呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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お待たせしてしまっております ハーメルン外でもいろいろ並走しすぎてていけない



風龍廃墟

 

「アビス教団…人類を目の敵にする怪物たち。奴らの情報は、裏でも滅多に手に入らない…少し面倒だったが、なんとか手掛かりは掴めた」

「もう手掛かりが見つかったのかい?さすがは顔の広いディルックだね!」

 そうして、アカツキワイナリーに再び集まった『トワリン保護集会』*1。話の口火を切ったのは、呼び出した張本人であるここの主。その報告に、ウェンティさんが感心した様子で…

「…そういえば、風神バルバトス様はなんで人間の力を借りてるんだ?」

「言われてみれば、確かに…?」

「はは。どう説明したらいいかな…」

 そういやこの吟遊詩人、いちおう風神…なんだよね?元の世界の神の印象と違いすぎて眩暈(メマイ)がしそうだ。神ならもっとこう、何か…と思ってしまうけれど、これも()()価値観なのだろうか。…まあ確かに、ウェンティさんは見た目の割に泰然とした人物だけれど……。

 

「…人々のいう『七神』、その本質は"俗世の七執政"というべきなんだ。"俗世を七つに分け、それぞれが治める"…それがボクたち神としての責務。この責務を果たすことで、神の力を蓄える。…だけど、ボクは統治するとかイヤなんだ。モンドの人たちも、そういうの好まないと思うし」

 …なんだろう。真面目で小難しい話だったのが、すごくふんわりと軟着陸した気がする。それでいいのか?と思ってしまうけど、でもまあこの人…この神?だもんな…

 …目許が緩んだ*2私の一方で、腕を組んで思案する騎士が一人。

「『君たちが、王のいない自由な城を造ればいい』…バルバトス様の理念を、私たちはちゃんと覚えている」

「それで、こういう長閑(のどか)な国になったわけね…」

「単に誰かさんが自由すぎて、仕事をサボってただけとか考えないんだな?」

「コホン…とにかく、こんなに長くモンドに戻ってなかったんだ。今のボクはまぎれもなく、七神の中で最弱だよ」

「さすが"自由の都"の神、って感じだね…」

「はは、そんなに褒めないでよ」

 褒めてるのかなこれ…。正直私としても、両隣のジンさんやディルックさんのほうが強そうに思える。それもあって私の中では「ウェンティさん=風神バルバトス」の式がなかなか組み上がらなかったわけだけど。

 

「はぁ…こんな風神様がいるとは、いいんだか悪いんだか……七国と七神の話はさておいて、僕たちの敵の話をしよう」

「そういえば完全に脱線してた」

「有意義な時間だったと思うよ?それで、見つかったんだね?アビスの魔術師の痕跡が」

「ああ。どうもこのワイナリーのすぐ近くで、何かを企んでいるらしい。腹立たしいことにな」

 

 

 

「…前ノエルとばったり会ったとこじゃん

 益体もない独り言を、誰にも聞こえないようにひとつ。気づいたんだから仕方がない。厳密に言えば、ばったり会ったあと同行した氷スライム討伐任務の辺りだけど。ワープすればすぐに相手の姿は見えた。氷アビスに氷弓矢に水魔法使い*3…まさかあの氷スライム、実は関係あったりした?

 で、あちらにもすぐに気づかれて*4、すぐに戦闘が始まったけど……まあ割愛してしまっていいか。ディルックさんとジンさんがいる時点でもう大体お察しだし。ちなみにウェンティさんは何もしてなかった。「ボクの出る幕じゃなかったよ」などと申しており…。

 

 いやまあそれは別によくて、問題はそのあと。ウェンティさんは(たお)れるアビスの魔術師から何かエネルギーが散らばったのを視認したらしく、戦闘後の現場に踏み込んでその残滓をじっくりと確認していたんだけど…。

「…このエネルギーは、ボクとトワリンの繋がりを断つためのものみたいだ」

「繋がりを絶つ、って…それ、結構急がなきゃいけないやつじゃ…?」

「そう、だね……君たち、『風龍廃墟』を知ってるかい?」

「廃墟…?いや、聞いたことはない、かな」

「そっか…でも、ジン団長とディルックなら知ってると思う。トワリンは今、その廃墟を巣にしてる。特殊な障壁で封鎖されているけれど…でも今、さっきアビスの魔術師から散ったエネルギーを利用することで、ボクは魔力の織り成す韻律を読み取ることができる」

