好評みたいなので続けます
トリコたちが他の美食屋が登り切るのを待機している間、ハルナはツンドラドラゴンの足の一部を切り取ってバリバリと音を立てながら噛み砕いていた。
「この
「なるべく散らずに固まって移動したほうが良いですねトリコさん。」
「そうだな…オレが先頭になる、滝丸もみんなオレの後ろに続いてくれ。」
この猛吹雪の中をバラバラに進むのは至難の業だ。そこでトリコは第一陣の美食屋たちを集め、なるべく固まって行動することにした。
トリコの後ろに滝丸や小松、そしてマッチとその部下、他数名の美食屋が続く。
「ジョーダンじゃねーぜ!」
「こんな強風に向かって進むなんて自殺行為だ!」
「俺たちは別のルートから行かせてもらう!」
が、この猛吹雪に耐え切れない美食屋たちは別行動をとり始めた。
「勝手にしろ、お前らの自由だ…ハルナはどーする?」
それをトリコは咎めたりしない。どのように食材へたどり着くかは美食屋の自由だからだ。
「ん、ようやく出発ですか?では私はトリコさんの後ろを行きますね。こちらが一番安全でしょうし。」
ハルナは強風に向かって進むことに全く恐怖を感じていなかった。むしろツンドラドラゴンの肉を食べるのに夢中になっている。
「あ、そうだ。せっかくだしツンドラドラゴンの肉をもらってくか。これから厳しい旅路になりそうだしな。」
「いえ、やめといたほうが良いでしょう。凍りすぎて味がほとんどしませんし、何より……。」
ハルナはツンドラドラゴンを見上げる。
「
___ アイスヘル上陸から数時間後……
極寒の大地を歩くトリコたちは次第に疲弊していっていた。極寒の環境による体力への負担は並大抵ではなく、視界も吹雪に阻まれて前がほとんど見えないうえに風の強さは増し続け、体力は徐々に削られていた。
一人、また一人と後に続く美食屋は脱落して凍り付いていく。残っているのはトリコに小松と滝丸、マッチとその部下3人に数人の美食屋。
そして、寒さを感じさせない軽い足取りでピコピコと羽と尻尾を揺らしているハルナだ。
(いくら子供は風の子といっても強風で体感温度がマイナス80度近いこの環境じゃありえない……。それに…)
トリコはハルナの異常なスタミナに気が付く。人間離れしたスタミナだ。
(白い息を吐いていない…!!)
「~♪」
(センチュリースープ、いったいどれほどの味がするのでしょう…!!)
しかし、トリコがハルナの身体に疑問を抱く中、ハルナはそんなことなど気にせずセンチュリースープに思いを馳せていた。
まるで極寒の環境など何ともないかのように。
(いや待て…そういえば
だがトリコには心当たりがあった。
トリコ達の育ての親であり国際グルメ機構「IGO」の会長でもある一龍も記憶の中では白い息を吐いていなかった。
(この無尽蔵にも見える体力と白い息を吐いていないのは無関係じゃないはず…どういう理屈だ…?)
