呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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アニメ3期ので魔法科熱が再興してきおる…(無関係)



逃竄

 

 

 

「………」

 忍び込んだ大聖堂の地下室。色々と荷物が並んでいる中を縫うように…守衛、というよりは警備員?が複数人巡回してますけどウェンティさん聞いてた話と違うんですけど!

 はぁ…それにしたって、人呼んで"東京校2年きっての優等生"がまさか窃盗罪に及ぼうとしているだなんて。みんなが聞いたらどう思うやら……………案外好意的にからかわれそうな気がする。狗巻くんも悪ノリ大好きだしな…真っ当な指摘をして来そうなのは乙骨くんくらいか。

 まあ、来てしまったものは仕方がないので息を殺して隠密行動中。気配を消して進むのは割と慣れてる。相手が呪霊だろうと呪詛師だろうとこれは基本の()になるから。

 

「ひ…日依スゲーな…オイラ来る必要あったか?」

「隠密はできて損しないからね…ただ、気は抜けないから」

 姿勢を低くして、開けた場所を駆け抜ける。パイモンにも低空飛行してもらって、なるだけ足音を立てないように……ここまで、意外とスムーズに行けてる。あまりスムーズに行けて嬉しいことじゃないけど。

 ただ困ったことに、目当ての天空のライアーがどこにあるかがわからない。ウェンティさんもさすがにそこまでは把握してないらしかったし…風神が持っていたというなら風元素を頼りに探せないかと思ったけれど、パイモンいわく元素的な観点からも置き場は把握できないらしい。さすが大聖堂の保管庫、他にも風元素を(まと)うものは色々とある。

 どこだろう、と頭を巡らせたとき…ふと視界の端に見えた。壁も天井も四角ばかりの空間の中、隅にぽっかりと口を開ける円形の部屋。小走りに近寄れば…

 

「…あれが、天空のライアー?」

 円形の部屋の中央に台がひとつ。その上に…竪琴(たてごと)、というのだろうか。「甘」の字のような形に、上下に弦が張られた楽器。下のほうに填まった翡翠色の宝石がきらりと輝く。ウェンティさんが使ってたのと形状は同じだけど、一目で上等なものだとわかる。

「あれだ、間違いないぞ」

「そっか…じゃあパイモン、」

 あとはパイモンのストレージに入れてもらうだけ……そう思ったとき、台の上で天空のライアーが、サッと横にぶれた。

「っ!?」

「だ、誰だ!?」

 パイモンと一緒に、思わず目を(みは)る。天空のライアーを抱えて台の横に立つ、紫の外套をはためかせる人物。仮面の上からフードを目深に被っていて、顔は見えない。けれど、肌で感じる異様な気配……私はついさっきまで、この気配を感じられなかった。いつの間に?どこから?

 混乱する私の前で、仮面の人物は唇に指を当てて――

「っ!――…えっ?」

 ()()()()()。そう直感的に理解した私の脚が紫電を纏って――掴みかかったはずの手が、空を切った。……消えた?パイモンとは違う、まるで空間が(ゆが)んだみたいな……呆然とする私の耳に、ふと駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「っ!まずい、人来た…!」

「マジか!?逃げるぞ日依!」

 

 

 

「く、っ…!」

 …なんとか見つからないようにしたかったけれど、あそこは隅の行き止まり。さすがにひとつしかない出入り口から出るほかなく、結局見つかって追われている。複数の足音が追ってきているのがわかる……ただ、こちらも腐っても2級呪術師。簡単に捕まるわけにはいかないから遠慮なく引き離してはいる。体力面も申し分ない、そんなに接近されてはいないけど……

「おーい!こっち!」

「っ!?ほた、っなんで!?」

「っ、二人とも着いてきて!」

 …あの巨像が見えてくる辺りまで駆け下りたとき、ふいに聞き覚えしかない声をかけられてぎょっとした。見れば、見間違えようもない蛍の姿…あ、隣にウェンティさんもいる。あそこは…飛行試験の、第二次試験で飛び立った場所!

