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「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、補習まで受けるのは流石に馬鹿が過ぎるんじゃないかって雨宮思う訳」
「朝っぱらから暴言のオンパレードだな…」
「貴様も貴様で暇潰しでわざわざ来るな、馬鹿者」
机で肘をつき、にやにやと楽しそうに笑いながら補習を受けた少年を誂う。
別に補習を受ける生徒でもないにも関わらず、単なる暇潰しで補習を受けに来た生徒の教室まで遊びにきたそんな雨宮を、南宮那月はわりと強めにボードで引っ叩いた。
うわ、痛そう…そう思いながら、暁古城は補習から解放されたのだった。
此処は私立彩海学園。南宮那月が教師として勤め、雨宮紅蓮、暁古城らが通う中高一貫の私立高校である。
「学生っていうのも退屈なんだよ、なっちゃん。週末は特に退屈だ、だから暇潰しに暁で遊ぼうと思って」
「俺はお前の玩具じゃねぇよ!?」
「別に玩具とは思ってないよ。ただ君が普通に行動するだけで何もかも面白いというだけだ。偶に男らしくないなーと思う所はあるけどね」
「それ褒めてんの? それとも貶してんの?」
「さぁ、どっちだろう? どっちにしたって大して変わらないよ。ただ
「お前は他人を評価出来る程の者でもないだろ」
「酷い言い様だよ、なっちゃん。俺の事よく知ってる君がそれ言うのは、なっちゃんと言えども些か大丈夫かと心配せざるを得ない」
「だから、教師の事を渾名で呼ぶな!」
小さな右手を振り上げると共に、衝撃が空間を駆け抜ける。
何かが割れる様な、それでいて弾ける様な音が鳴り響く。まるで銃弾を受けたかの様に、雨宮紅蓮は頭から後ろへと倒れ込んだ。
南宮那月。その正体を国家攻魔官。空間制御魔術の使い手にして、『空隙の魔女』の異名を持つ魔術使いである。
その魔術は、決して人間に対して放っていいものではない。どれだけ加減されていようと、威力が落とされていようと、それが魔術である事に変わりはないのだ。
だが―――それはあくまでも、人間にのみであり、魔族は違う。
「え、ちょ、那月ちゃん!?」
「問題ない。これぐらいでは死なん」
「いや、死なないとかそういう問題じゃあ…」
「わりと力込めたね。ナイスヒット」
「無傷で普通だと…!? 雨宮、お前どうなってんだよ!?」
「あんまり舐めてもらっちゃ困るよ、暁。生憎と
真祖とは星の触覚。その肉体は人間のそれとは全く異なり、魔術を使ったとしてもそれが一工程の魔術ならばかすり傷にすらならない。
空隙の魔女と言われる程の空間制御魔術の使い手である南宮那月だが、しかしその魔術の効力は真祖たる彼には意味を果たさなかった。
「何度言っても止めんからこうなる」
「親しい仲だから良いじゃないか」
「親しき仲にも礼儀あり、だ。そもそも私はお前と親しい仲のつもりはない」
「俺にそういう発言が出来るから親しいのさ」
真祖に対しても恐れなく、堂々として発言する。それが出来るのは真祖という事実を知らぬ者か余程の愚か者ぐらいのものである。
だが、南宮は彼が真祖である事を知った上で堂々と彼に発言する。時には暴力も伴う。
だからこそ、雨宮は彼女を気に入っているのだ。
「さて、暁。ちょっと付き合ってくれ、ゲームセンターで取りたいものがあるんだ」
「またかよ…やるのは良いけど、俺別に上手くないぞ?」
「上手い下手は求めてないさ。誰かと一緒にやる事が大切なんだよ」
「……お前さ、本当によく分からん奴だよな」
「そうだ、古城。コイツは本当によく分からん」
「二人して酷くないかい?」
人間が好きな真祖は、人間にとってはよく分からない存在であった。