「韻律…?」

「ヒルチャールの合唱よりも耳障りなものだけれど…それでも暴風の障壁を突破して、『風龍廃墟』に踏み入るには十分だ」

 んん……なんだかよくわからないけど、とりあえずトワリンの巣に直接訪問するつもりなのはわかった。韻律云々は「ふうじんのちからってすげー!」ということにしておこう。

「つまり、トワリンに正面から挑むのか?僕は異論ないが…戦いは回避したいと言っていただろう、ジン」

「いや…選択肢がない以上、その責任は私が背負う。もしトワリンの討伐が唯一の救いであるなら、私が先陣を切る騎士となろう」

「大丈夫、まだその段階までは行ってないよ」

 

 胸に手を当てて、毅然と宣言するジンさんだったけど…それを(なだ)めるような落ち着いた声音に、全員の視線が集まった。

「ウェンティ殿…?」

「そうはっきり言い切るってことは、まだ何か…?」

「そう、切り札は天空のライアーじゃないってことさ。本当の切り札は…蛍、キミだよ」

「私?」

「あぁ…涙の結晶を浄化してたから」

「その通り!でも、それだけじゃない。…涙の結晶にあった不純物とトワリンを取り巻く呪いは、同じ類いの邪悪な力だ。つまり、」

「吟遊野郎!?それは危ないだろ!トワリンが激怒したときのこと思い出してみろよ!動く前に食われるぞ!?」

 

 …パイモンがいきなり叫ぶものだから、真横にいた私はよろめいた。…確かに、パイモンの言いたいことはわかる。おそらくこの手の戦術に一家言あるような人が聞けば愚策と言うだろう、とは私も思う。

 …けど、当の蛍は怖じ気づいたりなんかしてない*5し、それに。

「大丈夫。そうならないように、私やみんながいるんだから」

「…ふっ、面白い計画だ。やってみる価値はある」

「私も共に行くぞ、栄誉騎士」

「うん!それに私だって、おとなしく食われてやるつもりはないからね?」

「そ、そうだよな!…敵は、アビスの怪物と龍……威圧感がすごそうだな…」

 …説得されてもなおぶるりと震え上がるパイモン。感情豊かなのはいいことだと思うけどね…あと、その威圧感は言い方の妙もあるんじゃないかな。

「まあでも、一度対面したからね。もちろん気は抜けないけど」

「人間には人間の本気がある。さあ、行こう」

「いいね――英雄の詩篇も、いよいよ決戦の章だ!」

 

 

 

 

 

 さて。先ほどの場所から…地図で言えば上、私の見慣れた地図と同じなら北へ。(えぐ)れたような深い谷に沿ってしばらく進んだ辺りで、私たちは否応なしに足を止めることになった。

 …左右に迫る岩壁にしきりに反響するのは、びゅうびゅうと吹き荒れる暴風の音。深い谷はどうやらここでおしまいのようなのだけど………激しく音を立てて渦巻く濃霧に閉ざされ、先の景色は一切見通せなくなっていた。

「これが、特殊な障壁…圧巻ですね…」

「こんなの、巻き込まれたらケガじゃ済まないぞ…」

「ここはボクに任せて!今は普通のライアーしかないけど、これくらいの風の障壁なら『天空』を使うまでも…って、あれは?」

 

 気圧される私たちをよそに、意気揚々と話し始めたウェンティさん…の弁舌がふいに止まって、視線は私たちの背後に?振り向いて見たその先には…ヒルチャールが、3体。

「っ、敵襲だ!総員戦闘準備!」

「やれやれ、演奏の前にまずはお掃除からだね!」

 全員(パイモンを除く)の手の中に武器が現れるが早いか、大楯のデカブツが突進してくる…確か、ヒルチャール暴徒と呼ばれていたか。冒険者協会からの依頼で動いてると割と見かけるそこそこ強いやつ。背後の残り2体は地面を掘ってるから爆弾投げるやつと…

