「これから一つ目のゲームを始めます。一つ目は『糸』です」
スーツの男が言葉をいい終わる前に黒服の男が目隠しを持って近づいてきているのを甚爾はとっくに気づいていた。なおも不敵な笑みを浮かべている。
実際甚爾に目隠しはあまり通用しないのだ。視力が良すぎて少し視界が暗くなる程度でほとんど普段の時と変わらず見える。しかし他の男たちは甚爾と違って黒服の気配にも気づかない、急に視界が真っ暗になったでうわーなにしやがった!見えねぇ!とパニックに陥っている。
まあそうなるよな俺以外は。さてどこ連れてかれんのかね。
脱走防止のためか腰に紐をつけられ黒服に連行されていく挑戦者たち。
甚爾は目隠し越しに今どこに向かっているかを確認していた。
おそらくあのでけえエレベーターか何かに向かってるな。ぱっと見でかい建物は見当たらない、つまりゲームは地下で行う。それで糸となると⋯まあ大方あれだろう。
「全員いるかー?ちゃんと確認してんだろうなオイ もしゲーム前に1人でも逃げ出してたらてめーらの責任になんだからなおい聞いてんのかチンタラしやがって!」
後ろの方で話し声が聞こえる。スーツの男はどうやら参加者以外には随分粗暴な態度をとるようだ。聞こえていないところでやったつもりらしいが甚爾の耳には筒抜けだった。黒服たちが戻ってきて目隠しを外し同じタイミングで先ほどの荒れた感情が嘘のようにスーツの男が作り笑顔で参加者の前に現れた。
「みなさんお待たせいたしました。人数の確認が取れました。まずみなさんには番号ごとに別れていただきます。1番から25番の方は①の扉の前に
26番から50番の方は②の扉の前に 51番から75番の方は③の扉の前に
76番から100番の方は④の扉の前に並んでください」
甚爾は12番であるため①の扉の列に並んだ。
「10人ずつお乗りください」
前の10人が消えていき、行って帰ってきたエレベーターのドアが開いた。甚爾もそれに乗り込む。
ヒューっと大きな音を立てて落ちていくエレベーター。
ジェットコースターほどではないが普通のマンションなどに使われるエレベーターよりは古いし浮遊感も大きく驚いている乗客が多かった。
やっぱ地下か。今地上から30メートルくらいだな。
ポーンと音が鳴りエレベーターが開く。
甚爾と今降りた参加者の目に入ってきたのは30メートルほどの10本の綱。頂上から指し込んでいる強い光が地上の光だろう。
数分経ち最後の5人も来たところで1番から25番までの25人が揃った。
それと同時にあー、あー、とスーツの男の声がアナウンスされます。
「みなさんには今からこの綱を登って頂上にあるひらけた扉からゴールしてもらいます 登り棒の要領でできるでしょう。呪力術式は使用しても構いません 順位は問わないので焦らずゆっくり登ってくださっても構いませんそれでは頑張ってください!」
「まて!命綱とか⋯」
1人の挑戦者がそう言いかけたが無慈悲にも放送はブチンと切られた。
「どうすんだよ!てか25人いるのに10本じゃ足りねーだろ!」
「これ命綱なしで登るのか!?死ぬに決まってんだろふざけてんのか!?」
甚爾は一歩引いたところでストレッチをしながらまた分析をした。
正直俺の腕の筋力なら落ちる心配は全くなし もしかしたら綱を登らず脚力による跳躍だけで頂上につけるかもしれない ⋯⋯余裕すぎてツマラねぇなまあ最初だからこんなもんなのか
そういえば
信用できるかどうかはわからねぇからなるべく上位でゴールした方がいいんだろうがだからと言って俺が1位でゴールしちまって目つけられんのも厄介だな⋯
命綱なし綱登りで混乱しているから皆忘れているがルールブックにあったようにゲーム外だろうがゲーム内だろうが自分以外を殺すことが本来の条件である。下手に目立つのは自分を不利に追い込むだけだ。
よし、25人中10位以内でゴールする。間違っても上位トップ5にはならねぇように。
俺が今最もすべきなのは綱を登り切ることでも他の野郎を殺すことでもねぇ。舐めプだ。
ちょうど全身の筋肉がほぐれたところで行動方針も決まり後は誰かが登り始めたところで自分もゆっくり登るのを待つのみ。
しかし⋯
「お前が先行けよどう考えたってお前の方が強いだろ!呪力の肉体強化かなんかしろよ!」
「嫌だよ死ぬし!あーちくしょー!10億ゲットより堅実に殺しやっとくべきだった〜!」
堅実に殺しをやるという矛盾しまくった発言。見ての通り誰も登りたがらないのである。
番号順に登らせるとかにしちまえばよかったのにな この混乱も想定してなのか?
