呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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夏バテ&話の流れを変えた弊害&ちょっとした仕込みの数々で盛大に遅れました



迎仙

 

 

「なんか…安直で悪いけど、新しい場所に来たなぁって感じだよ」

「あはは、そのまんまだね…でもわかる。見たことないものでいっぱいだし!」

「ついつい目移りしちまうよな!」

 とんでもなく急な坂を下り、日光東照宮を思い出すような立派な門をくぐり、弧を描く木橋を渡り…そうして足を踏み入れた璃月(リィユエ)港は、何もかもが新鮮だった。

 やっぱり建物も装束も、モンドとはまるで違う。元の世界でいう中華風ってやつに近いのかな…どうだろう。横浜中華街とかも、私は行ったことないからなぁ…。

 あと、城塞都市であったモンドに対し、こっちは港湾都市。荷物が行き交い、雑多な品物が並ぶ商港らしい。穏やかな潮風が、人々と海鳥の声を運んでいる。…私自身生まれが内陸で、わりと山中の呪霊討伐ばかり引き受けていたものだから、そもそも潮風自体にあまり馴染みはないっていうのもあるか………それにしても。

 

「しっかし、岩神に会えるのは一年に一度か…」

「それももうすぐって話だぞ。吟遊野郎が教えてくれなかったら、今年の迎仙儀式は逃しちまうところだったな…」

「会場はどこなんだろうね?あと、冒険者協会の場所も知りたいんだけど…」

「聞き込み調査だね」

「そうだな~…あ、そうだ!岩神『モラクス』だけど、知ってるか?オイラたちが使ってる"モラ"は、その神の名前が由来なんだ」

「そうなの?…商業都市だとは思ったけど、そこまですごい場所なんだ、ここ」

「そういうことだな!けど、オイラたちみたいな余所者がここで岩神の名前をそのまんま口にしたら、無礼者扱いされちまうから気を付けような。璃月の人たちの同じように『岩王帝君』って呼ぶようにしとけよ!」

「がんおーてーくん…」

「岩王帝君、ね。わかった」

「やっぱ日依早くない…?」

「慣れだよ慣れ」

 この怪訝そうな視線はもうガン無視していくことにしよう。…というか、()……その名前はこっち側なんじゃないかって、私思うんだけどな…。

 

 

 

 街の人々にいろいろ聞いてみて、迎仙儀式がなんと明日であることがわかった。ただ、国の中枢と商人たちが参加する催し、という趣が強いのか、参加する気満々の人もいればあまり関心がなさそうな人もいたりと、反応は様々。共通していたのは、旅人である私たちを歓迎してくれたことか。…いいなぁ。この心の余裕というか、そんな感じ。呪術師してた頃はどれだけ地元民に邪険にされたことか――

 いやまあ、それはそれとして。…当初危惧していた通り、色々聞いているうちに固有名詞が増えてきた。このままじゃ混乱しそうなので一旦整理しておこう。

 

 モンドが『自由』の国であるのと同様に、璃月は『契約』の国。商業と貿易が盛んな商港を中心とするだけある。そしてこの国は、"璃月七星"という7人の大商人が実質的に運営しているらしい。もっとも、一番上は岩神もとい岩王帝君、という意識が強いようだけど……今更ながらこの世界、神は当たり前にいるものなんだな、というのを再認識した*1

 それと、地理についても。ここ璃月港は大きく3つの地域に分かれるそうで、私たちがキョロキョロしながらうろついてるこの辺は商業地区"緋雲の丘"。さらに上のほう…山の中腹くらいに広がるのが、富豪たちの居住区である"玉京台"…迎仙儀式はここで行われるらしい。そして"緋雲の丘"から東の橋を渡った先が平民たちの下町"()虎岩"…冒険者協会はこっちにある

 

「なるほど…だいぶわかってきた。とりあえず、先に冒険者協会の用事だけ済ませとく?それで、こっちでも任務が受注できるようになるんでしょ?」

「そうだね。今日は璃月港を色々歩いてみよう!」

 

 

 

 まあ、そんな感じで、この日は多くを璃月港観光に費やすことにした。もっとも、すでに日はだいぶ傾いてきた頃だったけれど……冒険者協会の窓口にモンドとまったく同じ受付嬢*2がいることに驚いたり*3、見慣れない品ばかりの市場を素見してみたり、そんな感じで。

 うーん…詳しくないけど、やっぱり中華風なんだろうなって感じがする。全体に赤色の主張が強い*4し、辛いものの匂いが鼻につく。モンド城の市場でここまで香ってくることはなかったな…山積みの赤いのが見える。たぶんあれだろう。

 そして、ひと通り見て回って満足したら、あまりお高すぎない、いい感じのところに宿泊を決めて…

 

 

 