息が白くなるのは吐く息に含まれている水蒸気が冷やされて水滴に変わることで起こる現象だ。
ならば答えは単純、水分を吐きだしていないだけである。
(この呼吸ができればグルメ界にも適応できる…そういうことなのか……!? 水分だけを吐き出さないなんてそんな…)
ハルナの様子から何かを掴みかけたトリコ。しかし、そんなことを深く考える余裕はなかった。
__________
猛吹雪や飛んでくるサスツルギから身を守るため、地面に掘った穴の中で休憩していた。
既にトリコたち以外の美食屋は全滅している。
だが、そんな厳しい環境で共に行動するトリコたちの間には信頼関係が築かれつつあった。
「グレイトレッグのお刺身、冷凍保存されてまだ新鮮……。流石は天然の冷蔵庫アイスヘルです!」
「ハルナさん、気に入ったんですねそのお刺身。」
周囲の極寒地獄から切り離されたこの空間は和やかで居心地いいものだった。
「そういえばトリコさんは?」
「トリコならずっと上で見張りをしてる……。」
「た、確かにこのアイスヘルには凶暴な猛獣が多いですからね…。」
(それだけじゃなさそーだがな……)
「……ダメか。」
(何度やっても白い息が出ちまう……水分だけを残して吐くなんて一体……)
トリコは穴の外で見張りをしながらハルナの白い息が出ない呼吸法を模索していた。
「トリコさん。」
「おっ、ハルナか。どうした?」
「ずっと見張りをしてるようでしたので、交代しましょうか?」
ハルナが刺身を食べながらトリコに声をかける。
「いや、いい。このまま考えたいこともあるしな。」
「そうですか。」
ハルナの申し出を拒否して再びトリコは思考の海へと沈んでいく。その横にちょこんとハルナは座って刺身を食べる。
その様子は年相応の少女といった感じで微笑ましかった。
「……ハルナは寒くねーのか?」
「そうですね。もう慣れました。」
(慣れた…か。……!!そうか!)
その発言でトリコは確信する。
(呼吸で環境に適応するんじゃない!逆だったんだ!環境に適応してその呼吸をするんだ……!!)
ハルナが白い息が出さないカラクリは呼吸法ではなく、この環境にグルメ細胞が適応した結果生み出された身体機能……つまり進化だと。
生物は環境に適応するために進化してきた。食物連鎖の頂点に位置する生物はその環境の上位者といえるが、環境に適応できなかった生物は滅びていくしかない。
そう、グルメ界でも活動する猛者たちはその厳しい環境に素早く適応しているのだ。
その適応を可能にしているのが特殊な細胞、グルメ細胞である。
グルメ細胞は美味い物を摂取することによって進化を遂げる細胞だ。
「ハルナすまん!ちょっと見張りを任せるぞ!!」
「……?構いませんが。」
「あ、あとツンドラドラゴンの肉、まだあるか?」
「ありますよ、はい。」
ハルナはバックパックからツンドラドラゴンの肉を取り出し、トリコへと手渡す。
それをトリコは口に含んだ。
(うまい……!)
凍り付いてしまっているが、それでも旨味を全く失っていない極上の肉だ。
(よし!!美味い物は食った!!あとは……)
そしてトリコはこの猛吹雪に歯向かうのをやめた。
この過酷な環境に順応するためトリコの本能はグルメ細胞に働きかける。
(なんとなく分かってきたぜ!!この過酷な環境でも水分と体温と体力を保ち続ける方法が!!)
トリコは大きく吸い込み、吐き出す前に気管の上部で留め、それ以上口の外へは出さなかった。
当然鼻や口からアイスヘルの冷気が舞い込み、留めた空気の中で最も沸点・融点が高い二酸化炭素が凍り付いていく。
その瞬間、
「これだ!!……ゲホッ」
(まだ不完全だが掴んだ…!! これを意識せず行えるようになれば…!!)