誰が先に登るか押し付けあっていたところで1人の男が指を刺す。
「お前行けよ!何端っこで1人でぼーっとしてんだよ!」
刺された方向にいたのは12番のワッペンをつけた甚爾。
面倒くせえなと思いつつ甚爾は指差してきた男の番号を確認した。
4番。声的にもさっきから命綱だとかお前が先行けよと騒いでいる男だろう。
まあこいつは生き残れねえな。おそらくこのステージで死ぬか運が良くても次で死ぬだろう。 8番と11番がいかにもな雑魚とするとこいつは小物。
キャンキャン吠えて漁夫の利を得ようとしているだけで自分からは何もしようとしない。事実こいつがさっきから登ろうかなと言っている男をマーキングしているのが見える。
あいつの術式は相手にくっつく、とかなんだろうな。
「おい聞いてんのか!」
ああ忘れてた。
えーどうしよっかな〜と女に金について問いつねられた時のようにのらりくらりと返す。
痺れを切らしたのか1番の男がついに綱を登り始めた。
スーツの男が言っていたように登り棒のようにすいすいと登っていく。
心理的にやりたくないことでも誰か1人がやり始めて上手くいくと他の者もやり始めるというのはよくあることで続々と挑戦者たちは綱に手をかけ始めた。
甚爾はその様子を見ても依然として動かない。
4番の男はお前筋肉あるくせに結構弱虫なんだなと揶揄してきたがまったく取り乱すことはない。
「あ、図星だった感じ?」
痛くも痒くもない。罵詈雑言や煽りは言われ慣れている。
甚爾がまだ登らないのは無論怯えているからでも10位以内でゴールするためではない。実際もう25人中12人ほどの挑戦者が登り始めている。
フィジカルギフテッドにより強化された聴力は異変を聞き逃さなかった。
────そろそろだな
ぶちん、と音を立てて10本中一本の綱が切れる。もちろんその綱を登っていた最中の挑戦者は地面に真っ逆様だった。
うわー!?と衝撃の声が聞こえた後ぐちゃり、と嫌な音が響く。
7メートルほどの高さまで登っていたのだ。しかも地面に緩衝材は何もない。即死だろう。
5人ほど逝ったな。ご愁傷様。
「ああああ!?!?なんだよこれなんで綱切れたんだよ!?」
「こえーよ!もう帰りたい⋯」
大の大人なのに泣き出したり失禁したりと地上は再びパニックに陥る。
定員オーバーってところだろうな。もともと綱の見た目も古いし変な音は聞こえてたし
10本あるけど大人数で一気に登ったらどっかしら切れるよってのが向こうの仕掛けってこったな。
甚爾は正直人間の心理を利用した大仕掛けに感心してしまった。誰か1人登り始めたら自分も登る、だから同時に登っている人数が多めになってどこかしら切れて落ちる。するとまた登ることに恐怖する人間が増え⋯
「ああああああ!!」
グシャリ。
別の綱で登っている最中の者も急なアクシデントでパニックになり手や足を滑らせ落ちていく。
これなら芋蔓式に人が殺せるな。考えたやつはよほど頭がいいんだろう。
叫び声と肉片の潰れる音が次々鳴り響く。さっきは5人だったが今は12人、半分くらい逝っただろう。
もうそろそろだな。
甚爾もついに綱を登り始めた。
上へ、上へと綱を交互に掴んで足を動かす。はっきり言って朝飯前だ。
やっぱり楽勝だな⋯俺の身体能力がなるべく露呈しないように下手に登らねぇと⋯
ある意味甚爾にとっては難しいゲームとなっている。天与の身体能力は歩いている時に人よりも先に進んでしまったりと普通の動作でも人並みの倍できてしまうため人並み以下のふりをするのは力の調整がなかなか難しいのだ。
