"グルメテロリスト" 黒舘ハルナ   作:有馬Hidden

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番外編その1

ハルナの過去説明回です


■■■のフルコース編(番外編)
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 トリコはどこか侮っていたのだ。

 オゾン草の試練を乗り越えて成長したという思い上がり、実際に確かめなければ気が済まないというトリコ自身の性格、そして気軽にグルメ界と人間界を往復している少女の存在がグルメ界の本当の脅威からトリコの目を逸らしてしまっていた。

 

「オレは……ここまでなのか……?」

 

 絶え間なく襲いかかるグルメ界の激しい環境変化に人間界とは別次元の強さを誇る猛獣、それらを侮っていたトリコは死にかけていた。当然の結果と言ってしまえばそれまでである。

 

【アングラの森】

 人間界からグルメ界への入り口の1つ、命の滝壺の真下20000mに位置する森。地上よりも地球の核に近く重力がより強く作用している。そのためここからグルメ界の猛獣が侵入してくることは一部の例外(ハルナ)を除いてほとんど無い。

 

 まだまだ入り口ではあるが生息している猛獣や植物捕獲レベルの平均は3桁を超えている。今のトリコが挑むには早すぎたとしか言いようがない。

 

 毎年数百人ものトリコのような美食屋たちが挑戦していくものの、帰ってくるものはごく僅かなのだ。

 

「くそっ…前が見えねえし体が思うように動かねぇ……」

 

 散々猛獣同士の争いに巻き込まれ傷つき、休息を取ろうと木に近づいた時から視界が歪んで何も見えず、強い重力でもはや起き上がることも難しい。

 本気で攻撃しても虫が止まったようなダメージしか受けない猛獣が周囲でギャアギャアと周囲で騒いでいる。彼らの餌になるのも時間の問題だった。

 

(小松……すまねえ……)

 

 

 

 

「あら、こんなところで人間が死にかけてるとは珍しい」

 

 __その声がした瞬間トリコは、いや周囲にいた生物は本能的に恐怖した。

 

(何だ……声からして女…いや子供……?)

 

 トリコの周囲にいた生物は思考を巡らせるよりも先に逃走を選ぶ。辺りが静かになった時、そこに残っていたのは声の主と動くことができないトリコだけだった。

 

「人間がこんなところに落ちてるとは幸運ですね〜、お友達のところに持っていって()()()()()()()()()()!」

「く、くそっ……」

 

 それはセール品を見つけた主婦のような微笑みと言葉でしか無いが目の前の少女から放たれる圧力にトリコは蛇に睨まれたカエルのように動けない。

 

「……なーんて、冗だ「ノッキング」

「⁉︎」

 

 しかし、動けなくなったのは少女の方だった。背後に現れた何者かによって一瞬でノッキングされ、動けなくなる。

 

「これこれ、食べてはいかんぞ。そこのトリコくんはワシの恩人じゃ」

「……グ、グルメ界ジョークに決まってるじゃないですか、()()()()()()

「あ…あんたは……」

 

 ようやく正常に戻ったトリコの視界に飛び込んできたのはノッキングされて小刻みに震えている金髪で()()()()()()少女と伝説の美食屋の姿だった。

 

「ノッキングマスター次郎…どうしてここに……⁉︎」

 

――

 

 次郎はかつてトリコに酒を譲ってもらったことがあり、小松からの助けを受けてその時の恩を返すためにここまで助けにきたのだ。彼にとって酒は命、酒の恩は一生忘れることのできない恩である。

 

「そうか…小松が……」

()くがいい人間界へ… そしていつの日か… 今度は2人で挑戦せい!」

 

 グルメ界は“実力”だけで入れる世界ではない。“相棒(小松)”を信じ、頼ること、それがグルメ界に1人で入ってきた今のトリコに足りないものだった。

 

 それを正しく理解したトリコは小松に会うため、人間界へ向けて歩き出した……

 

 

 

 

「……」

「……なあ、解かなくていいのか?」

 

 振り返って歩き出したトリコはノッキングされたままのアカリと目が合った。

 

