呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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キリのいいところで今年はここまでとします 仙人行脚としては途中ですが…



訪仙 - 伍 -

 

「おぉ…」

 …そういえば、璃月の秘境ってこれが初めてか。さらに今回は、おそらく主のいる管理された秘境*1であるらしい。これまでモンドで踏み入った秘境では見たことのない景色――植栽じみた木々と、立派な灯籠に出迎えられた。

 

「綺麗…」

「だいぶ印象が違うね…これが地域色ってやつか…」

 青白い月の異様な大きさはさておき……先ほどまでは標高の高さゆえの冷たい風に吹かれていたけれど、今は違う。…心地よい、涼しい風。ちらつく光は蛍だろうか?…あ、虫のほうの。

 …なんて、柄にもなくキョロキョロしながら、足を踏み出して――けどこの橋だけ妙にボロボロじゃない?と思いながら足をかけたとき。

 

あぁ…『禁忌滅却の札』の匂いがする

「「「っっ!?」」」

 ――どこからともなく響き渡るような、そんな声があった。心臓に悪かった。タイミング的にも、本当に……いや、それは今どうでもよくて。

 この声は…おそらくこの秘境の主のものだろう。リュウ…流雲積風真君?*2自信ないな…まあいいや。

 匂い…たぶん何か、超感覚的な何か*3(たと)えなんだろうとは思うけど……蛍も今は一旦仕舞ってるのに、わかるものなんだな…。

 

お前たち…何をしに此処へ来たか知らないが、その敬虔な心に免じて機会を与えよう。(わらわ)に会いたくば、妾の仕掛けた洞窟を通ってくるがよい

 不意のことで身を固くした私たちの一方で、鷹揚なふうのある声の主はそう続けた。……よくわからないけど、迎え入れられてはいるらしい。歓待って感じではないかもだけど。

 

 

 

 足場の悪い橋*4をそそくさと渡った先で、魔物たちが湧いて出てくる。…氷と雷のスライム、一部デカブツを含む。

「よし、とりあえず雷は任せた」

「うん!倒しちゃって大丈夫?」

「大丈夫。しばらく戦闘なかったから減ってない!」

 紫のやつらは無視して、(はなだ)色だけに注視。デカいやつには氷の冠みたいなのがあって、これがあるうちはすこぶる硬い。

「――せやっっ!!」

 ま、叩き割ってしまえばいい話ではあるけどね。

 

 

 

「ごめん、手伝ってもらっちゃって…」

「いいよ、困ったときはお互い様。物理ダメージも通らないってわけじゃないんだし」

 さて。氷スライムが先に全滅してしまったので、蛍の雷スライム討伐を手伝う形になって、今。

 別に謝られるようなことじゃない。言った通り私の攻撃が通らないわけじゃないし、たまには相手をしておかないと感覚が(なま)ってしまうと思うから…むしろ向こうにとっては、実質攻撃するほど強くなるような私は恐ろしく見えたかもしれない。

 

「この操作盤は…"左へ90度"、"右へ90度"…?」

「初めて見るヤツだな…」

 それはそうと、先へ進むことにして…けれど、蛍は立方体の操作盤を見てポカンとしている。

 冷気の残る服をはたきつつ、景色を見渡してみるけど…何だろうな。でもこの感じ、正面に見えてる遠くの足場が関係するのか……あの両側から伸びてる金色の光の帯みたいなの、何なんだろうな…

 

「90度…その言葉の感じ、何か()()ってことかな…」

「うーん……そういえば、日依の利き手ってどっち?」

「右」

「じゃあ右!」

「いやそんな適当…あ」

 蛍が操作盤に触れたら…正面の景色が動いた。光の帯が足場へ吸い込まれるように消えると……その足場が音もなく90度回転する。そして、今度は足場から伸びてきた光の帯が、私たちの前、操作盤の先へ……接続された。

 

「お…おぉ~!そっか、こうやって進むんだ!」

「なるほど…大掛かりだなぁ……」

 …蛍がなんの躊躇いもなく光の帯に踏み出していって、思わず二度見した。そっと踏み出してみれば…確かに、しっかりとした足場の感覚。…ほぼ輪郭だけみたいなこの透き通る橋、踏み込むのにもうちょっと躊躇があってもいいと思うんだけどな……今更感。あと底がもはや見えないほど深いようだから、逆に恐怖感は薄いけども。

 まあ、それはいいや。大丈夫なことがわかったので、蛍(と飛んでるパイモン。なんかズルい気がする)を追いかけることにする。さっき回転してた足場には何もないようなので素通りして、そのままさらに先の足場へ……

 

「…うわ」

 こんなところにもヒルチャール。私たちに気づくなり「ya!!」とお決まりの声をあげて走り寄ってくるのが3体、その場にしゃがみこむのが2体。後者はスライム爆弾を投げてくる奴だけど、

