間に合ってますよね?
神秘で強化された爆弾の威力はすさまじく、少し離れたところにいたラム、シン、ルイもその衝撃の余波で転がる。
ハルナの神秘をすべて使いきった決死の攻撃はバリーガモンに届いていた。
「まあ……発想は褒めてやるよ」
「ぐっ……!!」
だが、爆煙が晴れるとバリーガモンは健在だった。
ハルナの首を掴んで持ち上げている。じたばたともがくハルナだったが、力は全く緩められる気配がない。
「体内なら防げないと思ったんだろうが無駄だぜ。不凍液を体内に放出して爆発のダメージを減らせた。」
「がっ……!!」
「子供にしてはよく頑張ったじゃねぇか、褒めてやるよ。じゃ、しばらく寝てなぁ!!」
勝敗は決した。
ハルナの神秘をすべて使いきってもバリーガモンを倒すまでには到達できなかったのだ。
「肉たたきヘッドォ!!!!」
強烈な頭突きをハルナの体にめり込ませる。
そのまま吹き飛ばされ氷壁に叩きつけられたハルナは血を吐き、ヘイローが薄くなっていくと同時に力が抜けて地面に落下した。
時間切れである。
そのあまりの光景にラム、シン、ルイは目を見開き、声も出せない。
「へっ、てこずらせやがって。目が覚めたら皿の上だぜ?ぐっすり寝てな」
蓄積したダメージと神秘が抜けてしまった脱力感で意識を保つことすら難しい。
薄れゆく意識の中、ハルナはマッチのほうに目を向ける。
マッチは静かに脱力を続けていたがここから見ても分かるほどに”怒り”を貯めていた。
あの怒りが爆発すれば……
(あとは……頼みましたよ……)
その言葉を最後にハルナの意識は暗闇に落ちた。
「さて……」
バリーガモンは振り返る。
ラム、シン、ルイが銃や刀を持って襲いかかる。
「ハルナちゃんの仇は俺たちが……」
「あとは消化試合だな」
威勢よく飛び込んできたシンを思い切り殴りつける。
ハルナとの戦いでダメージが蓄積していたバリーガモンは少々苛立っており手加減をするつもりはなかった。
「お前が寝てろ!!」
後ろから周りこんだラムはバリーガモンの体に銃口を直接押し当ててマシンガンを連射する。
「チッ、先に死にてーのか?」
「くそっこれでもダメかよ……」
だが、その銃撃はバリーガモンにハルナの数十分の一ではあるがダメージを与えていた。
ラムが押し当てていたのはハルナが作った傷跡。
バリーガモンは苛立つ、一瞬で倒せたはずの弱者がここまでしぶといことに。
だが、その弱者たちの根性はバリーガモンをも上回っていた。
ラムに気を取られている隙にルイが後ろから刀で斬りかかる。
「無駄なことを…」
だが、頭の防具で受け止められ逆に刀のほうが砕け散ってしまった。
あまりの硬さに驚いた一瞬、邪魔な虫でも振り払うかのようにルイは投げ飛ばされる。
力の差は歴然、それでもなんとか食らいついていた。
ハルナの与えたダメージによりヤクザたち3人の攻撃でも微々たるものではあるが、バリーガモンの体にダメージを与えていく。
「ミンチラリアット!!!」
「肉たたきヘッド!!!」
「ミンチタックル!!!」
そんな3人にバリーガモンは苛立ちを隠せなかった。
根性で何度も起きあがってくる3人を捌ききると大きく振りかぶって3人を次々と吹き飛ばしていく。
吹き飛ばされた3人はそれぞれ武器を投げ捨てて地面に横たわっていた。
それでも意識を失わずに起き上がろうとする。
マッチへの忠誠、そしてハルナを守る覚悟が彼らの体を立ち上がらせた。
「ま…まだだぜ……!!」
だが、それでもバリーガモンの相手にはならない。
地面に這いつくばってでもバリーガモンの足にしがみつく3人。
「しつけーんだよこのゴミ共がぁあーっ!!」
3人は何度も殴りつけられる。それでも決して離れない。
ついにバリーガモンの怒りは頂点に達した。
必死にしがみつく3人を蹴り飛ばすと、その体を地面に叩きつけた。
その衝撃に地面は大きくひび割れる。
もはや動けはしないがそれでも必死に体を起こそうとする3人に、バリーガモンは近づいていく。
3人を見下ろすと拳を振り上げた。
その時だった。
背後からまるで火山が噴火したかのような怒りのエネルギーが襲いかかってきた。バリーガモンは後ろに振り返る。
そこにいたのは、3分間の脱力を終えたマッチ。
彼の目は”怒り”に燃えていた。
ハルナすら置いていく速度でマッチはバリーガモンに迫る。
(速い…!?)
