呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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再帰。早すぎる気もするけどこれ使い所だなと思ったので



樹下 - 弐 -

 

 

―――る――て、蛍!」

「ぅ…?……っ!」

 …目を開けたら、あお向けの私を見下ろす日依がいた。後ろからパイモンとバーバラも、心配そうな表情で覗き込んできてる。…ここは、西風大聖堂の、外…?

 

「目が覚めたんだね!よかった…」

「ほた「ちょ、ちょっと落ち着けよ日依!」っ、ごめん…蛍、何があったの?」

「…確か、ウェンティが襲われて…っ!バーバラ、ウェンティは?大丈夫?」

 そうだ、私は――ぜんぶ思い出して、飛び起きた。横から日依が詰め寄ってきて、パイモンに止められていたけど…今一番気がかかりなウェンティの姿が見えなくて、私は私でバーバラに詰め寄った。

 

「えっ?えっと…うぅん…彼の状態は、大丈夫とは言えないかも…」

「大丈夫とは言えないって…どういうこと?」

「あなたたちがここに倒れてることに気づいて、元素力で治療したんだ。あの詩人は先に目を覚ましたんだけど…おかしいの。彼の傷には、私の治療が全然効かなくて…」

 困惑してるバーバラの腰には、青い神の目が光ってる。騎士団では見た覚えがないけど…色合いからして、水元素かな。治療が効かなかった、っていうのは……

 

「こんな患者さんは初めてで…でも彼は『これが普通だよ』って言って、大聖堂を出ていっちゃったの」

「出ていった…?なあ、どこ行くとか言ってたか?」

「うん、"モンドの英雄の象徴"…彼はそう言ってたよ。止めようとしたけど、ジンが…ジン団長が「行かせてやってくれ」って言うから…なんか変だよね…?」

 バーバラは本当に心配そうだけど……なんだか、わかった気がする。ウェンティが出ていった理由も、ジンさんが行かせた理由も。前にウェンティ自身が話していたから。

 

「英雄の象徴…ウェンティがそう呼ぶ場所なら分かる。行けば会えるかも」

「うん…行こう、日依!バーバラ、ありがとう!」

「う、うん!気を付けてね!」

 バーバラに手を振って、さっさと走り出してしまった日依を追いかける。ひ、日依…そこ、私のワープなら一発で行けちゃう場所だよ…!

 

 

 

 

 

「う、っわ!?」

 階段を駆け下りて、180度方向転換し…たところに日依が突っ立っていて、つんのめって転びそうになった。パイモンは転んでた(空中なのになんで?)。

 

「ひ、日依!急に立ち止まってなんだよ!ビックリしたぞ!?」

「空中なのになんで?…いやごめん。ねえ蛍…言いにくいことだった?バーバラの前では――何が起きたのか。ウェンティさんに何があったのか」

「…そう、だね。ウェンティが…風神バルバトスとして、襲われたから」

「何それ怖いもの知らずか…?そうなると…『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ払え』…これでよし。とりあえず、今のうちに聞かせて。あそこには蛍のワープでひとっ飛びできるし」

「あ、ちゃんとわかってたんだ…」

 つらつらと流れた呪文…日依は結界を張ったらしい。人払いと視線避け、だったっけ…でも確かに、今のうちに共有しておかなきゃいけない。ウェンティの様子がわからない以上…

 

 えっと…確か、襲われそうになったウェンティを助けたら…まったく別の方向から、ものすごく冷たい暴風に襲われて。現れたのは…"淑女"と呼ばれる人物だった。

 雷蛍術師…えっと、『ファデュイ』の隠れ家に潜入したときに出てきた、雷元素の…そう。奴らを従えてたから、まず間違いなく『ファデュイ』のはず。それも、かなり地位の高い人。…ウェンティは足を凍らされて、私も二人掛かりで押さえ込まれて……ウェンティは、お腹に手を突っ込まれて…()()を奪われてた。

 