「その子は勉強中だからのう、自分で解けるようにしたはずじゃが……」

「ギ、ギブアップです……」

 

 次郎がトリコを追いかけてきた猛獣を威嚇ノッキングで撃退している時も、トリコに襲いかかったグルメ界の脅威を解説していた時も、トリコが小松という存在の大切さを思い出していた時も、背後でアカリは自力でノッキングを解こうと試行錯誤していた。

 

「それじゃあまだまだワシの弟子を名乗らせるわけにはいかんのう……ほれ」

「ノッキングマスターの弟子……」

 

 次郎がアカリの眉間を小突きノッキングを解除した。ようやく解放されたアカリは強張った体をほぐしながら服に着いた埃を手で払う。

 

「あら、そういえば自己紹介がまだでしたね」

 

 身だしなみを整えたアカリはトリコの前に立ち、一礼。

 

「ゲヘナの美食屋”鰐渕アカリ”です。トリコさんの活躍はハルナから聞いてますよ」

「やっぱりハルナの友達だったか、最初は少しばかりビビったが助かった、ありがとな!」

 

 最初に出会ったときは命の危機を感じたが、こうして話してみれば普通の少女と何も変わらない、同じ美食屋として助けてくれたことへの礼を言いトリコは手を差し出した。

 

「友達……()()そうですね、同じ美食屋として縁があれば」

 

――

 

「そういえば……アンタと次郎は師弟関係なのか…?」

「ワシが酒のお礼に勝手に教えてるだけじゃ」

「あ、そうそう。今回もちゃーんと持ってきましたよ、いつものお酒。人間界(むこう)に着いたら渡そうと思ってましたけど今渡しちゃいますね」

 

 そう言ってアカリが何処かに向かって合図を送る。

 

「なっ、何だぁこいつは!いつの間に⁉︎全然気が付かなかったぞ‼︎」

 

 木々の奥から現れたのは赤い毛玉にしか見えない生物だった。

 

「ゲヘナアカモップ、私たちのペット兼移動手段ですよ。休息を取る時は周りに見つからないよう存在感を極限まで薄めているんです」

 

 アカリはその体毛の中をゴソゴソと漁り、隠しておいた荷物を取り出した。

 

「へぇ〜、グルメ界にもおもしれー生物がいるんだなぁ…」

「グルメ界にはこの子みたいなキャンピングモンスターと呼ばれるグルメ界を移動するには必要不可欠な生物が何種類かいるんです」

 

 トリコは恐る恐るフサフサとした赤毛を撫でようとした。触って驚いたのはどう見ても柔らかそうな体毛なのにも関わらずカチカチ、まるで鉄板を触っているかのような手触りだったことだ。

 

「ま、その子はキャンピングモンスターと言うには随分と交戦的な気がするがの」

「ペットは飼い主に似るってよく言うじゃないですか。多分それですよ……はい、いつものシグレ酒です!」

 

 アカリが取り出した酒は透き通った液体に白い雪のようなモノが浮かび酒瓶がまるでスノードームのように美しかった。

 

「シグレ酒……ゲヘナといえばシグレ酒と温泉だからのう、トリコ君も機会があれば行ってみると良いぞ。少々騒がしいがいい場所じゃ」

「あそこを"少々騒がしい"で済ませられるのは次郎おじさんぐらいですよ……」

 

――

 

-数年前・ゲヘナ-

 

「フッフッフ……悪童が飲むにはその酒、ちと早すぎるぞ」

「くそっ、何だこのジジイ……強すぎる……‼︎」

「飲むわけねーだろこんなモン……‼︎」

 

【シグレ酒】捕獲レベル227

 ゲヘナ北部で湧き出ている天然の酒、一緒に噴き出ている雪のような白い浮遊物が程よい甘味を与えている。

 だが実際にはアルコール度数が高く飲めたモノではない上に、よく燃え、よく爆発するのでゲヘナでは武器として扱われている。別名「問題児の密造酒」

 