「――せいっ!!」

 ひと息に接近して、その土手っ腹を掬い上げるように長杖を叩き込んだら、いっそ面白いくらいに吹き飛んで……落ちてっちゃったな。底無しっぽいし深追いも無しで。

 それよりも、もう1体のほうだ。見れば、すでにスライム爆弾を手にしているけれど…それごと巻き込む形で、紫電を(まと)わせた長杖を振るう。果たして、狙いどおりの爆発――過負荷反応で、ヒルチャールが転がっていく。ついでに横合いから来ていた別のヒルチャールも怯ませた。

 

「っし、悪く思わないでね!」

 そいつを引っ掴んで、向こうで起き上がろうとしているヤツに投げつけて――わりと久々な気がする『迅雷』を浴びせる。バシィッ!!と空間ごと切り裂くような紫の稲妻を受けて、2体のヒルチャールは塵と消えていった。

 

 

 

 

 

「…こっちは行き止まり?」

「上に何かあるみたいだけど、行けなさそうだな…風域があれば行けるかもしれないな!」

「何か、どこかに仕掛けがあるんだろうな…なるほど。これはけっこう頭使う迷路かもね…」

 木箱と宝箱だけが並んでいた突き当たりで、一旦足を止めることにした。…改めて見渡せば、多くの足場が等間隔に並んでいるのがわかる。

 まだ踏み込んでからそう時間は経っていないけれど、ここまで来た道程だけでもなんとなく察した。…橋を伸ばすことができる足場は決まっていて、それを回転させられる操作盤の場所も決まっていて……なんて壮大な仕掛け迷路だ。油断してると簡単に迷子になりそうだな…。

「…とりあえず行けるところと、動かせる場所を確認しておこう。ここに来る途中の足場も回りそうだったよね」

「うん、ここから見える向こう側にも行けるんだと思う」

「行けるところには行ってみて、ダメそうなら引き返して…だね。やれることからやってこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …さて。

「はあっ…着いたぁ…!」

 いろいろと紆余曲折、暗中模索の果て。おそらくゴールと思われる*5、立派な門が(そび)える高所の足場にたどり着いた。

 …序盤に通った足場の再利用なんかもあってよく考えられてるなぁと感心したけど、透き通る橋の高低差が激しくなって正直しんどかった。滑らないのが救い。どうしてこの見た目で滑らないんですか…?*6

 まあ、いいか……どこの秘境も石造りの神殿みたいな感じだけれど、蓮を浮かべた池があるのは初な気がする。璃月に入ってからよく見るようになったよねこれ。そういえば、お供え物のレシピにも蓮の実があったっけ。

 …景色を眺めるのはこれくらいにしておこう。息も整えたし。深呼吸をひとつして、立派な門を潜ったら――

 

『…妾の仙境をくぐり抜けるとは、大した者だ

 …正面の壁の上――そこに、声の主はいた。鶴の姿をしているけれど、琥牢山の仙人とは違って、こちらは青い。翼を広げると、羽搏いて……私たちの目の前に下りたった。

我が名は『留雲借風真君』。お前たち、何しにここへ来た?

 

 

 

「留雲借風真君…あの仕掛けは、あなたが造ったの?」

当たり前だ。妾の"仕掛けの術"は、『帰終』や岩王帝君さえも称賛する

「こんな大きな仙境に、一人で住んでるのか?しかも、たくさんの仕掛け付きで…」

 …こいつ()質問に質問で返したぞ、というのは置いておく。すんなり答えてくれた…というかむしろ誇らしげなので。そしてパイモンの質問も、なんだか覚えがある気がする*7けど…

 

「…"仕掛けの術"の実験場というか、研究所というか、そういう場所だったり…?」

「なるほどな!ってことは…伝説と同じで、仙人たちって人里を離れて隠居しながら、すっごいものを研究してるんだな…」

 …私としてはむしろ、そんなふうに思ったりしていた。外で大々的にやるものではないだろうし…いや、仙人ともなればやれるかもだけど、偶発的なトラブルを避けるなら閉じた空間のほうが確実なのは間違いないだろう。

 そんなふうに思ってたんだけど…パイモンが早合点気味なのは()いておくとして、当の竜(略)真君*8は……溜め息をひとつ。

 

『…妾は、ただ人や仙人と接するのが億劫で、静寂を求めただけだ。…だが、その静寂も長くは続かなかった。お前たちがその『禁忌滅却の札』を持って、ここを訪れたからな

「うっ…」

 …あ、これは言外に本題をせっつかれているやつですね、わかります。対人面倒タイプの方でしたか…ますます研究者というか、好事家っぽい。偏見か。

まあよい。お前たち、用事は何だ。手短に頼もう、休息を邪魔されたくはないのだ

 

 

 

『…帝君が。帝君が、暗殺された…だと……な、何てことだ!誰がそんな大罪を犯した!

