~永遠亭~
ピ…ピ…ピ…
麟(シュー…コー…シュー…コー…)
ガラガラ…バタンッ…
永(スタスタ…)
紫「…永琳、麟の様子はどうかしら?」
永「そうね…傷はとっくに感知しているけれど…意識だけが戻らないわね…」
紫「…そう」
仙界での戦闘後、傷ついた麟や鈴仙達を急いで治療する為に全員で永遠亭まで訪れていた。鈴仙達は永琳の施術によりあっという間に回復したが、ただ1人…麟だけは意識不明のまま目覚める事が無かった、かれこれ1週間も眠り続けているらしい。
永「でも、紫のおかげで助かったわ。外の世界の最新医療器具や生命維持装置、酸素マスク、この幻想郷では画期的すぎる最新技術を永遠亭に納入してくれたおかげで、彼の生命は維持し続けられているわ。
紫「それは良かったわ…」
隠「八意永琳、1つだけ質問をしても構わないだろうか」
永「…答えられる範囲内でお願いしますわ」
隠「分かっている、聞きたい事は簡単な話だ。…何故、彼の意識が戻らないか医療的観点から分かるだろうか?」
永「何故、意識が戻らないか…ね。今まで色んな患者を診て来たけれど、今回の件だけは流石の私でも何と答えてよいのか分からないわ…」
隠「やはり流石の君でも分からないか…すまないな」
永「いえ…私も出来る限りの事をし尽くしましたが、彼の意識を戻せずに申し訳ありません」 ペコリ
隠「何を言う…君は麟君の為に出来る事全てをしてくれたではないか。それだけでもとてもありがたいよ」
永「秘神様からのお褒めの言葉…光栄ですわ」
隠「よしてくれ…」
紫「麟…」
~病室~
麟(シュー…コー…シュー…コー…)
魔「ほんと…眠ってるみたいだな…」
霊「…そうね」
鈴「師匠曰く、あとは麟さんが起きたいと思わない限り起きる事は無いかもだって…」
魔「後は麟次第…か」
霊「麟…」
永遠亭に訪れてから1週間ほどが過ぎた…私達の傷はすっかりという癒えたものの、未だに麟は目を覚まさない状況が続いていた…。一体、いつになったら起きてくれるのかしら…。
純「息子よ…ごめんなさい…」
へ「純狐は悪くないわ…」
ピ「ご友人様のせいじゃないですよ!」
自分のせいで麟をこんな目にあわせてしまったと嘆いている純狐を、ヘカーティアとクラウンピースはただ宥めてやる事しか出来なかった。彼女を笑顔にさせるには彼を目覚めるしか方法が無いのだ…。
~精神世界~
オォォォォォォォォォォォォッ…
ここは華月麟の精神世界、彼の精神世界は怨嗟の声に包まれていた。
歌「(ムクリ…)くそっ…華月の奴め…余計な事をしやがって…!」
どうやら歌音も精神世界の中で目を覚ましたようだった。
スタスタスタ…
「「随分と派手に暴れたもんだな…歌音。…いや、俺と呼ぶべきかな?」」
彼の背後から、聞き覚えのある声が聞こえて来た…。
歌「…!?(バッ!!)貴様は…」
「「華月麟!!」」
麟「よう、過去の俺」
歌音の背後には、華月麟が立っていた。
歌「何故だ…?!」
麟「何が?」
歌「確か貴様は怨嗟の暴風雨の中に…幽閉したはず…!それなのに、何故幽閉から解き放たれた!?それにこの暴風雨の中で何故、自我を保てられている!?」
どうやら怨嗟の暴風雨でキツく縛り上げて幽閉した為に、絶対に二度と出て来る事は無いと思っていたらしい。
麟「暴風雨…?…はははっ!笑わせんなよ?あの時に、常に聞いていた悲痛な悲鳴とかに比べれば、俺達にとってこの程度は子守唄に等しいだろ」
歌「…何故、俺の邪魔をした?」
麟「邪魔?俺は何もしていないよ。お前が勝手に攻撃するのをやめただけだろ?」
歌「何を言っている…?俺が攻撃の手を緩めたとでも言うのか!?」
麟「だって、俺も今さっき起きたから」
歌「な、なんだと…!?」
麟「意外とぐっすり眠ってたよ。久しぶりに長時間熟睡させてもらったよ」
歌「この俺が…攻撃の手を緩めた…ありえない!そんなはずないだろう!」
麟「う~ん…お前がどう思おうがお前の勝手だ。俺は本当に何もしていないし」
歌「くっ…だが、いずれはもう一度貴様の身体を手に入れてみせる!その時は貴様の身体を完全に支配し、完全体となって全てを無へと返すのだ!」
歌音はまだ、自身の野望を捨ててはいなかったようだ。もう一度力を蓄えて再起を図ろうと考えているらしい。
麟「…お前は、全てを無に返した世界で何を成そうって言うんだ?」
歌「…何?」
麟「…全てが消滅した世界でお前は何を成そうって言うんだ?俺を傷め続けてきた家族への復讐か?それとも俺から居場所を奪っていった奴等への復讐か?」
麟は歌音に問いかけた…何の目的があってこんな事をしようと言うのかを。
歌「それは…俺が満足出来ればそれでいいんだよ!」
麟「破壊からは何も生まれやしない…。もし何かしらが生まれるとするなら、ほんの少しの後悔…かもな」
歌「…何が言いたい!」
麟「お前だって分かってるんだろ?自分がしようとした事は結局、何の意味も無いって」
歌「…」
麟「まぁ、久しぶりに娑婆の空気が吸えて興奮した気持ちは分からなくないけどね」
歌「…なんだよ」
麟「ん?」
歌「だったら"お前"はどうなんだ!憎くないのか!?」
