呪雷跋渉記   作:諸喰梟夜

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あれ…あれ…? 文字数多いな……?? (三度見)
無戦闘回なのに……???



指月

 

「そうだ、旅人。お前たちは"神が去った城"をその身で感じた後、"神の居る地"を訪れたのだろう。お前たちはどう感じた?」

 『琉璃亭』をあとにして合流した私たちへ…本当にふと思い付いたように、鍾離さんはそんな質問を寄越してきた。何にも臆しないマイペースさを感じる…呪術界での覚えがありすぎるやつ。

 しかし…どう感じた、と言われてもな……

 

「うーん…正直、私はモンドの雰囲気のほうが好きかな」

「なるほど…お前はそういう種類の旅人か。それも悪くない」

「まあ、私たちもここの全部を見て回れてるわけではないので…来て早々あの事件で、追われる身になったもので」

 虚空を見上げた私とは裏腹に…ちょっと悩むそぶりはあったけれど、蛍はモンド派らしい。確かに、蛍って自由だなぁと思うことは口にしないまでもちらほらあった。行動力の権化だし……千岩軍に追われる結果になったあの件だって、その発露と言えなくもない。

 そも私としては"旅人"という存在自体、自由の申し子であるような印象がある。実際の蛍は『兄の手掛かりを探す』という明白な目的のもとで動いているんだけれど。

 私のほうとしては……どうだろうな。あの城塞都市と、この商港都市…いまひとつ違いを見出だせないのは、ひとえに私の中で""という尺度が未熟だからだろう。天元様は神格化されているけれど、呪術師の一人として数えられるし。

 …暑すぎず寒すぎず、というだけでも私としては十分だと思う。まだなんとも言えない。ただでさえ"容疑者として追われる身になった"っていうのがノイズになってるから余計に。

 

「そうか。なら、これから経験を重ねていくといい。この地は三千七百年の歴史を持つ…七国の中でも、最も古い場所だ」

「三千七百…」

「これから『送仙儀式』の準備をする過程も、お前たちの旅の一部となり、見聞を広げていく一助となるだろう」

「…そう、ですね」

 …なんだかちょっと、ウェンティさんに見送られたときを思い出した。似たようなことを言うものだから。おおらかで、広い視点を持っている…なるほど、"状況を打破できる人"なわけだ。

 

「ここ璃月は今、テイワットで最も繁栄している国であり、神の鎮座のもと七星が統治している。それゆえファデュイの外交手段の多くは、この地では通用しない。七星の一人である凝光は、常にファデュイを警戒している…おそらく、それこそ『公子』が『往生堂』の力を借りに来た理由かもしれないな」

「『送仙儀式』は、『公子』に何かメリットがあるのかな…?」

「それは知らないし、知ろうとも思わない。俺にとってファデュイは、あくまで資金援助をするだけの存在だ。俺の望みは、璃月の伝統が人々に忘れ去られないことにある」

「お財布扱いとは格が違うな…」

「これが、『公子』が提供してくれた最初の資金だ。使いきったら、彼に報告してまた貰うといい」

「お、おぉ…!ずっしりだ…!」

「あんまり借りは作りたくないけどね…」

 鍾離さんから蛍の手に渡ったのは、持ち重りしそうな袋。お金がじゃらじゃらと音を立てるそれを見たパイモンの目がキラキラ輝いている……現金なやつ、ってのはこういうことだ。思いがけない国語の授業だった。

 

 

 

 

 

 "夜泊石"、"霓裳花の香膏"、"永生香"…用意しておかなければならないものは色々とあって、中には鍾離さんが予約していて取りに行くだけのものもあるらしい。

 3人…4人?もいることだし、手分けして集めていけば早いのだろうけど、あいにく私たちは初心者。有識者たる鍾離さんの監修に頼らねばならない。私もこうして盛大な儀式に開催側で関わることってなかったからな…どちらかと言えば、邪悪な儀式を壊す側だ。実際、数えるほどだけどそんな任務もあったりした。

 

「神に釣り合う最高品質、か…」

 ひとまず最初の目標は"夜泊石"。淡く光を放つ青い鉱石らしい…そう言われるとどこかで見た気がするな。何か光ってる、と近づいてみたら岩だった記憶が、何度か。

 さしもの私も鉱石相手では太刀打ちできないので、採取したことはないけど…。まあ、今回の目標は最高品質。普通に専門店を当たったほうがいい。

 

