森厳な空気の中でしていい話じゃないので大聖堂をあとにした私たちだったけれど…借りられそうにないから()()。そんなシンプルかつ大胆な犯罪宣言にパイモンと二人掛かりで示した難色は一笑に付された。遠慮ってないのか…いやまあ龍を救いたい気持ちがあるのはわかるけど、それにしても遠慮ってないのか…?

「真面目な話、ボクより君たちのほうが向いてると思うんだ。だってボクは歌うこと以外、長所という長所はないからね?」

「あの弓は…?」

「扱えはするけど、ボクより上手い人なんてたくさんいるよ。それにボクはひとりぼっち。捕まったら冤罪を晴らしてくれる人はいないんだよ」

「実行して捕まったら冤罪って言わないだろ…?」

「でも、君たちは違う。モンドに貢献した、騎士団の未来のスターだからね!ちゃんと説明したら誤魔化せるかもしれないよ?」

「誤魔化すって言った…」

 それにここの守衛は夜になると帰っちゃうらしいよ?じゃない。なんなんだこの……倫理観というか、それに準ずる何かが決定的に抜け落ちてる感じがする。ある意味一般呪術師に近しいかもしれないけど、そんなあくどい笑みを浮かべていい童顔じゃないだろ…。

 ねえそっちからも何か言ってやってよ、と(すが)るような眼差しを向けて……なんだか、蛍の様子がおかしいことに気がついた。

 

「…蛍?」

「ねえ、ウェンティ」

「なんだい?」

「…さっき。"ボクがバルバトスだ"って、言ったよね?」

「ん?あぁ、そういえば言ったね」

 あぁ、そういう…でも、あれは天空のライアーを貸し出してもらうための腹芸だったんじゃ…?そう思っていたから、ウェンティさんの口からそういう説明が続いて出てくるものだと思っていた、けれど。

「だから?」

 ウェンティさんは小首をかしげて…あれ、そんなあっさりと受け止めちゃうの?

「神なら、私は見て見ぬふりはできないよ」

「おや、それはどうして?」

「蛍…?えっと、コイツの過去の話だ。機会があったらまた教えるよ…今はいったん置いとこうぜ?」

「ん…そうだね。神じゃなかったとしても、トワリンは助けたいよ」

 …な、なんだか剣呑な空気になってきたけれど、蛍の突っ走りがちなところが発露されただけだったっぽい。蛍…そういえば言ってたな過去の話で神がどうこう……あまりのファンタジーに半分聞き流してたから、あとでちゃんと聞き直さないと……それはそれとして。

 

「私としても、トワリンは助けたいけど…ホントにやるの?捕まったら罪に問われるようなこと」

「あいにく、他に手はなさそうだからね」

「はぁ…仕方ない。じゃあ私がやるよ。蛍はお留守番」

「えっ?けど、」

「さっきは蛍に任せたからね、次は私の番って話。それに華々しく表に出るほうは蛍に任せたいから、あまり悪いイメージがついてもらっちゃ私が困る」

「こ、困るって…それは、日依も同じなんじゃ…」

 …成り行きで蛍と一緒に騎士団に迎え入れられて、栄誉騎士の爵位*3まで貰ってしまったけれど。…結局、私は全然切り替えができていなかったりする。未練とかの精神的な問題じゃなくて、立ち回りとか行動指針とか、そういう意味で。

「同じじゃないよ、少なくとも私としてはね。この黒ずくめをなんだと思ってるの蛍。私はもともと、仄暗い裏の世界に慣れてるタイプだから」

 …ま、ホントはただの学校制服なんだけどね。この黒ずくめ自体は。

 

 

 

「あ、パイモンはついてきて。できればサポートお願いしたくて」

「おい!?オイラはいいのかよ!?」

「いいじゃんパイモンは姿消せるんだから」

 ずるいぞパイモン。こんなことなら私もそれやりたい。

 

 

 

 

 

*1
泣き落としや、ボクが風神だ!と名乗る行為を含む

*2
※日依が勝手に言ってるだけ

*3
いまだにしっくり来てない





・日依
遠慮のNASAに目を白黒させたが、実行犯に立候補
蛍ほど目立った活躍もないし黒ずくめで地味だし、もともと日陰者だし………
なおウェンティのこといろいろ言ってるけど人の身の上話をよく聞いてないお前も相当だぞ
ウェンティ=風神の式はまだ仮説段階。既存の神のイメージと合致しなさすぎて

・蛍
思いがけず旅の目的に近づいたかもしれず、前のめりになった旅人
急に日依の影の部分が出てきてちょっと困惑気味

・パイモン
ツッコんだり引き留めたりしてる相棒
日依に連れられていくことが決定

・ウェンティ
借りられないなら盗んじゃおっか!(屈託のない笑顔)
何かが決定的に抜け落ちてるのも仕方がないのかもしれない


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