ちょうどそのころ最初に登った1番の男が頂上に辿り着いた。
ゴール!お疲れ様でした!という声が光の方から聞こえる。
甚爾は現在5メートル程度の高さまで登った。
よう。
急に声が聞こえ目線をやると4番の男がすぐ近くにいた。
「お礼言っとかねえとと思ってな。ここまで連れてきてくれたのは感謝するぜそれにしてもあんた登るの下手だなぁ その筋肉は女に見せる用か?」
やはり男の手にはテープのようなものがついている。これで自身と甚爾を結びつけていたのだろう。
「ハッ、どうりで登りにくいと思ったよ まさかおっさん1人持ち上げながら登ってるとはな」
雑魚すぎて気づかなかったわ⋯俺が登りにくそうに登ってるのは演技の範囲内だし でもこいつのおかげで上手く「弱いふり」ができていることがわかってよかった。
「ほらさっさとゴールしろー 俺のためにもな」
4番の男はテープをちらつかせながら甚爾に話しかける。
「言われなくてもやってやるよ」
甚爾は再び手を動かし始めた。
別にこいつが俺を利用して生き残ろうが死のうが俺がゴールすればいいだけの話だしな。まあこのクソゲー限定特効の術式に恵まれた運も実力のうちなんだろ
ひたすら登っていき甚爾が17メートルまで登ったあたりで異変は起こった。
ギギ⋯と頂上の扉から音がして光が失われていく。
あーどうすっかな⋯扉閉じられても殴ってぶち破れなくはないけど扉からゴールするのが条件だからルール違反とか難癖つけられる可能性があるな⋯
このゲームにおいては向こうの采配次第でなんでもありだと思った方が吉だ。
理不尽だと喚いても向こうは聞く耳を持たない。それは今までの状況を見れば火を見るより明らか。
飛ぶか。
甚爾はちょうど下にいる4番の男の頭を踏み台にし綱で体を支え空中を一回転しながら天高く飛びドアが閉まる直前に体を滑り込ませる。
勢いのままふわりと地上を舞いすたんと閉じた扉の上に着地した。
「ご⋯ゴール!え、今私扉閉じましたよね⋯?」
「あーまあ運が良かったんだよ。火事場の馬鹿力ってやつだ」
甚爾以外には5人ほどしかゴールできなかったようだ。ノルマの10位以内ゴール、5位以内禁止は一応達成した。
ゴールしたのは1番 5番 11番 12番 17番 23番の6人。
「てかゆっくりでいいっつったのになんでドア閉めたんだよ」
5番の男がスーツの男に噛み付く。5番の男はニットキャップにパーカーで髪もやや長めな、今時の若者風の見た目だ。ぱっと見だと高校生あたりと間違えそうだ。
「だって5人しか上がって来ないんですもん 6人目がラッキーで這い上がってきましたが そりゃあこっちだってこれからの予定とかありますし」
「ハッ意味わかんねーイカれてやがる」
5番の男が苦笑した。
甚爾の見立て的に1番5番17番は実力で11番23番は運で登ってきたと見た。
すべてのドアが閉められたところでゲーム終了!と合図がかかった。
「お疲れ様でした〜それでは現在の人数を発表します
現在は68人! それではホテル向かいますのでまたバスにお乗りください〜」
どうやら甚爾のいた①の綱は一番脱落者が多かったらしくバス車内は一気に空席が多くなった。事実甚爾の周りにも11番の男くらいしか座っていない。
バスからわずかに差し込む赤い光を見るにもう夕暮れだろう。初めのゲームの会場から宿舎まではそう遠くないらしくバスで10分程度だった。