 そうして、迎えた翌日。事前に確認していた『七星迎仙儀式』の会場を無事に訪れた私たちは――

 

「あそこだ!追え!!」

「ヤ、ヤベエ!こっちからも!?」

「っ、くぅっ…!!」

 

 …璃月の千岩軍(治安組織)に追われる身となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 当初は何も、特別なことはなかったと思う。街の人から聞いていた通り、緋雲の丘北側の立派な門をくぐったら美しい庭園があって、その先の長い石段を上がっていくと…落ち着いた、けれど荘厳な(たたず)まいの建物が並ぶ玉京台にたどり着く。…神が降臨する大きな催しというだけあって、多くの人が寄り合っている。特に、一番奥の丸い門*5の向こう。

 

「ここか…雰囲気あるなぁ」

 門をくぐってみれば、そこには八角形の舞台。4方向から上がれるようになっているらしいそこを、大勢の人が四方から眺めている。遠慮なくぐんぐん進んでいく蛍についていって見ると、舞台中央には……

「…祭壇だ。こっちもああいうのあるんだ…」

 船のような形の大岩を土台にして据えられた、立派な祭壇があった。何人かの高貴そうな方々が、祭壇の周りに供物らしき布や壺を並べている。蛍とパイモンが近寄りすぎて怒られてるのはさておき、どうやらまだ準備中らしい。…よく見ると、祭壇の下にあるのは…釜?ちょっと気になった。だから何だって話だけど。

 

「日依~置いてくぞ~!」

「えっ、な、何?ゴメン聞いてなくて」

「"迎仙儀式の日に願い事をすると叶う"って言われてるんだ。蛍、先に向こうに行ったぞ!」

「あぁ…旅の目的だもんね」

 パイモンが向こう、と指した先に向かうと、大きいお寺で見かけるような香炉がひとつ鎮座する場所があった。細い煙が幾筋も上るその前で、蛍は胸に手を当ててじっと佇んでいる。…祈る人って、なんだか見てるこっちもしんみりしてくるな…。

 

「日依も、何か願い事するか?」

「…私はいいかな。今は」

「そうなのか…?じゃあオイラも行ってくる!」

 元気いっぱいに香炉へ飛んでいくパイモン……あの様子だと、食い意地張った願い事かもな……それは別にいいとして。

 願い事か……やっぱり、無いかなぁ。不便を感じることがないとは言わないけど、それで神頼みをすることは……いつ頃からか、すっかり無くなった。やはり呪術師という仕事柄、"信じられるのは自分だけ"という意識が強くなりすぎたってことかもしれない。

 …ま、それで何か困るわけでもないだろうし、気にすることでもないか。

 

 

 

「すごい話聞いちゃったな…」

 思わず嘆息。まだ準備中ゆえの立ち話だったけれど……なんでも璃月の仙人たちは獣の姿をしているもので、この迎仙儀式を訪れる岩王帝君も、"半分麒麟、半分龍"の姿を見せるのだとか。瑞兆掛け合わせとか反則級でしょ…さすがは国を統べる神ってところか。

 あとその物言いからして、麒麟も龍も当たり前に居るものらしい。容赦なくぶちかましてくるよテイワット…*6

 

「お…そろそろ始まるみたいだぞ!」

 パイモンの言葉に祭壇のほうを見れば、慌ただしく動き回っていた設営側の人たちが端然と並んでいた。どうやら長かった準備はようやく整い、『迎仙儀式』が始まるらしい。立ち話でざわついていた会場はだんだん静まって、厳粛な雰囲気に包まれていく。

「蛍、もっと前に行こうぜ!」

「そうだね、せっかくなら最前列だよね!行こう、日依!」

「えっ?あっちょ、速っ!?すみませんうちのが…!」

 …そんな中、人混みを押しのけてぐいぐい進んでいく金髪の少女が一人。そう、我らが蛍…マジか、ほんとに遠慮とかないな!…まあ、このゴリ押しなパワーで今まで色々切り抜けてきたんだろうと思うけど…思うけど……!

 いろいろ申し訳なくなりながら蛍を追っていたら、開けた景色にはあの祭壇と、3人の人物。真ん中の、全体的に白っぽい衣装の人が『天権』の凝光(ぎょうこう)さんという…まあ要するに偉い人だとは聞いてる。あとの二人は揃いの衣装だし従者だろうか。

 

 

「――時は満ちた」

 少しばかり、空を見上げていた凝光さんは、正面を向き直ると…それだけ口にした。

 これよりとか始めますとかは無いのかな…とか思っていたら、ふいに彼女の周囲を何かが回り始める。あれは…琥珀か何か?握り拳くらいのサイズあるけど―――状況を目で追うのが精一杯なまま、儀式が進んでいく。琥珀めいた結晶は祭壇のほうへ移って、釜に飛び込んで―――

