呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

35 / 54
青の姿のために - 弐 -

 

 風の翼を閉じて、降り立った長方形の足場…遠目にはかなり心許ない感じがしたけれど、意外に頑丈そう。まあもとより不可思議な"秘境"だしな…。足場は見たところ9つ。円形に並ぶその中心…ウェンティをはじめとしたみんなが覗き込んでいるそこでは、目にも留まらぬ早さで雲が渦を巻いていて――

 

「っ、!?」

「うわっ!?」

 ――青いものが飛び上がってきた、と思った瞬間には尻餅をついていた。眼前には鉛色の竜巻。表面を稲妻が走ったかと思うと、それが一気に晴れて―――咆哮。

 

「っ…トワリン…」

「ヒエェ…やっぱり威圧感がすげぇぞ!」

「これで、トワリンと対等に戦える。世界一の詩人も加勢するからね!」

「それって戦闘に関係ある!?パイモンは隠れてていいから!」

 まっしぐらに突進してくる龍を回避――しまった、私だけ逆方向だ。すぐさまぐるりと旋回して戻ってきたトワリンは、今度は向こうのみんなへ頭を突っ込んでいく、っ――いや、ジンさん風の翼で飛んでる。風域があるのか、吹っ飛ばされたのかと思った…。

 

「気を付けて!トワリンの牙と爪はかなり鋭いよ!」

 …私も、いつでも風の翼を展開できるようにしておこう。そう心に決めつつ、足場にしがみついたトワリンの前肢へと向かう。風のブレスが来る!というウェンティさんの叫びを聞き流して、そこを――ひと息に駆け登る。

 

「―――っ!?」

 …何か驚かれてる気がするけど、風のブレスとやらのおかげで聞こえないな。足場への攻撃に集中してるトワリンに極力悟られないよう、可能な限り歩数は少なく。そして目指すは、首元に(そび)える凝血―――

 

「――せやぁっ!」

 

 

 

 ぁ…今、見えた――長杖と凝血の間に、()()()。今のは、まさか―――

 

「ぁ、うわ!?」

 …なんて、目の前の現象に気を取られていたからか。トワリンが吼えながら激しく身をよじったことで振り落とされてしまった。受け身をとって転がり、顔を上げれば隣に蛍。

「日依…びっくりしたよ!まさか上に登るなんて!」

「え?戦法として順当だと思ったんだけど…」

「二人とも、来たよ!」

 ウェンティさんの声に顔を上げれば、トワリンが降ってくるところで――慌てて飛び退いたら、ズシン!*1と龍の巨体が横たわった。頸の辺りで翡翠(風元素)色の矢が霧散するのが見えた…ウェンティさんの、久々に見た気がする。

 

「チャンスだ!凝血を狙って!」

 そうして紫の塊へ浴びせられる、4人分の一斉攻撃…私が入る隙あるかこれ?いやまあ入るけど―――やっぱり、さっきのは『黒閃』だったみたい。なんというか……呪力の流れが自然だ。普段と違う、もはや呪力を操作してるって感じすらない………なら、このチャンスは逃せない。一気に叩き込む!

 

 

 

 

 

「っ…!」

 あの一回で決めきれれば、と思ったけど現実はそんなに甘くない。硬いなあの凝血(あいつ)……空中戦のときもけっこう時間かかったしそんなものか。今はあの空中戦のときみたいな青い弾丸を避けているところ…こ、この攻撃、衝撃波がすごい……

 

「っ!みんな、『終天のフィナーレ』だ!」

 顔を上げたらトワリンが大きく飛び上がっていて、口を開いて――ウェンティさんが何か行った。何?フィナーレって―――っっ!!?

