ちょっと長めになったかも(前話の倍近く)
「さてと、今日はどれにしよっかな~」
「カウンターから取った酒を置け」
「冷たいのでいいかな」
さて、逃げ込んだ酒場*1にて。…ウェンティさんが一階に下りてさっそく何か注文する気満々だった件。このお方心臓が鋼でできていらっしゃる…?それでオーナーに怒られてるし…その
「そろそろ、僕の質問に答えてもらおうか」
「えぇ?まずは飲ませてよ。ちゃんと支払うからさ、ボクの詩で」
「金の問題ではない。それに、君はまだ酒が飲める歳ではないだろう」
「そこは大丈夫さ。だってボクが酒を嗜み始めたのは」
「あの、ウェンティ?まず私が質問していい?この人は…?」
…背筋を伸ばす動きが無駄になった。ウェンティさんのハートが強すぎる。微妙に緊張感のない会話は放っておけばしばらく続きそうだったけれど、蛍が遮るように質問をすればウェンティさんは快く答えてくれた。
「こちらはディルック。酒場のオーナーの、そのさらに上のオーナーだ。有名人だよ?ちなみにボクは彼のワイナリーの
な、なるほど…?さしずめ酒造業大手のご令息、といったところなのか。さっき「うちの酒蔵」っていう耳慣れない言葉出てたもんな…。そしてウェンティさんの好みは聞いてない。そも未成年だぞ私は。
「衛兵から泥棒の話を聞いた。先に言っておくと、天空のライアーを盗む度胸は気に入った。君たちが馬鹿だとしても、かなり珍しいタイプの馬鹿だ」
「そんな散々な言い方する…?」
「盗んでない!真犯人は別にいるぞ!」
「この子達は騎士団のスーパールーキーだよ?モンドの秘宝を盗むなんて有り得ないさ」
「スーパールーキー?あぁ、君たちが。あの吟遊詩人と仲がいいのか?」
「…まだ、仲がいいってほどでは」
本人がすぐ近くにいるけど正直に答えておく。そんなちょっとしょんぼりされたって私は揺るぎませんよ?蛍は知らないけど。
まあ吟遊詩人は置いといて、パイモンがノリノリでここまでのあらすじ*2を語りだす…だから、龍を追っ払ったのは蛍だけなんだってば。何度か私たちが横から補足しつつ語られる顛末を、ディルックさんは静かに聞き届けていた。
「ふむ…旅人の君たちが、モンドの危機を救ってくれたとは。君たちのような人材が騎士団に入るなど、もったいない」
「え…もったいない…?」
「西風騎士団は風魔龍の件に関してずっと臆病で、それでいて効率も悪い。外交面でも『ファデュイ』に対して弱い上に保守的だ……チッ、いい。この話はしたくないんだ」
「なんだか西風騎士団が好きじゃないみたいだね?」
「目指す道が違うだけだ。モンドに対して、僕は僕なりの期待を持っている。…それで、質問に答えてもらおう。なぜ天空のライアーを盗もうとした?」
「本当に知りたいかい?騎士団関連のトラブルに巻き込まれるかもしれないよ?」
「ふん…トラブルは怖くないさ。僕自身が、その騎士団にとってトラブルの種だからね」
言ってることは自虐的だけど、凛々しいお顔に変化はない。…表情に乏しくて何を考えてるかはいまいち掴みきれないけど、誰にも引けをとらない確固たる信念を持っていることは伝わった。
「じゃあ…真実の物語を演奏したら、信じてくれる?」
「状況次第で判断する」
「じゃあ、演奏のお代はくれるかい?」
「報酬は5モラから天空のライアー、君の物語次第だ」
「いいね、もう一曲追加しようか!」
そんな軽いノリでいいんですかウェンティさん…と驚きあきれる私たちをよそに、とんとん拍子に話は進んでいく。…初見では腐れ縁みたいな感じかと思ったけど、案外気は合うほうなのかもしれない。意外と。口には出さないけど。
そうして、少しばかり準備を整えたウェンティさんが爪弾きはじめたのは…ちょうど初対面のとき、巨像の足許で弾き語られていたあの物語だった。
「先程の叙事詩は…これは、重大な秘密のはずだ。なぜ僕に?」
「なぜだろうね…うん。風向きが変わろうとしているから、だろうね。どうかな?ディルック」
「面白い。…少し時間をくれ、情報をまとめよう」