 

「…っ!?」

 ごうっ、と一筋の光が、祭壇から空へと伸びる。空にかかっていた薄い雲が、それに巻き込まれるように…あるいはそれを吸い込むように渦を巻く。おおっ!というどよめきが、広場のあちこちから上がる。きっと今、全員が同じように空を見上げているんだろう。

 その無数の視線が集まる先で、渦巻く雲はなおいっそう濃さを増して……………なんか、普通に黒雲だけどこれいいのか?いや……周囲のどよめきも、ざわめきになってきたような………

 

「…?なん、え、っ!!?」

 雲間に、何かが(うごめ)いた。なんだろうと目を凝らす間にも、それはどんどん接近、もとい落下してきて―――ズドンッ!!と墜落した。

 衝撃波でたたらを踏んで、見れば…黒煙が上がってる。あの位置…祭壇を直撃したのか?いったい何が…?

 

「っ…?」

「あれ、って…?」

 …黄色、橙色、黒。黒煙が晴れて、姿があらわになる。1対の長い髭、2対の角、(たてがみ)、細長い巨体……龍だ。見たことない色合いだけど、本当にいる……けれど目は虚ろで、ぴくりとも動かない…?

 …人々がひそひそと、小声で(ささや)き合う声が響く中……動かぬ龍に近寄って、(ひざまず)いて何かを見ていた凝光さんは、スッと立ち上がって――

 

帝君が殺害された!この場を封鎖しろ!

 そう鋭い声で言い放っ――え!?さ、殺害された!?

 バタバタという激しい足音に目をやると、槍を持った兵士たちが駆け込んでくるところだった。唐突な物々しい雰囲気に強張ったけれど……荒事になるわけではなく、現場保存の上で兵士たちによる聞き込み調査が始まるらしい。

 ……な。なんか、よくわからないけど…ややこしいことになった……思い返せばモンドでも、入城数分で雲の上まで連れていかれたよな……なんなんだこの世界。犬も歩けばなんとやら――なんて、呆然としてしまっていたら、ぐいっと袖を引っ張られる感覚。

 

「っ…蛍?何?」

「日依、逃げるよ!」

「はっ?えっ?ちょ、ちょっと待っ…!?」

 …何を思ったか。この場からの脱走を決め込んだ蛍に腕を引かれて、私は…千岩軍の兵士たちの視界から消えることになった。

 

 

 

 ……それで、長い石段の手前までは隠密ができたんだけど……蛍はこういうのあんまり得意じゃなかったようで、思いっきり枯れ葉を踏み潰してしまい――現在に至る。

 玉京台はいまや厳戒態勢…一大イベントとはいえ配備が早いなおい…!今、完全に挟み撃ちされてる。…それに私も、さっき落下ダメージ承知で飛び降りたりしたけど、今ちょっとそれが響いてきててまずい…っ!

 

「お嬢ちゃん、動かないで!」

「っ、!?」

 …そんなとき。背後からいきなり爽やかな声が聞こえてきた、かと思うと――無数の青い光が、兵士たちの手から武器を弾き飛ばして。

 

「な、なん「セヤッッ!!」うああっ!?」

 身軽に飛び込んできたのは…見知らぬ赤毛の青年。両手に持った青い剣で、兵士たちを斬り飛ばして――あれ、剣消えた…?

 

「ついてきて」

 彼…赤毛の青年は、手短にそれだけ言って走っていく。私は蛍とパイモンと、顔を見合わせて……結局、青年を追って走っていく蛍を追いかけることになった。…も、もう、なにがなんだか……!!

 

 

 

 

 

*1
正直なところ、ウェンティさんはこの認識にあんまり貢献してない…

*2
キャサリン

*3
キャサリン@モンド城からの手紙には蒲公英(たんぽぽ)が同封されていた。()()()のお茶目かな?と思ったけど、残念ながら()()()にはとんと通じてなさそうだった

*4
あくまで見た目の話。念の為

*5
そういえば、前述の"緋雲の丘北側の門"も通路部分が丸かった。この辺り特有の文化なのかな

*6
あ、でもトワリンは龍だったっけ…





・日依
初めてだらけの環境に流されがちな呪術師
【ステータス:捻挫】を獲得()。なお、茶飯事

・蛍
つい逃げ出しちゃった旅人。\クシャ/っ、しまった…!
やばくなると判断が早い感

・パイモン
元気いっぱいな案内役再び

・赤毛の青年
詳細は次回
登場当初ってこんな感じだったのね…()

・凝光
参考実況動画③の人が脳を焼かれている


『冒険は遠いところを目指す』、一向にたどり着けそうにない(ずっとそれどころじゃない)ので調べました  ☑️あとで見る


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