 シグレ酒の湧き出る場所を激しい抗争の末に占領した不良集団「ガブガブヘルメット団」

 この場所を押さえてシグレ酒を独占することができれば他のグループに対して優位に、いや私たちを取り締まる風紀委員ですらもはや敵ではない。ゲヘナをこの手に握ったも同然、そう思っていた。

 

「この酒の美味さは若いのには分からんよ」

「し、知らねーよジジイ……そもそもお前誰だよ……!!」

 

 だが、その天下はわずか数日のものだった。

 ゲヘナの覇権争いに何の興味もない酒飲みのジジイ(ノッキングマスター次郎)によってガブガブヘルメット団は壊滅させられてしまったのだ。

 

「シグレ酒も確保できたことだし、温泉につかってから帰るかの…」

 

 ふと、後ろで小さな気配を感じて振り返った。

 

「ほ、本当においしいんでしょうか…?」

 

「コラッ」

「きゃっ」

 

 小さな子供が湧き出るシグレ酒を飲もうとしていたのだ。流石に体に毒でしかないので次郎はすぐさま優しくノッキングして動きを止めた。

 

「こらこら、飲んじゃいかんよ。もう少し大きくなってから飲むんじゃな」

「……だって、おいしいって言ってたじゃあないですか」

 

「好奇心があるのは良いが……強すぎる好奇心は身を滅ぼしかねないぞ?」

「それでも!美味い食材があるなら追い求めるのが普通でしょう!!」

 

(ほう……)

 

 シグレ酒を戦いのための物としか見ていないあの悪童たちとは違い、その目はシグレ酒を純粋に食材として見ていた。

 このゲヘナでおそらく唯一のシグレ酒の本当の楽しみ方を理解している人物だろう。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「……ハルナです」

「ハルナか……お前はきっといい美食屋になるじゃろうな」

「美食屋…!!なんと甘美な響き……!!」

 

 それから数日、次郎はハルナの実力を測りながらゲヘナに滞在した。この時から既に並の不良集団なら単独で圧倒できる腕を持っていたハルナは、次郎から聞かされた人間界という全く未知の世界の食材、そしてそれを調理する料理人たちの存在に心を躍らせ、美食屋と呼ばれる人々にそして人間界に憧れるようになったのだ。

 

――

 

「ハルナはアンタに憧れて美食屋に……」

「『そろそろ人間界(そと)に出ても良い』と伝えたら料理人を連れて出て行って……それでフウカちゃんが死にかけて与作のところに駆け込んだことを含めて懐かしいのう」

「だから与作はゲヘナのことに詳しかったのか……」

 

 3人はアカリの連れていたアカモップに乗り込み、アングラの森から高さ20000mある壁を登っていた。その途中、毛玉の中では共通の知人であるハルナの話題で盛り上がっていた。

 

「そんなハルナに惹かれて私も美食屋になったんですよ」

「へぇー…… それじゃあアカリも人間界に興味があって来たのか?」

「そうですね、私のフルコースのスープが”まだ早い”と分かったので先に他のメニューの食材を探すことにしました。なんとなーくですが私の求める食材は人間界にありそうな気がしたのと……あとは純粋に”料理人”が気になったので!」

 

 調()()()()()()()()アカリは自身のフルコースを見つけるため、そしてセンチュリースープを完成させた小松のような料理人がいる人間界に新たな美食を求め、ハルナの後を追いかけてきたのだ。

 

「そうそう、小松シェフに伝えておいてください。センチュリースープ、美味しかったですよ」

「……!!そうか!きっと小松も喜ぶぜ!」

 

――

 

「二か月間、お世話になりました」

「助かったのはこっちの方だよ、ずっとここで働いてくれたら嬉しいんだけどねぇ……」

「お言葉は嬉しいですが、私はハルナの相棒(コンビ)ですのでずっとここにいるワケには……」

「そっかあ……じゃあ、しょうがねーな!またいつか機会が会ったらってことで!!」

 