意識してもまだ完全とは言い難い呼吸だがそれでもトリコは今までよりも体が動かしやすくなっていくのを感じる。
「ありがとなハルナ!!」
「……?よく分かりませんが、お礼はセンチュリースープでお願いしますね。」
「おぉ!任せとけ!!」
ハルナは不思議そうに首を傾げたが、すぐに刺身へと意識を戻した。
__________
こうした休憩を何度か挟みつつハルナたちはアイスヘル中心部にそびえたつ氷山の麓まで辿り着いた。
「つ…着いた…!!」
「この氷山のどこかにセンチュリースープが……!!あ~もう想像するだけで……!!」
「ハハハ、ハルナは元気だな!!」
ハルナは上機嫌で氷山の頂上を見上げる。
「い…生きて何とかたどり着けました… よ、よかったです…!!」
「ああ…よく頑張ったな。根性あるよお前は…」
「お前らもよく耐えたな。それでこそグルメヤクザのはしくれだぜ。」
「副組長…!」
しかし元気いっぱいなハルナやトリコ、滝丸、マッチとは違い小松やラム、シン、ルイは何とかギリギリといった感じだ。
小松は今までのトリコとの冒険で鍛えられた精神、ラム、シン、ルイはグルメヤクザとしての意地で何とかたどり着いたのだ。
こうして何とかセンチュリースープが眠る氷山まで辿り着いたハルナたち。
その道しるべとなるオーロラを探して奥地へと向かっていく。
センチュリースープが風に舞ってできるとされるオーロラは「美食のカーテン」とも呼ばれており、100年間閉じていたレストランのカーテンが開き客を招き入れるかのようにセンチュリースープの下へ案内してくれる……
「…ってあのジジイが言ってたな。」
「オーロラが道しるべとは…随分とメルヘンチックな話だな…」
「あらマッチさん、分かってませんね。美しいオーロラを見ながら飲むからこそセンチュリースープはおいしくなるのですよ?」
「できればこんな猛獣さえ出なければもっとメルヘンチックなんですけど……。」
襲いかかってきたメルヘンチックのかけらもない猛獣、白銀グリズリー*1を食べながら休息を取る。
マッチが体力を温存するために一足先にテントの中へ行った後、一行の話題は何故センチュリースープを取りに来たのかというものになっていた。
マッチ達は故郷のネルグ街の子供たちの腹を満たすため。
滝丸はグルメ騎士のリーダー”愛丸”の病気を治すための薬を報酬の100億で買うため。
そして……
「ちなみにハルナちゃんはどういった理由で?」
「そうだ、ずっと気になってたんだ。俺たちがスープを配ろうとしてる子供たちと同じぐらいだろう、なんでわざわざこんな危険なところに……。」
「私ですか……?そうですね、私は……。」
ハルナはアイスヘルを見渡して、それから自分の胸をトンと叩く。
「まだ見ぬ美食のため!!そしてフウカさんのためですわ!!」
「フウカ……?」
「私と故郷を同じくするコンビの料理人です!」
「その……フウカさんの誕生日が近いので……お返しに……。」
ハルナは少し恥ずかしそうにしながらそう告げた。
「いやいや!誕生日プレゼント探しで来るところじゃないだろ!!」
「美食のためならたとえ火の中、水の中、氷の中ですわ♪」
「そうはいってもだな……。」
子供を放っておけない性分のグルメヤクザの三人がハルナの同行に難色を示すが、ハルナは聞き入れない。
「大丈夫です!こうして無事にたどり着けましたし……それに……」
「皆さんと一緒ですから!!」
ハルナの言葉に思わず笑みが漏れてしまうトリコ達だった。
「ははっ…何だかんだお前ら似たような理由じゃねーか。」
「誰かのために行動する時、人は最も力を発揮する。」
「必ず全員で手に入れようなセンチュリースープ!!大丈夫!きっと見つかるさ!」
「トリコさん…」
「よし!グルメヤクザの名に懸けてハルナちゃんの安全は俺たちが保障するからな!!」
「あらあら、私より先に凍えてる方々に守られるつもりはありませんわ?」
「ははは!言ったな?」
冗談を言い合えるほどに信頼関係を築き上げたハルナたち。満身創痍の状態でたどり着いた氷山だったが、全員気力だけは充実していた。
「ちなみにトリコさんは?」
「ん?そんなの決まってんだろ。」
滝丸がトリコに尋ねる。するとトリコはニカッと笑うと。
「
「トリコさんらしい理由ですわ。」
「わっはっはっはっはっはっは、そうだな!!」
「トリコさんらしいや!!」
こうして和気あいあいとしたしばしの休息を取る。
センチュリースープまであと少しだ。
「めんどくさ!ブッ壊そかこの
だが、時を同じく────
次回から本編みたいなとこある