一日中何かしらのイベントがあって夕方になればバスで帰るって修学旅行みてえだな。俺行ったことねぇけど。
酔った女が修学旅行がどうだったとかバスでゲロ吐いたとか言ってるのをふと思い出した。
一方他の乗客は空席の多さにビビり散らしていた。
エンジンの切れる音が鳴りバスが止まる。
「到着いたしました ホテルは100メートルほどまっすぐ歩いたところにありますホテル着きましたらみなさんまずは大ホールに集まってください 入り口入ってすぐ右です お荷物はロビーに置いてあります」
バス車内に放送が鳴り響きドアが開く。前の者から順に降りていくが降りた先に広がっていた光景は異様だった。
「ここトンネルの中か!?」
ぼんやりとした薄暗さ、響く声、そしてバスでも入れる広さ。かなりの大きさのトンネルだろう。
よほど俺たちにお天道様を見せたくないらしいな。ここまでやるともう俺以外にも異変気づいてるやついるだろ。
本当にここで大丈夫かと他の参加者は思いつつもまっすぐトンネル内を歩いていると自動ドアに装飾されたキラキラした光が見えてくる。中はかなり豪華なホテルだった。
男の言っていた通り荷物はロビーに置いてあり甚爾も自分のリュックサックを取った。そのままの足で大ホールに向かう。
続々と部屋に人が入っていき68人揃ったところでスーツの男ともう1人、メガネの男が壇上に登った。
メガネの男は俺たちが乗ってない方のバスの案内人だろうな
「それではみなさんこれからお待ちかねのお風呂とお食事の時間です
お風呂の順番は先ほどのゲームで一番最初に登り切った4人によるジャンケンで決定いたします お食事はバイキングですのでお風呂終わり次第ご自由にお食べください それでは1番の方 32番の方 63番の方 85番の方前へ!」
ますます俺が一位じゃなくて良かったと思った。じゃんけんなら相手の呼吸や筋肉から出す手を読み取れなくはないがそれはあくまで一般人やはるかに弱い相手に対してであって今回は全員呪詛師だ。しかもさっきのゲームの好成績者。運でのし上がってきた奴がいた場合厄介だ。
じゃんけんの結果1番の男が勝った。といっても①の綱は6人しか生存しなかったが。
「お風呂のアメニティはご自由にお使いください。ルームキーはお食事会場の出口でお渡しいたします。今日1日お疲れ様でした」
6人の男がホールを出て風呂に向かう。
「あー終わった。疲れたな〜先飯が良かった」
5番の男があくびをしながら呟きいいことをひらめいとと5人に話しかけた。
「なあなあ同じグループで生き残ったのも運命だしなんか自己紹介的なのやろーぜ 俺藤崎 年齢21歳」
「言うわきゃねーだろ小っ恥ずかしい」
23番の男がツッコミを入れる。
「なんだよ〜俺がめちゃくちゃ恥ずかしいことになってんじゃん(笑)」
5番の男が恥ずかしそうに苦笑した。
甚爾はこいつがかなりの実力者だというのを感覚で見抜いている。今言った名前も年齢も本当かどうかもわからねぇし⋯
「あ⋯11番伊藤、24歳です⋯」
「ぷっあはははは!! いーじゃんてか24って俺より年上?パイセン付き合ってくれてアザース!」
「この状況でマジで言う奴があるかよw」
5番と17番の2人で伊藤をいじる。一気に場の空気が打ち解けたからか仏頂面だった1番の男も少し笑い出した。23番も俺塚地!俺塚地って言うんだぜ!と乗り出した。
一緒に甚爾もマジウケるwと笑い出した。こういう場においては笑ったほうがいいというのをヒモ経験と暗殺をやる上で身につけている。