 ウェンティさんに促されるまま、私と蛍は風の翼を展開した。…ごめんねアンバー、こんなことで使っちゃって!

 

 

「ウェンティさん?ここは…?」

「まあまあ、困ったときはここだよ!」

 ウェンティさんに先導され、たどり着いたのは…街中に佇む一軒の店。店先に並ぶいくつかのテーブルからして、飲食店の類いであることはわかる。遠慮なくドアを開けて踏み込んでいくウェンティさんに続きながら、ドアの横の看板を見やる…『エンジェルスシェア』。

「オーナー、えっと…人が少ないところ、ないかな?」

 中に踏み込めば…テーブル席とカウンター席がいくつか。カウンターの向こうには瓶や樽が並ぶ…もしかして、これがいわゆる酒場というやつか?

 夜だからか客は少ない…こういうところってむしろ夜の方が客多いのでは?まあいいか…カウンターには髭面の男性と、燃えるような赤髪の男性。ウェンティさんがオーナーと呼んだのは赤髪のほう……只者じゃないなこの人。めちゃくちゃ強そうな感じがする…。

 

「日依、行くよ!」

「へ?ごめん聞いてなかった」

 …見慣れないものばかりできょろきょろしていたら、いつのまにかウェンティさんと赤髪の人の間で話が付いていた。ひとまずここの2階に身を潜めることになったらしい。

 階段を昇れば、人気のない2階…大きな吹き抜けがあって、シャンデリアが1階まで下がっている。見下ろせばさっきのカウンターにまだ二人がいた、…上からもカウンターへ注文が出せるように、ってところかな…。

「…横取りされた、ってことかい?」

「そうなんだよ、なあ日依!」

「あ、うん…紫の外套を着込んで仮面をつけてて、捕まえようとしたら消えたんだ」

「消えたの?」

「うん、パイモンみたいな消え方じゃなくて、空間が歪むみたいな…っ!来た、みんな静かに…!」

 パタパタ数人の足音が近づいてきたと思えば、大聖堂で見た警備員が店に駆け込んできた。

 

 

 

「ディルック様、泥棒を見かけませんでしたか?」

「何があったんだ?こんなに人を出して」

「ディルック様はご存じないのですか?天空のライアーを盗み出そうとした輩が出たのです!黒ずくめの実行犯に、協力者が二人!」

「ほう?それは珍しい」

「ええ。天空のライアーは風神様の宝物、これほど貴重な文化財を」

()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()な。うちの酒蔵を狙ったほうがまだ儲かると思うが……ああ、話が逸れたな。その協力者というのは、金髪と緑色の二人だったか?」

「っ、はい!」

「なら、あっちに行ったと思うが」

「かしこまりました。ディルック様、ありがとうございます!」

 

 ……あっち、と指差された…見当違いの方向を目指して、警備員たちは店を出ていった。息を殺して、なんなら念のため帳まで下ろして見守っていた私は、思わず隣の蛍と顔を見合わせた。

「…(かば)われた?」

「そうみたい…」

「も…もうおしまいかと思ったぞ…」

「でも、どうして…」

 もう大丈夫そうかな?とか言って早くも階段のほうに向かうウェンティさんがいっそ怖いけど、見下ろせば赤髪の人…ディルックさんと目が合った。…下りてこいってことですね。わかります。

 

 

 

 

 





・日依
実行犯(未遂)。これでも優等生(呪術高専基準)
陰の存在として隠密は必須スキルだったし、その手のプロには敵わないがスピードにも自信がある(『鎧袖』がそういうふうに使えるので)

・蛍
今回は出番少なめな幇助犯①

・パイモン
姿を消せる同行者。ほんとにオイラついてく必要あったか…?

・ウェンティ
立案者にして幇助犯②
逃走ルートも確保済みであった

・ディルック
プレイヤーに人気の旦那がついに登場



追記:24/04/19
さすがに分かりにくそうだし途中から(はし)ってないのでタイトル変更しました 「竄」は今でこそ"改竄"のイメージが強いけどもとは文字通り鼠が穴に"隠れる"ことらしい(諸説あり)


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