「日依っ!!」

 …射線は避けたはずなのに、ごうっと降り注いだ何か。叩きつけられた身を起こせば……足場全体に亀裂が走って、その割れ目が青く輝いている。な、なんだこれ……蛍の声が少し遠くて、見れば隣の足場も同様の(ひび)割れ。みんなは隣の隣…

 

「な、なぁトワリンのネーミングセンス変わってねーか…?」

「今ボクが付けた!」

「おい!?」

「とにかく、風域を使って足場のヒビを回避するんだ!」

 くそ…ツッコミを入れる余裕がない。翡翠色にまばゆく輝く亀裂から吹き上げる風が熱い…熱風ってわけじゃないけれど、熱い…!じりじり体力を削られ追い詰められる感覚に抗って、風の翼を広げて、みんながいる――

 

 

 ――と、遠い。やばい。高度が出せなくて隣の足場に移ったけど、こっちも風元素の亀裂だらけだ。いるだけで命が削れる感覚…状況が変わらない…!なんとか、急がないと

「日依避けて!!」

「へ?――っうあぁっ!!?」

 切羽詰まった声に、顔を上げ――るのが早いか。横から衝撃を受けて、足場の上を転がっ……っ………なんとか、底の見えない雲の中の落下は、避けられたけど…

「ぐ…っう…!」

 …っや、やばい…左肩、切り裂かれたっ……!

 

 

 

 ぼたぼたと、液体が零れる音がする――っ、血が…まずい、崖から落ちたときとは比べ物にならない…!お、起き上がれないし…腕、動かない…これ、骨までいってるかも――

「…くっ、そ…」

 額に脂汗がにじんだ―――私は、()()()()()使()()()()。感覚派の自覚はあるのにまだ掴めていない。せめてなんとか、攻撃の余波を受けない…外側の端のほうまで、移動しないと…!

 

「日依!」

「ほたっ…あたしのことは、いいから!この程度の怪我、今まで何回もあったから…っ!」

「だからあっちゃダメだろ!?」

「そこうるさい…!助ける暇あったら、あたしの分その剣でお返ししてきなさいっ!」

 蛍がこっちに渡ってこようとするのを、そう言って制止して……っくそ、痛い…!確かにこの程度の怪我、今まで何回もあったけど…今は、違う。亀裂から吹き上げる熱が、裂傷に()みる…ただでさえ血が出て痛いのに、っ……!!

 ま、まずい。集中できない…何か遠くから呼び掛けられてる気がするけど、聞き取れない…どんどん、今までにない早さで限界が近づいてくるのを感じる。ここに来て、詰んだかもしれない…う、動かないと。無理矢理にでも!!…くそ…せめてこれが、雷元素だったら―――

 

「っ……?」

 

 ふと…何か。何か、今の状況を切り抜けるために思い出すべきことがある気がした。私は反転術式を諦めて、そのままここまで来て……違う、話題に上ったことがある。思い出したくもない渋谷の……その前の。

 

 

 

『日依は、実はもう正の呪力を扱ってるよ。それが反転術式には使われてないだけ』

 

 

 

 

「…くっそ……あの最強、ヒントだけじゃなくて、ちゃんと教えてくれればよかったのにさ…!」

 …つい、憎まれ口が零れたけれど、今さらだ。もっと早く気がついておくべきだった私の責任。気づけるチャンスなんていくらでもあったのに私って――いや、歯噛みするのはあと。

 この秘境の中の環境に疎いから、成功するかはそこそこの賭け――3年の先輩じゃあるまいに――になるけど…これは、成功するって確信がある。前使ったし、()()()()()し!

 とはいえさすがにここまでの消耗が激しいから、乱発はできない。気持ちは一発勝負…深呼吸をすれば風が肺を()くけれど、関係ない……ここで決める!

 

「来い――『()()』っっ!!」

 

 

 

 

 

*1
足場の強度が心配になる音





・日依
黒閃で喜んでる場合ではなかった そんなに喜んでもなかったが なお筆者は「参考動画がスリップダメージ全無視テイワット風目玉焼き乱発でやってたのもあってガチめのピンチになってもらうのもいいかなと思いました」などと責任を転嫁する旨の供述をしており…
起死回生の暴挙に走る

・蛍
気が気じゃない
次回は視点がこちらに移ります

・パイモン
リアクション担当()

・ウェンティ
『終天のフィナーレ』、二重表現だなぁと思います
なお実際のゲームにおける会話はもっと通常運転です 神さぁ…

・ジン ・ディルック
立ち位置が遠くなったので ほぼ出せなくてすまない


実際のゲームでの会話、『終天のフィナーレ』に対する危機感が薄すぎでは?避けるの早いね…?


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。