術師殺しに本当に必要な要素は残忍性でも戦闘力でもない。ターゲットに自身は人畜無害だと思い込ませる人心掌握力だ。5番の男もそれが狙いで自己紹介なんざ始めたんだろう。
あははははは!と男6人の野太い笑い声がホテル内に響く。歩いているとついに風呂まで辿り着いた。
風呂のドアの前にお風呂から上がったら体調管理のため体重を測ってくださいという張り紙がしてあった。
脱衣所でいつもの紺のTシャツとニッカポッカと下着を脱いだ。全部の衣服を脱ぎ終わったところでアメニティであるボディタオルを手に取る。
ガララ、とドアを開けるととても大きくて豪華な湯船が目の前に現れる。
「うおーすげー!修学旅行で入ったボロとは大違いだ!」
思わず藤崎が叫ぶ。洗い場も十分ありまさに6人で貸切状態だ。
本来なら体を洗ってから湯に入るのがマナーだがここにいる男たちにそんなものはない。11番の伊藤以外はみないきなり湯船に飛び込んだ。
「あったけ〜最高!」
藤崎と塚地で大きい風呂の中を泳ぎ始める。かなり深く大きい造りで風呂というよりはプールのようだった。
ああ確かにいいなこれ。
甚爾は久しぶりに風呂に肩まで浸かった。もっぱら女のアパートで水道代の都合上シャワーだけで済ませることが多かったからだ。
筋肉を弛緩させ心も体もリラックスさせているとぴゅっとお湯がかかった。
「隙あり〜」
藤崎だった。甚爾も負けじと水鉄砲を作り藤崎の手元を狙って水をかけた。
一緒に遊んでいた塚地は1番の男に水をかけ反撃されているようだった。
5人の男たちによる水の掛け合いが始まる。いつのまにか甚爾と1番の男vs藤崎塚地17番の男になっていた。
お湯に当たらないように浸水しまた相手にお湯をかける。この繰り返し。やったな!反撃しろ!と声が飛び交う。
「おい塚地12番狙え!あいつ今風呂サイドに腰掛けてる!」
藤崎の指示通り塚地が12番、甚爾を狙おうとすると甚爾はすぐに風呂の中に沈み攻撃を回避する。
「当たらねぇよ」
「チクショー!ってうお!?」
「俺もいるってこと忘れんなよ」
今まで黙っていた1番の男がついに話し出す。
「おい12番。」
「言われなくてもわかってる」
1番の男に気を取られている間に甚爾が背後に周り3人に水をかけた。
ちなみに完全に蚊帳の外の11番は激戦を見てやはり自分が生き残ったのは場違いだったと心底後悔した。
ようやく落ち着いたのか6人で普通に湯船に入り出した。
「あー楽しかった。最高だな俺たち!」
「マジそれ。もうこの6人でクリアしたい」
「17番だけど自己紹介忘れてたわ 俺和泉ね」
よろしく〜と一斉に声をかける。
空気を読みすぎて忘れていたが体と頭を洗っていない。そろそろ次のグループが来てもいい頃だ。甚爾は立ち上がり洗い場に向かおうとしたその時、
「はぁ⋯⋯!?いやあのごめん⋯12番?オブラートに聞くとさ?⋯⋯女の子何人泣かせてきた?」
男子高校生のノリかよ、と甚爾は内心でツッコミを入れた。オブラートというか文字通り下ネタだろう。
「そうだなぁ。ひーふーみーよー、⋯⋯いちいち覚えてねぇな」
甚爾も笑いながら返す。一斉にヒューっと囃し立てる声と爆笑が上がる。お腹を抱えて溺れそうになりながら笑う他のメンバーを尻目に甚爾は洗い場で簡単に体を洗う。男で最低限の清潔感にしかこだわっていないから洗う時間は短め。大きな体をざっと洗い上げ脱衣所に戻った。
ドアを開けるとまるで今測れと言わんばかりに体重計が置いてあった。びしょびしょのままそれに乗る。
