呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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ギャフン(訳:軽微なお知らせがあります)



宝と涙 - 肆 -

 

「『トワリン保護集会』再集結ぅ!」

 浮かれた様子のパイモンの言葉に、若干1名から拍手が送られる…お情け程度に私もちょっと拍手しとこ。すっかり日も暮れた時間帯、モンド城の灯りも遠いこの辺りには、木の葉擦れの音ばかりが響いている。

 現在この場に集っているのは、昨晩『エンジェルスシェア』に集合していた面々…すなわちディルックさん、ウェンティさん、ジンさん、そして蛍と私。

 そしてここはどこかというと…ディルックさんがオーナーを務める『アカツキワイナリー』、その本社というか、酒蔵というか、そういう場所だ。昨日一昨日とお世話になっていた『エンジェルスシェア』は、要するにここの直営店というやつらしい。…商業云々は私にはとんとわからない。零細呪術師には無縁な分野なので…

 

「さあ、集めた結晶を見せて?」

「わかった。そんなにたくさんは集まらなかったけど…」

「それは仕方ないよ。あんまりたくさんあっても、それはそれで問題だし……っ」

 …まあその辺は一旦置いといて。ウェンティさんの催促に応じ、ストレージから紅い結晶を取り出してみれば……ふいにウェンティさんの顔つきが険しいものに変わった。

「…結晶の色が、ますます濁ってる…トワリン、いったいどんな苦しみを……とりあえず、まずはこの結晶を浄化しよう。蛍、お願いだよ」

「うん、わかった」

 一気にシリアスそのものの表情に切り替わったウェンティさんから、隣に立つ蛍へ。中空を滑るように渡った3つの結晶が、今度は蛍の手のひらの上で色を変えていく。…禍々しい暗赤色から、透き通る海のような青色へ。

「…この目で見ていなければ、とても信じがたいが…」

「面白い。まるで酒の濾過(ろか)のように澄み渡っていく…」

 …そういえば、じっと見入っているこの二人は初見だったか。ディルックさんからは酒造業ならではの表現が出てきた。無知そのものなのでなんとも言えない…まあいいや。

「よし…きっとこれだけあれば大丈夫。この前みたいに、天空のライアーに涙を落とそうか」

 

 

「おぉ…」

「前とは全く違う感じがする…」

 トワリンの涙の結晶×3を…なんと言うか、吸収した?天空のライアーは……見た目はさほど変わらないけど、存在感が増した。元素視覚がない私でも、その内に(みなぎ)るエネルギーを肌で感じ取れるような……これが、本来の至宝の姿…。

「風元素が活発になってきたね…これなら問題ないはずだ。ありがとう!」

「えへへ、どういたしまして」

「ん…これで、あとはウェンティがトワリンと対面するだけ?」

「そうだね。ただ…」

()()()()()()()()()()、だな」

 ウェンティさんが顔を向けた先で、ジンさんが腕を組む。そういえばその問題もあった…まずもってモンド城内は論外。清泉町や、このワイナリー近辺も…いやディルックさん「なくなっても大した損害にはならないが」って。強気すぎないかこの人……まあともかく却下。

 

「そもそも、人里からは離れておいた方がいいよね…ただでさえ人々からは災害扱いされてるし、万が一も考えると」

 かつてモンドを守護していたというトワリンを信じないわけではないけど、()()()というのは大事なので。…正直わざわざ考えるまでもない一般論だと思うのだけど、テイワットでは違ったりするのだろうか?まあ、呪術師は戦場を選べることなんてほとんどないから、あんま関係ないんだけどさ。

「そっか…じゃあどこだろう。風立ちの地とか…?」

「…海風、もしくは高いところを吹く風は、詩人の歌声を遠くまで運んでくれる。逆に空気が乾燥していたり、重かったり、陰鬱な雰囲気はダメだ。詩人だけでなく、それは龍にも失礼でしょ?」

 …なんか微妙に共感しづらい同意を求められた。けどまあ、確かにそれはそう。そして、『海風、もしくは高いところを吹く風』、どうせならどちらの条件も満たせる場所がいいということで、地理に詳しい地元民(ディルックさん)が提案した『星拾いの崖』でトワリンを呼ぶことが決まった。

