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それは―――まるで、星空の様だった。
風に靡く黒い髪と外套。黒い筈のそれが、明るく見えた。
星に照らされる暗い空の様に。
「なんだなんだ、これは驚きだ」
黒が動いた。
澄み渡る空を思わせる眼が、へたり込む少女を捉える。
びくり、と少女の肩が震えた。
「人間なのに、随分と派手な力を持ってるじゃないか。
眺め、覗き、笑う。
空が笑う。月光が影を照らす。
瞳が照る。その『色』を直視する。
浅い呼吸が停止する。息が肺を詰まらせる。
取り込まれてしまいそうだ。/この体が。
溶け込まれてしまいそうだ。/この心が。
呑み込まれてしまいそうだ。/この魂が。
その眼に。その黒に。その影に。
身も心も、それら全てを食べられてしまいそうになっていた。
「おっと、失敬、失敬。この〝眼〟は、人間には毒だったな。こんな幼い子供に曝け出すモノじゃないか」
空が曇っていく。雲が空を隠していく。
明るい眼は徐々に光を失い、ハイライトを消し去った。
同時に、身に纏っていた気迫が霧散する。
ひゅ、と。止まっていた呼吸が動き出し、再開する。
「はっ、はっ、は……!!!」
「すまないね。何分、外に出るのは久々だったもので。それに、抑えるとハイライトが無くなるんだよ。これだと気味悪いし」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!!!」
「って、言ってる場合じゃないかな。ほら、大丈夫、だいじょーぶ。ゆっくり呼吸するんだ、ひっひっふー。ひっひっふー」
「それっ、は、子供、産むっ、ときのっ…!」
「あれ、そうだっけ? じゃ深呼吸だ。すー、はー。すー、はー。どうだい、落ち着いた?」
「…なんとか」
「なら良かった。子供ながら、出来て偉いじゃないか」
穏やかに、影は笑う。
雲が晴れる。月光が影を強く照らし、その全貌を晒す。
「―――かみさま」
「神様か。まぁ、呼ばれて悪い気はしないが…生憎、神様なんて大層なものではないよ。どちらかと言えば、その真逆……そう、悪いやつだ。鬼さんだよ」
「鬼…」
「そう、鬼。人を食べちゃう、わるーい鬼さんだ。良い子は鬼から逃げるもの、だから君も逃げると良い。大丈夫、追いかけはしないよ。鬼さんはお腹一杯だからね」
「で、でも」
目をやるのは、近くの
かつて、自分の親だったもの。
かつて、自分の父だったもの。
今や、物言わぬ死体。ただ血を溢し続けるだけの肉塊。
影はそれを隠す様に座り込み、少女の頭に手を置いて語る。
「いいから。走って逃げなさい。悲しい子供は
この時。この深夜こそ。
煌坂紗矢華という少女が―――初めて、真祖という存在と邂逅した瞬間である。
煌坂紗矢華(幼女)
まだ幼かった頃の煌坂。父親に暴力を振るわれていたところを助けられ、言われるがままに逃げていたが警察に保護され、そのまま獅子王機関に引き取られた。
忘れもしない、あの夜を。
真祖(型月)
型月世界の剪定事象からストブラ世界にやってきた放浪者。只者ではない真祖。■■の■■の■■■■。
真祖には珍しい人間好き。