バリーガモンが振り返る動作を終える前に決着がついた。
腹と頭に付けていた防具に亀裂が入って砕けていく。
「ば、バカな…この最強の防具が……!?」
「居合 "竜王一刀両断"」
3分もの間にハルナや部下たちが受けた痛み、そのすべてを受け継ぎ怒りに変える。
最高の脱力と最大の怒りを携えたマッチに斬れないものは無かった。
「ぐおおぉおおおおおっ……!!!」
バリーガモンは体から血を吹き出し崩れ落ちた。
「こんなゴミ共にいぃーっ!!」
「デケぇ粗大ゴミだ」
______
何とか5人の力を合わせた総力戦でバリーガモンを倒したマッチ。
だが、3分もの間体を脱力させていた反動は大きく膝をついてしまう。
「はぁ……はぁ……」
「な…何とか勝てしたね…!!副組長……!!」
息も絶え絶えなラムがそう言う。
しかし、マッチはまだ安心できないといった顔をしていた。
「ああ…そうだな…!!」
それでも勝利の言葉を絞り出す。
戦っていたのは遥か格上の相手、このまま終わるとは到底思えなかった。
事実、バリーガモンは体内の修復を始めていた。このまましばらくすれば起きあがってくるだろう。
(この中で動けるのはオレだけだ……!!)
気力を振り絞り、比較的軽傷で済んでいたマッチは刀を杖代わりにして立ち上がる。
(や…奴らに…とどめを……)
その時だった。
マッチの背後から声が聞こえる。
それはとても弱々しく、今にも消えてしまいそうで聞き取るのがやっとだった。
その声の主はハルナであった。
(ハルナ……!!)
制限時間と神秘をフルに使って戦い、この中で最も痛めつけられていたのは彼女である。マッチはハルナに駆け寄りその体を抱き起こす。
ぽかぽかと温かかった体は冷え切っており、ゲヘナの生態を全く知らないマッチにも危険な状態であることが分かった。
「おい、大丈夫か!?」
マッチは必死に呼びかける。ハルナを守るために戦ったのだからこんなところで死なれては困る。
その声にこたえたのかハルナは最後の力を振り絞りマッチに話しかけた。
声は掠れていて明るい印象からは程遠い。
「おなかが……すきました……」
「待ってろ!!」
マッチはハルナの荷物から最後のグレイトレッグの刺身を取り出してハルナの口に放り込んだ。
ラム、シン、ルイも何とか起き上がり駆け寄ってきたがマッチは彼らに指示を出す。
「お前らはハルナを見ててくれ、オレは今からトリコに手を貸す!!」
マッチはトリコに手を貸すことが先だと決断した。
バリーガモンに刺せるか分からないとどめを刺そうとするよりもトミーロッドと戦い続けているトリコに加勢したほうがいいと判断したのだ。
トリコが居ればまだ戦える。ここまでの旅路でトリコへの信頼はそれほど厚いものになっていた。
一刻も早くこの戦いを終えて帰還し、ハルナを治療しなければならない。
「…待ってくださいマッチさん」
だがハルナに呼び止められた。
「これを…持って行ってください」
______
一方、スープを目指して走る小松はウォールペンギンの子供を抱きかかえて走っていた。
「ひいぃぃぃぃ!!!!」
「ユン!ユン!」
ウォールペンギンと別れた直後、背後から叫び声が聞こえて振り返ると先ほどの襲ってきた昆虫よりも巨大なムカデのような昆虫、バタフライワームが親ペンギンの体を食い漁っていた。トミーロッドが追加で放った刺客である。
その光景が目に入った小松は逃げ出すよりも先に体が動き、子供ペンギンを抱きかかえて逃げ出す。だが、子供ペンギンは軽いとはいえしっかりとした重量はあった。
動きの速いバタフライワームにじわじわと距離を詰められ、すぐに追い付かれそうになってしまう。
少し開けた空間に出た小松は、身を隠す場所を探していると黒いマスクの男が視界に入った。
向こうも気が付いたのか振り返り、そのまま小松に向かって走り出した。
「わあぁあぁあごめんなさ…」
困惑する小松の横を通り過ぎ、背後に迫っていたバタフライワームの目の前に飛び出した。
「えっ!?」
小松が振り返った時には既にバタフライワームは動かなくなっていた。
ノッキングされていたのだ。
______
(な…なんだこの闘いは…次元が違いすぎてまったく入り込めねぇ!!)