天から降り立った風龍、襲い来た悪龍。風龍は毒血に冒され長い眠りに…どうもこのすべてが故事――旧故の事実ということらしい。……ここでは、詩がこんなにも重要な意味を持つものなんだ。気を付けないと…当方内容より
店の裏手に引っ込んだディルックさんは数分で戻ってきた。色々確認する必要がある、と言っていたけど存外あっという間だったな。
「異邦人。君たちは騎士団の肩書きがあるから、疑われてはいないだろう。指名手配には黒ずくめ、金髪と大まかな外見情報しかないから、衛兵が来ることはないはずだ。しかし吟遊詩人…君は酒場から出ないほうがいい」
「それなら問題ないさ!ボクは酒場が大好きだからね!」
ウェンティさんは何でもないように笑ってる…けど、背後の酒樽をチラ見してるのバレてますよ。ディルックさんに露骨なため息をつかれても気にしないご様子。メンタルが強すぎるな…ひょっとして吟遊詩人の必須スキルだったりするのだろうか…*3。
「私も、まだ色々と情報収集かな…」
「蛍と私は、たぶん一旦別行動のほうがいいかもね」
「え?なんでだ?」
「外見情報だけとはいえ、指名手配と同じ組み合わせがいるのはまずいでしょ。あいにく着替えも持ち合わせてないし…騎士団の肩書きも、正直私はまだ効力に実感がないから、あまりそこに身を委ねたくないんだよね…」
「慎重派だねぇ」
えーっと不服そうな顔…そんな不服そうな顔することないでしょパイモン。服がないのはこっちだよ。ウェンティさんはのんびりした声音でからかうように言ってくるけれどその通り、私はどちらかと言えば慎重派だと思う。ある種の職業病だろうなぁ…なにせ呪霊の等級なんて参考程度にしかならないもんで。
そういうわけで、残念ながら蛍の情報収集は手伝えそうにない…私も私でやるだけやってみようとは思うけど、そんな潤んだ瞳をしても私には効かないぞ。
それにしても…私としては黒ずくめってだけで疑われそうな気がしてしまうんだけど、ディルックさんが結構真っ黒な
「では夜、酒場の営業が終わったあと、ここで合流しよう」
ともあれ、ディルックさんのその言葉をもって、この場は一時解散と相成った。
✫ ✫ ✫
「もうみんな来てるかも、ちょっと急ごう!」
寝ぼけ
徒労に終わってしまったことに肩を落としつつ、食事と仮眠を済ませて、今。そこまで深刻な寝坊ってわけじゃないと思うけど…現在時刻は、そろそろ0時20分というところ。『エンジェルスシェア』の営業終了は0時だと言っていたから、そろそろ集合する頃合い。
そう考えながら実際に着いてみれば、『エンジェルスシェア』の周りに人気はなく静かなものだった。午後8時頃に通りかかったときの、あの
「やあ、来たね」
扉を開けると、すぐ近くにいたウェンティがそう声をかけてきた。…営業終了後ということもあってがらんとした店。最初に訪れたときにいた髭面の店主も、今は奥に引っ込んでいるよう。店内には先に戻ってきていたらしい日依とウェンティ、ディルック、そして…
「おや…君達もか」
「ジンさん?どうして、団長がここに?」
「先に言っておくと、僕が今回連絡したのは一人だけじゃない。それから、こちらはただの「ジン」だ。団長としてのジンではない。栄誉騎士の君でも、そうそう接触できない人物だろう」
ジンさんの姿に驚いた私の質問には、ディルックから回答が来た。…団長としてではないってことは、"団長としてのジンさん"じゃ話せない案件ってことかな。…まあ実際、私たちは騎士団の間で指名手配されてるわけだし無理もないか。
天空のライアーをめぐる騒動についてもとっくに聞いているようだけど、ジンさんとしては今は風魔龍の件が最優先らしい。まさかしょっ引かれるのか!?と縮み上がってたパイモンも、それで恐る恐る私の背中から離れて出てきた。
「それで……本当なのか?ライアーの音で風魔龍が浄化され、元に戻るというのは…」
「そうだよ。この栄誉騎士二人は、風魔龍事件を解決するために最前線で頑張ってる。さすが騎士団のスーパールーキーだね」
「うんまあ、それで指名手配なんかされちゃってるんだけどね」