 先の仙人たちにもした話。紛れもなく、私たちが現場に居合わせた事件の話……青い鶴の仙人は、少し呆然としたあと…翼を広げて高らかに叫んだ。かなり取り乱してる様子…

このような荒唐無稽な話、到底信じられん。調べさせてもらうぞ…!いや、いっそ先に璃月港を()()してやろうか?あとで衆仙で…

「え゛っ」

「ちょ、ちょっと待った!璃月港を制圧って、何言ってんだよ!?璃月港を丸ごとぶっ壊す気か!?」

二度と同じ過ちが起こらぬよう、雷霆が如き手段を選ぶことも吝かではない…!

 …あっ駄目だ、思った以上に取り乱していらっしゃる、というか正気を失っていらっしゃる!()()()()()…少なくともこんな大掛かりなものを作れるような力がそっちに向いたら、大きな港町といえど一溜(ひとたま)りもないことは想像に難くない。ど、どうする…!?

 

「っ…でも、あなたは璃月港を守る仙人じゃ…!?」

そう…帝君の律令に従い、妾たちは璃月港を三千年もの長きに(わた)って守ってきた。だが、今そこに悪がいる以上は、非常の手段をとらざるを得ない…

「ぉ…おいおい、なんとかしろ!この仙人本気みたいだぞ!?本当に瑠月港を制圧する気だ!

そんな、なんとかって言われても…!

「…私、お供え物を置いてきたよ。『契約』に従って!」

「そ、そうだ!美味しい料理をいっぱい作ったんだぞ!」

 …そういう問題じゃないだろ、と口を()いて出そうになったけど、すんでのところで呑み込んだ。…明記されてた訳じゃなくヒント程度だったけれど、供えたら道が開けた。つまりそういうルール…()()………"物は言いよう"感が否めない。でも……やっぱ対応(うま)いよな蛍って。パイモンも乗っかりやすいやつだったし…。

 

「なあ、制圧とかじゃなくて璃月港を守ってほしいんだ!せめて、他の仙人の意見も聞いてくれないか!?」

「私たち、理水定山真君*9にも会ってきました…他の仙人たちと、話し合うつもりだと」

()()か。契約の神が暗殺された今、その言葉は皮肉でしかないな。璃月港の人間は時おり契約を(ないがし)ろにし、黒白をあやふやにする連中だ

「………」

 黙して聞いていた仙人は、低い声で呟いた。やばい、出来立ての地雷踏んだかもしれない。あと心証が悪いぞ璃月港、誰が何やった…?

 

…だが。お前たちが"契約"の名のもとで妾に協力を求めるというなら、妾も"契約"を無視することはできぬ

「っ…それって」

その上、お前たちは『禁忌滅却の札』を持ってきた。帝君がその神札を作った際、仙力を注ぎ込み、人間へと与えたが…今、その札に仙力はほとんど残っておらぬ。ただの契約の証に過ぎない代物だ。そしてお前たちの話の真偽を証明するものでもない。先の話に偽りがないかは調べさせてもらう。削月築陽真君の招聘もそのためであろう…もういい、速やかに去るといい

 …青い鶴の仙人は一方的に、無愛想にそれだけ言うと、こちらが何か言う前に飛び立ってしまった。…どうやら、協力はしてもらえるらしい。仲間たちと顔を見合わせて…ふうっ、と詰めていた息を吐き出した。

 

 

 

 

 

*1
よくわからないが、たぶんポツンと一軒家的なこと

*2
違う

*3
私達呪術師が残穢を読み取るようなこと

*4
要修繕

*5
若干の願望を含む

*6
日依が現代っ子なのでガラスに慣れすぎてるのはある

*7
まあ人みたいに歩くんじゃなく、彼は飛べるからね

*8
まだ惜しい

*9
まだ惜しい





深刻なネタバレ注意とは書いてるものの、さすがに謎解きの中身はね(言い訳)
※ホントの留雲借風洞天は炎元素が不可欠ですが、進行上省略しております いやほんと思ってた以上に不可欠度が高くて高くて震えるんですが……千岩軍から逃げ回ってるところにアンバー呼んでくるのはちょっと…アレなので………
「洞窟を通ってくる」の部分、そのままにしたけどひょっとしてあちらの慣用句の直訳でしょうか

・日依
戦闘時が一番生き生きしてる(自覚はない)

・蛍
対応力◎

・パイモン
リアクション&早合点担当感


本年はここまで、来年もよろしくお願い致します それでは皆様よいお・としお


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