「おっと?この風は…」

「絶妙に鬱陶しいやつ…!」

 …確定、風元素のシャーマン(杖持ち)。味方(こちらとしては敵)を回復してたり避け続けないといけない攻撃だったりで厄介なのが多いけど、個人的にこの微妙に拘束してくる風域はなかなか癇に障る。…ま、平静を失うほどじゃないけど。今は頼れる仲間もいるし。

 風域を切り抜けて暴徒の突進を躱せば、横でディルックさんが暴徒にさっそく斬りかかっていた。あの大楯は炎に弱かったから、ディルックさんに任せるのがきっと一番いい。他の元素を使えるアイテムとかあれば助かるなと思うけど蛇足。どうせ私は雷元素しか使えないので…

「――っ!」

 踏み込んで一気に加速。小型の竜巻の間を勢い任せに通り抜け*6、ガードの隙も与えず本体に長杖を叩きつけた。…厄介者はさっさと排除するに限る、というわけで。

 

 

 

「しかしどういうことだ?風龍廃墟の周りに、ヒルチャールの巣などなかったはずだ…」

「ヒルチャール、普通は元素濃度の高いエリアでしか活動しないんだけどね。ここじゃ体への負担が大きいはずなのに…」

 斃れたヒルチャール×3の姿が塵のごとく消え去り、ふたたび吹き荒れる風の音に充たされた谷。戦闘が終了してもなお、地元民3名は険しい表情をしていた。…元素濃度とやらが私にはまだよくわからない*7けれど、そういうものなのか。

 

「大方、アビス教団が裏で手を回したんだろう。しかし、僕たちがここに来ることに確証はなかったはずだ…僕たちの行動を阻止するため、恐らく教団はあちこちに兵力を投下している」

「大丈夫なんでしょうか、それ…」

「少なくとも、魔物たちが強化されている様子はなかったが…まあ、私は仲間たちを信じるさ」

「そうだね、ボクたちはボクたちで動こう。それじゃあ早速…今回の観客は『風』だけだし、ちょっと早弾きでもいいよね?」

 ウェンティさんの手の中にライアーが現れ…爪弾かれる旋律が、谷あいに玲瓏と響き渡る。ちょっと早弾きなのかどうかは…私にはよくわからない。

 これ、ついさっき(ほふ)った怪物たちへの弔いにも思える光景だな…と思いながら見守っていて………ふいに暴風の音が乱れたように思えた、次の瞬間。

 

「っ――うわ!?」

 …ウェンティさんの周囲を舞った翡翠色。それらが濃霧の障壁へ突っ込んだように見えた。その途端――ごうっと音をたてて吹きわたる大風。風魔龍の時のような、けれど今度はすぐに()んで、目を開けると…

 

 

「お…おぉ~~!本当に先に進めるようになった!オマエもたまには役に立つんだな、吟遊野郎!」

「その言い方は酷くないかい?」

 あれだけ吹き荒れていた風の音…は、まだする。するけれど、濃霧の障壁には穴が開いて。全く見通せなかった向こう側……古びた遺跡のような光景が広がっていた。

「パイモン…とにかく、この先が」

「ああ。ここからが本当の『風龍廃墟』だ。みんな、気を付けてくれ」

「了解」

 頼れるジンさんとディルックさんを先頭に。私たちは、いまだ風の音が支配する『風龍廃墟』へと、足を踏み入れた。

 

 

 

*1
パイモン命名

*2
ジト目

*3
「シャーマン」を未だに覚えてない

*4
5人+αなので当然(それはそう)

*5
そもそも蛍が怖じ気づいてたことなんてあったっけ…?

*6
お手本のような強行突破。よい子は真似しないでね フリじゃないからな

*7
元素視覚が使えるようになればわかるんだろうか?





・日依
ウェンティ=風神の式をとりあえず受け容れた
呪力強化+さらに強化できる(鎧袖)があるので、たびたびパワーで突っ切る選択をする。よい子は真似しないでね

・蛍
事態の切り札になる特異な旅人。本人も意欲的

・パイモン
基本ウェンティへの当たりが強くて笑う

・ディルック
只者じゃなさが見え隠れし続けてる

・ウェンティ
今回の主役。いまいち威厳のない風神
なにげにたびたび人間離れした権能使ってる

・ジン
凜とした頼れる騎士団長…"騎士団長ではないただのジン"ってまだ継続してるのかな…
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