 ハルナに無理やり人間界に連れてこられてから、フウカは人間界の料理人の下で修業を続けていた。まだ子供ではあるがグルメ界から来た料理人ということで引く手は数多、フウカ自身もやる気に満ち溢れているため料理人たちは快く修行を受け入れ、あわよくば自分の下で働いてくれないかと密かに狙っていた。

 実際、フウカにとってここで得られたものは多く、料理の幅が広がったことを実感していた。元々かなり高かった料理スキルが人間界の凄腕料理人によりさらに研ぎ澄まされ、今ではあっという間に4000人分の料理を仕上げることができるまでに成長していた。

 これには世界料理人ランキング33位の”料理のスピードスター”トンもビックリである。

 

 フウカは心の中で料理人たちへ感謝をしつつ、次に向かう場所について考えていた。その時だった

 

「フウカ発見!」

「え?」

 

 懐かしい声がしたと思った瞬間、フウカの体は赤い毛玉に包まれていた。

 

「な、何!? ……ってモップちゃんかぁ、元気してた?」

「私がちゃーんとお世話しておいたので元気いっぱいです」

「はぁ……なんでアンタがここにいるのよ……」

 

 トリコ達と別れたアカリはフウカの居場所を教えてもらい、フウカを迎えに来たのだ。

 フウカにとってハルナとアカリは自分を好き勝手連れまわす迷惑な存在でしかない。

 

「向こうですることが終わったので、私もこっちで美食屋をすることにしました」

「あぁ……そう、それは分かったけどなんで私に会いに来たのよ」

「あら、決まってるじゃないですか。私たちはコンビです。ならば一緒に行動するのは当然!ということですね」

 

 フウカは呆れて言葉も出ない。

 

「悪いけど…今の私は昔の私じゃないの!!ここの料理人たちの下でたくさん修行して…ある程度の食材だったら自分で取りに行けるようになったんだから!!」

「頑張りましたね~、なおさらその料理が楽しみです」

「もうアンタらに縛られて拉致されるような私じゃ「ノッキング」……あたっ」

「やっぱり実際に経験すると理解が深まりますね~ そこに関しては料理もノッキングも同じだと思うんですよ」

 

 抵抗しようとしたフウカはノッキングされ、アカモップに押し込まれる。

 しかし、フウカはどこかそれが嬉しくもあった。いつだってフウカを未知の世界へ連れ出し、新しい食材に心を躍らせ、完成した料理に目を輝かせる何も変わらない彼女たち。そんな日々が帰ってきたのだ。

 

「……それで?今日は何を採りに行くの?」

「いいえ、今日は私の歓迎パーティです。会場はハルナに押さえてもらってるので私は料理人を呼びに…、ね?」

 

 そういってアカリはフウカに微笑みかける。純粋に料理を楽しみにしている、ずっと変わらないあの目だ。

 

「人間界で成長したフウカさんの腕前、期待していますよ?」

「はいはい……」

 

 フウカは観念したように笑った。だが、それはどこか嬉しそうな笑いでもある。

 きっとこれからずっとこの美食屋達のやることに付き合わせられるのだろう、でもそれがどこか楽しみで仕方がないのだ。

 

 __フウカの修行の日々はまだまだ続く




【ゲヘナアカモップ】捕獲レベル1608(アカリが世話している個体)
 ゲヘナ周辺に生息するキャンピングモンスターの一種、休息を取る際には全力で存在感を薄めて身を守っている。
 ふわふわの赤い毛玉のような外見だが、外敵に襲われると体毛を硬質化させ防御する上に毛玉の一部を砲弾のように打ち出して攻撃する。その生態から”超無敵鉄鋼”の二つ名で呼ばれている。
 その中に入り込んで身を守ることも可能ではあるが気を許していないとなかなか入らせてはくれない。

 なお、本当はフウカのペットである。



えっ!?この時期にこんな高い捕獲レベルの奴だしちゃってダイジョブなんですか!?
ってなった小松は安心してください。デロウス包丁の方が強いです。あっちの方が出る時期間違えてます。(とはいえ猿舞師範代ぐらいはあるのバグ)

ちなみに棗イロハとは何の関係もないです。

ゲヘナがありそうな場所は?

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