「ふん…神話と関わるような荒唐無稽な話を信じられないのも無理はない。それならそれで、詩人にもう一度歌ってもらって、この「信じるさ」頑固な団長様を…ん?」
腕組みして淡々と話すディルックと、ライアーの準備をするウェンティ…けれどその二人をよそに、ジンさんはきっぱり「信じる」と言ってくれた。…ディルックの冷徹そうな目が見開かれるのは初めて見たかも。
「四風守護の東風の龍、トワリン。風神を裏切ったとされるが、その裏切る理由がどう考えてもわからなかった。…数百年前のモンドを守る戦争で毒に冒され、目覚めたあともアビスの魔術師によって腐蝕されたというなら筋が通る。だが……これは、『代理団長』の立場としては、絶対に口にはできないことだ」
「すでに龍との対立構図が出来上がってるから、ですか」
「ああ…それに加えてファデュイからの圧力もある今、騎士団が
そっか…西風騎士団はモンドを護るもの。だからよそ者のファデュイに付け入る隙は見せられない、ってことか。
「…そういうところも、騎士団が嫌いな理由のひとつだ。ただ、この正体のわからない異邦人をそのまま信じるとは思わなかったが」
「
「だから、"先輩"はやめろ…今回は協力すると決めている」
「先輩」?…もしかして、ディルックももともと騎士団にいたのかな?…触れてほしくなさそうな雰囲気があるから、何も言わないでおくけど。パイモンもそっとしといてあげようね。
「天空のライアーについては心当たりがあったが…日依が見たという人物の見目から考えて、持ち去ったのはやはりそのファデュイと見て間違いない」
「ファデュイが…?」
「モンドとスネージナヤの衝突…本質的には七国と七神の衝突だが、氷の神が率いる『ファデュイ』は、風神が残した力を利用しようと企んでいるようだ」
「モンドは完全に狙われてるってことか…」
「そうだな…もし、風龍を殺す計画を騎士団が止めた場合、天空のライアーは彼らが唯一手にすることができる風神の力だ」
状況がだいぶ見えてきた。日依が言った通り、風神の力のためにモンドは狙われているらしい。龍災を利用する形で……思わず、握った拳に力がこもる。
…けれど。驚いたことにディルックさんが、モンドで単独行動している『ファデュイ』のメンバーからすでにいろいろと情報を聞き出していたらしい。…日依がポカンとしてるけどさておき。その情報によると、持ち出された天空のライアーは『ファデュイ』が借りきっているゲーテホテルにはなく*4、また別の隠れ家に置いているらしい。
その隠れ家とは?と思ったけれど…ディルックさんはジンさんと一緒に無言で店を出ていこうとしていて。
「えっ、もうこのまま行くのか?」
「ああ、場所ももう突き止めた。
「ほ、ほんとか…?すげーな…」
「天空のライアーがあれば、きっとすぐにわかるよ。それに日依も、持ち去られる直前に目印はつけたらしいし」
「あの一瞬でか?気づかなかったぞ!?」
「まあ、ほとんど賭けに近かったんだけどね…たぶん、成功はしてると思うよ」
肩を回しながら苦笑して言う日依…なんだか、私たちが来る前にある程度話はしてたんだね?日依が目印ってことは、雷元素がついてるのかな…?
変換の際に出てくる「登和里」は何かと思ったら北海道士別市の山あいの地名でした(至極どうでもいい情報第2弾)
・日依
爵位とか急にもらってもちょっと信用ならない。あくまで一級術師程度だと思ってる弊害
土壇場で
・蛍
とても行動的な旅人
久々の蛍視点も登場。日依についてまだ深くは知れてないけど信頼は置けてる。強いし頭もいいほうだし
・パイモン
蛍の相棒に戻った。よくしゃべる
・ウェンティ
鋼の心臓をお持ち。たぶん吟遊詩人の必須スキルではない(本人に訊いたらそうだよ!とか抜かしそうではあるけど)
・ディルック
ただの大手酒造メーカーご令息ではない模様
改めて見るとこの人びっくりするほど黒ずくめなんよな…
・ジン
普段の肩書きを封印して登場。内憂外患に頭を悩ませつつ、龍災の解決にひたむき
追記:24/04/21
少し修正しました。書きためがあまり進んでなかった弊害が…