「待っ…待って。何?お腹に手ってそれ、ウェンティさんは…」

「あ、えっと…私もよくわからないんだけど、でも血が出たりはしてなかった。何かは…チェスの駒みたいな形で、"淑女"は『神の心』って言ってた」

「神の、心……取られたってそれ、かなりまずいんじゃ…」

「うん…だから、急ごう」

「了解、いちおう結界解くね!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 …浜辺に寄せる波のような音。目を開けば、七天神像の向こうにそびえる大木が見える。このあたりはすべて木陰で、波の音の正体はたくさんの木の葉が擦れる音だ。

 ここは"風立ちの地"。以前も待ち合わせ場所に指定されていたここで、辺りを見渡せば………やっぱりいた。大樹の幹に向かって立つ緑色。風元素特有の色の気配に包まれているように見える。

 

「木々の隙間から流れる風は心地よくて、ボクの好きな匂いがする…はは、前回のボクも同じようなことを言ってたよね。はぁ…なんでこのセリフを言うときは、いつもツイてないんだろう?」

 近寄って声をかけようとしたけれど、ウェンティが話し出すほうが先だった。振り向いたウェンティは……いつも通りに見える。"淑女"に襲われたときの痕跡は、何も見当たらない…

 

「ウェンティ、大丈夫なの?」

「襲われたって聞いたけど…なんか、いつも通りなような…」

「うん、もうすっかり平気だよ。それを言うなら、日依も安静にって言われてなかった?」

「もうすっかり平気。寝てたら回復するから」

「ひ、日依も日依だったな…」

 …パイモンと一緒に苦い顔をする用事ができたけど、今はちょっと構ってられない。どうしても、気になって仕方がないことがひとつ――

 

「ウェンティ…『神の心』って何?」

「…気づかれてたかぁ。んん…一般人に話せる内容じゃないんだけどね…でもまあ、キミたちにならこっそり教えてもいいかな」

 

 

 

「キミも知ってると思うけど、『神の目』はごく僅かな人しか持てない外付けの魔力器官だ。これを持つ者たちはみな、『神の目』を通して元素力を導いている。そして…実はね?『神の目』を持つ者はみな、()()()()資格を持っているんだよ。彼らは『原神』と呼ばれて、天空の島に登る資格があるんだ」

「『原神』…聞いたことない言葉だな…?」

「本当の神しか知らないヒミツだからね。それでとにかく、ボクたちは『神の目』っていう初歩的な器官は要らないんだ。その代わり、神の魔力器官は天空の島と共鳴して繋がってる。それが『神の心』」

 天空の島、というのはこの世界(テイワット)で何度か聞いたことがあった。その名の通りの場所として。日依は馴染みがないみたいで、ポカンとしてるけど…

 …その魔力器官(神の心)、やっぱり無くなったらまずいんじゃ…?と思わなくもないけれど、ウェンティはにこにこするばかり。…元素力そのものとは関係ないのかな。あったらウェンティは残念そうに言うだろうし。

 

「じゃあその、ウェンティの腰についてるのは…」

「これはただの光るガラス玉だよ、無用な疑いを避けるためのね」

「あぁ、そうなんだ…」

「じゃあ、あのとき会っていきなりオイラを吹っ飛ばして、ウェンティの『神の心』を奪ってった悪い女は?いったい誰だ?」

「彼女は"シニョーラ"…『ファデュイ』11人の執行官の第8位、コードネームは"淑女"。『ファデュイ』の執行官はみんな彼女のように、スネージナヤの女皇によって神のような権力を与えられ、凡人を越えた力を手に入れている」

「神のような権力を与える、ってことは…」

「そう、スネージナヤパレスに鎮座する"氷の女皇"…執行官"ファトゥス"全員が忠誠を誓う唯一の相手は、七神の一柱だよ」

「…色々いるんだな…」

 確かに…こんな吟遊詩人から、一国の女皇まで。十人十色ならぬ七神七色って感じ……その中に、いるのかな。お兄ちゃんを連れ去ったあの神が――

 