ハルナに託されたマッチはトリコに助太刀しようとするもその闘いの次元の違いにただただ圧倒されていた。
トミーロッドから放たれる無数の虫を”ナイフ”や”フォーク”で迎撃するトリコ、それでもすべての虫を叩き落せたわけではなく何匹かは肉体に喰らいついてしまう。それを気合で押し出し釘パンチで沈める。
倒れていく虫たちを気にすることなく次々と生み落としていくトミーロッド。
その闘いはたとえマッチが万全の状態でも割り込めるようなものではなく、鬼と怪獣が争っている姿を幻視してしまうほどだった。
突如、トリコが爆炎に包まれる。
トリコの体についていたのは爆虫、トミーロッドが氷山を爆破するのに使った虫である。
爆煙の中から現れたトリコは無事だったが上半身のライタースーツが破けてしまっていた。恐らく爆発する直前に何かを感じ取り、脱ぎ捨てたのだろう。
マッチは目の前の闘いに割って入れない歯がゆさを感じながらライタースーツを脱ぎ、トリコに差し出そうとする。
しかし、トリコは断った。闘った仲間の労をねぎらい、感謝する。
その瞬間、マッチは森の中にいるかのような錯覚に一瞬だが陥った。
(トリコさんの体から芳香物質が少量ですが排出されていますね、グルメ細胞の防衛機能でしょうか)
落ちている昆虫を嚙み砕きながらハルナはトリコの体に起こった変化を考察する。
美味しくないし噛み砕くのに無駄に疲れる。シチュエーションとしては最悪だったが傷を癒すための栄養補給だからと我慢して飲み込む。
食べるのにも傷を治すのにも体力を使うため完全には治りきってはいないがアイスヘル上陸時の3割には程度は回復していた。
たまにこっちへ飛んでくる虫を対処できる程度でしかない最低限の戦力にしかならないがハルナに不安はなかった。
マッチに託した”アレ”があればグルメ細胞の防衛機能が活性化しつつあるトリコならばトミーロッドに勝てる。
そう確信していた。
「すげえ…これならいける!!!」
マッチから渡されたものを噛み砕いたトリコは自身の体に起こっている変化に驚愕していた。
まるで地下深くから温泉が湧き出るようにグルメ細胞が活性化し、エネルギーに満ち溢れていく。体の傷も癒え、闘いで消耗した体力もみるみるうちに回復していく。
これならば負ける道理が無いと確信するトリコ。そして、トミーロッドのほうを見据える。
「食らえトミーロッド!!」
「スコヴィル値1000万級!!釘パンチ!!!!!」
トリコは空中に向かって釘パンチを放った。
その釘パンチから放たれた衝撃波は飛び交う虫たちをすべて叩き落し、トミーロッドに直撃した。
トミーロッドの体は地面をバウンドしながら吹き飛ばされていく。
「は?」
吹き飛ばされたトミーロッドはまさに信じられないと言った様子だった。
当然である。負っていたキズは完治し、体の表面はバリーガモンの不凍液のように流れ出るエッセンシャルオイルに覆われ、その香りを嫌がる虫は襲いかかることができない。
トリコのグルメ細胞は覚醒していた。
「すげぇ……!!この辛さこそが俺のグルメ細胞を強化している!!」
トリコはハルナから託された残り僅かな”神名のカケラ”を飲み込んだのだ。
今まで食べたことのないほどの辛さだったが不快感は無くむしろ心地いい。
ゲヘナの人々のグルメ細胞が環境に適応するためにまとった神秘、それが漏れ出して結晶化した”神名のカケラ”は一時的にではあるがトリコの体を飛躍的に強化していた。
だが、それだけではなかった。
「これがグルメ界の食材か!!!ありがとなハルナ!!」
ハルナへの感謝の気持ちはさらにグルメ細胞を強化し、その力は爆発的に上昇していた。
もはやトリコに襲い掛かる虫は一匹もいない。
デバフかかりまくってる奴強化するより素で強い奴強化したほうが強いに決まってるじゃないですか
あ、3月は忙しいので次の更新は4月になりそう
前回の後書きの作品の下書き仕上げてお茶を濁すかもしれません
その時は匿名投稿という名の圧覚超過を解除しますので
ゲヘナがありそうな場所は?
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