麟「憎い?何がさ」
「「俺達を虐げて続けてきた奴らが!自分の居場所を奪おうとした奴らが!自分の過去を平然と周りに晒した奴が!俺達が信用していた"あいつ"が裏切った事!それら全てが憎くないのか!!!!」」
歌音は、溜めに溜めていた心の本音を全て吐き出した。
麟「なるほどね。…確かに今でも思い返せば全員憎いよ、心の底から憎いよ」
歌「ならどうして俺の気持ちが分からない!?どれだけ希望を見出したところで結局は裏切りというオチが待っている、そんなんだったらこんな世界…!!」
麟「それでも、俺は皆の事が好きだから」
歌「何…?好きだと…?」
麟「俺から言わせれば"終わり良ければ総て良し"ってね。最終的にはなるようになるさ」
歌「…はぁ、それが破滅に進むとしてもか?」
麟「俺は…神にだって運命にだって抗ってみせる。俺から何かを奪うというなら、全力で抗うだけだ」
歌「…そうか」
どうやら、"こいつと言い争っても時間の無駄"と思われてしまったように感じられる。
オォォォォォォォォォォォォッ…
麟「お前はこれからどうするんだ?歌音」
歌「…幻想郷は全てを受け入れる。だが、俺のような危険分子はさすがに受け入れてくれやしないだろうな」
麟「かもな」
歌「…だったら、もう一度眠りにつくだけだ。今度目覚める時は、俺を受け入れてくれる世界だと良いがな」
麟「う~ん、それならこれはどうだ?俺と"1つ"になって幻想郷を見るってのは」
歌「…は?」
流石の歌音も、彼の意味不明な提案には驚いてしまい硬直してしまった。
麟「俺とお前、元を正せば同じ存在…だろ?」
歌「だったら何だって言うんだ…」
麟「2つに割れた鏡が元に戻る、と言うべきなのか…それともコインの表と裏とでも言うべきか…う~ん?」
自分で言っておきながら、自分でも理解出来ていない様子。
歌「…ふふふっ…ははははははははっ!!!」
麟「な、なんだよ?!」
歌「お前は本当にお人好しだな?」
麟「そりゃどうも」
歌「俺とお前が1つに戻る…か」 スタスタ
歌音はゆっくりと麟に向かって歩みを進める。
ザッ…
歌「面白い…」
麟「へへっ…(スッ…)ほら」
・手を差し伸べる
歌「…あぁ」
ガシッ…ギュゥゥ…
差し伸べられた手を、強く、そしてしっかりと互いに握りしめた。
Take off toward a dream
飛び立とう、夢に向かって
オォォォォォ… パァァァァァァァァァァッ…
互いに手を取り合った瞬間怨嗟達がとこかへと去ってゆき、清々しく辺りが光り始めた。
歌「これで、さようならになるな」
麟「だな…」
歌「だが心配するな、お前にこれを渡すよ」
パァァァッ…ポフンッ…
1つの光が麟の身体の中へと入っていった。
麟「今のは…?」
歌「俺の"アルバトロス"の力だ。お前ならきっと使いこなせるかもと思ってな」
麟「つまりは闇の力か」
歌「お前が本気で相手を叩き潰してやりたい…という時に使うといい、そうすればその力は真価を発揮するだろう。ただ気を付けろ…少しでも自分の闇を不定しようものなら、その闇がお前を食い尽くすだろう…」
麟「肝に銘じとくよ」
歌「最後に…」
麟「ん?」
「「"ありがとう"」」
麟「(ニッ!!)気にすんな!」
歌「ふっ…」
麟「目覚めたら、この幻想郷のどこかにお前の墓を作るよ」
歌「出来れば人目に付かない場所に頼む」
麟「あいよ、任せとけ」
歌「…」
麟「…そろそろ、お互いに行くべき場所へ行きますか!」
歌「ああ…だが、最後に何か決め台詞でもお互いに言おうじゃないか?」
麟「いいね!」
…まるで昔ながらの友人かのような微笑ましい会話であった。
麟「それじゃいいか?」
歌「ああ!」
ザッ…!
麟「俺達は…」
歌「表と裏…」
麟「そして光と闇…」
歌「俺はお前」
麟「お前は俺」
麟・歌
「「もう一度1つに戻るのだ」」
麟・歌
(コクリ…)
麟・歌
「「光と闇 再び1つとなりて 蘇らん」」
カッ!! キィィィィィィィンッ…!!
麟・歌
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」 ギャウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!
~病室~
麟「う…う~ん…」 ムクリ
6人『!?』 ガタッ!!
麟「(キョロキョロ)ここは…永遠亭…か」
(どうやら戻ってこれたみたいだな…)
霊「麟…!」
魔「麟!」
鈴「麟さん!」
純「息子よ!!」
へ「麟ちゃん!」
ピ「兄ちゃん!」
ガラ!!
永「麟!?」
紫「麟!!」
隠「麟君!!」
麟「…(ニコッ)ただいま、皆」
皆
『『よかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』』 ガバッ!!
麟「う、うわぁぁぁああぁぁああぁああっ!?」
ようやく目覚めた"華"。
その目覚めを待ち望んでいた者達は、あまりの喜びに感情が大爆発を起こしていた…。
光は闇の 闇は光の
果てまで付いて行くのだろう
僕が笑って 生きていたのなら
鐘を鳴らして 君に知らせよう