「お客さん、『解翠行(かいすいこう)』へようこそ!天然石で運試ししてみませんか?安くて面白い、そのうえ一攫千金のチャンスもありますよ!」

「ああいえ、すみません。買い物に来たんです。探してるのは、えっと」

「"夜泊石"だ。品質は、少なくとも"燭照"級のものが望ましい」

「"夜泊石"?ふむ、観光客ではなかったのですね。失礼しました、すぐお持ちします」

 そんなわけでやって来たここは『解翠行』。東の橋を渡り"()虎岩"に差し掛かってすぐのところにある鉱石店。鍾離さん曰く璃月港でも指折りの老舗だそうだけど、恰幅のいい店主が言うことには、何やら観光客向けの催し物もやってるらしい。専門的な店を長続きさせるための、ひとつの戦略ってことだろう…それはまあいいとして。

 …"ショクショウキュウ"という馴染みのない単語がさらっと出てきた辺り、鍾離さんは思っていた以上に通暁している人らしい。蛍も目が点になっている。そんな私たちの様子を知ってか知らずか、鍾離さんは静かに店内を眺めていた。

 

 

 

「お待たせしました。こちらは如何でしょうか?『解翠行』は老舗ですからね、この品質をご覧ください!まさに岩王帝君の贈り物ですぞ。安心してお選びください!」

 奥に引っ込んでいた店主が戻ってきた。こちら、と机に並べられた青い鉱石が3つ。…この昼間の明るさでも、微かに光り輝いているのがわかる。ところどころ別の岩が付着して残っているようだけど、もはや気にならないほどに……

 

「おぉ…綺麗」

「貴重なものだってよく分かるな…!」

「うん…けど、どれがいいんだろう?適当に選んで帰る、ってわけにもいかないでしょ?」

「選ぶなら最高品質って話だよね…どうやって決めれば…鍾離先生?」

 …うーん……困った。違いがわからない。やっぱりこんな鑑定とかとは無縁な初心者だからな……全部が横並びの最高品質だったら話が早いんだけど、そんな美味しい話はそうそうないだろう。

 ここはやはり、有識者を頼るに限る―――と、思ったのだけれど……

 

「ん?俺が決めるのか。いいだろう、話は簡単だ…ここは全部もらうぞ

「え゛っ!?」

「ありがとうございます!さすがお客様、お目が高「ちょっ、ちょっと待ってくれ店主!今のなし!!もう少し話し合うから!!

 …なんか急に富豪みたいなこと言いだしたこの人。パイモンが割って入ったおかげで思わぬ散財は避けられたけど、代わりに(?)この有識者に確認しなきゃいけない懸念事項が出てきた。とりあえずちょっと話し合いますので、という名目で一旦店から離れることにして……

 

「儀式に必要なのは1つだけだろ!?全部買ったらモラを3倍無駄にするじゃないか!」

「そうだよ、パイモンの言う通り!」

「モラだけじゃなくて、使わないあとの2つもただのお荷物になりますよ?」

「ふむ…確かに、その問題は考えていなかったな。俺のミスだ」

「はあ!?買い物するならモラのことも考えろよな!?」

 少し距離を置いた『解翠行』から、店主の遠巻きな視線を感じながら……そうか。鍾離さん、どうも知識人ではあるけれど常識人ではないらしい。一途な専門家気質の人って感じがあるし、不思議ではないけれど…この国で暮らしていくのは大変そうだ。いや、あるいはそれでも困らないくらいの富豪なのか…。

 

「だが、何事もモラを考えねばならないなら、何事もモラに縛られることになる」

「…?」

「モラは生まれながらに貨幣だが、貨幣は生まれながらにモラではない」

「…??」

「鍾離先生からお金持ちの匂いがするよ…」

「今は難解な話をしても仕方がないですよ」

 …どうやら後者であるらしい、というのはわかった。今は『公子』からの資金があるけれど…衣食足りて礼節を知るとも云うし、知に(かま)けていられるほどの余裕がなければ専門家なんてそうなれないものだろう。呪術に詳しいのも、大抵は自衛ができる人だし。

 それはそれとして、観念的な話を()ね回している場合でもない。ここに来たのは最高品質の"夜泊石"を買い付けるためだ……そんな言外の訴えは通じたのかどうか。

 

「まあ動揺することはない。たとえモラに縛られても、制限された状況下で問題を解決する方法はある。夜泊石の品質の鑑定は確かに厄介だ。品質に関わらず、外見に大した違いは現れないからな」

「そうなの?」

「ああ。夜泊石は器具によって成形された後に、その品質の良し悪しがわかってくる。あとになって店主に文句をつけても、器具やその使い方がよくなかったんだと誤魔化されるのがよくある話だ」

「うへ…あ、危なかった。こういうのに騙されやすいんだよな…」

「なるほど…要はやってみないとわからないから、全部買っていこうとしたんですね」

 そういうことかー…とりあえず、急に富豪みたいなこと言いだした謎は解けた。見た目でも違いがわからなかったのは、私たちが初心者である以前の問題だったらしい。

 

「でもそれって、本番にならないとわからないってことじゃ…?」

「いや、正しい鑑定方法はちゃんとある。知識があれば目利きは可能だ…『人の指を以て月を指し、以て惑者に示すに、惑者は指を視て、月を視ず』という」

「…"月を指差して見せても、愚か者は指を見ていて月を見ない"、ですか」

「そうだ。夜泊石において、外見はあくまで指だ。夜間の照明としてよく用いられるあの鉱石は、その輝度こそが月となる」

「輝度…」

 たしかにあの岩は昼夜を問わず光ってるけど、その光が質の基準になるんだ……鍾離さんが言ってた"ショクショウキュウ"、もしかして"燭照級"って書くのかな。あるいは"燭晶級"とか?