結果は98kg。188cmという身長でこの筋肉量なら全然健康的に問題ない数値だった。
体調管理のため測れって言ってたがそんなわけないんだよなぁ 平気で参加者殺すような団体が健康とか考えてるわけがねぇ。
体を乾かし用意してきた私服のスウェットを着て今度は食事会場に向かった。
食事はバイキング形式。まさかの甚爾がトップバッターで選び放題だった。
待てよ体重に影響がでねぇかこれ。そもそも体重って寝る前だとか朝起きた時に測るもんだよなまあ風呂上がりだからフルチンで正確な値が出るってところは納得だが⋯わざわざ数値が変動しやすい飯前に測らせたってことは絶対裏があるな。
甚爾は頑なに時間を教えない時と同じ違和感を感じていた。
だからって飯食わねぇと逆に体重は減るしゲームにも支障が出る。いつもと同じ感じで食うか。
普段女の飯で食ってるものに近いものを慎重に選ぶ。
米は一番大きい茶碗に、メインは高級ローストビーフ、焼肉、モツ煮込み、ステーキ、焼き鳥。飲み物はお茶。
席の端に行きガツガツと一気に飯を肉を同時に掻き込みすべて飲み込んだらお茶でリセットする。焼肉にタレをつけ食べまた次はモツ煮込みをを食べる。
足りなくなったら口に入ったままであってもおかわりをする。
ステーキやローストビーフもわざわざナイフとフォークなんか使わない。箸でブッ刺しそのまま口へ運ぶ。
ここの肉随分やわらけぇな。俺がいつもいくやっすい店とは大違いだ。
5回目の米のおかわりがなくなったところでついに箸を止めた。
まあこんなもんだろ。体重も増えてたとしてせいぜい1〜2kg、明日の朝には消化し切って戻る。
食事を食べ終え甚爾は食事会場を後にした。もうあとはすることもないため部屋に戻って寝るだけ。客室は2階から4階か。部屋割りは何基準で決まるんだろうな。
出口に立っていたスーツの男が声をかけてきた。
「12番さんですよね?こちらルームキーです」
「ん。ども。」
鍵を差し込み部屋に入るといたのは藤崎だった。
「おおあ、えーっと12番⋯」
きっと俺の名前を呼ぶつもりだったのだろう。だが教えない。男の名前を覚えられない俺はいざ伏黒という登録した名字で話しかけられてすぐ対応できるかと言われたら微妙だし鈴木だとか適当な名字も嘘だとバレた時不都合。そもそも運営側も番号で呼んでいるんだから番号の方がわかりやすいだろなあ藤崎。
部屋割りはまあおそらく今回のグループによってだろう。1番の野郎や伊藤がどんなふうになってるかわからない以上あくまで仮説だがな
「よう藤崎か。まさかお前と同室とはな」
「12番おもしれーしよかったよ 俺実は結構人見知りなんだよね」
嘘つけ。
「大丈夫だ ほぼ初対面で人のブツ見て女何人泣かせたか聞く奴は全然人見知りじゃない」
それは言えてる草と藤崎は返した。
甚爾は棚に荷物を下ろし適当にベッドに腰掛ける。
「相っ変わらずAVか映画かアニメしか映らないんだよなこのポンコツ」
藤崎がチャンネルを回しながら甚爾に話しかける。
「なあ今何時くらいだと思う?」
「さあ?何時だろうな」
甚爾と藤崎は顔を見合わせる。互いにこの異変に気づいているのだろう。実際ホテル室内の窓は固く閉じられていて灯りは全く入ってこない。時刻的に夜だというのは間違いないが。
特にこれと言ってやることもなかったから歯を磨いて適当にAVを少し見た後飽きて眠った。
2話投稿できました⋯!甚爾さんの番号12番なのは「とうじ」の語呂合わせと12月生まれだからです