「七神は全員仲がいいわけではないけれど…まさか、彼女が他の神から『神の心』を奪おうとするとはね」

「どんなヤツなの?その"†氷の女皇†"って」

「日依は遠慮がないね…そうだね、なんて言えばいいかな…ボクは500年前の彼女ならよく知ってるけど、今の彼女はよく知らない。500年前の大きな災害のあと、彼女との繋がりは絶たれてしまったから」

 …意識を今に戻して。氷神がどんな神なのかは、私も気になるところだったけど…ウェンティは遠い目をしてる。昔を懐かしむような、悲しむような目。

 ()()()()ってことは、ウェンティの意思の外で繋がりがなくなったってことで…向こうが絶ったのか、お互いを巻き込む何かがあったのか………なんとなく、深掘りするのははばかられた。

 

「蛍、キミはお兄さんの手がかりを探して――神を探しているんだよね」

「うん」

「七神を全員探すとなると、キミの旅は困難に満ちることだろう。まずは隣の国に行くといいよ。モンド城を背に、アカツキワイナリーを通り過ぎて、そのまま道なりに進んでいけば、けっこうすんなり入れるはずだよ」

「隣の国…」

「あそこの『岩』の神はボクと違って、みずから"璃月(リィユエ)"全域を治めてるからね。彼は年に一度だけ、公の場に降臨して神託を下し、璃月の新たな一年の経営方針を民に伝えるんだ」

 璃月――モンドで何度も聞いたし、なんならそこから来た料理人を手伝ったりもした*1。…そこにいる岩神はどうやら、ウェンティさんとは在り方がまったく違うらしい。

 

「特別な日だけ姿を現す系か…」

「それでも、その仕事の頻度は誰かさんより上だな」

「えへへ?とにかく、今年のその『迎仙儀式』は近々始まるみたいだ。逃したらまた一年待つことになるよ?」

「「え゛っ」」

「なっ!?そ…そんな大事なことを何で早く言わないんだよ!?蛍、急いで行こう!」

 速報、年に一度のお目見えがもうすぐ。いや待って、寝耳に水なんだけど!?大慌てでウェンティに背を向けたパイモンを、急いで追いかけ

 

「待って、『風を捕まえる異邦人』」

「へっ…私のこと?」

「そうだよ、蛍。君が再び旅に出たとき、旅そのものの意味を忘れないでほしい。テイワットの鳥、歌と城…女皇やファデュイ、魔物――みんな、君の旅の一部だ。終点が全てじゃない。終点にたどり着くまで、キミの目でこの世界を観察するといい」

「ウェンティ…うん、わかった!」

 新しい国に期待を膨らませながら――決意を新たにしながら、私はせっかちなパイモンを追って駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで」

 

 

 

「キミは行かないのかい?日依」

 

 

 

 

 

*1
長杓の章・第一幕





・蛍
ウェンティはあの神とだいぶ違うし、長い付き合いになったし…探してる()()()じゃないな

・日依
喜べないタイプの復活をした
ここであの淑女とエンカウントした場合どう考えても飛び掛かって死闘を始めてしまうので、悩んだ結果寝ていてもらうことになりました。冒頭の様子からもわかる通り、彼女はそういうイカれ方をしています
お腹に手、の時点で脳内がスプラッターになったけど違うのか…呪術も丹田が重要だしその辺かな(思考放棄)

・パイモン
安全に解凍された妖精
終始リアクション担当&ウェンティへの当たりが強い

・ウェンティ
風元素ヒーラーなら効いたんだろうか…そういう問題じゃないかも。
「こっそり」で声量が落ちないあたりがとてもウェンティ

・バーバラ
ヒーラーでアイドルな祈祷牧師
冒頭ちょい出演。置き去り担当(ちょっとかわいそう)







「…あ、パイモン待って!」


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