 それにしても鍾離さん、独特な(たと)えをするな……と思ったけど、そういえばここの国名には月が入ってるし、国民性というやつなのかもしれない。

 

「夜泊石は炎元素と相性が良い。つまり、高温の環境下で強く光り輝く青い鉱石こそ、品質の高い夜泊石だ」

「熱すると光る、か…」

「なるほど~!じゃあ、あそこに並んでる夜泊石を焼いてみればいいんだな!」

「パイモン……買い物するならお店のことも考えようね?」

 

 

 

「では、こちらがサンプルです。番号も振っておきましたよ」

 …さて。さすがにパイモンの意見*1は法に抵触するやつなので却下して。話し合った結果、サンプルを(もら)ってこちらで確かめることにした。店主には難色を示されたけれど、蛍が「じゃあ別の店を当たろうか…」と言えばしぶしぶ了承をいただけた。…良かったとは思うんだけどこれ、何か名前のある手口なんじゃないかと思うんだよな…。

 それで、店主が彫刻刀で削り出したというサンプルを持ってきてくれた、んだけども。

 

「う…薄すぎだろ!?紙より…いや、虫の羽根より薄いぞ!?ほぼ透明じゃないか!」

「すごい、匠の技だ…」

「はは…どうもどうも。この子たちはみんなお宝ですから、優しくしてあげませんと。それにあまり削りすぎると、こちらが大損してしまいますからね」

「けど…こんなに薄いと、すぐ灰になっちゃわないか…?」

「商人から利益を奪うのは、空腹の狼に肉を吐き出させるようなものだ。仕方ない。それに条件さえ整えれば、この薄片でも十分問題ないだろう」

「その条件って…けっこう難しかったりしない?」

「いや、必要な元素がひとつ増えるだけだ。『炎』で温度を上げながら、『水』で石を守る。そうすれば、石が一瞬で灰になることはない」

「水に入れて、水ごと…ってことは、()()というよりは()()、か…」

 元素っていうのが身近すぎて若干ノイズだけど、言いたいことというか、やるべきことは見えてきた。たしかに、煮るなら灰になる心配なんてない。光り輝く石が塩みたいに溶けるイメージも湧かないしな…。

 

「おや?お客さん、そういう知識もお持ちとは。助かります」

「先入観を交えずに論じただけだ。それにこちらは必ず買うという約束もせず、サンプルを要求している。これは実に不公平だ…璃月の『契約』は、公平こそが基本だからな」

「それじゃ私たちは、早いとこどれを買うか確定させないとね…野営の鍋が残されてるのはよく見かけるけど、あれでもいけるのかな?これぐらいの…」

「万が一元素力が暴走した場合を考えると、器具はある程度大きく頑丈なほうがいいだろう」

「そういう話なら、人里からも離れてた方がいいですかね…」

 …これ、同じような話をモンドでもした気がするな。風魔龍を呼ぶときだったか。やることの規模はまったく違うけれど、安全第一には変わりない。()してここは契約やら信用やらの国だし。

 

「人里離れた、大きな鍋…なんか、見たことある気がする」

「ホントか?蛍!」

「うん…たしかモンドの、城から離れたところで…」

「城から離れたところっていうと…あの、なんとかの谷とか?」

「あ、そうだ!思い出したぞ、モンドの『ダダウパの谷』だな!"好肉族"のヒルチャールがすごく大きな鍋を持ってたぞ!丈夫そうだったから、あれなら元素反応にも耐えられるはずだ!」

「あぁ…そういえば確かにあった。コウニクなんとかは初耳だけど

「さっそく行ってみようぜ!」

「うん!」

 …そんなわけで急遽、私たちはモンド…それも郊外のダダウパの谷*2を再訪することになった。

 

 

 

 

 

*1
店頭の商品を炙ってみる

*2
言われて思い出した





…(ヤハクセキって読んでたら迫真の訓読みで真顔になる図

・日依
運試しには興味がない呪術師
剣塚の世界任務には関わってない

・蛍
自由度が高い旅人

・パイモン
元気で単純な案内役

・鍾離
話の進行上仕方ないのかもしれないけどマイペースすぎる 専門家気質感


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