 

「では、各自準備して『星拾いの崖』に集合しよう。みんな、遅刻しないように!」

「はい、団長!」

「了解だぜ、団長!」

「あっ、すまない。つい…」

 ジンさん…まあ生真面目な人なのは分かってたけど。そんで蛍もパイモンもからかわないの。正直私も思ったけど。

 

 

 

 

 

「よし、揃ったな」

「や…やっと着いたぞ…オイラへとへとだ…」

「なんで飛んでるパイモンが一番疲れてるんだろ…」

 『星拾いの崖』は、思っていたよりもかなり高所だった。”拾う”と言われれば、つい少なくとも目線よりは下と思ってしまうけれど…なるほど、”星に手が届きそうな場所”というわけか。

 時刻は夜とはいえ、まだ明るめの時間帯。ここは大陸の端のようで、崖の先にはただ(くら)い海が広がっている。振り向けばここまで登ってきた草原の斜面と、遥か遠くにモンド城。そして頭上には…今日はちょっと雲が多めだけど、いくつもの星が私たちを照らしていた。水平線まで見えてるし、満天の星空、と言ってもまあ差し支えないだろう。

「景色が綺麗だなぁ~」

「"運命の再会"というテーマに相応(ふさわ)しいでしょ?じゃあ、そろそろ準備を始めるよ」

「ああ。どんな結果が待ち受けていようと、少なくとも転機は見えてきた。…ここ最近、モンドは様々な問題を背負いすぎた」

「だが、まさか問題を解決してくれるのが旅人と詩人になるとはな…あぁ、騎士団も少しは役に立ったか」

 ディルックさん!…急に飛び出してきた強火の皮肉に、思わず無言の抗議をしてしまったけど、さらっと流されてしまった。顔は怖くない*1って言われがちだし仕方ない。ジンさんも苦虫を噛み潰したような顔…事情は(わか)ってるふうだったし強く出られないらしい。

 そんな中、「はいはいみんな少し離れて~?」と若干ピリついた雰囲気を明るい声で払ったウェンティさん……その手の中に、淡く翠色の光を纏うライアーが現れる。込もった力を確かめるように指先でそれを撫でると、ウェンティさんは笑ってこちらを振り向いた。

「さあ、この世でもっとも優れた吟遊詩人が琴を(つま)()くよ!」

 …絶対的な自信だ……。

 

 

 さて、崖の突端に立つウェンティさんと、後方で見守る私たち。そんな立ち位置が自然と決まってからほどなくして、ウェンティさんの詩のない演奏が……天空のライアーで奏でられる、玲瓏(れいろう)たる旋律が辺りを包み込む。

 思わず目を閉じて聞き入ってしまいそうになるけれど……不意に風が強まった、と思った次の瞬間、ゴウッ!と一陣の大風が吹き抜けた。

「っ!?」

「うわあっ!?」

 蹌踉(よろ)めいた体をとっさに出した長杖で支えて、声がしたほうへ腕を伸ばして…よし、パイモンをキャッチできた。そこから視線を戻せば、ウェンティさんが立つ『星拾いの崖』、その先に…

…君か…今更、話すことは無い…

 …モンド城に来たとき以来に見る、青い龍。風魔龍と呼び恐れられるトワリンが、悠然と翼をはためかせながら浮かん……え?しゃ…(しゃべ)った……!!?

 

 

 

 

 

*1
※呪術界比





・日依
わかんないことだらけで一周回って冷静な呪術師
ただここで突然のキェェェェアァァァァシャベッタァァァァ!?案件

・蛍
キーマン①の不思議な旅人

・パイモン
ムードメーカーの素質が強い相棒

・ウェンティ
キーマン②の吟遊詩人
今回はずっと話の中心にいる。絶対的な自信だ…

・ディルック
『アカツキワイナリー』のオーナーらしさが急に

・ジン
あんまり出番なくてすまない…


序章第二幕『涙のない明日のために』終了までは一応書き上がっているのですが……お世話になっていた実況動画がすべて消えてしまった(どうも先方の機材トラブルでデータが飛んだっぽい)ため、次回更新まで時間がかかる予定です。ご了承くだされ…


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